「はい。わかりました。それではその方向で」
時刻は19時過ぎ、楯無は通信を切った。そして深々と身体をソファーに沈ませる。
「ふーっ」
上を向いて大きく息を吐いた。
通信の相手ははやてだった。内容はヴィータが遭遇したロタリンギアの宣教師とホムンクルス、そしてその逃亡を手助けした蛭子影胤について。
ここ数日、楯無は六課には顔を出していなかった。蛭子親子の件を優先的に調べていたからだ。
管理局では捜査されていないとはいえ、日本の国防で大きな影響力を持つ更識家が蛭子親子を無視するわけにもいかない。
この島でテロ行為をされてしまっては、日本政府への非難が避けられないからだ。
そうなる前に蛭子親子を拘束、出来なければ殺害を以て無力化しなければいけない。
この島へ密航してきただけはあり、更識家の情報網をもってしてもここまで足取りを掴めていなかった。だが、ここにきてようやく情報を手に入れることが出来た。
「それも、目撃情報どころじゃなくて、実際に交戦までするなんてね」
楯無はヴィータのデバイスに記録されていた映像を再生する。
タキシードにシルクハット、それに悪趣味な笑う仮面は間違いなく蛭子影胤のものだ。使う戦闘技能にも間違いは一切ない。
「能力はともかく、恰好くらい変えればいいのに」
ぼやく楯無。今までなかった手掛かりを入手して、すこしだけ気が緩んでいるのかもしれない。
「それにしても、今回遭遇したのは翔君じゃなかったのね」
それははやても言っていたことだった。
敵に遭遇するのなら翔だと言って笑っていたはやてには、楯無も笑ってしまった。
「ま、そんなジンクス、いつまでも当たっても困るわよね」
実は楯無も翔の動向には気をかけていた。楯無も少しはそのジンクスを当てにしていたのだ。いつの間にか頼っていたのだ。翔の事件体質を。
「明日からの動きも決まったし、今日は早めに休みましょうか」
まずは身体を清めようと、楯無は立ち上がるのだった。
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俺は放課後が待ちきれなかった。
雪菜から聞いた話ですべてが繋がったのだ。昨日雪菜が遭遇したという敵のおかげで、シナリオが出来上がった。
六課でクローディアと合流した俺はさっそく目的地に出発した。
「クローディア、ここに向かってくれ」
「はい? それは構いませんが。此処は……病院ですか?」
俺の考えはすでにみんなに伝えてある。それに備えて動いてくれているはずだ。
「何か思い当たることがあったんですね? ……昨日の雪菜さん達の戦闘ですか?」
さすがはクローディア、と言う必要はないか。昨日までは確証出来ないと言っていた俺が、突然迷いなく動き始めたのだ。その明らかな変化に気がつかない程、クローディアは鈍感ではない。
「確かロタリンギアの宣教師とホムンクルスだったと言う話でしたが……」
昨日の戦闘はすでに六課に伝わり、素性の調査が進められている。管理局を通してロタリンギア本部へと協力の要請が送られている。
すでに宣教師の素性―――ルードルフ・オイスタッハの名前や経歴は入手出来ていた。
ただ眷獣を使うホムンクルスについての情報は(当たり前だが)出てこなかった。現在調査中らしいが、これからも出てくることはないだろう。
現在管理局はヴィータの証言―――ホムンクルスの眷獣が吸血鬼から魔力を補給していたと言う証言―――を元に島中のホムンクルスの調整施設の調査を行なっている。
オイスタッハが連れているホムンクルス、もう面倒だからアスタルテと言ってしまうが、アスタルテはどこにも登録されていないホムンクルスだった。
オイスタッハがホムンクルスの少女をペットにする特殊な趣味が無ければ、つい最近製造されたホムンクルスという事になる。
「新造されたホムンクルスに眷獣を植え付けて戦力としている。許しがたい行為ですね」
眷獣は吸血鬼にしか扱えない。召喚の代償で寿命を大きく消費してしまうからだ。無限の負の生命力を持つ吸血鬼だからこそ、そのデメリットを無視することが出来るのだ。
だが自分の身の安全を考慮しないなら、ほんの少しの間なら眷獣を扱うことが出来る。それは自殺前提の愚かな行為だが。
その対象として、アスタルテが使われているという事だ。
「少しでもホムンクルスを『もたせる』ために、吸血鬼を襲って魔力を回収していたという訳ですね」
「それに合わせて魔力だけじゃ補えない部分を、島の施設で調整しているってわけだ」
そこで、管理局の権限で島中のホムンクルス調整施設を捜査することになったのだ。
六課を出る前にそういう話になった。
それぞれに調査対象の施設が割り当てられ、今日はパトロールではなくその施設の捜査を行うことになっているのだ。
最近六課に顔を見せていなかった楯無も、今日は六課に来ていた。影胤が発見されたことで、オイスタッハと影胤が協力関係を結んでいたことがはっきりしたからだろう。
この一連の流れは、『ストライク・ザ・ブラッド』1巻の流れそのままだ。だとすれば、島の崩壊についても説明がつく。
オイスタッハの最終的な目的は、この学園島の要石。それを取られるとこの島を支えている呪術が維持できなくなり、島がバラバラになる。
パンドラの予知夢はそれを示していたのだ。
問題はオイスタッハと組んでいるらしい蛭子親子だが……原作のことを考えると、ふわっとした表現になるが、戦いを求めているって感じか?
