マミは逃げるようにして、実際離れるように指示があったのだが、そうして翔と離れた後、まどか達と合流していた。
落ち着いたのはマミの自室だった。1人暮らしであるため、5人で入るとかなり狭く感じるが、いまさら学校に戻る気はしない。それにこの部屋なら、マミが淹れる紅茶が飲み放題だ。
「飲み放題って言えるほど出せるかはわからないけどね」
苦笑いしながら、マミは人数分の紅茶を用意した。おまけにお茶菓子のケーキも。
「オメーの家は、いつ来ても人数分のケーキが出てくんな。どうなってんだ?」
杏子はそう言いつつも、さっそくフォークでケーキをつついていた。
実は杏子の部屋はマミの部屋の隣だった。一見合わなそうなこの2人が親しい関係にあるのは、その部分が大きい。
「ちょうどよく買ってあって」
「だとすれば、すごい確率ですよね……?」
マミの家に上がったことはこれまでにも何度かあったが、別に定期的に集まっているわけではない。そのすべてでばっちりケーキセットはふるまわれていた。偶然ならすごい確率である。
「それにしても、学校さぼってこんなことしてるなんて、すごい不思議な気分です……」
「そうだよね。すごい悪いことしてる気分……」
「まったく、ほむらもまどかも、いい加減慣れなって! それ以上のでっかい収穫があったんだからさ!」
いまだにくよくよしている2人を叱り飛ばすように励ますさやか。
全員が紅茶を飲んだところで、さやかが爆発した。
「にしても、堂々と浮気宣言するってどうなのっ!?」
「アタシはむしろ好感が持てたけどな。ぐちぐち言い訳するよりは全然マシだろ」
「そんなの、開き直ってただけじゃん!!」
一番盛り上がっているのはやはりさやかだ。その相方として杏子が付き合う。
2人の意見は真っ向から対立していた。だがその熱量には大きな差があった。これは、そもそも杏子が翔に対してそこまで目くじらを立てていないことが大きい。
さやかの興奮を受け流す杏子。そんないつもの図式を見ながら、まどかはマミに話を振った。
「マミさんはどうでしたか? 実際に話してみて」
「え、う、うーん……」
さやか達に操作されていたとはいえ、実際に顔を合わせて話をしたのはマミだ。その経験には言葉以上のものが詰まっているはず。
しばらく唸っていたマミだったが、
「正直、そんなに話してたわけじゃないから……」
「あっ、そうですよね……」
予想以上に翔が割り切りのいい返答をしたので、考えていた質問がいろいろと無駄になり、さらに予想よりも早く引き上げることになった。マミを責めることはできない。
「……でも、悪い人には見えなかった、かな? 真剣だったと思う」
「真剣、ですか?」
「うん。言ってることがすごくて、さっきは怖いなって思ったけど、怖いって思ったのは、真面目にその人たちのこと考えてるからなんじゃないかなって。だからそのくらい本気っていうか……うーん、何だろう……ごめんね? うまく言葉にできなくて」
だがマミには、翔が悪い人に見えなかった。少なくとも、自分の欲望のままに女の子を扱うような人間には見えなかったのだ。
衝撃的な事実を聞いたというだけで、マミは翔へ悪い感情は抱いていなかった。
「ああ、マミさんまであの男の毒牙に……」
「毒牙って、美樹さん、あのね……」
さやかが絶望的な気分になって俯く。
「や、常識で考えて下さいよ。いくら真面目で、誠実な人だって現代倫理に反することはまずいですよ! そんな相手に、友達が―――雪菜が何かされてるかもしれないんですよ!!」
「それは……そうだよね」
まどかが深刻な顔で頷いた。
むしろ複数の女性と付き合っていると堂々と宣言するのは、真面目で誠実な人間がやることではない。狂人のすることだ。
騙されてはいけない。そうさやかが言っている
「真面目ね……だったら、その真面目な精神ってやつをもっと直接的に試せばいいんじゃないか?」
