禁書目録輸送ミーティング
「ここここここ婚約? ええっ!!?? 翔が!? ウソ!? え、ホント!? ホントに!? ど、どど、どういうこと?!」
「おやおや、これはこれは……」
「フェイトちゃん……」
「「……はぁ」」
「分かりやすくて、これはこれで」
これ以上なく狼狽するフェイトさん。
八神さんがニヤニヤと笑い、なのはさんも何とも言えない表情になっている。
後ろからは2人分のため息と、耀の楽しそうな声が聞こえて来た。
「……詳しく説明しますね」
フェイトさんにも同じことを説明した。
「は、はぁ~、なんだ、そうだったんだね。良かった~」
……良かった?
「翔君、ホントにいい加減にしたほうがいいと思いますよ? 見境なしなんですか?」
後ろから桜の冷たい声が聞こえてくる。
い、いや、そんなことを言われましても……
「はいはい! フェイトちゃんがこれ以上墓穴掘る前に、翔君は今度の移送について、ミーティングがあるからミーティングルームに行って。他の人は先に訓練場に向かってね。ララさんは……フェイトちゃん、時間あったら見ててくれないかな?」
「なのは? それはいいけど、墓穴って?」
まあまあ、とフェイトさんの肩を押して進んでいく。不満そうな顔をしたみんなも、この場では怒気を収めて訓練場の方向へ。俺はなのはさんと一緒にミーティングルームに。
俺達はそれぞれの場所に分かれるのだった。
―――――――――――――――――――――――
みんなと別れた俺は、六課のミーティングルームに来ていた。
「それじゃあ、当日の予定について説明するぞ」
前に立つのは蛇倉さん。部隊長は別の仕事に向かったのだ。
席についているのは俺、なのはさん、スバルさん、ティアナさん、蛇倉さんだ。
「今回はイギリス清教の重鎮、と言っていいのかわからんが、必要悪の教会では『禁書目録』と呼ばれている、『ナニカ』の輸送についてだな」
蛇倉さんが口を開く。
「ナニカって、何かはわからないんですか?」
早速スバルさんが手を挙げて質問している。
「イギリス清教の秘密兵器、魔導書図書館、色々な呼び方をされてる有名な一品だが、詳しいことはあまり知られてねぇな。名前のまま禁書の目録なのか、武器なのか、あるいはそういう能力を持つ人間なのか」
「ただ、魔術に対して最強に近い対抗力を持っている。というところはすべての噂に共通してるわね」
蛇倉さんの説明をティアナさんが補足した。
「つまり、イギリス清教の虎の子だ。そいつが国を離れて輸送されてくる。どこかの誰かに狙われてもおかしくないよな?」
「た、確かに!」
スバルさんが素直に頷いている。
狙われてもおかしくないんじゃなくて狙われるんだよ。もうそこは諦めないと。俺とネームドキャラクターが揃う出来事では何か起こる。
俺のある所に事件アリ。こう考えると、俺って死神ですか?
「ただ、極秘の輸送だから警備の人数は最小限。それは俺たちもそうだが。向こうは腕利きの魔術師を2人つけるらしい」
「2人……本当に最小限ですね……」
「ああ。次のページに行ってくれ」
言われた通りページをめくると、2人分のプロフィールが載っていた。顔写真付きで、簡単な経歴もまとめられている。ざっと目を通してみるが……うん、予想通りの2人組だ。安心したぜ。
「これがその魔術師だ」
「うわぁ……」
「えぇ……」
スバルさんとなのはさんが若干引いた反応をしている。この写真を見れば無理もないけど。
1人は男性。漆黒の修道服に赤く染め上げられた髪。10本の指すべてにゴテゴテとした銀の指輪が嵌められ、両耳にジャラジャラと提げた毒々しいピアスがたくさん。極めつけに右まぶたの下のバーコードのようなタトゥー。
もう1人は女性。比較的普通の服装だ。髪型も黒髪をポニーテールだし。ただ、Tシャツをへそが見えるように裾結びして、履いているジーンズの裾を片方、根元までぶった切ってるくらいで。
見かけで差別はしたくないが、何も知らずに街で見かけたら、絶対にお近づきになりたくない風貌をしている。
おなじみ、ステイル=マグヌスと神裂 火織だ。インデックス絡みでこの2人が出てこないと逆に不安になるからな。
「す、すごいですね、魔術師の人って……」
「そうだね……」
「あ、そっか。救助隊と教導隊だと、あんまり魔術師と会う機会はないのか」
唯一ティアナさんは、2人の格好を見ても驚いていなかった。
「捜査してるとね。割と見ることがあるのよ、魔術師」
執務官であるティアナさん、それからフェイトさんは凶悪犯罪を担当することが多い。各地で様々な捜査を行っているのなら、そういった経験が豊富でもおかしくはない。
「最初は私も驚いたけどね。こういうのって、魔術的な意味? があるらしくて。向こうにとっては普通の恰好なんだって」
「ふーん。アタシ達のBJみたいなものなんだね」
そう言えば、スバルさんのBJもへそ出しのローラースケートだもんな。あの格好だって、相当ヤバい。BJに違和感ないのは、単純にBJを着用している人が周りにたくさんいるからだ。
「そうだね! 変な格好だって思っても何も言わないようにするね!」
「アンタ……絶対に言うんじゃないわよ……」
ティアナさんは怖い顔で念押ししている。
「奴さんはプライベートジェットでこっちに来ることになっている。民間機じゃない。乗っているのは禁書目録と向こうの魔術師が1人。ステイルって奴が乗ってるな。もう1人は空港で待機する手はずになってる」
蛇倉さんの説明を頭の中で嚙み砕く。
つまり空港にいるのは神裂か。飛行機に乗ってるのはインデックスとステイル……あれ?
