《失態だな、ザスティン》
「面目次第もございません……」
ザスティン達、ララ王女の親衛隊の全メンバーは映像に映る相手に跪いていた。画面の向こう、王座でふんぞり返るのはデビルーク王、ギド。
今回の襲撃の報告を聞き、怒り心頭だった。
《そっちに行って1週間。ララを狙う敵が来るってのは分かる。プロなら情報を揃えて行動を起こすには十分な時間だからな》
ギドの言葉に、ザスティン達は頭を下げたまま動かない。今回自分たちが、下手すれば処刑されてもおかしくないほどの失態を犯したのだ。どんな言葉でも、どんな罰でも文句は言えない。
《だがな、肝心の親衛隊が揃いも揃って動けないってのはどういう事なんだ? 有事に動けない兵に何の意味がある?》
「おっしゃる通りです……」
ザスティンは額を地面にこすりつける勢いだ。デビルークにはその文化は無いが、ジャパニーズ土下座寸前である。
だがギドも、すでに終わってしまったことについてこれ以上言うつもりは無かった。そんなことをしても無駄だからだ。
ザスティン達がこれ以上なく反省しているのは、態度を見ればわかる。ギドの言いたいことも、言わずとも分かっている。
ギドはため息を吐きつつ、話を変えた。
《ふぅ……それで、ララはどうしてる? 怖くなって帰りたいって言いだしたか?》
「……いえ、それが……」
《―――あ?》
ザスティンは、この報告で一番、重くなった口を開いた。
―――――――――――――――――――――
「はー……」
俺のため息がお風呂の湯気の中に消えていく。
様々な処理を済ませ、ようやく家に帰ってこれた。夕食も済ませて、今はお風呂の時間だ。
「久々に色々とあったな、今日は……」
色々と言っても、事件は1つだけど。でも結果的に特に怪我人も出なくてよかった。スタンド使いが死んでしまって、情報を引き出せなくなったことは心残りだけど。
「あいつはあの時、『俺達』って言ってた。間違いなく集団なんだ」
今日はあれ以降襲撃は無かったけど、夜、みんなの警戒が緩んだところで襲ってくる算段かもしれない。
今はデビルーク親衛隊に守られているんだけど、なんか、親衛隊は親衛隊でごたごたしてるっぽい。少し不安だ。
スタンドは初見殺し性能が高い。仕組みを知っていれば、今日のアクアネックレスの様に対処できるかもしれないが、そうでなければ完封されるかもしれない。
スタンド使いに対しては、知識のある俺が近くにいることが一番だ。
「スタンドのルール、か……」
綺凛のことを思い出す。
スタンドのルールを知らなかった綺凛は、今回人質にされてしまった。そのことを、本人はかなり気にしていた。
「そろそろみんなに話すべきか……」
俺の恋人や六課の面々、信用できる人にはもう話すべきなのかもしれない。そうすることで防ぐことの出来る被害が増えるはずだ。
「そこんところ、明日にでも……や、風呂あがったらすぐにでもみんなに相談しないと」
独り言を漏らしながら、目を瞑る。10秒ほどそうしていると、
「ん?」
ぽこぽこという音が聞こえて目を開ける。見ると風呂の底から気泡が浮かんできていた。
「え、ナニコレ」
風呂が泡立ってる? 茹ってる? や、温度は変化してないか?
俺は警戒レベルを引き上げる。何が来たんだ? とりあえずみんなと合流するか。
俺は風呂から上がろうと立ち上がって、
「うわっ!?!?」
目の前に強烈な光が発生した。目を開けられず閉じて―――柔らかなナニカに湯船に押し倒された。
「うわ!?」
「わ!!」
2人分の声が重なる。湯船のお湯が増えた体積の分だけ溢れていく。
「や、ば……」
下腹部に血液が集まっていくのが分かる。や、突然何言ってんだって思うかもしれないけど! 実際そうなんだよ!
お湯とはまた違う温かさと、上に乗ったものを押しのけようとしたときに両手に触れた柔らかい2つの物体。それどころか右手には、相手の心臓の鼓動が伝わってくる。そのくらいがっしりと鷲掴みにしている。
俺は恐る恐る目を開ける。
俺を押し倒したナニカの正体は、
「ララ……!?」
ララだった。
学校で別れたはずのララだった。
「あぅ、く、くすぐったいよ、翔」
そのララが、一糸まとわぬ姿で俺の風呂に飛び込んできたのだ。長いまつ毛の本数まで数えられるくらいの至近距離で見つめ合う俺達。ララの顔が赤くなる。
「おまっ、どうして、ここに……?」
「えへへ、私の部屋からぴょんぴょんワープ君でここまで『跳んで』来たんだ~。こうでもしないと、翔の所に行けなかったから」
俺はいまだにララの豊満なおっぱいを鷲掴みにしていたことを思い出し、急いで離した。俺の手による拘束がなくなったことで、ララの体が自由になる。俺から少し離れたララは、お風呂に女の子座りした。
このお風呂にはアニメの有能な湯気効果などついていない。胸の前面半球を覆っていた俺の手がなくなったことで、ララの全身が惜しげもなく晒されていた。
胸の突起どころか、足の付け根にある女の子の部分まで。
そんな俺の視線に気が付いたのか、微笑みながら小首をかしげた。
や、ホントにヤバいよ。
「翔? どうしたの? ソコ、おっきくなって……」
「い、いいから! ララはちょっとここにいてくれ! みんなを呼んでくるから―――」
俺は慌てて湯船から立ち上がった。
その時、外からどたどたと誰かが走ってくる音が聞こえ、
「翔君どうしたの!?」
「先輩! 何かすごい音が―――」
浴室の扉が勢いよく開かれ、アスナと雪菜が飛び込んでくる。
「あ、やっほー! 2人共~」
普通に俺が入ってるんだが!? もうお互いの裸を見せ合ってるんだから、今さら恥ずかしがらないってコト!?