「ぐ、具体的にはどうするんですか?」
フォークを咥えた杏子にほむらが遠慮がちに問いかける。
「だから、具体的に行動してもらうんだよ。聞いた話によれば、ソイツは相当の女好きなんだろ? そんな奴が、チャンスを逃すはずがねぇ」
「どういうこと? 何が言いたいのさ、杏子!」
「焦んなって、さやか」
杏子はもったいぶって続けた。
「つまり、向こうが手を出したくなるような状況にして、実際に手を出してくるのかを試せばいい」
「佐倉さん、まさかあなた……」
マミが何かを察したようだ。
「そうだな……次は喫茶店じゃなくて、部屋に上げよう」
「「ええっ!?」」
まどかとほむらの絶叫も気にせず杏子は続ける。
「それで……あー……ま、なんかすれば誘惑できんだろ。真面目で付き合ってる雪菜のことを大切にしてるなら、そんな誘惑にも負けないはずだよな?」
それは恐ろしい、まさにハニートラップというにふさわしいトラップだった。
「なるほど……それだったら、少し安心できるけど……」
「いえいえいえ、ちょっと待ってね?」
その提案にマミが待ったをかける。
「それってつまり、この部屋に上げるってこと?」
「そーなんじゃねーのか?」
「流石にそれはちょっと……」
マミが苦い顔をする。
部屋に上げるという事は住所を知られるという事だ。友達とは言え、あまり知らない男を部屋に上げるのは躊躇してしまう。
「だよね……流石に自分の部屋に上げるのは……」
いままでイケイケだったさやかも、杏子の意見には賛成出来なかった。
「そうか? だったらアタシの部屋でもいいぜ」
隣だからな、と言いながら親指で壁の方を指さした。その先に壁を隔ててあるのは杏子の部屋だ。
「それも駄目です」
マミはきっぱりと否定した。
「ええ? じゃあ、カラオケでも何でもいいんじゃねぇか? 誘う理由がムズイけどな」
「そうじゃなくて! そんな、誘惑する作戦とか、誰であっても許可できません! もしものことがあったら危ないでしょ!」
先輩として絶対にダメだと言う姿勢を崩さない。
「大丈夫だって、もしもアタシを襲って来ようとしたら蹴り飛ばしてやるって」
杏子の実力でそんなことが出来るのかはさておき、躊躇はしないだろう。けらけら笑ってケーキを口の中に放り込んだ。
「とりあえず、このことについて雪菜に聞いてみるってことでいいですよね?」
「そうね。少なくとも、佐倉さんの意見を採用するよりはね」
さやかとマミが締め、翔の話題は終了になるのだった。
―――――――――――――――――――――――
裏路地に引き込まれた俺は、狂三と向き合っていた。
「それで狂三。何でここにいるんだ? ララに何かあったのか?」
ララの面倒は見ているから翔は休んでくれと言われてたんだけど、何でこんな場所にいるんだ? しかもこんな強引に路地裏に引き込んだりして。緊急事態なんだろうか。
「いえ、違いますわ。ララさんはわたくしがしっかりと面倒を見ているはずです」
「わたくし……分身体か? や、お前の方が分身体だな?」
「きひ、ええ、流石は翔さんですわ」
だとすれば、
「え、じゃあ何?」
ホントに分かんないぞ? 何の用でここに来たんだ?
「ひどいですわ。何の用も無ければ、翔さんの所に来てはいけませんの? わたくし、だた翔さんと一緒に帰りたいと思っただけですのに……」
よよよ、と狂三は泣きマネをしているが、
「だとすれば分身じゃなくて本人が来るだろ」
わざわざ分身を送りつける意味が無い。
「それもそうですわね」
一瞬で泣きマネをやめる狂三。彼女の瞳には一滴の涙もなかった。完全にふざけてたんだな。
「はぁ、それで、どうしてここに来たんだ?」
「来た、というには少し語弊がありますわね。わたくしはずっと翔さんと一緒にいましたから」
「は?」
ちょっと意味が分からない。や、可能性はあるか?
