護衛任務
お偉いさんに呼び出された。
俺とクロは豪華に飾り付けられた部屋の中にいる。そのお偉いさんの仕事場だ。
区画ごとに建物の様式ががらりと変わることもあるこの島だが、こうして実際に見ると、一つの島にたくさんの国が詰め込まれているように見える。
事実、たくさんの国の人が住んでいて、さらにその中で派閥があったりするため、あながち間違いじゃなかったりするのだが。
どういうご都合主義なのか、言葉はしっかり通じるんだけどな。それでも語学系の授業はある。悲しい。
クロはみんなの中からくじで選ばれ、俺と一緒に任務にあたることになった。今後は、依頼では必ず1人と一緒に行動することになったのだ。
「ごきげんよう、夜月さん」
扉が開き、女性が入って来る。この女性が今回の依頼主、『聖天子様』だ。
スーツではなく白いドレスのようなものを着ている。髪や肌の色も手伝ってとてもはかなげな印象を受けるが、俺をまっすぐ見る目には隙がな……くもない。
簡単な挨拶を済ませ、席に着く。
聖天子様は『ブラック・ブレット』のキャラクターだ。そっちのほうでは東京エリアの統治者をしているが、この世界では、この島の議会において、日本の代表を務めている。
理想主義者なところもあり、各国での協力体制を築き上げようとしていることで有名だ。何かしらを腹に抱える奴らや、現実というものを知っている武偵からは、食いものにされたり、鼻で笑われるような理想だが、一般受けはとてつもなく良い。
「今回お二人には、私の護衛をしてもらいたいのです」
若くして代表を務めているといっても、実権を握っているのは『天童 菊之丞』というおじいさん。彼女は、悪くいってしまえばお飾りだ。まだ成人もしていない可憐な少女が、理想を掲げているというところに価値があるのだろう。
「明後日、副代表の斉武氏と非公式の会談が行われます。その時の護衛をお願いしたいのです」
「確か、斉武はイケイケの武闘派だった。やっぱり、天童 菊之丞がこの島を離れている時を狙って?」
「はい。そうだと思います」
日本本島での会議のため、天童 菊之丞は島にいない。いかに小娘といっても代表。邪魔な奴がいないうちに取り込んで置こうって腹だろう。
「護衛、必要ですか?」
「斉武氏なら、あるいは」
斉武は聖天子様とは真逆の、イケイケの武闘派として有名だ。日本の武偵法では禁止されている殺人の禁止を撤廃させようとしているし、本人も腕が立ち、暗殺に来た刺客を返り討ちにしたり、といった具合だ。
護衛が必要な理由はそれだろう。もしかしたら、何かが起こるかもしれない、と。
次に分からないのは、
「なぜ俺を護衛に指名したんですか?」
ほぼほぼ無名な俺を選んだ理由だ。
「前日の飛行機ジャックの記録を見て、ですね」
「む……」
飛行機ジャック。つまり武偵殺しの事件の事だろう。俺達には口止めのお兄さんが来たんだけど……ま、この島でもトップクラスの権限を持っているんだから、そのくらいは知ることはできるか。
「あなたのセリフに心を打たれたから、というのはダメでしょうか?」
クロは俺を見てくる。そんなに見ないでくれ、あの時はスタンドが発現したせいでハイになっていただけなんだよ。歌でも一曲披露したくなるくらいにな。
「お兄ちゃん、何言ったの?」
「とても魅力的なセリフでしたよ。武偵の方からあんな言葉が聞けるなんて思っていませんでした」
「本当にやめてほしいんですが」
微笑を浮かべる聖天子様と疑惑の目を向けてくるクロ。2人の視線に耐え切れなくなった俺は先に進めてくれとジェスチャーする。
「それに、何もあなたたちだけで護衛してもらう訳ではありませんよ」
聖天子様は後ろに顔を向け、並んでいる人たちに声をかける。
「挨拶を」
「失礼します」
その中の男が一人、一歩前に出る。
外套のようなものを羽織り、腰には刀と拳銃が収められている。
