今日のエグゼイドはダブルマイティで心が踊った。
大型ショッピングモールの一角、服は服でもなかなかマニアックな服を扱っているお店。俺は今、そのお店の近くにいた。
あ、マニアックって言っても、いかがわしいもんじゃないぞ。や、中にはいかがわしいものに使う人もいるかもしれないけど。
すこし装飾多めな、ヒラヒラがいっぱいついた服を売っているお店だ。これを着て街を出歩いたら間違いなく人に注目されるってレベルの。
こんな服を着る趣味は俺にはないし、俺の家にいる娘も……狂三以外、自主的には着ないだろう。
見ているのは、この前、空港で戦ったジャンヌ・ダルク30世だ。
そもそも今日は、俺の家に住んでいるみんなでこのショッピングモールに来た。荷物持ちでも何でもするつもりだったんだけど、女の子には女の子の付き合いがあるとか。早々に追い出されてしまった。
暇を持て余してぶらついていたところ、店の入り口で中に入ろうとしてはためらい、を繰り返しているこいつを見つけたという訳だ。
「よう、ジャンヌ」
「うわああああああぁぁぁぁ!!!!」
悲鳴とともに首元に手刀が飛んでくる。何かしらの反撃が来ることは予測していたため、ダメージなく受け止めることができた。
「お、お前は……っ!!」
「一週間ぶりだな。司法取引、もう終わったのか?」
よほど驚いたのか、顔を真っ赤にして呼吸が荒くなっている。それでも手刀の構えは解かないあたり、俺に対する警戒心の高さがうかがえる。
「……なぜここにいる」
「普通に買い物だよ。そっちこそ、店に入らなくていいのか? 5分くらい様子を――」
「――貴様、見ていたのか……っ!!」
俺の腹部に固いものが押し付けられる感触。短い刃物かな。物騒だね。
肩から下げているケースの中にはデュランダルが収められているんだと思うけど、これが飛び出さなくてよかったね。
それにしてもこの体勢は周りから見るとどうなんでしょうねぇ。
さっきの大声でかなり注目を集めたところで、この密着だ。ラノベ主人公なら間違いなくしどろもどろになる距離だ。羞恥心でわかっていないのか、軽く胸も押し当てられてるし。
俺たち2人とも、手を回したりしているわけではないが、傍から見れば立派なカップルに見えるんじゃないだろうか。
俺は経験(意味深)豊富だから大丈夫だけど。心拍数が少し早くなって下半身に血液が集まり始めるくらいで。
「ああ、ばっちり」
「死ねッ!!」
ジャンヌの大振りを、完全記憶能力で覚えたアリアの体術で流す。
「さ、そんなことより店に入るんだろ?」
「お、おい!! 押すな!」
肩をつかんで店の入り口から中に押し込んでいく。
店員さんも俺たちが騒いでいたせいか、すぐに俺たちを発見し、適当な服をもってジャンヌを試着室に連れて行ってしまった。
理解のある人で助かった。
しばらくすると、試着室から出てきた店員さん。俺にサムズアップをして去っていく。俺もサムズアップを返し、試着室のカーテンが開くのを待った。
が、開かない。
ま、まあそりゃ、俺に見せる義務はないけどさ。こんな面白そうなこと、見過ごしてられないさ。
「ジャンヌ! 着替えたかー? カーテン、開けてもいいかー?」
「まっ、待て!! ダメだ!! ……くぅ……これはどう着ればいいんだ……っ!」
あれま、着方がわかんなかったのか? 服着るのにそんな複雑な手順がいるもんなのかね。俺、女子じゃないからわかんない。
「よ、よし。すぅー、はー。あ、開けるぞ……っ!」
試着室から出てきたジャンヌはそれほど飾り付けられていない、動きやすそうなメイド服だった。メイド服に動きやすいとかあるのかと言われれば微妙か? だったら、見せる用ではなく、働く用といえばいいかな。
「ど、どうだ?」
「いいと思います。とても。可愛いです」
ジャンヌに魅力がないなんて言わないが、服の力はやはり偉大だ。銀髪の凛とした美少女が羞恥に顔を染め、ロングスカートの裾を握りしめている。しかもこれを見ているのは俺だけ。
控えめに言って最高では?
