※この作品はR-18です。

異世界ハーレム奮闘記   作:文房具

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アクア・ネックレス③

「ううぅ……クソが、ふざけやがって……」

 

ここは武偵高の実践用森林フィールド。ここでアクア・ネックレスの本体の男は、最悪な気分になっていた。

 

スタンドと共有している視覚が塞がれたと思ったら、天地がひっくり返ったのではないかという衝撃が体に伝わってきたのだ。一気に平衡感覚がなくなり、いつの間にか吐きながら地面に倒れていた。

 

捕まったアクア・ネックレスが何かされた。それしか考えられない。今もまだ視界は真っ暗なままだ。物質と同化するスタンドであるアクア・ネックレスは、自由に出し入れが出来ない。こんな攻撃を受けていては逃亡することすらままならない。

 

交渉は失敗し、人質は取り返された。完全敗北だ。

 

「俺のスタンドの弱点を、まるで知っているみたいに的確に突いてきやがった。これが夜月 翔か! 『教授』に一泡吹かせたってのは本当みたいだな……」

 

情報は知っていたが、ここまでとは思わなかったと、計算外だと呟く。

 

「な、なんとか、しないと……!」

 

今さら後悔しても遅い。未だ震える足に力を入れて、何とか立ちあがろうとする、が、

 

「よっと、アナタかな? スタンド使いの本体は」

「っ!? あ、赤毛のメア……!!」

 

男は、そばに着地したメアを見て体を震わせる。

 

男は絶望的な気分になる。いるのは知っていたが、こんなに早く見つかるとは思っていなかったのだ。まさか自分が倒れる際に大声を出しているとは思っていなかった。

 

「あれ? あたしのこと知ってるんだ? ふーん」

「……っ」

 

メアの態度はいつも通りだが、男は緊張で体が動かせなくなっていた。男の戦闘力では、どう転んでもメアに勝つことは出来ないからだ。

 

水辺に誘い込み、姿を隠すことが出来れば時間を稼ぐことは出来るかもしれない。だがこうやって正面に来られると、1秒と戦えない。

 

男の絶望は、メアだけでは終わらなかった。

 

「おやおや、先を越されてしまいましたわ」

「お、お前は……!」

 

暗い森の向こうから出てきたのは、オレンジと黒のゴシック調の衣装に身を包んだ少女。霊装に身を包んだ狂三だった。

 

男は知っていた。この少女が、街に繰り出すララについていたことを。そして翔と一緒に住んでいることも。だが、こんな危険な顔を持っていたとは知らなかった。

 

裏の世界でもそうそうお目にかかれるものではない狂気を孕んだ笑みに、男の全身から冷や汗が流れる。

 

「あ、狂三ちゃん、こっちに来たんだ」

「ええ、あちらの方はわたくしがいなくても大丈夫そうですから」

 

スタンド使いを挟んで、2人は朗らかに談笑する。

 

実は狂三、ララの護衛が始まってから、ずっと自らの分身体を翔の影に忍ばせていたのだ。それはララに何かあった時のための連絡用として、そして、翔の監視の意味も含めて。

 

「さっきはびっくりしたよ。いきなり翔君の影から出てきたんだもん」

「きひ、思わず手が出てしまいましたわ」

 

先ほど翔のことを叩いたのはその狂三だった。音もなく影から出た狂三は翔をひっぱたき、また陰に沈んでいった。その一部始終を目撃していたヤミとメアには、優雅にお辞儀をしながら。

 

「翔君の事ずーっと見てたんだもんね? 私と翔君が、えっちぃことしてる時も」

「……そうですわね」

「そりゃあ、イライラしちゃうよね? 自分が見てることも知らずに他の女の人とセックスしてるんだもん」

「メアさんも、まさか学校で誘うとは思っていませんでしたわ」

「あは。シたくなっちゃったから」

 

まるで、すでに戦闘は終わったという態度だ。だが悲しいことに、それは事実だった。

 

「(赤毛のメアはともかくとして、こっちの女も相当な化け物じゃないか……!! ど、どうしてこんな奴が……)」

 

確かに翔が六課から離れられない時は狂三が近くにいたことはわかっていた。

 

だが、その時とは雰囲気からしてまるで違う。スイッチが切り替わったように、メアと同等の殺気をスタンド使いに向けていた。

 

絶対に逃げられない。そのことに男が冷たい汗を流していると、談笑を終えた2人が視線を向けてきた。

 

「それで、この人どーしようか?」

「そうですわね。学校や管理局に引き渡してしまう前に、色々と聞いておきたいことがありますわ」

 

狂三の笑みが一層邪悪になる。

 

「ただの犯罪者ならともかく、『スタンド使い』となれば、その出どころははっきりとさせたいですわ。メアさんには何か心当たりがありまして?」

「うーん、ないかな。イ・ウーにいたときはDISCがあったけど、アレどこに行ったのかわかんないし。そもそもイ・ウーに知ってる人あんまりいないからなー」

「DISC……」

 

狂三は考え込んだ。

 

