午後17時過ぎ、キーストーンゲートに併設されている武偵局。その受付。
そろそろ今日の受付も終了という時間。受付に立つハーフエルフの女性、『エイナ・チュール』は最後の追い込み作業をしていた。
時間ギリギリに滑り込んでくる武偵が列を作っているが、エイナはそれをどんどん捌いていく。
若干19歳ながらこの受付でも上位の手腕を誇るエイナ。その容姿も相まって人気の受付嬢として知られていた。
受付と称して軽いナンパをされたことは何度もあったが、仕事一筋の彼女は全くなびかない。仕事に私情を持ち込まないことを信条にしているのだ。
そして今も、
「エイナちゃん、そろそろ終わりでしょ? その後時間あれば―――」
「手続きは終わりましたので」
受付カウンターに肘をついてナンパしようとした男を、にこりと笑って退散させる。
慣れたもので疲れは全く感じさせない。
そこで、
「……あれ?」
ふと視線を流した先、エントランスの入り口に丁度今入ってきた人影が見えた。
シルクハットの男と、片メガネをかけた大柄な男、そして長い青髪の少女だ。シルクハットの男はその格好には合わないバッグを持ち、長い青髪の少女はその背に銀髪の少女を背負っていた。
中々に不審者だが、この島ではギリギリ普通、通報されないスレスレだ。
「……エイナちゃん?」
「えっ? あ、ご、ごめんなさい!!」
次に並んでいた人が、いつまでたっても処理を始めないエイナに声をかけてきた。慌てて手を動かし始めるエイナだったが、視線は何となくその3人(4人)組を追ってしまう。
シルクハットの男が持っていたカバンからPCを取り出して操作する。
すると突然、
ビーッ!! ビーッ!!
「な、何!?」
けたましいサイレンが鳴り始め、出入り口にシャッターが下りる。
「な、なんだよ、コレ!!」
「突然なんだ!?」
「ふざけんな! おい!!」
閉じ込められたことで、短気な武偵がシャッターに蹴りをいれたり、人によっては拳銃を抜き始めた。
だが、特殊合金製のシャッターには傷一つつかない。だが暴力は周りに伝播して、さらなる混乱を生む。その前にエイナは声を張り上げた。
「み、みなさん! 落ち着いて下さい!!」
さらに異変が起こる。
「っ!? う、ぁ、これ、って……!」
急にエベレストのてっぺんに投げ出されたかのような、抗いがたい不快感がエイナを襲う。この感覚には覚えがある。
「(これ、訓練で受けたAMF……!? 非常事態用のプログラムが働いたの!?)」
エイナの他にも不快な気分に陥っている人は何人もいる。無意識のうちに魔法で身体のサポートをしている人は、余計に影響を受けていた。
その中で平然と立っている不審な3人組。
「では、次だ」
シルクハットの男がPCを捜査する。
すると、
ガシャン!!
床からせり上がった4台の砲塔。それはハイパワーライフルを連射するマシンガンの砲台だ。
それらが周りの人たちを攻撃し始める。防弾制服を貫通する威力の弾丸はあっという間にロビーを血の海にする。
そんな中、平然と立っている3人組。どんなに鈍い人間でも、その3人組がこの状況を作り出したと判断するだろう。
最初の掃射を逃れた武偵がスキを見て攻撃を仕掛けるが、
「ネームレス・リーパー」
それでも群がってくる武偵に向かって、力場で構築された刃を投げつける。防弾制服を引き裂き、鮮血が噴き出した。
その光景に学習し、不用意に近づくことなく銃を構える武偵や管理局員。
全方位から発砲されるが、
「ふむ……」
それらはすべて斥力の壁に受け止められ、跳ね返された。
中には砲塔を狙う者もいるが、手持ちの銃器で破壊できるほどヤワな造りはしていなかった。
カウンターの後ろに身を隠したおかげで怪我をしていないエイナ。
「(キーストーンゲートにテロ行為!? とにかく外部に連絡を……!!)」
そう思って緊急用の端末を取り出すが、
「(繋がらない……通信妨害……っ)」
これでは非力なエイナに出来ることはない。
銃声が止む。
無事な人は物陰に隠れたことで、ターゲットがいなくなったのだ。少しでも体を出せば即座に銃弾が飛んでくるが、ひとまずはロビーは静かになった。
片メガネの男―――オイスタッハが周りに転がる武偵や管理局員を見て、
「ふむ。だいぶ力を温存出来ましたね」
「兵は神速を貴ぶ、とは違うかもしれないがね。ピースがそろったのならすぐに行動に移すべきだ。我々は孤立無援。時間が経てば消耗し、不利になる。目的についてもすでに知られてしまっているだろう」
「対策をうたれる前に行動に移すということですか。しかし、あなたの娘は……」