「パイロットは乗ってないんですか?」
「乗ってないな。AI制御のオートパイロットだ」
俺の質問に蛇倉さんは資料をめくって答えた。
「多分、情報の秘匿のために、輸送に関わる人数も最小限にしてるんだね」
「高町さんの言う通りかと。だが、機械制御にすると、それはそれで弱点ができる」
ハッキングされたりってことか。
「そうだな。AI制御の機械で専門家が乗ってないってのは、それだけ電子的な攻撃に対して無防備だってことになる。同乗してるっつー魔術師が、スーパーハッカーだっていうなら話は別だけどな」
「それはもう、機械が苦手とか、苦手じゃないとか、そういう次元じゃないですよね……」
魔術師はなぜだかは知らないが、機械の類が苦手という人が多い。中にはそうじゃない人もいるかもしれないが、ハッキングを防げるレベルでPCに強い人はいないだろう。
最悪、コントロールを乗っ取られれば、墜落の危険もある。
「しかも面倒なのは……これだ」
ディスプレイが操作され、学園島の全体図が映し出される。島を一直線に横断する形で線が引かれている。
「立地的な条件で、こうして島の上空を飛ぶようなルートになってる。島に墜落したら一大事だな」
「えー!? ぐるっと海の方を飛んでもらうことはできないんですか!?」
スバルさんが指でディスプレイをなぞる。島の外の海上を飛ぶような形に。
「他の便との兼ね合いで出来ないな。せっかくこっそり運んでるのに、通常便の予定を変えちまったら、そこに何かありますよって言ってるようなもんだろ?」
「それはっ、そうですけど……」
人命が危険にさらされることが、スバルさんには我慢できないらしい。
「それに市民さまが安心して暮らせるように、俺たちが仕事をするんだ。そうだろ?」
「……はい。そうですよね!! 頑張ります!!」
むん! とやる気を込めるスバルさん。蛇倉さん、スバルさんを乗せるのがうまいもんだ。
「よし! つー訳でスバルとティアナは空港待機だ。不審者の捕縛、飛行機にトラブルがあった場合の対処、その他諸々だ」
「「はいっ!!」」
2人が声を揃えて応える。
「そして翔となのはさんだが、2人は六課で待機。主に空戦を想定している」
「飛行機に何かあったら飛んで行けってことですね?」
「そうだ。どちらのチームも臨機応変に対応してくれ」
『何が』起こるのかわからないからな。だが『何か』は起こるという勘がある。悲しいことに、この勘は当たってしまうことになりそうだ。
「なのはさん、よろしくお願いします」
「うん。こちらこそ。後ろは任せてね」
「……俺には当てないで下さいよ?」
「にゃはは。そうならないように、しっかり連携訓練しておかないとね?」
そういう形で、打ち合わせが終了するのだった。
―――――――――――――――――――――――
翔が打ち合わせに出席している頃、ララとフェイトは食堂の中でくつろいでいた。
最初のうちはお行儀よく待っていたララだったが、今では暇を持て余してしまっていた。
「あー……翔まだかなぁ。何にもすることがなくて暇だよ~」
「あはは、でも打ち合わせが終わったらそのまま訓練だから。しばらくは一緒にいれないと思うよ?」
「頑張ってる翔の姿は見たいから大丈夫!!」
「そ、そっか……」
キラキラとした笑顔に
フェイトは慎重に口を開いた。
「ね、ララさん? 翔と、こ、婚約? したいっていうのは、どうなの、かな?」
「え? どうって?」
「どうっていうのは、その……」
フェイトも自分の中の考えをうまく言葉にできないでいた。出て来たのはありきたりな質問だった。
「翔の事、好きなのかなって」
口に出しただけで、恥ずかしさで顔が熱くなる。そんな問いに、ララはあっけらかんと答えた。
「あ~、それね~」
フェイトはララから昨日の事件のあらましを聞いた。フェイトも昨日ララの誘拐未遂が起きたのは知っていたが、その場でどのような言葉が交わされたのかは、初めて知ることになった。
「それでね。その時から翔のことを見るとドキドキするようになっちゃって。結婚するなら翔しかいないって思ったんだ」
