リアルの環境の変化、仕事の納期などで全く書く時間が取れませんでした。
今後もしばらく不定期の更新になると思います。
雪菜達が去った後、翔は一度その場から離れていた。いつまでも女子更衣室の前にいては、通りすがった人に何と思われるのか分からないと考えたからだ。
アインハルトも翔と一緒に離れていった。アインハルトも、別に他人の着替えを見たいわけではないのだ。
そんなわけで更衣室に残ったのは綺凛と理子の2人。
「さてさて綺凛ちゃ~ん? あなたが濡らしたのはこの下着なかぁ? それともこっちの下着かなぁ?」
「い、いえ、どちらも私のものとはかけ離れていると思うんですけど!?」
「ほほほ、正直者にはどっちもプレゼントしちゃいましょう~!」
にじり寄る理子と後ずさりする綺凛。やっていることはそれだけだが、お互いに達人であるため、その様子は間合いを測っているようにも見えた。
もしくは肉食獣と、窮鼠猫を噛もうとする草食獣か。
どちらにせよ、和やかに着替えをしているという雰囲気ではない。
「理子的にはこっちがオススメかなぁ? ほら、見てみて、アソコの部分が……ほらね? すぐに『できる』ようになってるんだよ」
「そっ、んなの……!!」
着用者の秘部を覆う布部分がぱかりと割れる構造を見せつける。
喜々として下着の説明をする理子に、綺凛は赤くなって反論を試みる。だが、恥ずかしさと興味でその音量は小さくなってしまう。
「別にそんな恥ずかしがらなくてもいいじゃん。今回は『理子からしょうが無く借りる』だけなんだからさ。別にエッチな下着をつけたって、綺凛ちゃんがエッチだってことじゃないんだよ?」
「そ、それはそうかもしれませんけど……そもそも、どうして理子先輩はこんな、ぇ、えっ、際どい下着を持ってるんですか!? もしかして、いつもこんなものを!?」
「え? 今日は違うけど」
「ひゃう!?」
ぴらりと自分のスカートをめくって見せる理子。身に着けているのは赤を基調に金の刺繍が施された派手な下着だ。
それでも綺凛には刺激が強く目をそらしてしまう。その初な反応に、理子はにやにやと口元を緩める。緩んだ口からは調子よくセリフが吐き出される。
「常在戦場。乙女は常に戦場にいると思ってないとね♪ 特に、理子は好きな人と一緒に住んでるんだし?」
「す、好きな人と……」
『好きな人』。それが誰なのか、考えるまでも無い。そして今持っている下着を使って、その人とどんな『行為』をしているのか、想像も出来ない。
だが、実際に理子もこの下着を使って誘惑したことは無い。使うまでもなく翔が盛っているという事もあるが。
「綺凛ちゃん、このあと流石に早退するんでしょ? こんな状態じゃ集中して授業受けられないもんね?」
「そのつもり、ですけど……」
控えめに頷く綺凛に、理子はニコニコと言う。落ち着いてきたとはいえ、他人の下着を身に着けた状態で、授業を受けるつもりは無い。それも、こんな卑猥なデザインのものしかないのならばなおさらだ。
「じゃあ翔君に送ってもらいなよ。ね? 1人で帰るのは不安でしょ?」
「そ、そんな! 先輩、午後は六課があるのに……」
「後輩を送っていくって言えば少しくらい大丈夫だよ。その時、何があるか分からないでしょ?」
「で、でも……」
「もー、乙女は何時でも戦場にいるんだよ? ううん、今から戦場に向かうって分かってるんだから、そのための装備はしておかないと!」
「せ、戦場!? 何言ってるんですかっ、別に先輩に送ってもらっても、何か起こるなんてことは……!」
「それは綺凛ちゃん次第だよぉ。でも、これさえあれば翔君もイチコロだと思うってだけで。それで、どうするの? 家まで送ってもらうのに、それで何もないのかな?」
「うぅ……」
綺凛に差し出されるちょっと際どい下着。それを綺凛は―――
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こちらは女子更衣室から立ち去った雪菜とその『友達』。歩きながら話す話題は当然、
「ふーん、あれが雪菜のカレシかぁ、なんか、フツーだったな」
杏子は頭の後ろで手を組みながら呟いた。