「彼らは私の護衛を担当している方たちです。こちらが隊長の保脇さんです」
専属の護衛官たちか。
聖天子の紹介で俺の前に出て来たのはメガネをかけている男性。神経質そうな顔をしている。
一瞬、俺を値踏みするような目を向けてきたがすぐに、消え失せた。
「ご紹介にあずかりました『保脇 卓人』です。階級は三尉。護衛隊長をやらせていただいております。もしもの時はよろしくお願いします」
「……どうも。夜月 翔です。今回はよろしくお願いします」
俺は立ち上がり、机を挟んでお互いに礼をする。
「それでは詳しい日程を……」
視界の端に保脇を入れつつ、俺は秘書の説明に耳を傾けるのだった。
――――――――――――
「なーんか、やな感じだったね。あの保脇って人」
護衛任務についての説明も終わり、俺とクロは部屋を出て廊下を歩いている。部屋を出てから最初の一言がこれだ。
「さすがクロだな。その通りだよ」
「え?」
保脇 卓人。こいつもブラック・ブレットのキャラなんだけど……いわゆる『完全な敵キャラ』なのだ。
ラノベにかかわらず、敵だったキャラクターがいつの間にか味方……そうでなくても、協力体制が築かれているといったことは少なくない。
しかしこいつは違う。
最初から最後まで主人公の敵として描かれている。
「この世界でも、それが変わらない可能性は高い」
「えぇ……あいつって、敵のスパイなの?」
「や、どっちかって言うと、歪んだラヴ、だなぁ」
「な、なに? その発音……?」
ちょっと巻き舌にしたらこの反応だよ。
「それは置いておいて。保脇は聖天子様を狙ってるんだよ。分かるだろ?」
「あー、身分違いの恋ってやつ?」
「それならまだ良かったんだけどな」
聖天子様と結婚して権力を握ろうって考えだからな。平安時代の藤原氏みたいなもんだ。ちょっと違うか?
「んー、ナルホド。それ、言っちゃえればいいんだけどね」
「ま、証拠がないからな」
武偵殺しの時と同じだ。犯人が分かっていても、未遂どころか犯行を起こそうともしていなければ、告発することはできない。
そんなこと下手に発言しようものなら、俺たちのほうが危なくなる。
俺たちにできるのは、事件が起こるまで待ち、起きた事件を完璧に無事解決することだ。
「それじゃあ、クロ。先に行っててくれ」
「アスナさんたちから、お兄ちゃんを一人にするなって言われてるんですけど」
「初耳だな……っ!!」
俺の監視体制が厳しくなっている。
「でも、今回は一人のほうがいい。奴の本性を知らないと思わせておいたほうが、後々都合がいいかもしれないからな」
それでなくてもクロは子供だし、保脇も無意識に警戒を緩めるかもしれない。
「……わかった。先行ってるからね、お兄ちゃん!」
「おい! 待てって!」
わざと大きな声を出して走っていくクロ。俺もわざと引き留めるふりをする。
後ろから足音が響いた。
「止まれ、夜月 翔」
保脇 卓人とその取り巻き2人の合計3人だ。
「何か? なんて言わないぞ」
「フンッ、なら私の言いたいこともわかるな。護衛任務を辞退しろ。天童閣下は私に聖天子様を任せてくださった。彼女に貴様はふさわしくない」
お、おおぅ。こんなセリフを生で聞くことになってしまうとは……
会談当日、俺とクロが聖天子様と同じ車に乗り、会談中も後ろで控えることになった。それは聖天子様の希望らしい。
その説明の時のこいつの顔はマジでやばかった。視線で人を殺せたら、ってレベル。あの場に人がいなかったら剣を抜いていただろう。
「それは直接本人に――」
柱の角が銃弾に削られる。流石、VIPの専属護衛官だけある。Sランク相当の抜き撃ちだな。
「喚くな……まったく、聖天子様は一体何を考えていらっしゃるのか……こんな無名の武偵をおそばに置かれるなんて……っ!!」
取り巻き2人、なんか言えよ!! お前らの親分マジでおかしいだろ! それに対してコメントはないんか!
