聖天子様から情報を得た俺は、これからどうしようかと考えていた。
「蛭子 影胤か……」
予想外の人物だった。少なくともインデックスの物語で出てくるとは思っていなかった。ガジェットドローンが出て来たってことは、敵は魔術師以外の可能性があった―――いや、それ以外の可能性の方が高かった、ってことなんだろう。
とは言え手掛かりが無い。ここから走り出して影胤を見つけるのは不可能だ。
「六課とか楯無さんにも伝えるって言ってたし、具体的な捜査は明日からかな……」
きっと六課でも何かしらの対策を講じることになるだろうからな。一人で焦っても仕方がない。
「一人で動くのはやめましょう、ってね。我慢我慢……」
心を落ち着けた。
端末を見ると丁度15時。初等科や中等部の授業が終わるころだ。まだ眠くも無いことだし……
「よし! 今日はみんなの特訓に顔出そうかな」
ちょっと試したいこともあることだし、な!
―――――――――――――――――――――――
「どうもー」
「おっす」
いつもちびっ子たちが特訓を行っている公園に向かうと、ノーヴェさんが手を上げて迎えてくれた。
子供たちの姿はない。みんなはランニングに行っているらしい。
「今日は六課は?」
「お休みです。昨日は忙しかったもので」
「ふーん? そういやスバルの奴もティアナに引っ張られて夜出てたな……」
「ま、そういうことです」
「なるほどね」
いくら身内でも部外者であるノーヴェさんには詳細は話せない。極秘の輸送計画だしな。ノーヴェさんも理解しているようで、それ以上の追及はなかった。
「……」
「何だよ、そんなじっと見て」
逆に俺が気が付いてしまった。
ここに来たのは本当に別の目的だった。それに部外者には話せないこともある。でも今さっき貰った情報は個人的に頂いたものだ。だったら、話してしまってもいいかもしれない。
「……」
「だから何だよ! そんなに見てきて!」
そうだな、子供たちの安全のためにもノーヴェさんには伝えておこう。
「実はですね……」
俺は影胤についてノーヴェさんに話した。
「……お前、それ言っても良かったのか? 機密とかじゃあ……」
「個人的に教えてもらったことですからね。別に悪用したわけじゃありませんから」
「ちゃっかりしてんな、お前……」
「先走って勝手に事件に首を突っ込むよりはよっぽどいいと思いますよ?」
「それ自分に言ってんだよな?」
「それはもちろん……そういう訳なんで、子供達は早めに帰らせた方が良いかもしれないですね」
「だな。しばらくは暗くなる前に終わりにするよ」
子供を預かる人間として当然の判断だった。そしてここからは子供を預かる『ノーヴェ師匠』ではなく、ジェイル・スカリエッティに造られた『戦闘機人ノーヴェ』として問いかけて来た。
「それで、さ。そいつ、蛭子 影胤……体を改造した機械化兵士ってヤツなんだな」
「はい」
そしてこれが、俺の気が付いてしまった繋がりだ。
ノーヴェさんも戦闘機人―――すなわち体を改造された機械化兵士のようなモノだ。とはいえかなり希薄な繋がりなのは間違いない。捜索に繋がる手掛かりが得られる可能性は非常に小さいとは思っていた。
「いや、なんつーか、さ……」
ノーヴェさんも言葉に詰まっている。
思う所はあるんだろうけど何も言えないんだろう。こうして話した俺だけど、ノーヴェさんが戦闘機人であることを俺は話されていない。
いくらノーヴェさんでも、テロリストが自分と似たような存在と言われて、秘密を明かせるほど図太い訳ではなかった。
言葉に詰まってしまったノーヴェさん。そうしていると、
「お、帰ってきたぞ」
「そうみたいですね」
みんなが戻ってきた。それによって話題が打ち切られてしまった。
「あっ!! お兄さん!」
「「お疲れ様ですー!!」」
俺を見つけたヴィヴィオちゃんがスピードを上げ、その後ろにリオちゃんとコロナちゃんが続いている。
さらに後ろにはアインハルトと綺凛、クロ、ティナ、ヤミが続いている。というかヤミも走ってたんだな。一緒に走ったほうがヴィヴィオちゃんに何かあった時に対処がしやすいってのがあるんだろう。
流石に子供のランニング程度では息1つ切らしていない。
学校指定の体操服姿のヤミが俺に近寄ってきた。
「刀藤 綺凛ですが、調子は持ち直してきたみたいです。少なくとも、私の目から見ては」
「見ててくれたのか。ありがとう」
「いえ。ついでですから」