島が物理的に崩壊すれば、この島の技術や能力者が世界各国に散らばることになり、争いの火種がばら撒かれることになる。
その事が目的かな、とぼんやりと考えていた。兵器としての自分の存在意義について、蛭子影胤は証明したいと思っているのだ。
「それで、どうして病院に? 早くホムンクルスの調整施設を捜査した方が良いのではないですか?」
「その前にちょっと知り合いに会おうと思って」
「知り合い、ですか?」
そう。事件が終わった時に必要なものがある。正直足りないが、準備はできうる限りしておきたい。
「俺達の割り当てがヒットする確率なんて、そう高くないだろ? だからそっちをしておきたいと思って」
「……え? 本気で言っていますか?」
「全然本気だけど?」
「あはは、あまり笑えない冗談ですよ?」
いやいや、冗談じゃないけど? 数的に考えて、その確率の方が何倍も高いよね?
「いまさら翔が当たりを引かないなんて、そんなわけないじゃないですか」
「そう言うジンクスは、信じてるから当たるんだよ」
そんなことを話していると、目的地である病院―――俺が良く入院している病院に到着した。
―――――――――――――――――――――――――
「良く入院してるって言っても、最近は来てないですもんね?」
「そうね。8月末に入院していた気もするけど」
「検査入院じゃないですか。ノーカンですよ」
「もう、だめよ、夜月君」
そして俺の、もはや主治医になっている御門先生。そしてその横に同じく白衣で座っているティアーユ先生。
ティアーユ先生は現在、御門先生の助手としてこの病院に勤務しているのだ。
「それで、今日はどうしたの? わざわざティアまで指名して」
「実はですね―――」
御門先生に言われて、話を始める。
「なるほど、ホムンクルスの調整……」
「だから私も呼ばれたのね」
御門先生とティアーユ先生が2人共腕を組んで頷いている。
まさに女医。普通の白衣のティアーユ先生ですら、組んだ腕が寄せているおっぱいがやばい。服がはち切れそうだ。あの服、絶対胸の所がだるんだるんだよ。
そして医者にあるまじき服装。胸の部分が空いて谷間が視えてしまっている御門先生。血色の良い谷間がさらに強調されている。
この2人に掛かった患者さんは実に気が休まらないだろう。主に下半身が?
