「さて、始めに聞いておきたいが、素直に我々を逃がすつもりはあるかね?」
「あるわけないだろ!」
「だろうね」
タキシードに仮面の男、蛭子影胤の言葉を真っ向から否定する。
「小比奈」
「はい、パパ」
小比奈と呼ばれた少女はクローディアに向いた。
「あらあら、私ですか?」
クローディアは余裕そうに剣を構える。AMF影響下でもその笑みは変わらない。
「ちょ、やめ……!! 引っ張るな……!! あっ!?」
影胤は傍にいた派手めな恰好した少女からバッグをひったくった。
「(まさか、ここで出てくるとはな)」
その少女の名前は知っている。藍羽浅葱だ。ストライク・ザ・ブラットに登場するヒロインの1人で、天才プログラマーだ。
影胤が彼女にどんな用事があって家を訪ねてきたのかは知らないが、ロクでも無い理由なのは間違いなさそうだ。
なお、藍羽さんが影胤の仲間になっている可能性は微塵も考えていない。そんな性格ではないことを理解しているからだ。
今気が付いたが、部屋の床にはもう1人女性が転がされていた。猿轡を噛まされ縛られているところを見ると、被害者なのは間違いないだろう。
てかあの人、藍羽さんのお母さんじゃないっけ? 流石にお母さんまでは判別出来ないな。挿絵も無いだろうし、アニメでも登場してたっけ?
だが考えるのは後だ。今は蛭子親子を撃退しなければ。
《OOO》
俺は攻撃に移る。
《FINISH TIME! OOO! GIRI GIRI SLASH!》
オーズウォッチをジカンギレードにセット。技を発動させる。
「待ちたまえ、こちらには人質が―――」
影胤がもっともなことを言っているが俺はそれを無視する。間違いなく、あいつは避けてくれる。
クローディアは未来を見ているのか、俺の技の射線上にいても構わず戦い続けている。
ある種の信頼を持って、わざとらしく大振りに剣を振るった。
「セイヤーーー!!!」
刀身に3つの『O』が浮かんだジカンギレードは、剣線に沿って『空間』を切断する。
「は!? ふざけ―――!!」
「ちぃ……!」
「パパ!!」
影胤は舌打ちしながらその場から大きくジャンプする。小比奈にはそもそも当たらないように技を撃った。藍羽さんからも抗議の声が上がっているがすでに遅い。
影胤がいた場所、ついでにクローディアと藍羽さんも巻き込んで空間は横一線にズレてしまっている。
自分の体の見て、藍羽さんが目を見開き、クローディアは構わずに戦い続けている。切断面からは出血していない。だが体は真っ二つ。それが次の瞬間。
「なんだと……!?」
影胤が驚愕の声を上げている。
ズレていた藍羽さんとクローディアの体が元通りくっついたのだ。
オーズバッシュを再現した技だ。信じられないほど広範囲を空間ごと切り裂き、敵以外を修復してしまうド派手な攻撃。
初見の人間が驚くのも無理はない。その隙を突かせてもらう。
《HEY!! FAIZ!》
《SCRAMBLE TIME BREAK!》
今度はライドヘイセイバーの刀身赤く―――フォトンブラットのエネルギーが充填される。地面をなぞるようにヘイセイバーを振るうと、充填されていたエネルギーは地面を這って影胤まで一直線に突き進む。
「おっと」
だがあっさりと回避されてしまった。当たったら拘束できたんだけどな。そううまくはいかないらしい。
しかし、これで藍羽さんから引き離すことが出来た。小比奈はクローディアが引き付けてくれている。
俺は影胤と藍羽さんの間に入った。これで人質に取られる心配もなくなった。
「全く驚かされるよ。まさか人質ごと私を攻撃してきたのかと。まんまと騙されてしまったわけだ」
「……」
影胤だけでなく、横にいる藍羽さんも俺のことを睨みつけてくる。まあ、何も言われずに体を真っ二つにされれば、たとえ助けられたのだとしてもそんな顔になるのは当然だが。
「空間ごと相手を切り裂く武装。このAMF下でそのレベルの魔法を使えるとは思えない。君自身のレアスキルか、それともそのパワードスーツの効果か」
「さあ、どっちだろうな」
影胤はシルクハットのふちをなぞった。
「申し遅れたね。私は蛭子 影胤。君の名前は?」
「管理局、特務六課所属、夜月 翔だ」
「……」
影胤の名乗りに返すと、なぜか仮面の奥の瞳が興味深そうに細められた。
「何だよ」
「(夜月 翔……ジャグラス・ジャグラーが忠告していた警戒すべき人物か)……いや、何でもないさ。まさか、こんなに早く管理局に嗅ぎつけられるとは思ってなかったからね。君の仕業だね、藍羽浅葱」
「はっ! アタシが黙ってあんたに協力するわけないでしょ!!」
まじかこの人。自分のお母さんも人質に取られてる状況でそんな賭けをしてたのか!?