あの事件にはヤミも関わっていた。その辺りの縁で綺凛のことも見てくれたらしい。
ヤミと入れ替わりになり子供たちが近寄ってきた。
「お兄さん、今日はどうしたんですか!?」
そうだ。こっちがここに来た本命だったな。
「ちょっとみんなに協力して欲しいことがあってね」
俺はみんなにやってほしいことを説明した。
「……って感じなんだけど、協力してくれる人いるかな?」
「「「はいはいはいーっ!!」」」
全員がそろって手を挙げた。アインハルトも綺凛も、控えめながら手を上げている。
子供達は顔を見合わせ、
「「「じゃーんけーん!!」」」
の結果は。
「勝ちました!!」
Vサインをしているのはコロナちゃんだった。
「いいなぁ、コロナ!」
「次は私ね!!」
「ま、まあまあ、ヴィヴィオさん。次もありますから」
「そうですよね……ちょっと気になりますけど」
ヴィヴィオちゃんとリオちゃんがうらやましがっている。なんだかんだ言ってじゃんけんに参加していたアインハルトと綺凛もやっぱり気になっていたみたいだ。
「……ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんと一緒に戦うのは私達の方が多いんだし、私達で試した方が効率良くない?」
「そうですお兄さん。私達で試すべきです」
クロとティナが何やら大人げないことを言っているが、勝負(じゃんけん)の結果がすべてだ。その提案は受け入れられない。
「じゃ、いくぞー」
「はいっ!」
コロナちゃんがわくわくといった様子で胸の前でガッツポーズをしている。
ヴィヴィオちゃんたちの中では(クロは年齢と中身が釣り合っていないのでノーカン)一番おとなしそうな娘なんだけど、こうしてみると年齢相応の所もあるんだとほほえましくなる。
《W》
俺はダブルウォッチを起動させる。ジカンギレードにセットして引き金を引いた。
今回は、先日手に入れた他人をアーマータイムさせる能力の検証をしようと思ってきたのだ。
他人に自由にライダーの力を付与する能力。どの程度までやれるのか、制限などはないのかはしっかりと検証しておきたい。
《ARMOR TIME!》
《CYCLONE! JOKER! W!》
コロナちゃんにアーマーが装着される。
トレーニングウェアが分解され、それが体のラインがわかるアンダーウェアとアンダーアーマーに。さらにその上から俺も装着したことのあるWアーマーが、コロナちゃんの身体に合わせたサイズにスケールダウンして装着された。
頭にはダブルをイメージしたと思われる、『W』の形をした緑と黒2色の髪飾りが装着された。
そして一番重要なベルトだけど……なんとダブルドライバーが、サイクロン・ジョーカーの状態で装着されていた。
どうやらこの方式でアーマータイムを行うと、本家のベルトが装着されるらしい。
……いいなぁ。俺もこの方式で変身しようかなぁ……
「「「わー!!」」」
俺が黄昏ていると、コロナちゃんに起きた変化に本人も含めた3人(残り2人はヴィヴィオちゃんとリオちゃん)が歓声を上げていた。
「すっごい派手だね!」
「ね! 半分半分で! コロナ、いつもと違うところある?」
ヴィヴィオちゃんとリオちゃんがペタペタと装甲に触りながら問いかける。
「うん……魔力は全然使ってないのに体がすごく軽いよ!」
コロナちゃんがアーマーの性能を確かめるためか、色々と動き回る。その過程で右手を大きく振りかぶった。
「へぇ~! そうなん―――わっ!? 風が!?」
俺達の所にまで風は伝わってくる。子供の手で扇いだ程度でこの強さの風は起こらない。サイクロンの力を無意識に使ったのだ。
「ねえコロナ、ちょっと組手してみようよ!」
「うん! いいよ! いいですか?」
「ん、いいよ。違和感があったら教えてくれ」
許可を求められたので、頷いて返した。
そうして始まる2人の組手。全力には程遠いだろうけど、軽い音と共に何度も拳や蹴りが交差する。
「へぇ~、確かにいつもより動きがいいな。動きが軽い」
ノーヴェさんが呟いている。
純粋に身体能力が上がるジョーカーの力もあるからな。
しばらく体を動かしていた2人は、満足したのか戻ってきた。
「じゃあ次の実験だ」
俺はメモリを取り出した。
《TRIGGER》
コロナちゃんの腰にあるベルトを操作しようと腰をかがめる。
……でもこれ、ベルトがスケールダウンしてるから元の大きさのメモリ入らないぞ?
