高級ホテル最上階。信じられないことに、そのフロア丸々一つぶち抜かれ巨大な部屋になっていた。4面の壁のうち1面は全面ガラス張り。狙撃してくださいと言っているようなものだが、聞いてみると超硬質ガラスをさらに魔術で補強しているのだとか。
そんな規格外の部屋の中央に置かれた2脚の椅子。そこに聖天子様と向かい合うように大柄な男が立っていた。
高そうなスーツをビシッと着こなし、片眼鏡をかけている。この男が『斉武 宗玄』だ。
「……隣の者は護衛でしょうか?」
「はい。そうです」
「ふむ……貴様は『夜月 翔』だな」
俺そんなに有名人かな。いきなり名前あてられたんだけど。
「手が速いですな、聖天子様。こんなに早く自分の陣営に引き込んでしまわれるとは」
「……おっしゃっている意味が分かりませんが?」
「将来有望な人材には早めに粉をかけておく。基本でしょうに」
「私はそのような意図で護衛の依頼をしたわけではありません」
あ、なるほど。斉武も武偵殺しの事件資料を読んでたんだな。
あたりまえだけど、
そのため、人材の確保は常に必須。優秀な人材はいくらでもいるって訳か。斉武の場合、優秀な兵隊かもしれないけど。
「ほうほう。そうでしたか。では、私が何と言っても構いませんな? 夜月 翔、俺の元に来い」
「は?」
俺が納得していると、ヘッドハンティングされてしまった。
「お前は俺と同じ、犯罪者を許すタイプではない。そちら側にいては、そのうち身を滅ぼすことになるだろう」
「言っている意味が分かりませんが……?」
この爺さん、わざと混乱するようなことを言ってるんじゃないだろうな。さっきの聖天子様の時然り。聖天子様があんなこと……思ってる訳、無いよね?
「クックック、そうか、自覚はないか。まあいい。それでは聖天子様、始めましょうか」
「……はい」
なんかにやけている斉武と暗い顔の聖天子様。対極な2人の会談は、終始斉武のペースで進んでいったのだった。
________________________
「……まあ、気にしなくていいんじゃないですかね」
「……はい」
あたりは真っ暗で、おまけに雨まで降っている。俺、クロ、聖天子様を載せたリムジンは、前後を2台ずつの護衛車に挟まれ、聖天子様の邸宅へと走っていた。保脇は一番前の車に乗っている。
日が沈んだせいもあって街灯しか車を照らす光はない。クロはそんな窓の外に目を向けたままこっちを見ないでいる。
会談は無事……とはいかないものの終わりを告げた。『天童 菊之丞』が帰ってくる前にもう一度会う約束を強引に作られたくらいで。
「ま、あのおじさん。自分がしゃべりたいことだけしゃべってる感じだったし。次の機会を作ったのも、繰り返して自分の考えを刷り込ませようってんじゃない?」
窓の外を見たままのクロも分かりづらいフォローをする。
会議の内容は、テレビのニュースでやっているような内容から、それこそ一部の重要人物しか知らないであろうことまで。俺たち、また嫌なことに首を突っ込んでしまったのかもしれない。
その中でも特に耳に残ったのは、
「全世界を衛星で監視、犯罪が起きた瞬間に超望遠レンズと精密レーザーで犯人を焼き殺すシステム……」
『キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー』に出てきた『インサイト計画』のようなものだ。
「なかなかやばいこと考える人ですね」
実現できるかはさておき、本気で言っているのがマジでイッてる。そんな奴に、『お前は俺と同じ側だ』って言われた俺もやばいけどな。
「いえ、その……私が言いたいのは……」
「俺たちを引き入れるとかなんとかって話ですか?」
「……はい」
そっちを気にしてたのか。会談中も心ここにあらずだったし、それなりに気にしてるとは思ってたけど。
「私にはそんなつもりはありません。ただ単に、あなたたちのことを信用できると思ったから、こうして護衛を依頼したんです」