「(あのゾンビのスタンド能力……いったいどこまで影響を残しているのでしょう……それとも、話にある『3人目』が関わっているのでしょうか)」

「な、なんだお前ら! この能力をどうやって手に入れたのかを知りたいのかッ!?」

 

2人の会話を聞いて、生き残るチャンスがあると考えた男は、唾を飛ばす勢いで交渉を試みる。

 

「だったら知ってることは何でも話す!! 何でもだ!! 逃走経路も、ララ王女を攫った後どうするつもりだったのかも!」

「あらあら、ずいぶんと軽い口ですわね」

「だ、だから命は助けてくれ!!」

「そう言われましても……あなたを裁く組織はこの島の管理局か、デビルークでしょうから。わたくしたちには何とも」

「それに、自分から仕掛けてきておいて、命は助けてくれって、それはないんじゃない? やるんだったら、やられる覚悟もしておかないと」

 

2人の無慈悲な言葉に、男は歯を食いしばった。

 

「ですが、素直な態度というのは良い印象を与えますわ。ぜひ、管理局の取り調べでもそうすることをお勧めいたします」

 

そう言うと、狂三は短銃を持って男に近寄る。

 

「な、なにをするつもりだ」

「痛くはありませんわ。ただ少しだけ、あなたの記憶を読み取るだけですので」

 

狂三はくすくすと笑いながら距離を縮める。実際、狂三には男を害する気持ちはない。ないのだが、この状況で銃を持って近寄られれば、恐怖心を感じてもおかしくはない。

 

何をされるかわからない男は、狂三を止めようと必死に口を動かす。

 

「わ、わかった! 待ってくれ! しゃべる! いいか、俺は」

 

それが仇になった。

 

「かぺっ!!?!?」

 

変な声を出した男は、そのまま倒れた。

 

「おや」

「あれ? どうしたの? 急に倒れちゃった。狂三ちゃん、なにかした?」

「いえ、わたくしは何も……まさか……っ! 刻々帝(ザフキエル)!!」

 

狂三は慌てて自らの『天使』を顕現させる。背後に現れる巨大な時計盤。その『Ⅳ』から黒いエネルギーが短銃に充填される。時間を巻き戻す四の弾(ダレット)だ。物体だけでなく、人体のケガすらも時間を巻き戻すことで無効化してしまう強力な能力。

 

男に向けて引き金を引こうとするが、

 

「遅かった、ですわね……」

「そうみたいだね」

 

地面に倒れた男はすでに事切れていた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「終わったみたいだな」

「結果はどうですか?」

 

矢瀬は耳に付けていたヘッドホンを外す。すると、後ろにいた女子生徒が声をかけてきた。眼鏡をかけた三つ編みで、ハードカバーの本を抱えている。

 

一見すると普通の女子高生、どちらかといえば地味な印象を受ける彼女だが、この場での立ち位置は矢瀬の上司である。

 

そんな相手に向かって、矢瀬は壁に寄りかかりながら報告を始めた。女子生徒もそれを咎めない。矢瀬が能力を使って疲労していることを知っているからだ。

 

「人質は無事救出。スタンド使いは死亡。こっちは自殺ってわけでもなさそうだが……」

「証拠隠滅のために何らかの能力がかけられていたということでしょう。魔法か、魔術か。あるいはスタンド能力か」

 

女子生徒の意見に無言で首肯する矢瀬。だが、それを認めるということは、自分を殺してまで、わざわざ証拠や情報を隠そうとするということは、自分以外にも仲間がいるということになる。

 

「それで、他に侵入者は」

「学校の敷地内には不審な人物は誰も。敷地の外まで広げた方がいいか?」

「いえ、必要ないでしょう」

 

矢瀬は手のひらサイズのプラスチックケースを振って見せる。ケースの中に入っているものがジャラリという音を出した。

 

それを見た女子生徒は首を横に振った。

 

ケースに入っているのは、矢瀬の能力を一時的にブーストするケミカルドラッグだ。

 

矢瀬は『原石』と呼ばれるタイプの超能力者である。能力名は『音響結界(サウンドスケープ)』。効果は音波や気流を操るというものだ。

 

この能力を使って矢瀬は聴覚を拡張し、学校内での翔の様子を、そして今回の事件の様子を観察していたのだ。

 

「色々と面白い話を聞けたぜ。ガチャを引くとか、新しい能力とか。先輩、ガチャって知ってる?」

「それは馬鹿にしすぎでしょう。ランダムに商品を輩出する、自販機の一種でしょう?」

「そう。それそれ。向こうはガチャを引いて新しい能力が出るとか言っていたぜ」

「そんなふざけた能力があるとは思いたくないですね」

「そうだな。流石に何かの隠語だと思いたいが。その直後に新しい能力が増えたって感じの話もしてたからな……」

 

その時の会話を思い出して、矢瀬は唸る。手段はどうであれ、その場で新しい能力が生み出された可能性は高かった。

 

「詳しい報告は後ほど。どうやら管理局に連絡がされたようです」

「あいよ。そんじゃあな」

 

矢瀬と女子生徒は、お互い別の方向に歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

襲撃は終わった。

 