「俺の影に潜んでたってことか?」
「そういうことですわ」
「どうしてそんなことを……」
「緊急連絡用、ですわ。わたくし、翔さんに変わって王女様を預かる身ですから。何かあっても対応できるようにするのは当然だとは思いませんか?」
「それも、そうか」
あんな楽観的な性格なララだけど、誘拐未遂がされるくらいには王族なんだよな。メインの護衛になっている俺への連絡手段を作っておくのは当然か。
何も言っておかなかった俺の方が迂闊だったな。
「いえいえ、翔さんは抱えているお仕事はたくさんありますから。その程度の気遣い、わたくしがして当然ですわ」
狂三は優しく微笑んでいた。
なんて優しい笑みだ。時折見せる邪悪な笑みがまるで幻のようだ。
と、ここで気が付いた。
「なあ、狂三」
「なんですの?」
「なんで俺に言ってないんだ? その、俺の影に分身を忍ばせておくってことを。緊急連絡用なんだよな?」
「……」
せっかくの用意も知らせてくれないと活用できないぞ? そんな単純なことを狂三が忘れるとは思えないし。
「それは……」
「それは?」
狂三が俺に一歩近づいた。
「もう1つの理由があったからですわ」
「も、もう1つ?」
一気に距離が短くなった狂三の顔に、少しだけドキッとする。そう言う場面じゃないとわかっていても、左右で色の違う狂三の瞳で見つめられると緊張してしまう。
一歩後ろに下がろうとすると、そこは建物の壁だ。
「ええ、翔さんの監視、という重大な任務ですわ」
「か、監視?」
予想外の理由だった。そんな、監視されるようなことはしてないぞ。
「あらあら、ご自分が何をなさっているのか、まったく理解されていないようですわね」
「な、何を?」
「ええ。行く先々で女性と知り合い、体を重ねている。あなたの恋人として、あなたがどのような生活を送っているのか、気になるのは当然のことではありませんか?」
そりゃまあ、そうだけど。
「ですのでわたくし、翔さんがどんな生活をしているのかこっそりと調べようと思ったんですの。正確には私の本体が、ですけれど」
わたくしも賛成でしたわ、と狂三が言う。
「ララさんが来てからの翔さんの生活の一部始終は、全て見させていただきましたわ」
「す、全て?」
「ええ、全て。ずいぶんと楽しい学校生活を送っているようですわね?」
「お、おう……」
そう言われて、この1週間余りの生活について思い出してみる。
「後輩の綺凛さんを送ったと思えば、綺凛さんのお宅でシましたわね?」
「うっ」
「その次の日には学校で、あろうことかメアさんとするなんて」
「おぅっ」
「婚約者候補になってからはララさんと同衾したり、シャワー上がりのララさんと遭遇したり……これではララさんと『いたす』のも時間の問題でしょうか?」
「うぐぐ……っ」
本当に全部見られていたんだ。
ララと『いたす』云々についてはまったく予定は無いが、他については紛れもない事実。事実を指摘され、俺は目を反らしてしまう。
だが、
「目を反らさないで下さいまし」
狂三の手に顔を挟まれ、無理矢理正面を向かされた。
そして、
「ん」
「んんっ!?」
口づけをされた。
軽く唇が触れる程度の軽いものだったが、明らかに事故ではなく狂三の意思で行われたキスだった。
「お、お前……」
「好きな方が他の女性と性行為を行う現場をずっと、黙って見せられていたんです。このくらいは許されてもいいでしょう?」
そりゃ、そうだけど。問題はそこじゃない。
「……? あらあら……」
狂三にも気づかれたようだ。
「あれだけでこんなになってしまうなんて、翔さんは本当に……」
「仕方ないだろ……」
くすくすと笑う狂三。
それは、あんな軽いキスだけで硬くなってしまった俺の息子だった。
俺はあのララにずっとくっつかれてるんだぞ。それでも何もしていない俺の理性を褒めて欲しい。その分『溜まって』しまうのは仕方ない。
「ええ、ええ。そうですわね。あんな風にずっとララさんとくっついていれば、そうなってしまいますわ。むしろよく我慢出来ていますわね。無知なララ王女になら、口八丁でなんでもさせられるでしょうに」
んなことしたら、結婚コースまっしぐらだよ。同衾程度ならまだしも、その先に行ったら終わりだ。
「そうですわね。このままデビルークに行ってしまわれたら、わたくし達とは離れ離れになってしまいますもの。では、どうされますか? このまま帰れますか?」
「や、帰るだろ……」
他にどうしろってんだ。しばらく静かにしていれば収まるはずだ。って、まさか。