俺の絶叫は声にならず、ララの朗らかな挨拶には答えず、2人の視線がどんどん冷え込んでいく。
2人が見ているのは裸の俺と裸のララ。俺のイチモツはララの豊満な肢体に反応して、すっかりしっかり硬くなってしまっている。そんなものを、立ち上がった俺はララの鼻先に突き出してしまっていた。
そんな状態になっているのを見れば、ナニしようとしているのかと思われても仕方がない。
「雪菜ちゃん、私のレイピア持って来てくれないかな?」
「すいません。今は雪霞狼しか無くて」
「うん。それでもいいんじゃないかな?」
いや、よくないが? 魔力無効化が付いている武器の方が絶対に危ないが?
小気味よい音を立てて、収納状態だった雪霞狼が展開する。槍先が俺に、俺の下腹部に向けられた。
「ちょ待―――!!」
「はあああぁぁぁっ!!」
裂帛の気合とともに、雪菜が突進してきた。
事の結果については、本当に危なかったとだけ言っておこうと思う。
―――――――――――――――――――
何とか落ち着いた。
今はお風呂から上がって、リビングで落ち着いている。当然ララも一緒だ。ペケもいないため、今はアスナの服を着ている。
ザスティンへの連絡は済んでいるので、すぐに迎えに来るはずだ。
「それで、こんな時間にどうしてウチに来たのかしら?」
「しかも、誰の目にも止まらずにお風呂に突撃してるなんて。私も見習いたい」
「しかも、お兄さんが入ってるお風呂に……」
上から、クロ、耀、ティナの順番だ。
というか耀。見習いたいってなんだ。見習いたいって。
「本当に翔君が連れ込んだんじゃないんですよね?」
「いったい何時、そんな隙があったよ。しかも相手は王女様だぞ」
桜の視線もだいぶ厳しい。
「まあ、翔君だしね……」
「はい。先輩なら、二重の意味であり得そうです……」
お風呂に突撃してきたアスナと雪菜もうんうんと頷いていた。
二重の意味であり得そう? みんなに内緒で女の子を連れ込むことと、王女様をこっそり連れてきちゃうこと?
「あはは。みんな、ごめんね。ぴょんぴょんワープ君で部屋からワープしたんだけど、そこまで詳しい座標設定はしてなかったんだ~」
ララは笑いながら、腕輪型のワープ装置、ぴょんぴょんワープ君を指でくるくる回している。
「ぴょんぴょんワープ君……あの時のワープ装置ですか……」
雪菜が夏休みのことを思い出したのか、顔を引きつらせている。ペケのバッテリー切れでララの服が消えかかった時、それを使ってお店に転移したことを思い出しているのだろう。
「それで、入浴中の翔さんの所に転移したと? にわかには信じられませんわね。そんな都合の良い偶然は……」
狂三は頭を押さえている。
「うん! 私もびっくりした!」
「びっくりしたって、ララちゃん、それだけなの……?」
「無駄ですよ、アスナさん。ララさんにはそう言う羞恥心は無いんです……」
雪菜は裸でワープさせられた被害者だからな。セリフに実感がこもってる。
そんなことを話していると、家のチャイムが鳴った。
来たのは当然、
「翔殿、夜分遅くに申し訳ない」
いつもの鎧に身を包んだザスティンだった。部下は家の周りで警護しているらしい。
「腹はもう大丈夫なのか?」
「……ええ、おかげさまで」
苦い顔で肯定してきた。や、別に皮肉じゃないぞ! 単純に心配してのセリフだから! マイナスに捕らえないでね!
