仮眠に行くと言っていた蛇倉―――ジャグラスは、とある人物に呼び出されてビルの屋上に来ていた。
他よりも空に近いこの場所で、先ほどまで行われていた戦闘を見物していたのだ。輸送機に多数のガジェットが襲い掛かるも、2人の管理局員―――高町 なのはと夜月 翔にあっけなく撃退される場面を。
「残念ながら、オタクの企みは失敗したみたいだな」
「そのようだね」
ジャグラスのニヤついた皮肉に、そんなことは最初から分かっていたとばかりに呼び出し相手は応える。
タキシードにシルクハット、顔には笑顔を浮かべた仮面と言うふざけた格好ながら、ジャグラスに負けないくらいの邪悪な雰囲気を持っていた。
「俺からしてみればガッカリだぜ。貴重な睡眠時間を削ってまで来てやったってのによぉ」
「それはすまないことをしたね。最近は忙しいのかい?」
「公務員だからな。お前のおかげでもっと忙しくなりそうだぜ」
「うん? まあそう言う事なら、謝っておくとしよう」
シルクハットの男の謝罪には興味のないジャグラスは帰ろうと背を向ける。
「何処へ行こうというのかな?」
「見世物が終わったんだ。帰るに決まってんだろ―――ん?」
屋上への扉の前に小さな人影がった。黒いドレスを着た少女だ。その赤い目が爛々とジャグラスを捕らえている。
「ただのガキじゃあ、なさそうだな」
「その通りだ」
2人に挟まれる形になったジャグラスからオーラが漏れ始める。戦闘モードに切り替わりつつあるのだ。
「警戒しないでくれ。我々に戦う意思はない」
「じゃあ何だ?」
「提案だよ。我々に協力しないか、ジャグラス・ジャグラー」
その言葉に。
「――――――っぷ」
ジャグラスは腹を抱えて笑った。笑い転げた。
「冗談は休み休み言いなよ。たった今あっけなく計画が失敗したところを見せて『協力しないか?』。くくっ、プレゼンが下手過ぎんだろうが。沈みかけの―――いや、すでに沈んでいる泥船に乗りたい奴なんていねぇっての」
ジャグラスの遠慮のない物言いに、ドレスの少女から凄まじい殺気が噴き出す。
「パパ、コイツ殺していい?」
「よしよし、小比奈。ダメだ」
「ぶー」
シルクハットの声を聞いて殺気を引っ込める少女。
「(まともじゃねぇな、このガキも)」
ジャグラスは内心でため息を吐きつつ、結論を述べる。
「ってことだ。お前の提案に乗るつもりは無い。やりたいなら勝手にやりな。まあ、あんな玩具程度しかないんじゃ、結果は見えているだろうがな」
ガジェット程度では、この島ではボヤ騒ぎ程度しか起こせないだろう。
「やはり協力は出来ないようですね、魔族崩れの夢幻魔人」
背を向けて去ろうとすると、そこには新しい2人組がいた。
「なるほどな。今はおっさんとガキの2人組が流行ってるのか? 俺もガキのペアを見つけるべきかね?」
姿を見せたのは大柄な男性と青い髪に無表情が特徴の少女だった。
大柄な男性は片メガネをかけ、その奥の瞳がジャグラスを冷たく睥睨している。その瞳には隠し切れない憎悪があった。
対して青い髪の少女は何の感情も見せない。電源の切れた人形のように、視線を前に向けているだけだ。
「協力せぬというのならば、この場で切り捨てるまで……!!」
巨大な戦斧を取り出す男。
「その武器……ロタリンギアの殲教師か? 面白れぇ……!!」
ジャグラスも刀を取り出した。
一触即発の空気はすぐに霧散することになる。
「やめた方が良い」
シルクハットの男が間に割り込んだのだ。
「君の敵う相手じゃあない」
「なんだと……!! 私に対して、魔族を前に矛を収めろと!?」
「本命の前に貴重な同胞を失う訳にはいかない。もっとも、そちらのホムンクルスを使えば話は別かもしれないがね」