「翔? 大丈夫ですか?」
「何が?」
クローディアは俺の後ろに座ってにこにこしているだけだ。
気を取り直し、視線を2人の医師に向ける。
「そうです。今回の事件の終わりにはホムンクルスの娘が保護されそうなので、あらかじめ準備していただければと思って」
「確かに、眷獣を植え付けられたホムンクルスなんて下手な病院には預けられないものね」
アスタルテには眷獣が植え付けられている。
そんな貴重な個体、研究機関が黙っているわけがない。量産出来れば爆弾の様に大量生産され戦地に投入されてしまうかもしれない。
研究機関どころか、アスタルテの情報を漏らすことすらしてはいけないのだ。信頼できる人にしか任せられない。
もう那月先生にも話はつけてある。めんどくさがってはいたが、何かあった時には対処してくれることになった。
「そう言う事なら、もちろん私も協力させてもらうわ。ホムンクルスの調整なら何度もやったことがあるから」
「ありがとうございます」
俺はティアーユ先生に頭を下げた。
「じゃあ私も、院長に言っておくわね」
「あんまり広めないで欲しいんですけど……」
「だからって院長に黙ってるわけにもいかないでしょ? 大丈夫よ。私、院長と『仲が良い』から」
そう言って笑う御門先生。どういう意味で仲が良いんだろうか。
「でも……」
ティアーユ先生が苦い顔をしている。言いづらそうに口を開いた。
「植え付けられている眷獣についてはどうしようもないわね……」
「やっぱりそうですよね……」
根本的に、眷獣が植え付けられているアスタルテの寿命は長くない。いくら調整しても延命がやっとだ。
原作では第四真祖―――吸血鬼である主人公の『暁 古城』が自らの魔力を提供することで問題を解決していたが、俺はあいにく吸血鬼じゃない。そして俺の知り合いには吸血鬼がいない。
今考えているのは、ティアーユ先生がアスタルテの延命をしている間に、協力してくれそうな吸血鬼を探すことだが、
「あら? だったら―――」
御門先生が口を開いた。
「あなたの知り合いの吸血鬼、入院してるわよ?」
「え?」
誰だそれ。
――――――――――――――――――――――――――――――
「おや、君は……」
「貴方でしたか……」
ベッドで横になっていたのは確かに吸血鬼だった。顔は知っていたがまともに話した時間は1分にも満たない相手。
なんとも吸血鬼のイメージにふさわしい金髪の美少女だ。
「レティシアさん。体は大丈夫ですか?」
御門先生が言っていた吸血鬼とは、ブラドの館で戦ったレティシア=ドラクレアだった。
ブラドとの決戦の後、昔の世界に飛ばされたり六課に入隊したりでその辺りの動向について全然気にしていなかった。
ブラドにひどいことをされてしまったらしいけど、この様子を見る限り
「ずいぶん元通りになってきたよ。一時は本当にひどいものだった」
可愛らしい見た目なのに笑い方に品があるのは、それだけ長い時間を生きて来たからだろう。
「あの時、君たちがブラドを倒してくれなければ私はさらなる辱めを受けていただろう。本当に、ありがとう」
「いえ、こちらもレティシアさんがいるのは予想外でしたから」
あの時は本当に思いもよらない人物が出てきて焦ったものだ。
「それで用件は? 今日は単にお見舞いをしに来たわけじゃないんだろう?」
俺の後ろに立っている御門先生たちを見て言っている。理解も早くて助かる。
「はい。実は……」
俺は事情を説明した。
すると、
「良いだろう。すべてが終わり次第、私の所に連れてくると良い。眷獣の制御は私が何とかしよう」
あっさりと承諾してくれた。
「良いんですか?」
「君は恩がある。そのホムンクルスが保有している眷獣がいかほどのものかは分からないが、どうにかしよう」
こう見えてレティシアさんは原作『問題児たちが異世界から来るそうですよ?』では『箱庭の騎士』と呼ばれる純血の吸血鬼。この世界では真祖に最も近い吸血鬼の1人だ。
彼女に制御できない眷獣は、それこそ真祖すら手を焼くような暴れ馬くらいだろう。
そして騎士と名のつく通り、信用に値する人物だ。
「よろしくお願いします」
俺は再度、頭を下げるのだった。
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「うまくいきそうで良かったですね」
「ああ。これで心置きなく事件を解決できる」
アスタルテについて目途が立ったのは本当に良かった。特にレティシアさんの協力が取り付けられたのは本当に僥倖だった。
車に乗り込み、エンジンをかける―――ところで、
《パトロール中の全車へ》
「ん?」
「本局からの連絡ですね」
車に備え付けられている通信機が何やら受信した。
《家の中に不審者が入っているとの通報がありました。付近を巡回中の局員は至急現場に急行してください》
それを聞いたクローディアは、
「行きますか?」
「もちろん」
迷わず頷いて車を降りる。
「飛んでいこう。その方が速い」
「私は飛べませんよ?」
「その場合は、っと」
まずは飛行形態のウイングガンダムを召喚する。そして俺はエクシアを装着した。
「それでは」
俺達は送られてきた住所データに従い、空へ飛び立つのだった。