「そうだよね。なんか、もっとこう、『遊んでる!』って感じの人かと思ってたんだけど」
杏子の意見に賛同するのはさやかだった。2人とも、雪菜のカレシは『遊び人の最低野郎』だと思っていたため、いざ実際に会った翔がイメージと違って困惑しているのだ。
「だよなぁ? 普通っつーか、もはや地味だろ、アレは」
「ねー。なんで雪菜さんは、あの人のこと好きになったんですか?」
「あ、あははー……なんでだろうー……?」
雪菜は何とも微妙な表情をしていた。
雪菜としてはこれ以上ライバルが増えるのはよろしくないし、ライバルが増える手助けをしたいとも思わない。そもそも、黙っていても勝手にライバルが増えているような状況なのだ。
確かにあの様子だけを見れば、確かに地味な印象を受けるだろう。特に他の上級生の武偵の実力者は、全員オーラのようなものを纏っている。
それが翔からは感じられなかったのだ。
それもそのはず、翔は少し前までは一般人。そんな強者のオーラを期待されても困る。
その辺りは、突然第四真祖にされた『暁 古城』に似た部分がある。
実際に戦ってみれば、一般人だったとは思えない度胸で強敵相手にも怯まないのだが。その辺りは実際に見ないと理解されるものではない。そしてそれと同じくらい、お人好しで女の子を引っ掛けてくるということを。
そんな翔の内面を、深く関わっていない杏子やさやかが知ることは不可能だった。
「(そうですよね。あんなに女の子を引っ掛けてくるなんて、一般的な常識では考えられません。先輩は、本当に元々一般人だったんですか? 何かそういう、女性を相手にするような職業についていたんじゃ)」
雪菜は思考を巡らせるが、残念ながら翔は完全な一般人だった。
翔がこんななのは、本人の気質による所が大きい。
「でも、連絡したらすぐに女の人が来たよね? んー、すごく派手派手な」
「ああ。峰先輩は、そうですね。私も知り合いですから」
まどかの問いに、雪菜は頷いた。確かに理子であれば、こういった事態でも難なく対応出来るだろう。頼りになる先輩だ。頼りになりすぎて、何か良からぬことを考えて不安にもなるが。
だがそこも、翔がいればうまい具合に治めてくれるだろう。
「(や、本当にそうでしょうか。むしろ先輩もノリノリで峰先輩の提案に乗ってしまうんじゃ……綺凛さんも推しに弱そうですし、拒否できなかったら……)」
その後に何が『始まって』しまうのか、考えるまでもない。
だがこの話、『綺凛』を『雪菜』に変更しても成り立ってしまう。結局、押しに弱いのは雪菜も変わらないのだ。
「峰先輩……って、ことはあの人、峰 理子なの?」
「マミさん知ってるんですか?」
「結構有名人だからね、峰先輩は」
「名前くらいはね。この学校じゃ、結構有名人だから。来年には先輩になるわけだし」
マミは来年に向けて上級生のリサーチをしていたが、そこの中に理子の名前があった。もちろん武偵殺しやイ・ウー関連については調べても出てこないが、それを抜きにしても理子は優秀な武偵だった。
「へぇー」
「へぇー、って、あなた達も少しは調べるようにしないと、中等部も来年で終わりなんだから」
呑気なさやかに、少しだけお小言を言う。
態度を見るとそこまで効果があるようにも見えないが、これも先輩の務めだ。ため息を吐きつつも話を進める。
「そしたら最近、先輩には彼氏ができたって話があってね」
「「「え?」」」
「なんだよマミ、アンタがそんなこと気にするなんて、珍しいじゃん」
「ちょっとみんな?」
思わぬ方向に話が飛び、他の面々は驚きの声を上げる。付き合いの長い杏子は特にそうだ。
そのことに、抗議の声を上げようとするマミだったが、
「そ、そうです、よね。マミさん、あんまりそういうことに興味ないのかと思ってました……」
「暁美さんまで!? そ、そんなことないわよ。今まではそういう機会が無かっただけで!」
マミは縦ロールを振り回す勢いで反論する。
花も恥らう年頃の乙女が、恋愛に興味を持っていないはずがないのだ。だが、周りがそのような結論になるのは無理もなかった。
「でもマミさん、この前告白されたって」
「アタシも聞いたぞ。それで興味があるは無理があるんじゃねーか?」
