「おはようございまーす」
子供達とライダー変身遊びをした翌日の午後。特に何事もなく学校が終わり、俺は六課に来ていた。今日からまた普通の勤務だ。
だが、普通というと少し違うかもしれない。
「みんな、すでに聞いたと思うけど」
なのはさんの前に並んでいるのは俺と、スバルさん、ティアナさん。あの時の夜勤のメンバーだ。
ちなみに、なのはさんの横にはなぜかにこにこと笑っているクローディアがいた。
「今日から魔族襲撃の犯人捜査のお手伝いをします」
「「「はいっ!!」」」
そう。今日からは何時も行っていた訓練ではなく、終了の時間まで外回りで捜索を行うのだ。
アスナ達は昨日からすでに捜索に加わっている。そこからすでに詳しい情報は聞いていた。やっぱり影胤の捜査は俺達は行わないらしい。
代わりに今日は楯無さんが六課に来ていない。向こうは向こうで捜査しているんだろう。
「2人一組で捜査してもらいます。スバルとティアナ、翔君とクローディアで」
そういう事か。
「そう言う事です♪」
クローディアが嬉しそうに言う。
「私も昨日偶然、六課に来ていなくて。捜査の割り振りがされていなかったんですよ」
「偶然ね……」
「翔も、私と一緒でうれしいですよね?」
「……」
今はなのはさんからの指示を聞いている場面だ。余計な私語は慎む……という体でクローディアの質問への返答を控える。
「クローディア、今は控えてね?」
「はい」
なのはさんに注意されてもクローディアのにこにこは収まらない。
「はぁ……まあ、これ以上説明することも無いから。みんな、出発してね」
「「「了解です!」」」
敬礼して俺達は出発するのだった。
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「クローディア、運転できるんだな」
「はい。基本的な車両は全て運転出来ますよ。まあ、街中なら自動運転で十分ですが」
外回りの捜査と言っても、管理局の車(パトカー的な物)で街中をぐるぐると走る回るだけだ。こんな明るい時間からあからさまに吸血鬼を襲う奴なんていないからな。パトロールして威嚇している感じだ。
そもそも吸血鬼は夜型の種族だから、この時間は彼らにとって夜中だ。
「それで翔さん、今回の事件はどうですか?」
「どうですかって?」
「何か思い当たる節はありますか?」
運転しながら横目で見てくる。
「クローディアは俺のことを何だと思ってるんだよ。流石に無理があるぞ」
吸血鬼が襲われるなんて、それだけの手掛かりじゃ何の予想も立てられない。もっとネームドのキャラクターが関わってくれれば話は別だけどな。
そもそも、俺の知らない原作だって可能性もあるしな。
「そう言うクローディアの方はどうなんだよ。意地悪なデバイスから何か手がかりは渡されてないのか?」
クローディアのデバイスであるパン=ドラは、その所有者に未来の出来事を悪夢という形で見せる。その手掛かりだってあるはずだ。
「そうですね」
信号に引っかかり車が止まった。
「ここ最近、同じ夢を見ます」
「それを話したくて俺と一緒の捜査になるようにしたのか?」
「もちろん、翔と一緒にドライブしたいという気持ちもありますよ?」
何やら怪しい手つきで俺の太ももに伸びてきた手を、持ってハンドルを握らせる。ハンドルを持っていなくても車は自動で進む。
「夢の内容はこの島の崩壊です」
「またか……」
よく崩壊するな、この島は。
「島が廃墟になる、程度のものではありません。この人工の大地が自重を支えきれなくなり、バラバラに分解されて崩壊していくのです。恐らくはこの島の要石、キーストーンゲートが破壊されたのだと思います」
「キーストーンゲートが……」
キーストーンゲートとはこの島を支えているまさに要石。島の中央にそびえる巨大なタワーのことだ。
当然この島でも一番の警備が施されている。管理局の学園島支部の本部がある場所だし、武偵局だってある。
そこを突破して最下層にある要石を破壊された……?
「そんな大事件が……いったいいつ?」
「日付もわかっています。今日を入れて後3日です」
「3日!?」
何だそれは!! 急すぎる!!
