「なるほどなぁ……」
キーストーンゲートへ出発する直前の車両の外、そこではやてとフェイトが魔術師から事情の説明を受けていた。インデックスに施された忌まわしい宿命を。
「ああ。だから我々は呑気に救出を待ってるわけにはいかない」
「はい。このままではあの娘は……」
ステイルと神裂は神妙な面持ちになっていた。2人としては、これ以上の真実は話しようがない。信じてもらえなければ、強硬手段に訴えることを決めていた。
それでイギリス清教と管理局の仲が悪くなっても、この2人は実行するつもりだった。
「インデックスちゃんにそないな事情が……まあ、イギリス清教の虎の子やし、そういう処理があってもおかしくはないのかもしれないけれど……」
「それでも、そんなの……」
はやてとフェイトは憤りにも同情にも似た感情を浮かべていた。
インデックスの
完全記憶能力。一度見たものを瞬時に記憶し、絶対に忘れないという能力。それを使って10万3000冊もの魔導書を記憶しているのだ。
「確か魔導書は1冊でも危険なものだと聞きますが……本当にそれを10万3000冊も?」
フェイトの質問にステイルは頷いた。
魔導書は魔術の使用方法がまとめられた『力のある書物』。魔術や宗教的な防壁の無い一般人は、1冊読むだけで発狂する危険がある。
そのため魔導書の原典はバチカンや大英博物館に厳重に封印され、一般人の目に触れないようになっていた。管理局でもいくつか管理しているモノがある。
「ああ。その代償としてあの娘は脳の85%を魔導書の知識に占領されてしまっている。残りの15%で記憶できるのは、たった1年分だ。それを超えてしまえば、あの娘は死んでしまうことになる」
「……そうなる前に、我々はあの娘の記憶を消さなければいけないんです」
感情を殺して話すステイルとは違い、神裂は絞り出すように言った。これが演技なら神裂は名女優になれただろう。
「それは……」
フェイトはそれ以上かける言葉を見つけられなかった。その様子を見て、フェイトは色々なことを悟ったのだ。
目の前の2人が、記憶消去などさせまいと手を尽くした結果、記憶を消すしかないという結論にたどり着いたのだと。
「魔導書、か……」
はやてが小さく呟く。
自らも『夜天の書』という魔導書の主だ。夜天の書は魔術師が管理する魔導書とは少し毛色が違うが、魔導書によって運命を狂わされたという点は共通していた。はやての場合は、それが幸運に働いたのだが。
だからこそ、魔導書によって不幸になる人物を見逃してはおけない。
「はやて、どうする?」
「そやね……とりあえず部隊のみんなに共有、してもええ?」
「ああ、構わない。だがあまり広められるのも困る」
はやての問いかけにステイルが頷いた。
「分かっとるよ。この話はうちの部隊の中だけに留めておく。インデックスちゃんを奪還したら最優先で地上へ輸送。病院や無くてお二人に引き渡す、という事でええ? あ、一応うちの部隊からも1人―――フェイトちゃんに同行してもらおうかな」
「僕は先に教会に戻り、儀式の準備をしたいと思う。神裂が1人で残ってくれ」
「分かりました。そちらの同行についても了承します」
こうして方針が決まった。
「よし! じゃあ出発しよか! みんなへの共有は車の中で!」
はやてが号令を出し、車輛が出発した。
――――――――――――――――――――
始まった戦闘。
俺と耀のペアがアスタルテを引き受け、影胤とオイスタッハを楯無さんが相手取る。
これは元々決めていたことだ。AMFを無効化できるISだが、神格波駆動術式を搭載している
「耀さん、よろしくね!」
「ん」
楯無さんが水を纏ったランスを振ると、水が蒔き散らされる。俺達の足元にも、影胤達の足元にも。
水たまりの1つに、耀が吸い込まれる。
「何……?」
「これは……」
影胤達が警戒しているが、
「ほらほら! よそ見している暇は無いわよ!!」
思考をぶった切るために楯無さんが攻撃する。魔力で作り出した水は、楯無さん最大の武器だ。しなる水の鞭が、横薙ぎ に2人を襲った。
空中に散布された水滴は影胤の斥力フィールドの範囲を正確に割り出す。そのせいで楯無さんが力場に捕まらない。
オイスタッハの鎧もかなりの剛力を付与しているはずだが、水のように動く楯無さんには攻撃がかすりもしない。それどころか斧に水がまとわりつき、その動きを鈍らせていた。
その間に、インデックスの近くに造った水たまりから耀が顔を出し、ちゃっかりインデックスを確保。そのまま水たまりの中に消えていった。
「奇妙な能力を持っているな……」