「君の勇気には感服するよ(つまり、モタモタしていると他の局員も駆けつけてくるわけか)」
そう言いながら、影胤は趣味の悪い装飾の施された拳銃を2挺取り出した。
「(最低限、このPCがこちらにあれば計画は進められるが……藍羽 浅葱の回収と夜月 翔の威力調査を兼ねて、少し戦ってみるとしようか)小比奈、そちらは任せるよ」
影胤は俺の後ろに向かって叫んだ。後ろからはずっと剣戟が響いている。俺は振り返らずに―――影胤から目を逸らさずに名前を呼んだ。
「クローディア!」
「私のことは大丈夫です! 翔はそちらに!」
戦っている最中とあって、いつものように余裕のある口調ではない。だがしっかりとした口調で答えてくれる。どうやら実力は互角のようだ。いや、AMFというハンデがあって互角なら、それが無ければすでに勝負は決まっていたかもしれない。
ならば俺の役目はその均衡を崩すこと。すなわち目の前の影胤を倒すことだ。
2丁拳銃を構える影胤と睨み合う。
影胤は引き金を引いた。ためらいなく、藍羽さんに向けて。
「ッ!?」
弾丸を弾いた剣に、予想以上の衝撃を感じた。
「対魔導士用の弾丸か……!」
防弾服やBJの着用が前提になっているこの世界の戦闘では、通常の拳銃は『打撃武器』になっている。体に撃ち込むのではなく、防弾服の上から衝撃を与える武器なのだ。
そこで防弾服やBJ相手にも有効な武器が作成された。1つが武偵弾、もう1つが火薬の量や調合を変えて威力を上げたハイパワーライフルだ。防弾服など言うに及ばず、障壁を展開したBJ越しに、魔導士に有効な威力を発揮する銃。
当然、生身では反動が大きすぎてまともに狙えるものではない。
だが、
「くッ……!」
2発、3発、4発5発。影胤の狙いは正確だ。おそらくは全身を改造手術で強化していることで、この正確な射撃を可能にしているんだろう。
ライダーの装甲にもそれなりの衝撃を与えてくる弾丸を、丸腰の藍羽さんやそのお母さんに当てる訳にはいかない。
必然的に俺が前に出て盾になるしかない。
「
「アイヨ!!」
「ちょ、ちょっと! 何これ!?」
俺の足元から影が伸び、藍羽さんとお母さんを包み込む。これでひとまずの安全は確保されたな。
攻勢に転ずる!!
「はあああぁぁぁぁッ!!」
銃弾の雨を掻い潜り、俺は影胤に接近する。
《HEY!! GAIM!》
ヘイセイバーに今度はオレンジ色のフレッシュなエネルギーが蓄えられる。あと数歩で刃が届く、その直前で、
「ふっ―――」
影胤が手のひらを向けると、
「うわっ!?」
俺の体が不可視の力場に押されて持ち上がる。そのまま家の壁にめり込み突き破る。
「クソ……」
昨日の戦闘映像と同じだ。いくらライダーに力があったとしても、自分の体を持ち上げられてしまえば踏ん張ることが出来ない。近接戦を挑むには足腰や重力だけでなく、別の手段で加速する必要がある。
「ふむ」
影胤は
ガキュン! ガキュン! ガキュン! ガキュン!
その体に何発も銃弾を打ち込んだ。
「特に効果はなし。銃弾で突破するのは難しいようだね」
いくらハイパワーライフルだとしても、物理攻撃で
「オイ! ヘルプ! ヘルプ!」
「分かってる!!」
《BUILD》
新しいウォッチを起動させた。
《FINAL FROM TIME!》
《B・B・B BUILD!》
体の各所がラビットタンクスパークリングのものに変化する。
「エンドレス―――マキシマムペインッ!!」
影胤が
俺の接近を予知して狙いを変えたんだ。
激突する俺の拳と斥力の壁。だが、ただの拳では長くは持たない。だからこそ俺はこの形態に変身したのだ。
軽い破裂音が響く。
「……!? なんだ? これは……!」
跳ね返されるはずの俺の勢いが強まる。そのたびに軽い破裂音が何度も響く。ラビットタンクスパークリングの能力、泡による高速移動をロケットの二段階ブースターのように使って対抗している。
そして、
「ぐっ、が……っ!?」
斥力の壁を突破した拳が、影胤の顔面を捕らえた。派手に吹き飛び転がるが、すぐに立ち上がった。
仮面はヘルメットの役割も果たしているのか、衝撃を食われる感触がした。だがひび割れた仮面の破片が地面にぱらぱらと散らばった。しかしシルクハットを深くかぶり直したせいで、表情は全く分からない。
「ヒ、ヒヒ、痛い。痛いじゃあないか、夜月君。予想以上だよ」
頭から血を流しながら笑う影胤。右手で傷口を押さえているが、白い手袋がどんどん赤く染まっていく。
だがこれで影胤が高ぶってしまったようだ。まだやるつもりらしい。それも、あの様子を見ると周りへの被害など気にしないレベルで。
「必殺技……いや……」
今の様子を見るとイマジナリィ・ギミックを突破することは可能だ。だが力加減が難しい。
「使うか……?」
取り出したのは灰色の3枚のメダル。コイツのコンボを使えば、影胤のイマジナリィ・ギミックの力場を逆に押しつぶすことが出来るだろう。
だが、
「使ったら殺しかねない……いや、うまくやるしかないか……!!」
キンッ!!