「今回の吸血鬼襲撃が何か関係しているってことか?」
「それは分かりません。私が夢を見るのはいつも島の崩壊が始まり、住民の避難を行っている時ですから」
「でも、手がかりではあるってことか……」
「はい。なので、この手掛かりで何か思いつくことはありませんか?」
「……」
俺は思考を巡らせる。同時に、クローディアに問いかけた。
「このことは、他の誰にも言っていないのか?」
「はい。翔さんにしか言っていません」
そこが引っ掛かる。どうしてだ。
「何でだ。別にそのことを誰かに話せないなんて制約があるわけじゃないんだろ? クローディアだったら予知の内容を理論立てて説明することだって出来るはずだ」
「そうですね。恐らくは出来るでしょう。ですが、私が信頼しているのはあなただけです」
「……っ、信頼しているのが、俺だけ?」
いきなりの重い発言に息を呑む。
「なのはさんもフェイトさんも、はやてさんも?」
「信用しています。ですが、信頼しているのはあなただけです。だから話しているんです」
そこまで信頼されるなんてやっぱり、
「……俺達、昔どこかで会ったことあるか?」
「いえ? 私とあなたが初めて会ったのは、間違いなくあの日の病室ですよ」
俺が過去に行って何かしたわけじゃないのか……
「……」
考える。
クローディアがなぜ俺をここまで信頼しているのかではなく、どんな事件が島に破滅をもたらすのかを。
今の情報はクローディアの悪夢の内容、聖天子様からの蛭子親子の情報、そして吸血鬼襲撃事件だ。
さらに忘れてはいけないのが禁書目録の記憶消去。あの時のステイルたちの態度を考えると、そろそろその時期なのは間違いない。破壊に繋がる行為ではないが、ちょっかいをかけられれば厄介だ。輸送で襲撃もされてるしな。
これがどう絡んで島の破滅に繋がるのか。
点と点はあるが、それがどう繋がるのかが分からない。何かが足りない。
「……すまん。断言は出来ない」
「……そうですか」
クローディアは一瞬だけ気落ちしたようだったが、
「それでは、もっと手掛かりを見つけないといけないですね♪」
「そうだな。それしかないな!!」
あと3日しかないんだ。落ち込んでる時間はない。
「ふふ、私が言うのもアレですけど、よく信じますね。夢の内容なんて」
今さら何を。
「前、散々助けてもらってただろ」
妹達の時には完璧な作戦立案で俺を助けてくれた。その内容を疑う必要は無い。
「あの時は翔にも心当たりがあったからあんなにあっさり信じたのでは? 今回は私が言ってるだけでそれ以外の証拠がありませんよ?」
確かに? え、じゃあ……
「からかってたのか?」
「いいえ、全てホントです」
「何だよ!」
ちょっと期待しちゃったじゃないか!
「頑張りましょうね、翔」
「……そうだな」
テンションの変わらないクローディアに対して、俺は肘掛で頬杖をついて答えるのだった。そして窓の外を見ると、
「お、あれは……」
とても目立つ3人組を見つけた。
「翔? 何かありましたか?」
「ああ、アレだ」
俺が指さす方向には、ティーカップのような修道服を着た少女、赤髪に目元にバーコードのタトゥーの男、腰に長大な日本刀を提げた女性がいた。イギリス清教の面々だ。
「何でアイツら、呑気に出歩いてんだ……!?」
輸送で襲撃されたのに。数日後にはインデックスの記憶消去っていう大事な用事を控えてるのに。
「そうですね。何かあったんでしょうか」
「行ってみようか」
俺達は適当な場所に車を停め、3人の所に向かう。
すると3人は先ほどすれ違った場所から動いていなかった。何やら端末を広げてステイルと神裂が画面とにらめっこしている。
「おいっす」
「「っ!?」」
余程集中していたのか、2人が飛び跳ねてこっちを見てくる。
「君は……管理局の。何か用かな? 職務中のようだが。いや、それとも勤務時間に逢引き中だったか?」
ステイルが警戒心を顕わにして聞いてくる。俺の服装(勤務中なので学生服ではなく管理局の制服を着ている)を見ての発言だろう。
警官に話しかけられて嬉しいと思う人はいないよな。
そして俺の後ろからついてくるクローディアを見て皮肉も言ってきた。
「困ってるみたいだったからな。こう見えて管理局だからな」
「……別に困ってなどいないが」
「そうですか? 道案内も管理局の仕事の1つなのですが?」
クローディアが端末に表示されている地図アプリを見て言った。
魔術師は機械の扱いが苦手。原作ではインデックスは電話を取れないし、神裂は洗濯機を泡だらけにしていた。ステイルは比較的そういう描写はないが、実際にはこんな感じだったという事だろう。
「ステイル、素直に聞いた方が良いんじゃない?」
「……そうだね」
インデックスに言われ、ステイルは渋い顔をしながらも頷いた。
「ここに、行きたいんだが」
硬い声で端末を差し出してきた。
「ふむふむ……」
マップに表示されている目的地は『学園島』、『観光地』で検索すれば最初にヒットするであろう観光地、商業施設だった。
端末を操作する俺を神崎が覗き込む。
「この島は凄いですね……電車の路線も複雑で。ここまで来るにも迷ってしまいそうでした」
「……それ、帰れますか?」
「……どうでしょうか」
無理じゃないのか……?
