「ぎゃああああああああああああぁぁぁっぁっ!!!????」
ダークウイングから放たれる強力な超音波は、水面に波紋を作った。それに負けないほどのアクア・ネックレスの絶叫。
「くうううぅぅ……っ!!」
超音波は耳を塞いでも貫通してくる。予想していてもキツイ。蹲り、攻撃が終わるのを待った。
そうして耐えているとようやく収まった。時間の感覚はない。どれほど長い間こうしていたのか。
「ララ、大丈夫か……?」
気が付くと、ララは白いヘッドホンをしていた。そのせいで俺の声が聞こえていなかったのか、小首をかしげている。
すると、ヘッドホンが髪飾り―――ペケに吸い込まれるように消える。どうやらペケのナノマシンで作られていたものらしい。
「ララ、無事か?」
改めて問いかける。
「う、うん。今のは?」
「大丈夫。俺達の味方だ」
初めて使う武器を、こうもうまく使ってくれるなんて、流石ヤミだな。
俺は作戦を立てた時のことを思い出しながら、そう思うのだった。
――――――――――――――――――――
「これは―――」
俺は新たに手に入れた能力を見て唸っていた。
ジカンギレード強化パーツ
仮面ライダージオウの専用武器、ジカンギレードの強化パーツ。
その作品の主役ライダーのウォッチを持っている場合、その作品のライダーのアーマーをジカンギレードを通して他人に付与出来るようになる。
仮面ライダーナイト変身セット
ナイトのカードデッキ、ウォッチのセットパック。
龍騎のライドウォッチを手に入れている場合、使用可能になる。
つまりこれって、他の人にライダーの力を付与できるってことだよな? 状況に応じて能力を付与できるって、めちゃくちゃな強化パーツだ。
しかも、使って下さいとばかりに出て来たナイトの変身セット。龍騎のライドウォッチはもう持ってるわけだし、ナイトにも変身出来るようになったんだよな?
ここは普通についてきてもらうよりも、ミラーワールドにいてくれた方が不意を突けていいのでは?
「どうしましたか?」
俺の視線に気が付いたヤミが首を傾げている。や、メアでもいいのか? 何となくのイメージでヤミを見ちゃったんだけど。
龍騎のウォッチもあることだし、2人でミラーワールドに待機してもらうってもの悪くないかもしれない。
「ん? どうしたの?」
「ああ、それがな……」
俺は2人に説明する。
「なるほど……ですが2人で同じ場所に隠れている必要はありませんね」
「うん。私はこっちの世界で周りを見張ってるよ。他に敵がいないか」
「じゃあ連絡用にレプリカ先生をつけるぞ」
「わっ、カワイイ!! 何これ!?」
「よろしく頼む」
「こちらこそよろしくね」
小型のレプリカがメアにつき、互いにあいさつを交わす。
「それじゃあ、それで行こう」
《KNIGHT》
ウォッチを起動する。ガンモードのジカンギレードを取り出し、ウォッチをセットした。その銃口をヤミに向ける。
「行くぞ、ヤミ」
「どうぞ」
「ぷっ」
なんだよ。
突然メアが噴き出した。
「な、なんでもないよ? うん、なんでもないの」
「……?」
そうは見えないけどな。ほら、ヤミも疑問符を浮かべてるじゃないか。
「(お姉ちゃん、銃口向けられたのに無防備すぎるでしょ! いくら翔君だからって、ちょっとは警戒するんじゃない? それだけ翔君のこと信用してるってコトなのかな?)」
お腹を抱えてぷるぷると震えているけど、何でもないと言うのなら気にしないことにする。
「じゃあ改めて」
「はい」
「ちょっとくすぐったい、かもしれないぞ?」
俺は引き金を引いた。
《ARMOR TIME!》
《ADVENT! KNIGHT!》
ヤミの全身に装着されるアーマー。見慣れたナイトのものに近い。だが、あくまでアーマータイムであって変身ではない。その証拠に、ナイトの仮面のような帽子? 髪飾り? が装着された。
イメージとしては『ライダー少女』に近いかもしれない。
「ふむ……」
装着が完了したヤミは調子を確かめている。
「じゃあヤミ、詳しい使い方について説明するぞ。手短にな」
―――――――――――――――――――――――