「そうなんだ。翔らしいね」
ニコニコと語るその態度を見れば、経験の無いフェイトでもわかってしまう。
ララが翔に恋してしまっていることが。
「(そうだよね。そんなこと言われちゃったら、王女様が婚約者にしたいって思うのもしょうがないかも)」
「翔って他の人にもああいう事言ってるのかなぁ?」
「そうだね……結構色々な人に言ってると思うよ」
フェイトがぱっと思いつくだけでも、その数は片手では足りないくらいだ。周りにいる女の子全員がそうだとすると、10数人規模だ。
「そっかぁ、じゃあ他にも翔と結婚したいって思ってる人いるかもしれないね」
「そ、そうだね……」
結婚まで考えている人が何人居るのかは分からないが、少なくとも翔のことが好きだと言う人には何人も心当たりがある。
「じゃあ翔は、その人達の誰かと結婚したいって思ってるのかな?」
「ど、どうなんだろうね? 翔もまだ高校生だし、あんまり結婚とか考えてないんじゃないかな?」
「かなー……」
王族である自分と一般市民の価値観の違いに、まだララは慣れていない。
「でもやっぱり、このドキドキって翔のことが好きってことだよね」
「それは……」
フェイトは頷けなかった。だがそれは、経験がない自分が無責任なことは言えないと思ったからであり、心の中では理解している。
「でも、これが好きって事だったらうれしいな」
「え?」
「だって昨日から、ドキドキするようになってから、ずっと楽しいんだもん。翔といろんな楽しいコトして、翔も私にドキドキしてくれるようになったら、すごくうれしいなって」
「(ま、まぶしい!! うう、こんなことなら、私も学生時代にもっと経験しておけばよかったかなぁ……)」
仕事や執務官試験の勉強に明け暮れた自らの青春時代を思い出し、少しだけブルーになるフェイト。そんなフェイトにララは問いかけた。
「フェイトにはそういう経験ないの? 誰かのことを考えて、ドキドキすることって」
「ううん、私には―――」
否定しようとして、
「(……あれ?)」
重要なことに気が付く。
「(私も、翔と会う時にドキドキしてる……?)」
どきん、と心臓が跳ねた。
多い。恋を恋と自覚出来ていないララと、自分と共通点が。
「(つ、まり? 私……私も、翔のことが、好―――)」
その結論に到達する直前、フェイトの思考が正体不明の感情で沸騰する。
「(いやいやいや! ないよね! だって翔だし!! ヴィヴィオのお友達のお兄さんで、今は一緒に働く同僚ってだけなんだし!! そうだよ! 大体、年だって結構離れてるし!! エ、エリオと同じくらいなんだよ? そんな相手に、そんな……)」
いくら言い訳を重ねてても、心臓の鼓動はどんどん早くなっていく。
その様子に気が付いたララが、心配そうに首を傾げた。
「どーしたの? 顔、真っ赤になってるよ?」
「へっ!? あ、そ、そっかなぁ? あはは~……た、確かに暑いかも~!? 汗までかいてきちゃったっ」
少し胸元を上げて、手で顔を扇ぐ。だがそんなものでは、火照った顔は全く冷やされない。むしろ他人に指摘されたことで汗までかいてきた。
「ホントにへーき?」
「うん! 大丈夫だから気にしないで!!」
「そっか。それで、フェイトは経験ある?」
ララは改めて問いかける。
「そ、そうだね……学生時代は全然、そんなことなかったよ? あっ」
「そっかー、そうなんだね」
「あ、うん。そうだよ……ほっ」
思わず『学生時代は』という言葉をつけてしまったことに焦ったフェイト。ララが細かい言葉尻をつつかない性格だったから助かっていた。
一安心したフェイトだったが、
「あっ、翔だ!」
「ッ!!??!?」
再びフェイトの心臓が飛び跳ねる。
「そっ、それじゃあ、翔も来たし私は行くね!!」
「え? うん、それじゃあね~」
急に立ち上がったことで、床と椅子が擦れ不快な音をたてたが、そんなことを気にしてはいられない。
「あ、フェイトさ―――」
「ごめん翔っ、これから仕事があるから!!」
返答を聞かず、逃げるように隣を通り過ぎた。爆発しそうになる心臓を押さえながら。