「帰り道までインプットしておいた方が良いんじゃないでしょうか?」
「そもそも、マップ通りに行けないんじゃないか?」
クローディアと俺は意見を出し合い、最終的に金銭的に問題ないと確認を取ったので、
「じゃあ、自動運転のタクシー呼んだんで。カード支払いでいいですよね?」
「はい。助かりました。これを使って下さい」
「帰り道までインプットされてるんで、タクシー呼ぶときはこのアプリ起動してここを押して下さい」
「……はい。分かりました」
不安だな。その声のトーン。
ちなみに、対応してくれているのは神裂だ。
「不安だったらこの番号にかけて下さいね」
電話番号をメモして渡す。メモにしたのは電話帳に登録してしまうと、そこから呼び出せないのではないかと思ったからだ。
「重ね重ねありがとうございます」
「タクシー呼んでみましょうか」
神裂は俺に言われた通り端末を操作した。
「い、意外と簡単ですね」
「次もこうしてくださいね。呼べば5分くらいで到着するので」
そして到着するまでの5分間、特に会話は発生しなかった。
ステイルはインデックスを守るように俺達との間に立ち何もしゃべらない。神裂はそわそわしていた。こちらはタクシーがちゃんと到着するのかどきどきしてるって感じだな。
タクシーが到着し3人が乗り込んでいく。一応神崎が運転席に、ステイルとインデックスは後部座席に座った。
「それでは」
「お気をつけて」
タクシーは行ってしまった。
「大丈夫でしょうか」
「まあ、最悪迷ってもその辺りの人に泣きついてもらえれば。アプリさえ動かしてもらえればタクシーは着ますから」
「いえ、そちらではなく。輸送機は襲撃されたんですよね? こんな風に外出していて大丈夫なんでしょうか」
「どう考えても戦力過多だよ」
神崎さえいれば十分だ。襲うヤツに同情するね。蛭子親子でも何も出来ないだろう。
「なのであれば。行きましょうか」
俺達はパトロールに戻るのだった。
その日は特に収穫はなかった。俺達の方は。
―――――――――――――――――――――――
「遅くなっちまったな」
「そうですね」
こちらは捜査チーム、雪菜とヴィータのペアだ。初めて会った時はその容姿からヴィータの実力を少し疑っていた雪菜だったが、今はそんな気持ちは微塵もない。頼りになる上司として敬意をもって接していた。
ヴィータも真面目な雪菜を高く評価していた。
ペアを組んで2日。今日はヴィータの知るすこし危ない裏道を中心に歩き回っていた。
その時、
「「っ!?」」
濃密な魔力が膨れ上がるのを感じ取った。それも2つも。現れたと思った瞬間にぶつかり合い、スパークした魔力が2人の感覚を刺激した。
ぶつかり合う魔力は周りのビルにも被害をもたらし始める。
「行くぞ、雪菜!!」
「はいっ!!」
管理局としてその事態を放っておくわけにはいかない。すぐにその場から駆け出した。
魔力で強化した身体能力を使えば魔力の発生源まで1分もかからない。その道中。
「ヴィータさん、アレを!!」
「なんだ!? ……っ、アレは……!」
破壊されたビルの上空、燃える怪鳥が翼を広げていた。それは魔力を纏う魔獣ではなく、魔力そのもの。意思を持った魔力の塊。
「吸血鬼の眷獣か……」
「そうですね。あっ!」
空を飛んでいた燃える怪鳥を、下から伸びて来た青白い腕が掴んだ。もがき苦しむ怪鳥だったが、すぐに力を失いその腕と同化―――吸収されていく。
「急ぐぞ!!」
雪菜の返事を聞かず、ヴィータは駆けだした。管理局の制服からBJに姿が変わる。手には柄の長いハンマー型のデバイス、グラーフアイゼンが握られた。
雪菜もギターケースから折りたたまれた槍を取り出す。一振りすると変形し、戦闘形態になった。
2人が犯行場面に踏み込んだ。
「やめろテメェ!!」
「管理局です! 戦闘をやめて下さい!!」
武器を構えた2人は警告としての定型文(ヴィータは乱暴に停止を促しただけ)を発する。
だがすでに戦闘は終了していた。
黒衣を着た大柄な男が背を向けて立っており、地面には金髪の若い男性が倒れている。金髪の男性は口から涎を垂らし完全に気を失っていた。
黒衣を着た大柄な男は、雪菜達の警告にゆっくりと振り向いた。
「とうとう管理局に見つかってしまいましたか……」
片メガネをかけた瞳が2人に向けられる。
「そう言うこった。さっさと両手を上げな。街中で魔力を使った戦闘行為。現行犯だ」
「そういう訳にはいきません。私はまだ、道半ばなもので―――アスタルテ」
黒衣の男―――ルードルフ・オイスタッハは後ろにいた少女に命令を下す。
「
アスタルテの背中から、翼のように青白い腕が飛び出した。