「……アスタルテを無為に消耗させることこそ愚の骨頂。やむを得ないですね……」
殲教師はしぶしぶ斧を収めた。
「(ホムンクルス、ね……)」
ジャグラスも刀を収めつつアスタルテと呼ばれた少女を―――ホムンクルスを観察する。だが特に情報は得られなかった。
「(別に、そこを調べるのは俺の仕事じゃねぇな)それじゃあ、俺から1つだけアドバイスをしておいてやるよ」
2人が―――シルクハットの男と殲教師が耳を傾ける。
「お前らがこの島でテロを起こそうとするなら、管理局の特務六課が相手になる」
「知っているよ。管理局のエース・オブ・エースを含め、名だたる魔導士が集結している部隊だろう?」
その程度の情報、シルクハットの男は当然調べている。
ジャグラスは無視して続けた。
「だが気を付けるべきは高町なのはでも、フェイト・T・ハラオウンでも、八神はやてでもない」
「ふむ、その面々なら私も知っていますが、それ以上の人物がいるという事でしょうか?」
殲教師はそこまで詳しい訳ではなかったが、今挙げられた3人の名前は聞いたことがあった。
「夜月 翔。この男に気を付けるんだな」
ジャグラスは質問を受け付けず、その場を去った。
「(まあこの程度の小物、夜月 翔が本気を出しゃあ一瞬だろうけどな)」
蛇倉の姿に戻りながら、思うのだった。
―――――――――――――――――――――――
「ふぃ~」
俺はシャワーを止めてタオルを手に取った。軽く体を拭いて脱衣所に向かう。
戦闘から帰還した俺達は戦闘での汗を流すためにシャワーを浴びていたのだ。もちろん一緒に、ではない。
当然シャワーは男女で分かれている。この時間に男性でシャワーを浴びる人なんていないから、完全に俺の貸し切り状態だ。そもそもこの部隊は男性が少ないから一緒になることもまれだけどね。わざわざここでシャワーを浴びる人なんて、それこそ訓練後のエリオくらいだし。
まあ、そこまで豪華な設備ってわけでもないけどな。普通だよ。普通のシャワーだ。仕切りに遮られた、立って浴びるタイプのシャワー。それが4つ並んでいる。
脱衣所には市民プールのような青いロッカーが4つほど積み上げられている。
そのうちの一つに、手首に巻いていたカギを差し込んで回す。この辺りはアナログだった。
「それにしてもどうしたものか……」
インデックスの輸送は無事に終了した。だが誰が襲撃してきたのかは分からずじまいだし、インデックスともまともに話すことは出来なかった。そして神裂の1週間後という言葉。
色々と気になることがあるが、これ以上ツッコむことが出来ない。なのはさんが回収したガジェットは解析に回しているので、それが唯一の手掛かりだな。
考えながらロッカーに手をかけた。
きぃ、と軋むような音を立ててロッカーが開く。それと、
「ようやく浴び終わったのね」
後ろから声をかけられるのは同時だった。
「っ!? ラ、ラム!? 何やってんだよ!? というかいつ入ってきたんだ!?」
俺は手に持っていたタオルで局部を隠しながら、絶叫した。
入口の扉に寄りかかり、腕を組んでいるラムがこちらをまっすぐ見ていたのだ。
いくら俺でも、不意打ちで裸を見られるというのは恥ずかしさがある。
「うるさいわ。いくら人が少なくなっているとしても、隣には人がいるのよ」
「っ!!」
そ、そうだ。隣ではなのはさんやスバルさんがシャワーを浴びているはずだ。あまりうるさくするとこの状況に気づかれてしまうかも―――
「や、この状況だとお前の方が怒られるだろ」
「ラムは掃除に来て鉢合わせたって言えるわ」
「そう言ってくれれば、俺への誤解も解けそうだな」
「……それもそうね」