リビングに向かうザスティンは、心なしか早足になっている。
「あ、ザスティン」
「ララ様!!」
ララの姿を確認したザスティンは心底安心したといった表情を浮かべた。
「困ります、ララ様。このように無断で外出されては。しかも、今日は特に!」
「でも、翔の所だし、大丈夫だよ? 何かあっても守ってくれるし!」
ザスティンの心配はもっともだけど、ララもあっけらかんと言うなぁ。ここまで素直に言われると恥ずかしくなってしまう。
「ずいぶんと信頼されているんですね、先輩は。こんな短期間で」
「きょ、今日の事件があったからね」
雪菜の視線が突き刺さる。や、雪菜だけじゃないな。他のみんなからも見られてるぞ。
その間もララへのお説教は続いている。
「とにかく! 今日の所は我々が寝ずに警備を致します! 家に帰りますよ!」
「えー? 別にいいよ? だって私、翔と―――」
「ララ様!」
え? 俺と? 何、俺と。
ララがぽろりと何か言おうとしたところを、ザスティンが止める。
「それについて、お父様からお話があると」
「パパが?」
なんだか嫌な予感がしてきた。
ザスティンが端末を取り出した。画面を付けると、待機状態になっていた通信画面が起動する。
そこに映っているのは少年のような顔つき、体つきの男性だ。デビルークの特徴的な尻尾が、苛立たしげに揺れている。
ララの父親、ギド・ルシオン・デビルークだ。
「これはリアルで繋がってるんですよね?」
「ああ、そうだ。貴様も言動と振る舞いには気を付けろ。こちらの映像も向こうに繋がっているぞ」
「いー……」
ザスティンに聞くと重々しく頷かれた。
《おう、ララ。話は聞いたが……お前、本気か?》
周りの人間の事なんて関係ないとばかりに、ギドは話を始めた。流石、デビルークの王だよ。
そしてそれは、ララも同じだ。
「うん、本気だよ」
ララは立ち上がり、俺の近くに来た。
「私―――」
俺の腕に抱きついて、
「―――翔と結婚するから!!」
「「「「……」」」」
「はぁ……」
固まる俺達とため息を吐くザスティン。
それに対するギドの反応は、
《ふーん、いいんじゃねーか?》
「投げやりか!!」
気の抜けたような肯定だった。
《あぁ? 別にいいんだよ。もともとこの留学は、コイツの結婚相手を探すためにやったことなんだ。相手が見つかったんなら何も言う事はねぇよ。ダメって言ったところで、コイツは聞かねぇからな》
それは! ……まあ、そうか。そうだな。納得しかできない。
《それに》
ギドが口角を上げる。
《誘拐犯のクソ野郎に言ったセリフ。なかなか気合が入ったヤツだって分かったからな。面白れぇ。少しだけ気に入ったぜ、夜月 翔》
あ、あの時のセリフ!? 何で知ってるでしょうか!?
「あの時の状況については、ペケの記録から全て閲覧済みだ。当然、王にも」
「さ、さいですか……」
じゃああの時の宣言も全部聞かれてるって訳か。もちろん全部本心だったとはいえ、親御さんに聞かれるのは恥ずかしいですね!
《サイ? まあいい。そういう訳だ、ザスティン。今日からこいつのことは、ララの婚約者として扱え》
「はっ!!」
ザスティンは映像に向かってきれいな敬礼をしているが、
「ちょ、ちょっと待って下さい!!」
何の意見も言えないまま、婚約者になってしまうのはヤバい。
《なんだ。なんか質問があんのか?》
「こんな突然言われて、疑問を持たない人の方が珍しいと思いますけどね!?」
《心配すんな。今すぐにこっちに来い、なんて言うつもりはねぇ。娘留学に出して1週間で戻す、なんて格好がつかねぇからな。最低でもララの卒業までは、その島で生活してもらうぜ。あんな啖呵きったんだ。その間もしっかりと面倒を見てもらう。王としての勉強はそれからだな》
「そうですね。政治については、王妃に任せるとして」
《だな。俺も、ややこしいことはアイツに任せてるからな。他の国への公表は、色々と準備が整ってからだな》
ギドとザスティンが俺を王様にする育成計画を立てているけど、いやいや! そう言う事ではなくてですね!!
「あの、拒否権というか、俺の意思というものは……」
《あぁ? なんだお前、ララと結婚すんのが嫌だってことか?》
「何……?」
2人の視線が鋭くなる。
「嫌だ、って訳、でも……?」
「翔君?」
「主様、はっきりされた方がよいかと」
桜からガチの黒いオーラが漏れている。怒りのオーラとかではなく、マジの魔術的なオーラだ。
そしてコッコロもご立腹。顔は澄ましているが、口調がぶっきらぼうだ。
それだけではない。口には出さないが、みんなに全方位から睨まれている。
《おい。はっきり言えよ。どうなんだ》
わかったよ。頭が冷えたよ。はっきりと言うことにしよう。
俺が口を開こうとしたその時、
《ギド、あまりイジめてはいけませんよ》
《お前……》
別の人物が通信に割り込んできた。ヴェールで顔を隠した女性に、ギドもたじろいでいる。
「王妃……!」
「あ、ママだ!」
ザスティンとララが反応している。
通信に割り込んできたのは、デビルーク家の王妃、『セフィ・ミカエラ・デビルーク』だった。
久しぶりに活動報告の方にキャラクター紹介を追加しました。
興味のある方はどうぞ。