影胤が呟く。
耀にはインデックスの避難をお願いした。
ミラーワールドを使って隔壁の向こうに連れて行ってもらっている。とりあえずインデックスはこれで大丈夫だな。
でもこれで耀が戻ってくるまで、俺は1人でアスタルテを相手にしないといけない。
だったら、
「ここはスピードでかく乱する!」
《ACCEL》
俺は真紅のライドウォッチを取り出す。
《ARMOR TIME!》
《ACCEL! ACCEL!》
2回、ACCELという音声が鳴る。分かりにくいかもしれないが、前半はガイアメモリの、後半はライドウィッチの音声だ。
本家と同じような真紅の装甲に車輪。仮面には『アクセル』の文字が刻まれていた。
「よっと!!」
纏っている装甲が変形する。
本家アクセルに搭載されている変形システム。ジオウでも再現されている。
スロットルを吹かし、前輪が浮くほどの勢いで発信する。
その直後、俺がいた場所に
だが当たらない。平面はおろか壁や天井すら爆走する俺に、拳はかすりもしない。
後ろを取り、エンジンブレードで斬りかかった。
「ちぃ……! 硬いな……!」
だが、火花を散らして弾かれてしまう。純粋な魔力の塊である眷獣には物理攻撃は意味が無い。
《FINISH TIME! ACCEL MAXIMUM TIME BREAK!》
エンジンの回転数が上がる。
空中で回転し、赤いタイヤの軌跡を残しながら後ろ回し蹴り―――アクセルグランツァーを繰り出した。
正面から喰らった
この分だと十分に戦えそうだ。
俺は再びバイクに変形し、アクセルを噴かしたのだった。
――――――――――――――――――――――――
戦場は膠着状態になっていた。
楯無の目論見通り、翔達は時間稼ぎに成功したのだ。このままいけば影胤達はこの場を突破することできず、管理局に捕まることになるだろう。その可能性は非常に高い。
ほとんど決まった戦局。だがそれを快く思わない人物がいた。
―――――――――――――――――――――――――
《FORM TIME!》
《TAKA!》
《GATLING!》
インデックスを隣の隔壁の奥に避難させた耀が戻ってきた後、俺達は連携して戦っていた。
ビルドアーマーのホークガトリングになった俺は空を飛び、専用武器のホークガトリンガーで弾丸の雨を降らせていた。
同じように飛びながら火球を発射する耀。
だが
「さすがに火力が足りないか……」
その拳を避けつつ呟く。
だがあくまでも俺たちの目的は敵の足止め。この膠着状態をできるだけ長引かせるのが目的だ。
だが、インデックスの様子も気になる。戻ってきた耀に聞いた話によると、かなり具合が悪そうだったとの話だった。
もしかすると、こっちにもリミットが迫っているのかもしれない。
俺に攻撃が向いているところに、耀が吐き出した火球が命中する。背中に着弾して爆発を起こすが、ダメージが入っているようには見えなかった。
相変わらずアスタルテの防御は鉄壁だった。これが眷獣の力だ。魔法の攻撃だけでなく、物理的な攻撃もシャットアウトする。これを吸血鬼だけが使えるというのだから、そりゃ強いと言われるわけだ。
すると突然、
「―――がッ!?」
俺をすさまじい衝撃が襲った。タカの羽がバラバラにされ、俺は墜落してしまう。さらにその衝撃で変身が解除されてしまい、ビルドウォッチとボトルが地面に転がった。
「翔!?」
「翔君!?」
地面に転がった俺を見て、耀と楯無さんが声を張り上げる。その声が耳に入るころには、揺れていた視界が収まり始めた。
「何、が……?」
同時に疑問符が浮かぶ。
今のは誰の攻撃だ? アスタルテの攻撃は完全に避けていた。オイスタッハはあそこまでの遠距離攻撃の手段は持っていないはず。じゃあ影胤か? 楯無さんとの戦いの最中、隙を見つけて攻撃してきたってことなのか? あいつがいくら強くてもそんなこと出来るのか? なにより、楯無さんが許すわけがないはずだ。
だが、均衡が崩れかけているのは間違いない。
俺は再度変身するために、急いで地面に転がっていたビルドウォッチを拾い上げる。
《BUILD》
「変身―――」
「待った」
「え?」
ビルドウォッチを持っていた手を横から掴まれる。
「だ、誰だ、お前……!」
見たことのない男だった。フードのせいで顔が半分以上隠れているが、体格や口元を見ればその判断は出来る。
この場所に人がいること、そいつが戦闘に介入してきたこと、今の今まで俺たちの誰にも存在を気取られていなかったこと。
すべての要因が、この男が危険であることを示していた。
「翔、離れて!! そいつは―――!」