「……そもそも、お前が俺を気に入らないのは、それだけが理由じゃないだろ」
俺の言葉に、保脇はにやりと笑う。
「聖天子様はお美しく成長され、今年で16歳になられた」
「実際見るとそうは見えないよなぁ」
「貴様もそろそろ、世継ぎが必要だと思わんかね?」
「国じゃないんだぞ?」
「黙れ」
あーあ、終わった。こいつが原作通りで何も変わってないってことがわかっちゃったよ。
もう、いいか。
「ま、あんたに従う義理はないんで」
「貴様!」
背を向けて歩き出した俺に保脇と取り巻き2人は発砲するが、
「は?」
銃弾はすべて明後日の方向へと飛んで行った。
「
「貴様、能力者か……ッ!!」
俺と保脇はにらみ合うが、発砲音を聞きつけたのか、警備員が走ってくる音が聞こえる。
「……殺してやる。殺してやるぞ!! 夜月 翔!!」
なかなかに豪快な捨て台詞を吐いて逃げていった。俺はその場で硝煙反応を調べられ、すぐに解放された。
このこと、クロに言っておかないとだな。
――――――――――――――――――
「…………」
まあ、そうね。この事件ってことは、こういうことだと思ってましたよ。
クロは施設に入った時の通路にはすでにおらず、受付のお姉さんに聞けばもう建物は出たと。そこから携帯に連絡しても返事がなかったため、少し焦っちゃったけど……無事発見できた。
施設の目の前にある公園の噴水。そこにクロはいた。ただし1人ではない。プラチナブロンドの髪を持つパジャマ姿の同年代の女の子と一緒にいたのだ。
さらに言えば、その周りを3人の男に囲まれていた。
保脇の部下ではない。そこら辺のチンピラみたいだな。クロはそいつらから、もう1人の娘を庇ってる形だ。
早く行ってどうにかしよう。
「その辺にしとけよ」
「はぁ?」
「なんだよ兄ちゃん。カンケーない奴は引っ込んでろよなぁ!!」
「なんだ、そんなにケンカしたいのか?」
俺は武偵高の学生証を見せる。たったそれだけで、チンピラの顔が引きつり、逃げ腰になる。
「う……っ! お、おい! 行くぞ!」
「あ、ああ」
男たちはみんな仲良く逃げて行った。これにビビるってことはあいつらただの不良か。
「大丈夫か、クロ、と……」
俺は倒れこんでいた娘の手を引いて立ち上がらせる。目は半開きになっていてすごく眠たそうだ。
そんな、半分夢を見ているんじゃないかと思わせる目で俺をじっと見てくる。
「正義のヒーロー………生まれて初めて見ました」
「そっか」
「あれ? 私は?」
「……? もう一人いたんですか?」
クロには気が付いてすらいなかったのか。
「……もう暗いから家に帰れば? お兄ちゃん、行こ」
あまりの扱いにクロは相当不機嫌そうだ。
「ここ、どこですか?」
「迷子なの!?」
クロは、綺麗にこけてしまった。
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自販機でジュースを買って帰ってくると、クロがコミュニケーションをとろうと頑張っていた。
「もう一度聞くわ。家、分かる?」
「いいえ?」
「お父さんとお母さんは?」
「さぁ?」
「なんでパジャマなの?」
「なんででしょう?」
「喧嘩売ってるのね?」
クロがキレる寸前なんですが。
「ダメっぽいか?」
「うん。何を聞いても全然。どうしよう。分かったのは名前だけだよ」
「ティナ……です。ティナ・スプラウト」
……やっぱりティナだったか。
「ほれ」
俺は買って来たジュースをティナに渡す。
ティナは唯一の持ち物だったプラスチック製のボトルから錠剤を取り出して嚙み砕いた。ボトルにはカフェインとプリントされている。
薬を飲むように口の中にジュースを流し込んだ。心なしか、目が開いたような気がする。
「私、夜型なので、こうしていないと昼は起きていられないんです」
「夜型? その年で?」
不可解なワードにクロが眉を寄せる。
「あなたの名前は?」
「俺か? 俺は夜月 翔だ」
「翔さん、ですか?」
「ああ」
「お兄ちゃん、手が速いよ」
なんでや。
クロのほうを向いた後、ティナを見ると、目を瞑っていた。
「寝るなって」
「ぅ……」
ティナはまたカフェインの錠剤を口の中に入れる。ポリポリと錠剤が砕ける音が聞こえてくる。
「よし、ここまで来るのに何をしていたか覚えているか?」
「今日はアパートで目が覚めて、歯を磨いて、シャワーを浴びて、服を着替えて颯爽と外に出たところまでは」
「や、嘘だよな」
俺はため息をつき。
「しょうがない。名前で住所を検索して――」
「実は自分の家、わかったりします」
「ちょ、何よそれ!?」
俺が最終手段に訴えようとしたところ、別人のようにティナが反応した。
その時、俺の携帯端末のタイマーが鳴った。
「そのアラーム」
「スーパーの特売が始まるな」
今日の買い物当番は俺たち。依頼説明の帰りにスーパーに寄って帰ることになっていた。間に合わなければ、当然大変なことになる。
沈黙が訪れる。
「……それでは、もう夜になるので」
「お兄ちゃん! 早くいかないと!!」
俺たちは、互いに別の方向に歩きだしたのだった。
ちょっと調子が悪いので明日更新できるかわかりません。ご了承ください。