ラムはしまったとでも言いたげな顔になる。どれだけ俺を陥れたいんだ。
「じゃあ早く出てってくれ、ドッキリを仕掛けたいのならまた別の方法にしてくれよ」
そう言って俺はロッカーの中から衣服を取り出そうとする。
「や、早く出てくれるとありがたいんだけど」
ドアの前から動こうとしないラム。一体何かと首をひねり―――1つの可能性に思い当たった。
「んっ……」
その考えを裏付けるかのように、ラムは着ているメイド服を脱いだ。『脱ぎだした』ではなく『脱いだ』のだ。
止める隙もなく、メイド服の上下が重力に従って地面に重なり落ちた。
もともとあの扉に立っている時から、服を体に身に着けるための機能―――例えばリボン、ボタン、ファスナーなど―――がすべて取り払われていたのだ。扉の前から動かなかったのは衣服がずり落ちるのを防いでいたからだろう。
後はもう衣服を脱ぎ去るだけ。その状態になっていたからこんなに素早く、俺が抵抗する隙もなくこんなあられもない姿になれたんだ。
「っ」
「何呆けているの? お世辞の一つでも言ったらどうなのかしら」
上下セット、ガーターベルトまで揃えられている白い下着。下着の白とはまた違う白い肌。胸のボリュームはそこまででもないが、全体のバランスの取れた綺麗な体だ。
「まじまじと見ないで。汚らわしい」
「さいですか……」
この状況でも、ラムの毒舌は健在のようだ。
俺は目を反らした。
「や、いいって。そんなことしなくて。前も言ったけど―――」
「前も言ったけど、何もしないで庇護下に入るのは気分が悪いの。その方が私が安心できる」
「……なんでこのタイミングで、俺まだ何もしてないだろ」
「前払いよ。それに、こんなに人がいないタイミングなんてそうそうないんだし。あなたもシャワー浴びてくれたしね。まさかあなた、身体を清めもせずに相手をさせるつもりだったの?」
そもそも相手をしてもらおうと思ってなかったんだよ!!
「はいはい。じゃあさっさとソレ、取りなさい。出来ないでしょ」
ラムが目を細めて俺の下半身のタオルを指さしている。
「今は気分じゃないから―――」
「……そうは見えないけど?」
視線を下に向けると俺の下腹部が見事なテントを張っていた。
「さっさとどけなさい」
「おい……!!」
タオルを引っ張られて、めくりあげ上げられる。
「っ……!?」
ラムが息を呑んでいる。その反応は、パンパンに膨れたペニスを突き付けられた者として当然の反応だった。
「……こんなにしてるんだから、遠慮する必要は無いわ」
だが、あくまで態度を崩さずに俺の前の跪いてきた。
ロッカーに追い詰められる形になっている俺には抵抗の手段が無い。
「んろぉ……」
たっぷりと唾液をまぶした両手で、俺のイチモツに触れてくる。何かで勉強でもしたのだろうか。自分の唾液をローション代わりにしたその手淫は、ペニス全体に抗いがたい刺激を与えてくる。
浮き上がった血管ごと竿をマッサージされれば、あっという間に先走り汁が漏れ、ラムの唾液ローションと混ざり合う。
「シャワー浴びたんじゃないの? すごい匂い……先っぽから出て来たヤツのせい?」
「あ、ぁ。そう、かもな……」
「ふうん」
そう言う間もラムの手は止まらない。だが俺の反応に気分を良くしたのか、手の動きがより大胆になったように感じる。
機械のように規則正しかったものに緩急が付き始めた。さらに追加で、手のひら全体で亀頭を撫でまわすようにして刺激してくる。
するとあっという間だった。
「ラム、そろそろ……!!」
「はいはい」
ラムはそう言ってペニスの先っぽを口に含んだ。
その瞬間。
―――ごびゅっ! じゅぶぶっ、ゆゆびゅっ!!