「……もうちょい、利口に立ち回ってもいいんじゃないですかね。別に俺にだって選ぶ権利はあるわけですし。多少腹に何か抱えるのは普通でしょう?」
俺は秘密が多すぎるけどな。人には言えないことが多すぎて困ってしまう。
「理想と現実は、バランスをうまくとらないと大変ですよ?」
「……ありがとうございます。護衛のほうは引き続きしていただいてもよろしいですか?」
「もちろんですゴハッ!」
クロにお腹をけられた。ごはんを食べた後だったらリバースしていたところだ。
「来たよ! お兄ちゃん!」
でもそれは、よくある嫉妬から来たものではない。敵の襲来を告げるものだ。
―――――――――――――
「さっき会ったあの子、敵だ」
「はぁ!?」
買い物も無事終わり帰路についていた俺は、横を歩いているクロにそんなことを言った。
案の定、クロはなかなかオーバーなリアクションをしてくれる。
「……今回の事件、知ってるのね、お兄ちゃん」
クロは本当に理解が速くて助かる。クロは俺の言葉からこれが何かしらの作品の原作イベントだと理解したんだ。
「あの子は聖天子様を暗殺しようとしているスナイパー。だからクロを連れてきたんだよ」
今回の依頼を受けるにあたって、みんなには誰か1人と一緒に行けと言われたとき、俺は迷わずクロを指名した。
理由は単純で、スナイパーに対抗するにはスナイパーが一番だからだ。
どちらかというと近接系に能力と武器が寄っている俺では、かなり厳しいと判断したのだ。
「何時どこで狙ってくるの?」
「会談の移動中が一番怪しいけど、どこから狙ってくるかまではわからない」
だが、どのような方法で狙われているのかがわかれば、いくらでもやりようはある。
そして、狙撃に対してはクロが無類の力を発揮する。いかにティナだろうと、宝具の矢を連発するクロをそうやすやすと突破できるとは思えないしな。
魔力の問題は、新しく手に入れたアレのおかげでどうにかなりそうだし。
「分かったわ。任せて、お兄ちゃん!」
―――――――――――――――
俺はすぐさま聖天子様を押し倒して窓から頭が見えないようにする。が、数秒経っても窓ガラスから銃弾が飛び込んでくることはない。
まさか、クロのミス―――?
「な、なによ、これ……ッ!!」
クロの焦った声。いつも余裕があるクロには珍しい、聞くことが少ない声だ。
そして、ガラスのブチ割れる音が車内に響き渡った。ただし側面のではない。割れたのは、フロントガラスだ。
小さな人影が、フロントガラスから侵入してきたのだ。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
降り注いだガラスによって体を切り裂かれた運転手が、悲鳴を上げる。手で傷口を覆ってしまったため、ハンドル操作が疎かになる。
スリップしかける車。遠心力で体が引っ張られるが、強引に
青白い光に包まれる刀身は、要人用に頑丈に作られているリムジンに縦に切り込みを入れる。
が、すでに人影はそこにはいなかった。
回転し始めていた車が、さらに損傷したことによって、めちゃくちゃな動きになり、一瞬左右の感覚が分からなくなる。
電柱に当たったことで停止するが、命があったことをのんきに喜んでいる場合ではない。攻撃はまだまだ続いているのだ。
「大丈夫か!? 聖天子!!」
「ん……っ、翔、さん……?」
よし、意識はある。衝撃で混乱してるだけだな。
ほっとしたのもつかの間、はるかかなたのビルのてっぺんが一瞬に光った。
マズルフラッ―――ッ!!
「
俺の目の前に、石を直接削り出したような大剣が4本突き刺さる。俺の身長よりも大きいそれは、俺たちの体を光った方向から完全に遮断していた。
銃弾が当たり、剣でひび割れたアスファルトに追加のダメージが入る。この衝撃、戦車用の弾でも使ってんのかよ!!