「おっと」
猛スピードで俺のところに突撃してきた耀だったが、男の指から放たれた赤い球体が直撃する。
「耀!!」
「大丈夫だ。威力は絞ってある」
男の言う通りだった。まともに当たった耀は反対側の壁まで吹き飛ばされている。だが意識はあるようだ。殺すつもりなら、今の攻撃で死んでいたんだろう。
その事実にゾッとするが、
「それよりも」
男の声で思考が打ち切られる。
男はもう一方の手をマジックのように振った。するとその手にとあるアイテムが握られた。
「ただ変身するだけじゃつまんないだろ?」
悪魔のトリガーだった。
ソイツはビルドウォッチに近づけ、
《HAZARD ON!》
悪魔のトリガーを―――ハザードトリガーを起動した。起動されたハザードトリガーがビルドウォッチに吸い込まれる。
すると、赤と青2色だったビルドウォッチが焦げ付いたような黒に変わった。
俺の意識は完全にソイツに向けられていた。外敵など眼中に入らない。そいつが握っているウォッチこそが最大の敵だ。
「離せ……ッ!!」
「まあまあ、『いいから変身しろよ』」
「っ!?」
俺の意思に関わらず体が動く。俺の抵抗が現れているのか腕は震えているが、それでもウォッチがベルトに装填され、
「変、身……っ!!」
《RIDER TIME! 仮面ライダーZI-O!》
《ARMOR TIME!》
《YABEE! HAZARD!》
変身したジオウの上に、真っ黒いアーマーが、通常のビルドのものと違ってかなりスタイリッシュになっている。
「電子レンジ?」
最後に鳴った『チン!』という音に、楯無さんが感想を漏らしている。どこか気の抜けたような声色だ。
赤と後ではなく、黒が基調。漆黒ではなく、焦げ付いたようなくすんだ黒だ。仮面に書かれているビルドの文字だけが赤と青2色になっている。ハザードフォームはハザードフォームでも、ラビットタンクの力を使っている証拠だ。
だが俺はこの姿に『変身してしまった』ことに、全身から冷や汗を流すのだった。
コンボには原作通りの疲労効果があった。つまり、デメリットも引き継いでいる可能性が高い。
そして、ハザードのデメリットは本当にシャレにならない―――
「アスタルテ、やりなさい!!」
「
オイスタッハの命令が飛ばされる。
突然現れた謎の男にいいようにやられてしまった俺と耀。その間、アスタルテはフリーになっていた。誰にでも攻撃出来る状態だ。
壁に叩きつけられていまだに起き上がれないでいる耀にとどめを刺すのか。影胤とオイスタッハの2人を相手にしている楯無しさんを一気に押し込むのか。
だが、アスタルテが向いたのは俺だった。
「ベルトを操作させてはいけません! その隙を与えないように!」
「馬鹿野郎! 何言ってんだ……!!」
俺はヤケクソに叫ぶが、敵であるオイスタッハが聞き入れる訳がない。
アスタルテが執拗に俺を狙って来る。
俺はとっさに拳で応戦する。
「っ!?」
驚愕の表情を浮かべた。それがわかるほど、あのアスタルテの表情が変わった―――ように見えた。
俺のパンチの威力が、
「これがハザード……じゃなかった!」
俺は急いで変身を解除しようと試みる。
そこに、
「『いいからそのまま戦え』って」
「うぐっ!?」
ウォッチを取り外そうとする俺に、謎の男の声が響く。それだけで腕の動きが止まる。
「じゃ、頑張れよ」
そのまま男は笑いながら消えていった。どこかテレポートしたのか、はっきりとしたことは分からない。
そして、それは問題じゃない。
アイツがいなくなっても変身解除できない。しようとすると体が拒否する。つまりアイツの言った通り、このまま戦うしかないんだ。
こうなったら、『アレ』が始まる前にこの場の戦闘を終わらせるしかない。
「はっ!!」
下手な能力はいらない。単純な肉弾戦で十分だ。
起き上がりに踵落とし。強引に寝かせたところに何度も拳を叩きつけ、影胤やオイスタッハの方向にブン投げる。
「ま、まさかここまでとは……!!」
オイスタッハが憎々しげに呟いている。
「よし行ける……!」
ハザードの性能があれば、時間稼ぎではなくこのまま取り押さえてしまうことも出来る!
「楯無さん! このまま行きましょう!! ……うっ!?」
それは唐突に来た。
鈍い頭痛。それがどんどんひどくなりつつある。
「焦らないで! 目的を忘れずに―――」
楯無しさんの注意もどこか遠くに響いている。
俺の意識は段々と薄れ、まるで夢を見ているかのような気分になる。
身体の力が抜け、全ての神経が再接続されるような感覚が―――
次回、ハ ザ ー ド は 止 ま ら な い。