「無理だよな……」
試しにメモリを近づけてみると、ベルトに合わせて段々とメモリが縮み始めた。
「……ガリバートンネルかよ」
「え? なんですか?」
「何でもない、よっと」
最終的にぴったりの大きさになったメモリを差し込み、
《CYCLONE! TRIGGER!》
フォームチェンジを行った。
左側に装着されていたアーマーが消え去り、青い色の装甲が装着された。その胸にはトリガーマグナムが引っ掛かっていた。
「「「おー!!」」」
みんな、いちいちい歓声を上げてくれて楽しいな。
「私、銃なんて持ったの初めてだよ~」
「人に向けちゃだめだぞ」
銃を持ってポーズを決めているコロナちゃんに注意しておく。
「フォームチェンジも問題なし、っと」
恐らく変身アイテムさえあれば、いくらでもフォームチェンジできるんだろう。今は基本フォームしかないけど、アイテムさえあれば強化フォームにも、最終フォームにもなれるだろう。
これは夢が広がるな。
「じゃあそのままで、次いこうか」
「はい!」
次の予定だったリオちゃんが元気よく頷く。
新たにウォッチを起動させ、引き金を引く。
《BUILD》
《ARMOR TIME!》
《BEST MATCH! BUILD!》
ビルドアーマーが生成され、コロナちゃんの時と同じように今度はリオちゃんに装着される。
すると、
「あれ!?」
コロナちゃんが装着していたダブルアーマーが消えてしまった。
「ふむふむ、なるほどね」
つまり2人以上同時にライダーの力を貸し与えることは出来ないってことだ。全部のライダーの最強フォームをズラリと並べるなんてことは夢物語になったってことだ。少なくとも、現状の強化パーツでは。
「お兄さん、これ……」
「あー、いいのいいの。こういう実験だから」
でもこれで試してみたいことは全部試すことが出来た。
「じゃ、他のみんなも使ってみる?」
俺が新しいウォッチを取り出すと、子供たちは歓声を上げるのだった。
――――――――――――――――
ここはイギリス清教の教会。そこを訪れる男がいた。
教会には全くふさわしくないグラサンにアロハ、金属製のアクセサリーをじゃらじゃらと首にかけた軽薄そうな男―――土御門 元春だ。
「やー、久しぶりだにゃ~」
声をかけるのは必要悪の教会の同僚でもあるステイルと神裂だ。
静謐であるはずの教会には場違いなほど軽い挨拶に、2人の顔がしかめられる。嫌な顔になったのは土御門が顔を出したからでもある。
「あなたは相変わらずですね、土御門」
「んん? そうかにゃ~? ねーちんこそ、相も変わらず、相変わらず! そんな恰好で! ―――のわっ!?」
「次はありませんよ」
神裂が繰り出した鞘付きの一閃は土御門の鼻先を掠めた。次は頭蓋骨が叩き割られるだろう。と言うか叩き割る。神裂はそう決心している。
「……君のような人間にあの娘を任せないといけないと思うと、胃痛で倒れそうだよ」
ステイルもうんざりとした声を出す。
今の一連の流れを見ているだけで、インデックスに悪影響がありそうだと感じてしまう。
「まあ―――俺は俺で、別の仕事もあるからな。一日中つきっきりってわけじゃない。むしろ顔を合わせるのは本当に何かあった場合だけだ。それ以外はここの教会の奴に任せるさ」
土御門の口調が一瞬だけ変わる。
「それを聞いて安心したよ」
「おいおいステイル! 護衛がいない方が安心ってのはどういうことだにゃー!?」
一通りふざけたところで、仕事の話に戻る。
「で、『予定日』は何時なんだ?」
「3日後です。そこから現在の状況の説明を行って引継ぎの予定です」
「ふーん、なら『今の』禁書目録ともあと3日でお別れってことか。もう動けないのか?」
他の2人ほどインデックスに執着していない土御門は軽い調子で言う。インデックスの事情を知っていれば薄情にも見える態度だが、仕事だと割り切って神裂は応じた。
「頭痛はまだです……その前に少しこの島を見てわかる予定ですが」
「見て回る? ああ、思い出作りか」
要人を連れて観光など、まっとうな組織では許されることではない。だが、一般に魔術使いに分類される魔術師は個人主義が強い。
組織に属しているのは『個人的な願い』をかなえるための手段でしかなく、利用できる間は利用するが、邪魔になれば容赦なく裏切るのだ。
その為に様々な対策は講じられているが、『やる奴はやる』。
ステイルと神裂にとってインデックスが最優先であるために、インデックスの願いは出来るだけ叶えようとしているのだ。たとえそれが、イギリス清教にとって多少のリスクになろうとも。
「(それにしても、襲撃されたってのに呑気なもんでもあるけどにゃ~)」
そうは思っても土御門は口に出さない。代わりに、
「ま、観光するなら気を付けてくれ。ねーちんもいるし問題ないとは思うけどな」
土御門はにやにやと笑って言うのだった。
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