「
後ろから迫る
服の影を利用した、
これを避けられる訳がない。
実際、爪弾は命中した。
その後ろから、
「なにぃッ!!」
「どいて!! お兄ちゃん!!」
クロの射た矢が、3人目の敵に命中する。いつもの戦闘服に加え、頭にシンプルなバンダナを巻いている。
このバンダナが、俺が新しく手に入れた道具だ。
無限バンダナ
メタルギアシリーズに登場するアイテム。
装備することで手持ちの飛び道具の弾数を無限にすることができる。
先日手に入れた道具だ。実験の結果、クロが矢として投影した時に限って魔力の消費がゼロになったため(アーチャーが弓を使う戦法を主にするのはどうかと思ったが)今回はクロに持たせて狙撃対策にした。
その結果が今の状況だが。
「変身!」
《PERFECT PUZZLE》
《Dual up!》
《Get the glory in the chain! PERFECT PUZZLE!》
俺はパラドクスに変身。倒れた3人の後ろの暗がりから近づいてくる
が、これはクロの距離だ。3本の矢を同時に放ち、命中させるという離れ業をやってのける。
それにひるんだのか、追撃はなく、辺りは雨の音だけになった。
「……お兄ちゃん、どうなってるの?」
「こっちが聞きたいよ」
腰を抜かしてへたり込んでしまっている聖天子様をおんぶして無事だった護衛車両に連れていく。
顔を真っ赤にした保脇の怒鳴り声は、たった今起こった暗殺未遂に考えを巡らせる俺の耳には全く入ってこなかったのだった。
________________________
とあるビルの屋上。一人の少女が立っていた。
足元には、少女の身長の倍以上の大きさのアンチマテリアルライフルが横たわっている。近くには、その銃に装填するであろう大きな弾丸の薬莢が転がっていた。
少女は一度深呼吸して、小さく唱える。
「
少女の服装が、青いドレスへと変化する。手には1枚のカードが握られていた。
携帯を取り出し、唯一登録されている番号に電話を掛けた。
「すみませんマスター、失敗です。護衛に阻まれました。不利と判断したため、一時撤退して待機しています」
《……何? 不意打ちのお前の攻撃を防ぐことができる護衛が付いていたというのか? 何者だそいつは。情報はなかったが……》
「2人いました。一人は男性。途中からおかしなパワードスーツを身に着けました。もう一人は私と同じくらいの女の子。暗かったのと、それぞれ顔を仮面とバンダナで隠していたため視認できませんでした」
《……いいだろう。その2人に対しては私が調べておこう。ご苦労だった。ティナ・スプラウト》
「……はい」
電話を切ると、少女――ティナはいずこへと消えていった。
――――――――――――――――――
「くそくそくそ! 目障りな男め! あの無能が護衛しているから聖天子様は狙われるんだ! いや、もしかして、あいつが情報を流しているんじゃないのか? そうに違いない。 あいつが護衛に着いた途端狙われたんだ。それ以外に考えられない!!」
安脇は自室で神経質そうに爪を噛む。親指の爪が歪に形を変えていく。
「このままでは聖天子様の命が……何としても奴を排除しなければ、しかし、聖天子様が直々に指名した男だ、将来はともかく、今の私は聖天子様に意見などできない……あの金に汚い生意気な小僧を消すには……」
暗殺。
保脇はニタリと顔を歪ませる。
「そうだ、目には目を歯には歯を、暗殺には暗殺を。あいつが聖天子様暗殺に加担しているんだ。その手があったじゃあないかッ!!」
武偵は殺しはご法度となっているが国によってはそうでないところもある。あくまで少数派ではあるが殺しを専門とするものも存在するのだ。そうでなくてもこの島の闇は深い。少し探せば非合法な研究結果をお披露目したい研究者は山ほどいる。
(待っていて下さい、聖天子様。私があなたをお救いします)
優秀な保脇にはそれなりのツテがある。そこから足がつかないように慎重に事を進める。うまくいけば暗殺の阻止だけでなく犯人の逮捕、用済みになれば翔に差し向けた暗殺者にも一緒に手錠をかけてしまえば良い。
さらにこの事件で自分の能力の高さが証明されれば聖天子様との距離が一気に縮まり、あわよくば……
醜いプランが頭の中に構築されていく。
「クククッ」
これからいずれ訪れる未来を想像し、顔がにやけてしまう。
抑えきれない笑いを押し殺していた保脇は、
背後から『矢』に射抜かれた。
結構原作に変化を入れ始めましたけど、広げた風呂敷をたためるんでしょうかね……?