3枚のメダルを空に弾く。
《OOO》
起動させたオーズウォッチに、落下してきたメダルが次々と吸い込まれていく。すべて吸い込まれると、オーズの絵柄が変わった。
ベルトにセットし、回転させた。
《ARMOR TIME!》
《SAI! GORILLA! ZO! OOO!》
サイ、ゴリラ、ゾウ、3匹の動物ミニチュアが出現し、俺に装着される。
ただアーマータイムした時とは違う、膨大な力が俺に流れ込んでくることを感じる。
「う―――オオオオオオォォォォ!!!」
その力を吐き出すように、全力で咆哮する。何の能力も使っていないはずが、それだけで空気が震え微細な振動が周囲を揺らしていた。
「これは……」
影胤も俺への警戒度を高めていた。
「
「オ、オイ―――」
パン=ドラで一瞬未来を観たクローディアが戦闘を中断、
クローディアの流石の判断。これで心置きなく暴れられる。そうまさしく、これからコンボの力を開放するのだ。
「逃げないで、うまく斬れないよ―――」
「小比奈、待ちさない!!」
突進してくる小比奈。迫りくる2本の黒刀。影胤の静止の声。だがそれよりも速く、俺の右手が俺の胸を叩いた。
それはゴリラなどの動物が行う動作―――ドラミングだ。
「―――あれ?」
小比奈の体がふわりと浮き上がる。
何度も何度も自分の胸を叩く。そのたびに衝撃波が空間を揺らし、周りの重力を歪める。小比奈だけではなく瓦礫も浮かび上がりその自由を奪う。
サゴーゾコンボの固有能力、重力操作だ。
「エンドレス・スクリームッ!! 何ッ!?」
流石の危機察知能力で効果範囲外に逃げていた影胤が放った斥力の槍だが、超重力にへし折れ、地面に突き刺さる。
じりじりと重力が広がっていく。ギリギリに立っていた影胤はその境界で後ずさりしていたが、
「小比奈、後で迎えに来るからね」
短く言い、影胤は退却していった。
「まっ、う―――」
待て! と叫ぶことも出来ずに俺はその場に膝をついた。そのまま地面に転がり、何とか変身を解除した。
「か、は、はぁはぁ……」
攻撃を受けたわけでも無いのに心臓が早鐘を打っている。
「凄まじいな、コンボは……」
軽くその力を使っただけで周囲の建物を半壊させる能力。特にサゴーゾは広範囲に影響を及ぼす能力だけあって、派手にやってしまった。
サゴーゾの絵になっているオーズウォッチを眺めていると、取り込まれていたメダルが排出されて地面に転がった。
「大丈夫ですか、翔!?」
「ああ、だいじょぶだいじょぶ」
駆け寄ってきたクローディアが俺を起こしてくれる。疲れ切っているが、ケガをしたわけじゃない。
「ううーー!! はーなーせー!!」
小比奈がバインドにぐるぐるにまかれて転がされていた。アレはクローディアのバインドだ。手際が良いな。
「クローディア、その辺りにメダル転がってないか?」
「はい。ええっと……」
「はい、これ?」
綺麗に整えられた爪先が、ゾウのメダルを摘まむ。
「ああ、ありがとう」
「ずいぶん疲れてるわね」
藍羽さんも苦笑している。だが、しっかりとメダルを拾い集めてくれた。俺の掌に乗せられたメダルを倉庫に転送した。
「助かったわ。ありがと。あんた達、管理局の人でしょ?」
「はい。通報を受けたので」
クローディアが答えてくれる。
その後も、どうしてこんな事態になったのか、軽い事情聴取のような事を行っている。
「はぁ……ちょっと休んでいいか?」
「そりゃもちろん。休めるスペースが残ってればいいけどね」
藍羽さんが自分の家を見て言った。
「あー……」
戦闘の爪痕(主に俺の攻撃で)が残る家だ。家どころか、サゴーゾの力で庭まで滅茶苦茶になってしまった。完全に修復するには重機が必要だな。ホントにこれは管理局の経費でどうにかなるんだよな?
「だといいわね。ま、命は助かったわけだし、アタシからも口添えするわ」
「そりゃありがとう、藍羽さん。俺は夜月 翔だ」
「浅葱でいいわよ。気使わないほうがやりやすいでしょ。アタシも翔って呼ぶから」
ずいぶん気安いな。確かにそんな性格か。
「う、うん……まあ、アンタらとはもう少し付き合うことになりそうだし、ね?」
浅葱が気まずそうな表情で顔を逸らすのだった。