「や、やめてくれ。こんな服、私には似合わない。こういうのは理子のような、小柄で愛くるしい娘が着てこそだろう」
そういってそっぽを向くジャンヌだけど、顔がにやけているのが抑えられてませんよ。
「私はこの長身だからな……フッ」
試着室の鏡に向かって髪をフサァ。チョー気に入ってるじゃねえか。
身長については俺と同じくらいですからね。ほんと勘弁してほしい……身長もっとほしいな。
しばらく、一人の世界に浸らせたところで一言。
「で、その服買うの?」
「……ま、まあ、一着だけだからな。うん。一着だけ」
あかん。課金は一回だけの思考にはまっている。絶対に一回じゃ止まれないパターンだ。
「壁をくりぬいて脱出しようかとも思ったが、今日はいい日だな」
「そんなに恥ずかしかったなら、見せないって選択もできたよな?」
「……あ」
「え?」
「い、いや、男が着替えを待っていたら見せるのが礼儀だと……」
「真面目か」
変なところで融通効かないな、こいつは。
「すまない。今日のことは誰にも――」
「じゃあ、黙ってる代わりに聞きたいことがある。ちょっと付き合ってくれ」
―――――――――――――
俺とジャンヌは一息つくためにファミレスに入った。お昼のピークが過ぎた店内には2,3組の客しかおらず、多少長居しても大丈夫そうだ。
俺たちは席に座り、ドリンクバーを頼んだ。話を始める前に、飲み物を取ってこようと立ち上がる。
「ジャンヌ、飲み物取ってこよう」
「ん? ああ、この店は自分でとってくるものなのか」
ジャンヌを引き連れドリンクバーのところまで歩いていく。コップを取って……烏龍茶にしておくかな。
「夜月、これはなんだ?」
「ドリンクバーだ。好きな物を好きなだけ飲める」
「好きなだけ……では、100リットル飲んでもいいのか?」
「……飲めるならな」
「そんなに飲めるわけがないだろう。やはり馬鹿なのか?」
「お前さぁ……」
俺が微妙な顔をするのも気にせず、ジャンヌは俺と同じように烏龍茶を選択した。
「それで、話とは何だ?」
「ブラドのことだ」
俺は席に戻ると無駄話をせずにすぐ本題に入る。
「奴の事か……」
「理子には聞きづらいし、夾竹桃とは連絡が取れないからな」
実は理子、光の速さで司法取引を終え、うちに住み着いているのだ。おかげで毎日アリアとの銃撃戦が起こりそうになりひやひやしている。
いずれ戦うことになるブラド。倒すと豪語したが、原作知識はあるとはいえ強敵には変わりない。この世界の影響による強化もありうる。
情報は集めておくに越したことはないだろう。
「そうか話には聞いていたが、無謀な奴だ……話してもいいが、私から教えられる情報は限られるぞ」
「情報を漏らした報復があるかもしれないからか?」
「そうだ。イ・ウーは私闘を禁じていない。相手が相手だからな。内容によっては私が狙われる」
「お前ほどの戦闘力があってもか?」
「私をあっさり倒した奴が皮肉を言うな。それに、私の戦闘能力はイ・ウーのなかでは最も低いんだ」
俺の言葉にジャンヌは不機嫌になってしまう。それについては申し訳ないと思うが、俺はまた一つ情報を手に入れることができた。
ジャンヌの戦闘能力がイ・ウーの中では最低、というのは原作と変わらないんだな。あれ? つまりジャンヌって夾竹桃より弱いってことになるのか? 相性が悪いとか?