「んんんっ!? ん……っ」
ラムの口内に白濁液をぶちまけた。ラムは最初は驚いていたようだが、すぐに飲み込み始めた。むしろ吸い付くように俺の精液を飲み込んでいく。
「じゅぶ、じゅるる、じゅぷぷ……っ」
「う、ぉ……っ」
亀頭しか咥えていなかったラムだったが、いつの間にか顔をストロークさせて尿道に残った精液も吸いださんとしていた。
ラムが口を離してくれたのは、一度の射精によって萎えたペニスが、ラムの口内の刺激によって再度勃起する寸前になった時だった。
「ずいぶんたくさん出したわね。他の娘とはご無沙汰だったのかしら」
「全然そんなことはないが」
「ま、ラムはあなたの女性関係なんて興味ないけど……次はどうするの?」
ラムの言う『次』とはつまり、これ以上の行為があるのかという事だ。
「これ以上は、アレだろ」
「別に、私は覚悟できてるけど?」
顔を反らしながら後ろで手を組むラム。身体を前に出すように、差し出すように。耳が赤くなっている。ラムも恥ずかしく思っているんだ。当然だ。男性に向けて体を差し出すなんて行為、恥ずかしくないわけがない。
それに対して俺は、
「や、だから……いいって。これ以上は」
だからといって、そんな気持ちは受け取れない。
「そう。意気地がないのね」
そう言うラムだったが、どこかホッとした様子だった。俺の横を通り過ぎ、洗面台に向かい口をゆすいだ。
地面に脱ぎ捨てられたメイド服を身に着け始める。流石に面倒な構造になっているらしく、俺の方が先に着替えが済んだ。
「別に待たなくていいわ。一緒に出て誰かと鉢合わせしたら面倒だから」
「……それもそうだな」
俺は着替え中のラムを置いてシャワー室を出た。
それから夜勤の勤務時間が終わるまでラムに会うことなく、俺は退勤するのだった。
――――――――――――――――――
「ふわぁ……」
夜勤勤務を終えたラムがあくびをしながら帰り支度をしていた。
そこに、たった今出勤してきたレムが笑顔で近寄って来る。
「姉さま! おはようございます!」
「おはよう、レム」
2人は挨拶を交わして着替えに入る。ラムは着ていたメイド服を脱ぎ、レムはハンガーにかかっているメイド服を着ていく。
衣服が交差する。レムは私服から仕事着に、ラムは仕事着から私服に。
「姉さま、それ……」
「え? ああ……」
ここで働くにあたって、レムとラムは衣服一式を六課のメンバーと買い揃えていた。現代風な衣服や下着類、こまごまとしたものを。
だがその中に、今ラムが身に着けているような下着はなかった。数少ない別行動の時間にこっそりと購入したのは間違いない。
「ええ、ちょっとね」
「素敵です姉さま! やはり姉さまはどんな服を着ていても可愛いです!」
妹の賛美に少しだけ気分が上がるラム。良い気分になって着替えを済ませた。
2人はそろってロッカーを出る。
「お疲れですよね。六課のことはレムに任せて、今日は家でゆっくりと休んで下さい!」
「ありがとう。そうさせてもらうわね」
とは言ったものの、ラムには眠気こそあれそこまでの疲労感があるわけではなかった。それは身体に充足している魔力だ。
翔から取り込んだ魔力のおかげで消耗していた体力が元通りになってしまったのだ。
「(予想以上ね。相手の精から魔力を取り込む行為。これなら六課に『もしも』のことがあっても大丈夫)」
「姉さま? どうかしましたか?」
「いいえ。何でもないわ」
余計なことを考えているとすぐにレムに察知されてしまう。ラムはそれ以降余計な思考を放り出して妹との雑談に集中する。
すると、
「あ、ラムちゃん、レムちゃん」
「「おはようございます、シャマル先生」」
白衣を着たシャマルが顔を出した。
「おはよう。ラムちゃんは今帰り? 夜勤だったものね」
「はい。今日はこれで失礼させていただきます」
「ん、魔力は大丈夫? 帰る前に補給しておこうか?」
ラムの魔力はいつもシャマルが補給していた。1日に1回、出来るだけ満タンにしておくのはシャマルの仕事の1つだ。
「いえ、大丈夫です。昨日はそこまで仕事が無かったので消費しませんでしたから」
ラムは少し嘘をつく。仕事がそこまでなかったのは事実だが、補給の必要が無いのはすでに翔から補給したからだ。
「そうなの? ちょっと見せてね」
そう言ってシャマルはラムの魔力を測定する。
「あら、本当ね。確かにこれだけあればしばらくは大丈夫そう」
「……?」
シャマルは納得していたが、レムはそのことに疑問を覚えた。
「(仕事が無くても1晩起きていればそれなりに消耗するはず……何か別の手段で補給したのでしょうか?)」
レムが疑問に思っても、ラムが話さなかったという事はレムが知る必要が無いことだという事だ。
「それではシャマル先生、失礼します。レム、しっかりね」
「はいっ、姉さま!」
「何かあったらいつでも連絡してね」
ラムの背中をレムは笑顔で見送るのだった。