「別に私だって誰でも良い訳じゃないわよ!?」
正直言って、マミは引く手数多だった。
誰にでも優しく、お姉さんのように余裕のある立ち振る舞い。それに加え、制服の上からでも分かる、同世代でも圧倒的に育ったその身体。
年頃の男子中学生が引かれない訳がない。というか、マミが『良い』と思う相手にアタックすれば成功率は100%だ。
「じゃあ今は、気になる相手はいないってことですか?」
「う、うん。今はそんな相手は……」
「全然、ですか?」
「そ、そう、かな?」
「マミちゃんは理想が高いんですね」
「そんなことないと思うけど……って! 全くもう、今は私の話じゃないでしょ!」
いつの間にか、からかわれる側になっていたマミ。逸れてしまった話を元に戻す。
「何の話でしたっけ?」
「峰先輩の話!」
とぼけるさやかを一刀両断する。
「それで、峰先輩の彼氏っていうのが」
「そう、さっきの男の人。夜月先輩」
察しのついていたまどかの言葉に、マミは首肯する。
「……や、それはおかしいだろ? だって、あの先輩は雪菜のカレシなんだろ?」
「浮気じゃん! 雪菜、どうなってんの!?」
「あ、そのぉ……大丈夫なんですよ。はい。大丈夫で……」
「全然大丈夫じゃないじゃん! 雪菜、はっきり言ったほうがいいって! 一人じゃ不安ならアタシもついていくからさ!」
「だな。そんなサイテー野郎には一発ガツンと食らわせてやんないと」
さやかと杏子はすっかりご立腹だ。
雪菜は雪菜で、この状態になった2人を止める術がない。
「(本当に、迂闊でした……)」
雪菜は今さらながら、自分の失策に気が付くのだった。
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更衣室から少し離れた場所で待つこと10分ほど。
「おいっす。出てきたか。綺凛、理子に変なことされなかったか?」
更衣室から出てきた綺凛と理子。
「酷いなぁ、何もしてないよ、ね? 綺凛ちゃん?」
「は、はいっ。そんな、全然……」
「そうか?」
パッと見た感じでは不自然に紺色だった上半身は何の問題もないように見える。でも綺凛はモジモジとスカートを抑え、視線を忙しなく動かしていた。
「理子、本当か?」
「疑り深いなぁ、翔くんは」
理子はぶーたれるが、それは君の日頃の行いのせいだと自覚してほしい。
「そんなに疑うなら、めくってみる?」
「は?」
「ええっ!? り、理子さん?」
理子は綺凛の後ろに回る。俺の視線からは見えていないが、綺凛のスカートが掴まれ、捲られている。それはもう、後ろから見れば、綺凛の履いているものが丸見えになるくらいに。
そんなことをされれば、綺凛は平静ではいられない、スカートが変にめくれないようにか、首だけを動かして理子に抗議している。
「ちょ、ちょっと……! やめて下さい、峰先輩……! せ、先輩に見られたらどうするんですか……!! こんなっ、こんな……ぇっ、な下着を!」
「くふっ、そうだよねぇ? 綺凛ちゃんは自分からこれをつけたんだもんねぇ? 理子のせいにするのはおかしいよねぇ?」
「それは、それ以外に選択肢が無かったからで……!」
小声で話しているせいで、俺には内容までは聞こえないが。
「……2人共?」
「あ、大丈夫だよ~、ね? 綺凛ちゃん?」
「は、はい……」
これは何かあるな。
スカートから手を離した理子。だが綺凛の顔は真っ赤のままだ。だが、これ以上追及してもしょうがない。
「それで、綺凛ちゃん。翔君に何か言う事があるんだよね?」
「あ、はい……」
理子に誘導されるまま、綺凛は口を開く。
「私、こんなことになったので早退しようと思って……先輩がよければ、家ついてきていただけないかと……ひ、1人では不安なので!」
「それは……」
そう言われてしまえば、俺に断るという選択肢は無い。
幸い、六課へ行く時間にはまだまだ余裕がある。不安だと言うのなら、送っていくのは当然のことだ。
「じゃ、帰るか」
「は、はいっ」
「ごゆっくり~」
何がごゆっくりだ、理子は。意味が分からんぞ。
そう思いながらも、やけに歩幅の小さい綺凛と共に、家路につくのだった。