「捕まったのは管理局だ。拷問の心配はないし、貴重な情報源としてむしろ丁重にもてなされているさ」
影胤の表情は仮面のせいでうかがい知れない。翔に割られた仮面だったが、すでにスペアに取り換えられていた。
「それに、夜月 翔のこともある」
「例の、ジャグラス・ジャグラーが警告してきた人物……それほどでしたか?」
「ああ。魔法に拠らない戦闘手段を豊富に持っている。戦ったが底が見えなかった。君のホムンクルスの眷獣で勝てるかどうか」
「ふむ……」
だが影胤は、翔は疲労しているとも予想していた。単純に逃げたにもかかわらず、特に追撃が無かったからだ。
「(小比奈を捕まえたあの力……あれだけの能力を使えば、それなりに消耗しているはず。行動するなら今しかない)」
「それでは進みましょうか」
逸る気持ちを抑え、オイスタッハはゆっくりと歩きだした。
――――――――――――――――――――――――――――
「―――ちゅうんが、今から30分前、最後の映像や」
映像が終了し、画面には奥へと向けて歩く影胤、オイスタッハ、アスタルテ、そしてアスタルテに背負われたインデックスが映し出された状態で止まる。
「これ以降、キーストーンゲート関連施設へのすべての通信が遮断され、内部にいた職員の安否は不明。キーストーンゲートを中心とした半径100メートルに超高濃度のAMFが展開されている」
部隊長と蛇倉さんが変わりばんこに説明している。
「さらに施設の外に設置されている警備システムも作動。不用意に近づくとハチの巣にされるな」
「AMFの影響でAランク魔導士でも魔法の仕様は困難になっとる。そのせいで管理局の対応は後手後手。今は急いで超能力者中心の部隊を編成している最中」
というのが現状だった。
今はホムンクルス調整施設へ捜査に行っていたみんなも六課に戻り、現在は六課でこの状況の対策会議をしている。
「で、六課なんやけど」
「特に指示はない。ま、本部がダメになってるからな。もともとウチは独立部隊だし、こっちにまで気を配る余裕はないって事だろう」
……じゃあ。
「六課は動かないってことですか?」
「翔君はそれで我慢出来る?」
出来る訳がない。
「そ、だから六課も動く」
部隊長は頼もしい顔でニヤリと笑った。
「だとしても、六課も他のトコとそんなに状況は変わらへん。六課も魔導士主体の部隊やから」
「正面からぶつかるなら、キーストーンゲートの防衛設備全てと戦うことになるな。非効率極まりないことだ」
蛇倉さんも憎々しげに息を吐いた。
浅葱も言っていた。六課の隊長陣が攻め込んでも、計算上ではキーストーンゲートは落とせないと。仮に計算結果を覆したとしても、時間がかかりすぎるだろう。その間に影胤達が目的を遂げてしまう。
核ミサイルでも撃ち込めば話は別かもしれないが、六課にはそんな備えはないし、周りへの被害が大きすぎる。
正面から突撃するのが難しいのなら、
「鏡の中から侵入するのはどうでしょうか」
俺は提案する。
すっかり潜入用になってしまった龍騎系のライドウォッチ。だってしょうがない。ミラーワールドが便利すぎるんだもん。
「鏡の世界を進んで、適当なところ……まあトイレとかですかね。そこで出れば、少なくとも外の防衛設備に関しては無視して進むことが出来ます」
「確かに大幅な時間短縮になるな。何人いける?」
「2人です」
「2人か……少ないな」
シグナムさんの質問に返すと厳しい表情になる。
確かに警備システムが張り巡らされている施設に突入するにしては少ない人数だ。
しかも施設には高濃度のAMF。魔導士はそもそも数に入らない。六課は(この世の大部分がそうだが)魔導士主体の組織だ。
今回突入できるのは、それ以外の能力を使える人物。俺、耀、それとISを持っている楯無さんだ。
「(まあ、数を増やそうと思えば……や、さすがに今回は厳しいか)」
ネタに流されそうだった脳みそだったが、その考えが打ち消される。
運によってはゾルダとか、王蛇とかのライダーウォッチがゲットできるかもしれない。でもそれには行為が必要で、刻一刻と迫ったこの状況でそんなことをしている暇はないのだ。
……よくよく考えてみれば、ライドウォッチが増えたところでアーマータイム出来る人数は変わらないな。俺と、後誰か1人だけだ。
まあ往復すればいいんだけど……
「正面の防御を突破っていう時間を短縮するために、部隊を送り込む時間を増やしてたら意味ないですよね……」
「そうだな。だが、現状それが一番いいプランだ」
蛇蔵さんは顎に手を当てて頷いている。
「はい」
ここで手を上げたのは意外にも、
「耀?」
「翔にちょっと話がある」
「俺に?」