「はい。良ければわたくしが鎮めて差し下げようかと」
「ここでか?」
「ここにはめったに人も来ない場所ですし、翔さんには『行為中』に気配を消す能力がありますよね? ……一応、わたくしにも羞恥心はあるので、ここでは手と口だけで、にして頂きたいのですが……」
蠱惑的に耳元で囁いてくる狂三。見つからないと言われると、理性の壁が崩れてしまう。
「じゃあ……」
「クス。分かりましたわ。それでは、失礼して」
狂三はしゃがんで俺のズボンを下ろした。
「きゃ!? こ、これは立派は……」
しっかりと反り返った俺のペニスが、狂三の鼻先につきつけられた。狂三はおっかなびっくりに手を伸ばす。
「一応、わたくしもこちらでの経験はあまりないので、変なところがあったら教えてくださいまし」
「ああ……っ」
俺のペニスは、そんな前置きなんてどうでもいいから触ってくれと脈打っている。それは俺の気持ちもそうだ。
狂三が鼻を動かす気配があり―――ヌメッとしたものに飲み込まれた。
「うぁ……」
「ぁ、ほっきぃ……」
ゆっくりと狂三の口内に飲み込まれていく。セックスで入れるのとはまた違った感触だ。肉をかき分ける感触ではなく、裏筋をまんべんなく舌で舐め回される。
ペニスが半分ほど飲み込まれたところで、狂三の動きが止まる。これ以上は苦しくて呑み込めないんだろう。
ゆっくりと逆に動き出した。飲み込まれていたペニスがだんだんと外に出てくる。亀頭まで到達すると、狂三はペニスを握り、口を離した。
「いいですか、翔さん?」
「ああ……っ。このまま続けて欲しい」
「はい」
再び狂三にペニスが飲み込まれた。
先ほどと同じようにゆっくり入って、ゆっくり出ていく。狂三は丁寧にしているつもりなのだろうが、俺にとっては刺激が足りない。
正確には『溜まっている』ため刺激は十分だ。だが場所が場所だけに、急いで射精したいと思う気持ちがあった。
そのもどかしさに、自分で動き出したい衝動に駆られる。
「どうされましたか? 自分で腰を振って。わたくしがするので、翔さんはじっとしていてくださいな」
「や、それはそうなんだけどさ。場所もアレだし……」
「そうなんですか? ですが聞いた話だと、オルタさんと外でしたこともあるとか? その時は翔さんから誘ったと伺っていますよ?」
「それ、は……」
話している間も。狂三の手は止まらない。だが、非常に緩慢で。やっぱりもどかしい。
「なるほど、自分が主導権を握るというのは楽しいものですわね……」
「何て?」
「いえ? なんでもありませんわ。わかりました。それでは……」
「う……っ」
何処で覚えたのか精液を作る場所、睾丸を狂三は揉み解し始めた。そこに詰まって固まっている粘性物をほぐし、なるべく多く出させようとでもいうのか。
手で行われていたペニスへの刺激も、フェラに切り替わる。それもさっきのようなゆっくりとした動きではない。リズミカルに、唇を使って絞ろうと動いている。
「おま、え、ホントに初めてか……!?」
その言葉に狂三はむっとしてペニスから口を離す。ペニスへの刺激は手に切り替わる。
「心外ですわ。わたくしが翔さん以外に体を赦すと思っているんですの?」
「わ、わかった。わかったから、そろそろ……!!」
「んっ」
にゅるりと、ペニスの半分まで狂三の口に飲み込まれた。その瞬間、
「うっ!? くっ……!!」
狂三の喉奥に、白濁液を叩きつけた。
びゅるっ!! びゅごるっ、ぶりゅりゅ、ぴゅるっ
「んっ!!?? んん……」
射精した瞬間、狂三が目を見開くが、ペニスから口を離すことなく吐き出されるものをすべて呑み込んでいく。
射精を促すように睾丸が揉み解され、痙攣する竿が狂三の唇によってゆっくりと扱かれる。チンポの途中に引っかかった精液すらも、その優しい刺激に外へ外へと絞られた。
やがて狂三は俺のペニスを開放してくれた。
「たくさん、射精しましたわね……行為の時にもこんなに注がれていると思うと、ドキドキしてしまいますわ……」
全て飲み干した狂三がうっとりとした顔をしていた。
一回出したことで、俺の息子もおとなしくなっていた。
「それでは、帰りましょうか」
「ああ、そうだな……って、影に入るんだな」
「ええ、この服以外はご用意出来ませんので」
確かに霊装のままで動き回ると目立ってしょうが無いな。
「それでは翔さん。いずれまた」
狂三が影に消えていった。
「じゃ、俺も帰るか……」
そう思い、俺は裏路地から出るのだった。