ヤミに綺凛とララの2人を任せて、スタンド使いのいると思われる場所に向かった俺だったが、そこに居たのはメアと(何故か)狂三、そしてすでに息絶えた見知らぬ男。

 

2人の話によれば、この男がスタンド使いの本体だったらしい。それが話の途中で死んでしまった。間違いなく口封じされたのだ。つまり敵は複数いる。

 

顔の形が分からなくなるまでブン殴ってやるつもりだったんだけど、流石に死んだ相手にそれ以上手を加えるような真似は出来なかった。

 

それよりも敵が複数いては大変だと思い、すぐさまプールに戻った俺だったが、俺を迎えたのは特に変わりのないヤミとララ、そして目を覚ました綺凛だった。

 

ララに聞くと、デビルークの親衛隊もすぐに来るらしい。ヤミの指示で先生や管理局にも連絡済み。

 

とりあえず、今することはやったらしい。だとすれば、

 

「綺凛、大丈夫か?」

「先輩……」

 

俺は綺凛に声をかける。ずぶぬれになっていたはずだったが、今は乾いた制服に着替えていた。着衣訓練のために持って来ていたものに着替えたらしい。

 

俺を見る綺凛の顔は今にも泣きそうだ。

 

「先輩、ごめんなさい……」

「何が?」

「敵に捕まって、先輩にご迷惑をかけてしまって……」

 

そんなこと。

 

「相手がスタンド使いなんだ。綺凛とは相性が悪かったんだからしょうがない。正攻法じゃ倒せないんだから」

「……うん、そうだよ。綺凛が襲われたのは私のせいだもん……ごめんね」

「ララ様……」

 

ララも今回のことに責任を感じているらしい。珍しくしょんぼりとした顔で頭を下げている。ペケもその様子に何か感じるものがあるらしい。

 

だが綺凛の表情は晴れない。

 

「気にしないで下さい、ララさん。襲われて勝てなかったのは私が弱かったから、ですから」

「どっちの責任でもない。悪いのは突然襲ってきた奴だ」

 

弱いからとか、襲われる原因になったとか、そんなのはどうでもいいことだ。悪いのは、悪いことをしたヤツ。それ以外にない。

 

「でも先輩は、そんな相手でも倒しちゃったじゃないですか。初めての相手でも冷静に、人質の私も助けてくれて」

 

それは俺が原作の知識で、アクア・ネックレスのことを知っていたからだ。綺凛と同じ条件だったら、こうはいかない。

 

だがそれを説明するには順序がいるし、この場で話しても理解してもらえないだろう。

 

「もっと強くなりたいです。試合だけじゃなくて、先輩の敵とも戦えるくらいに」

 

そんな綺凛の呟きが、かすかに耳に届くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「―――って訳で、今日の学校は少し騒がしかったぜい」

「ふむ」

 

ここは学園島にある『窓の無いビル』。窓どころか扉が無いこのビル。中に入るにはテレポート系の能力が無ければいけないという特殊な場所だ。

 

その内部には、現在2人の人物がいた。

 

1人は翔のクラスメイトでもある土御門 元春。グラサンにアロハシャツというふざけた格好は、この場でも変わらない。

 

そしてもう1人。ビルの中央の試験管に満たされた液体。その中に浮かんでいる人間だ。男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見えるその人物は、学園島を取り仕切る管理局の長である、アレイスター・クロウリーだ。

 

アレイスターから差し向けられた刺客である土御門は、今日の出来事について報告していた。

 

「どうにも彼は、事件に巻き込まれやすい体質のようだな」

 

アレイスターの声が空間に響く。

 

「確かに、敵と引かれ合ってるみたいだにゃー」

 

土御門は笑いながら同意する。

 

翔はそろそろ新しい敵が来るよな、だとか適当に考えているが、このペースで敵が来るのは異常だった。

 

そのことを理解していないのは本人だけだ。

 

「俺も、詳しい流れは知らないんだけどな。もう1人の監視者と違って、俺には便利な能力は使えないからな。そこらへんは、アンタの方が分かってるんじゃないのか? いや、そもそも、俺なんかの報告を聞かなくても、この島の出来事は全部分かってるんじゃあないのか?」

「……」

 

土御門の問いに、アレイスターは答えない。答える義務が無い。土御門も答えが返ってくるとは思っていなかった。

 

「それよりも」

「なんだ?」

 

話が変わる。

 

「君にも話は通っていると思うが、禁書目録の移動日程が決まったそうだな」

「……ああ。1週間後だな。よりにもよってこの日程とは、向こうは向こうで何を考えているんだか」

 

アレイスターは楽しそうに、土御門は渋面になる。

 

「君には仕事が無いのかな?」

「禁書目録の移送は六課も関わってるからな。俺のことが夜月 翔にバレる可能性もあるし、緊急事態にならなければ待機だ」

「緊急事態にならなければ、か。私も、無事に終わることを祈っているよ」

 

アレイスターは含みのある言い方をする。

 

そのセリフに、そこはかとない不安を覚える土御門だった。

 

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