会議に出席している人の視線が俺に集中する。
「思いついたことがあったから試してみたい」
「ふむ……?」
「みんなもちょっと見て欲しい」
俺達は耀の言われるままに外に連れ出され、数分後、会議室に戻ってきた。
耀の『考え』というのは、大成功だった。俺も盲点だったことだが、こういう手段があったのかとビックリしたよ。
「それじゃあ、再開するけどもう結論は出とるね。楯無、翔君、耀」
「「「はい」」」
俺達3人は立ち上がる。
「その3人で突入。建物内部に取り残されている人の救助は最低限に、ルードルフ・オイスタッハ、および蛭子影胤の足止めを優先して」
「「「了解!!」」」
俺達は敬礼した。
「そして、藍羽さん」
「ん」
部隊長に声をかけられた浅葱だったが、PCの画面から顔を上げない。もちろんそれを咎める人はいない。浅葱は浅葱にしかできない仕事をしているのだ。ここに来てからずっと。
「あとどのくらいかかりそう?」
「あと1時間かからないわ」
あと1時間で浅葱がキーストーンゲートの制御を取り戻すのだ。
「そのまま作業を続けて。藍羽さんが作業を完了次第、魔導士組も突入。こっちは救助をしつつ、先遣隊と合流。犯人を逮捕します」
「この情報はほかの部隊にも伝えます」
蛇倉さんの手配で六課の動きは伝えられていた。
「いつタイムリミットが来てもおかしくない。みんな、動き始めよう!!」
その声で、俺達は各々の仕事に取り掛かるのだった。
―――――――――――――――――――――――――
残された時間は短い。出発は5分後だ。それまでに準備を済ませてヘリポートに集合しなければいけない。
俺もトイレを済ませて集合場所に向かっていたが、
「ん?」
通路の突き当りに設置されている自販機の前に、2人の人影を発見した。話には聞いていたけど会議には参加していなかった、ステイルと神裂だった。
神妙な顔で何かを話している。
俺は先ほどの映像のことを思い出して話しかけた。
「ども。どうかしました?」
「……あなたは」
「何でもない。気にしないでくれ」
そっけない態度だった。
それもそうだろう。何せインデックスが誘拐されているのだ。
先ほどの映像でも見たが、影胤達が連れている。だが、それについてこの2人に伝えることは蛇倉さんに禁止されていた。曰く、余計な情報を渡して勝手に動かれるのを防ぐためだとか。
思わず声をかけたが、余計なことは言えないからな……
微妙な空気が流れる中、
「あれ? アンタこんなところで何してんの?」
声をかけてきたのは浅葱だった。俺の横を通り過ぎ、自販機で飲み物を買った。
「浅葱こそ」
「アタシはプログラムを走らせてる最中。ちょっと休憩よ」
腰に手を当てて小首をかしげる。そんな姿も様になっているように見えた。
「そろそろ出発でしょ? さっさと行った方が良いんじゃない?」
「ああ、すぐに行くよ」
ちらりと後ろを振り返ったが、魔術師達はすでに会話する気はないようだ。
俺は2人から離れて歩き出す。浅葱は横に並んだ。
すると、ぽつりと口を開いた。
「……ごめん。アタシのせいで危険な役割することなって」
「悪いのは犯人で浅葱じゃない。無事に帰ってくるから心配するな」
「ま、アンタが強いのはもう見てるしね。その辺りは心配してないわ」
「実際、3人で突破出来そうか?」
「さあ? アタシは戦いの専門家じゃないから。内部データは送ったし、そっちの更識さんの方がわかるんじゃない? あの人、日本国防を担ってる家の人でしょ?」
「……そりゃそうか」
雑談しながら歩いていく。
「先輩! 更識先輩が出発するって―――」
雪菜が顔を出した。
「ああ。すぐに行くよ。それじゃあ、言ってくる」
「ええ。気を付けて」
「そっちも頼んだぞ。早めに復旧させてくれれば助かる。じゃあ雪菜も。また後で」
俺は駆け足でヘリポートへ向かった。
――――――――――――――――――――――
ヴァイスさんが操縦するヘリで現場に向かっている。
管理局に包囲されているキーストーンゲート。その外側が目的地だ。
「それでは皆さん! 気を付けて!!」
そう言って飛び去って行く。
「それじゃあ行きましょうか」
突入メンバーは俺、楯無さん、耀の3人。メンバー的に楯無さんがリーダーだ。
「了解です」
俺はジクウドライバーを装着した。
《ZI-O!》
《RYUKI!》
「変身!!」
《RIDER TIME! 仮面ライダーZI-O!》
《ARMOR TIME!》
《ADVENT! RYUKI!》
俺はジオウの龍騎アーマーに変身する。
「それじゃあ……」
俺はナイトのウォッチを取り出して、
「やりましょうか」
突入開始だ。