「鏡の世界にもスタンドにも、良い思い出はありませんが……」
その時の説明を思い出しながら、ヤミはプールの水面を見ている。その水面に映るのは、手足と顔のある水の塊と、それに捕まる綺凛。そして翔だった。
ヤミが自身のカードデッキからカードを引き抜く。
「『鳴き声』ならこれ、『分身』ならこれ……」
翔の話によると、カードによってさまざまな能力を発揮できるとのことだった。それに合わせた合言葉も決めている。
能力のことをより深く知っている翔が、状況に合わせて指示を出すのだ。
ヤミはただ身を潜め、翔からの指示を待つ。暗殺を生業にしていたヤミにとって、相手の不意を突くことに何のためらいもない。
今は、翔が出来るだけ情報を聞き出すために話を引き延ばしているところだった。
「それにしても相手がスタンド使いだったとは……このタイミングで襲ってくるのは出来過ぎた偶然? それとも……」
ヤミはヤミで思考を巡らせている。
「もちろん断る」
「はぁ、あなたという人は……」
水面の向こうでは、翔がアクア・ネックレスの要求を断っていた。何の打算も無い即答に、ヤミはやれやれと首を振る。
翔なら確実に断るとは思っていたが、予想取り過ぎる回答にはため息を通り越して笑いすら起きる。
「……いえ、気を引き締めましょう」
水面に映る自分の顔が、笑みを浮かべていることに気が付いたヤミは、口元に力を入れて強引に表情を硬くする。
その時、視界の端にある人物を捕らえた。
「っ!? 何故ララ王女が……っ」
思わぬ侵入者に流石のヤミも驚く。フェンスを乗り越えるその姿に、翔よりも早く気が付いたのだ。
同時に召喚機『ダークバイザー』に手をかけた。カードの装填口を開いていつでも行動出来る状態になる。
こうなってしまっては、情報を聞き出すなんて悠長なことを言っている場合ではない。その考えとシンクロしたかのように、翔から合図があった。
「ヤミ、『鳴き声』だ!!」
「(鳴き声は―――これか!!)」
水面の向こうでは、翔とララが合流している。ならば問題ないだろう。
翔の指示に従ってカードを装填した。
『NASTY VENT』
電子音が響き渡る。同時に、何処からともなく飛んでくるダークウイング。
「行きなさい」
その声で、ダークウイングがプールに飛び込んだ。だが水柱は上がらない。水に飛び込んだのではなく、その水面を鏡として『向こうの世界』に行ったからだ。
「――――――!!」
ダークウイングの鳴き声が聞こえる。ナイトに変身しているヤミにとってはただの鳴き声にしか聞こえないが、翔やアクア・ネックレスにとっては頭蓋骨が割れるような不快な鳴き声だ。
その効果は十分に発揮されていた。
「それでは、私も」
そう呟いたヤミは、プールの中に、その向こうの世界へと飛び込んだ。
――――――――――――――――――――――
「夜月 翔!!」
ナスティベントが終わって、プールから飛び出してきたヤミ。そのまま
そんなヤミに向かって俺は叫んだ。今、一番欲しいものを。
「ヤミ、盾だ!」
「っ! はいっ!」
ヤミは一瞬固まるが、すぐに新しいカードを使ってくれる。
『GUARD VENT』
電子音が鳴り響く。空を飛んでいたダークウィングがヤミの体に重なる。するとダークウイングはそのままヤミの体を包む黒いマントになった。
「な、何をぐっ!?」
その間に、俺は爪弾を連射する。綺凛から引き離すように。回転のエネルギーを使って、水の流れを操っていく。
「こ、こいつ」
その事実に焦りを見せるアクア・ネックレス。プールにつながっている体は残り少ない。
「包め、ヤミ!」
その言葉と同時に最後の爪弾を発射した。その回転エネルギーは、プールにつながっていた最後の体を吹き飛ばす。
アクア・ネックレスの本体がプールに落ちるまでのわずかな時間。
「(クソッ!! まさか人質から引き離されるなんてな。だが問題ないッ!! プールに潜めば俺は無敵だ! 水から出てきたあの女ともども、ぶっ殺して―――いや、ここは一度逃げたほうがいいか?)」
アクア・ネックレスは何を考えているのか知らないが、全て無駄だ。