ジャンヌの戦闘能力は決して低いわけではない。それこそ、超能力的には中の上くらいの力はあるだろう。
俺が仮面ライダーに変身したりして暴れまわっているから忘れそうになるが、この世界、能力だけで戦える奴は少数派なのだ。
「まずイ・ウーのことから説明しようか。イ・ウーとは、天賦の才を神より授かった者たちが集い、技術を伝え合い、どこまでもいずれは神の領域にまで強くなることを目的としている。組織としての目的は無く、個々人が自由に動く」
要はお互いの長所を伝え合って強くなっていこうって集団ってわけだ。考えは素晴らしい。法を犯さなければな。
「そしてブラドだが……奴と私の一族は仇敵だ。3代前の双子のジャンヌ・ダルクが初代アルセーヌ・リュパンと組んで戦い、引き分けている」
「ブラドの先祖とか?」
「何を言っている? 奴は吸血鬼だぞ。本人に決まっているだろう」
おっと、いけない。ブラドは世界的に名前が通った吸血鬼。緋弾のアリアではそうじゃなかったから間違えちゃったよ。
一旦、緋弾のアリアの原作知識を追い出し、この世界で仕入れた情報を頭の中に広げる。
「冗談だ、冗談。俺が聞きたいのは魔臓の位置、奴の眷獣のことだ」
魔臓とは、吸血鬼の再生能力、および十字架や、ニンニクなどの弱点を無効化している臓器のことだ。体内に4つあり、これをすべて同時に損傷させると、これらの力が失われ、吸血鬼を大幅に弱体化させることができる。
眷獣は、宿主の寿命を代償に実体化する獣の姿をした魔力の塊で、様々な力を持った吸血鬼のメインアームだ。強大な戦闘力を持つ反面、召喚の代償である命の消耗が激しく常人の寿命では一瞬で尽きてしまうため、不老不死の吸血鬼にしか扱えないとされている。つまり、魔臓を破壊できれば眷獣も使えなくなるという訳だ。
「だろうな。吸血鬼と戦うなら―――まあ、そんなバカはそうそう現れないが―――それは知っておかなければいけないことだな」
さっきからバカバカ言い過ぎじゃないですか? 俺に自分の趣味を知られたこと根に持ってるだろ。
「魔臓の位置は両肩と右の脇腹、あと一つはわからない」
魔臓の厄介なところは吸血鬼によって位置が違うところ。幸いこの世界の、国連に存在が確認されている吸血鬼には魔臓の位置に模様が刻印されているが、事前に知っているのといないのとでは、やっぱり違う。
あと一つも、原作通りなら舌にあるはずだ。
「眷獣については全くわからない。イ・ウーではその話はしていなかったからな」
「そっか……」
これは予想以上の激戦になりそうだぞ。
今の戦力じゃ、返り討ちは免れない。あーあ、ゲーマードライバーほしい、
とりあえず、狂三のおかげで手に入れることができたこの2つの新戦力をどうするかだな。
宇宙の超技術により再現された、とあるXさんが持つ剣のレプリカ。振るとブォンブォン音が鳴る。レプリカといってもその切れ味はすさまじく、たいていのものなら簡単に両断できる。また、刀身からのエネルギー放出により、ビームを撃ったり、空を飛んだりもできる。
サイコフレームの設計図
サイコフレームの設計図。この時代ではオーバーテクノロジーなため、有効利用できる人物は限られている。
サイコフレームの設計図についてはどうやって使ったらいいのかわからない。そんじょそこらの科学者じゃ太刀打ちできない代物。設計図だけをもらっても、どうすればいいのか。
……あ、そうだ。
「なあ、ジャンヌ。俺に剣の使い方教えてくれない?」
「剣だと? 別にいいが……タダでとは言わないだろうな」
「もちろん。練習の前でも後でも、ファッションショーの観客になるから」
「そんなことはしなくていいッ!! ほんとにしゃべるなよ!! 絶対だぞ!!」
はは、やだなぁ。フリじゃないならそんなに連呼しないでほしいよ。
「先輩、何やってるんですか?」
横から聞こえてきた突然の声。俺の表情が凍り付く。
「ゆ、雪菜……?」
そこには今日ここに来たメンバー、雪菜、クロ、アスナ、狂三、アリア、理子が立っていた。
全員かなり微妙な表情をしている。大半は目をぴくぴくさせ、喜怒哀楽でいうと『怒』の感情が前面に押し出されている。
「まあ待て。これはそもそもみんなが俺を一人にしていたからであって、そもそもみんなはいろいろと認めてい――」
「こんにちは、ジャンヌ・ダルクさん? 理子ちゃんから話は聞いてるよ」
「あ、ああ。こちらこそよろしく。私のことはジャンヌでいい、ぞ……」
俺の言葉を無視してアスナがジャンヌににこやかにあいさつした。ジャンヌはそれに返しつつ、滑らかな動きで席を立った。俺の巻き添えを食わないようにするためだろう。それはありがたい。俺のせいでジャンヌに被害が及ぶのは避けたいからな。
今や俺は孤立無援。誰の援護も期待できない。ファミレスのウェイトレスさんも固唾を飲んで、少し楽しそうに俺たちを見ている。
「じゃあ、みんな、行こっか」
「え?」
アスナさんの声で、みんな背を向けて歩いて行ってしまう。
「ちょ、ちょっと待って!」
う、うむ。これは俺が悪いな。ハーレムが認められているとはそういう問題じゃあなくて、これは俺が悪い。
2人分のドリンクバー代を払いながら、今度は気を付けようと心に誓うのだった。