水面とアクア・ネックレスの間に、黒い布が割り込んできた。その布の正体はヤミが作り出したガードベントだ。マントになって背中に装着していたダークウィングを取り外し、アクア・ネックレスを受け止める。
そして、ヤミがプールサイドに着地する頃には、
「ふ―――」
「―――!! ―――!!」
「な、何だこいつは!? く、で、出れねぇ……!?」
自分の翼を使って結ばれたことに抗議の鳴き声を上げるダークウィングと、弱いパワーのせいで脱出できなくなったアクア・ネックレスが騒いでいる。
じゃばじゃばと、袋の中で水が暴れる音が聞こえるが、どんなに頑張っても外に出ることは出来ないようだ。完全に捕まえることが出来た。
「これでいいですか?」
「ああ、流石だよ」
こちらの意図を完全に読み切っての行動だった。こういう姿を見ると場慣れしてるって感じるな。
変身して手になったヤミの髪の毛に摘まれたガードベントは、こうしてみると黒いゴミ袋のように見える。
「そうだ! 綺凛!」
急いでプールに目を向ける。完全に脱力した綺凛は変わらず水面に浮かんでいる。俺は迷うことなくプールに入り、プールサイドに引き揚げた。そして、その無事を確認する。
「よかった……」
特に怪我はしていない。服の乱れもないため、乱暴もされていないだろう。そもそもスタンドで交渉するような奴だ。この場には来ていない可能性の方が高い。
「夜月 翔。コレはどうしますか?」
「そうだな。思いっきり振り回して欲しい」
「はい? 分かりました」
俺の言った通り、変身髪の毛が縦横無尽に動き回る。あの中にいるアクア・ネックレスには、きっと戦闘機のアクロバティック飛行並みのGが襲いかかっていることだろう。
「ごぱがあぁぁっぁ!?」
何処からか、変な声が聞こえて来た。
「……今のは?」
「スタンド使いの本体だ。メア、聞こえるか?」
俺はメアのそばにいるレプリカを通じて通信を行う。
《うん。聞こえてるよー? なんか変な声聞こえたけど、様子見に行った方がいいかな?》
「行ってほしい。多分、スタンド使いの本体がいるから気をつけてくれ」
《オッケー、行ってきまーす》
通信が切られた。
「軽いな、あいつ……」
何かあればレプリカから連絡が来るから大丈夫だと思うけど。俺も行くか。どんな奴か、顔を拝んでおかないと。
「ヤミ―――」
「翔ーーー!!」
「おっふ!?」
ヤミに一声かけようと思ったところで、かなりの衝撃と信じられないくらい柔らかい物体が俺の体に襲いかかってきた。不意打ちだったせいで俺の体がぐらつく。
「お、っと、っと……!」
俺はギリギリ、何とかプールサイドの縁で踏みとどまる。俺が耐えられなかったら、このままプールにドボンだ。
「っと!! な、何だいきなり」
「ありがとーーー!! 翔ーーー!!!」
「ラ、ララ!? お、おいっ、あんまり暴れるなって!!」
飛び込んできたのは、今までほったらかしになっていたララだった。全身で俺にタックルしてきて、そのままがっちりホールドされてしまった。羞恥心などないとばかりに全身で感謝を伝えてくる。
「まあ、よくやった。褒めてやる」
「お、おう」
ペケも褒めてくれた。
その間にも、ララの抱擁は止まらない。
俺の胸で2つの球体がばいんばいんと跳ねまわる。服の上からでもこんなに柔らかいなんて、とんでもないよ! 大丈夫なんだろうか、その、色々と!
「お楽しみのところ申し訳ありませんが、これからどうしますか?」
「あ、ああ。そうだな……」
アクア・ネックレスを持ったままのヤミが、ジトッとした視線を向けてきていた。
「ヤミはそのままそいつを捕まえておいてくれ。あ、それと、時々袋を振ってほしい」
「たしか、スタンドへのダメージは本体に伝わる、でしたね」
「ああ。今回はダメージは与えられなくても、振った時の衝撃は相手に伝わるから、身動きが取れないはず」
「分かりました。刀堂 綺凛とプリンセスのことも。気にせず行って下さい」
「ありがとう。行ってくる。じゃあララも。この事をザスティンに伝えておいて欲しい」
「あ、うん! そうだね!」
デダイヤルを取り出すララを横目に、俺は声の聞こえた方向へと向かうのだった。