《MAX HAZARD ON!》
その電子音とともに、装甲から黒い霧のようなモノを噴出させ始めるジオウ。
「
アスタルテが命じ、
「ッ!?」
アスタルテはその速度に対応出来ない。
黒い暴力装置になったジオウが振り上げた拳を叩きつける。
そうなればもう駄目だ。マウントポジションを取られ、拳を蹴りを、雨あられと叩きつけられる。
何とか
空中でタカの翼を展開して停止。そのままホークガトリンガ―を構えた。
「ッ!?」
変わったのは打撃が弾丸になったという点だけだった。同じ武器でもハザード以前とは比べ物にならない。
結局何もできずに魔力を削られていく。
その戦いの結末は最初から決まっていた。
―――――――――――――――――――――
機械化兵士である影胤は、常人なら出血によるショック死を引き起こすような怪我でも、その意識をかろうじて保っていた。
だが、指一本動かせない。動くのはぼやけた視界だけだ。
その視線の先に映るのは、アスタルテの眷獣と互角---いや、それ以上の力で暴れまわるジオウだ。
敵味方問わず、外敵を徹底的に破壊するキラーマシーン。
声すら上げずに攻撃を続けるジオウは、まさに戦闘のための機械だった。
圧倒的な光景に、影胤の動かないはずの口が開く。
「欲しい」
その声色には隠し切れない。
「私は君が欲しいよ、翔君……!」
動かない手を必死に動かし、その力を求めるのだった。
――――――――――――――――――――――
何とか体勢を立て直したアスタルテだったが、ハザードのスピードに翻弄され続けていた。
そんな最中、
「……っ」
それはハザードの攻撃の成果だけではなく、アスタルテの問題でもあった。ハザードフォームの攻撃に対抗するための眷獣の全力使用。それがアスタルテの体を蝕んだ結果だ。
内部に取り込まれているアスタルテも、表情を変えず泣き言も言わないが、全身から脂汗を流し、その顔は真っ蒼になっていた。もはや眷獣を維持するだけの余力をアスタルテは持っていない。
その隙を見逃さない。
《FINISH TIME! HAZARD! TIME BREAK!》
空中へ舞い上がり、
「―――」
タカの翼を羽ばたかせ、必殺のライダーキックを発動させた。
激突。
「ッ!!」
楯無は水のヴェールを盾にしてその衝撃から身を護る。
眷獣を形作っていた魔力がバラバラになり、激しい光になって飛び散った。
どさっ! と人が落下する音がした。眷獣の中にいたアスタルテだ。青く長い髪はぼさぼさに乱れているが、
「ぅ……ぁ……」
小さなうめき声が聞こえる。危険な状態だが生きていた。
「(良かった……)」
楯無は胸を撫でおろしていた。
命令に従うホムンクルスにはそこまでの罪はないと考えていた。今の戦いでも分かったが、オイスタッハの命令を聞かなければ攻撃行動をとっていなかった。
眷獣を植え付けられて無理矢理従わされてたのならば、刑務所に入ることはないだろう。
それに加えて、今の翔では『やりすぎてしまう』可能性があると思っていたからだ。
だがこうして良い塩梅で無力化することが出来た。
主犯の2人は虫の息だが、この島へのテロ行為という大罪を犯している。戦闘中に殺されたとしても文句は言えないし、基本的に敵に殺人がNGとされている武偵や管理局員であっても、罪や責任を負うことはないだろう。手加減して負けてしまっては意味が無いのだから。
「(だとしても、翔君の攻撃は異常だった)」
あそこまで淡々と相手を処理する動き、普段の翔とは思えなかった。時間稼ぎをするという目的も完全に忘れてしまっている。
その点は注意しなければいけない。
「翔君」
そう思って声をかける。だが、
「ちょっと、聞いてる?」
聞こえていないはずがない。だがジオウは無視して前に歩く。アスタルテの方に。
具合の悪いアスタルテを慮っている……わけではない。急いで駆け寄っているわけではなく、ゆっくりと近寄っている。
「……翔君?」
その動きに不審なものを覚える。
ジオウはアスタルテを抱き上げる。ただし、
「ちょ! 何やってるの!?」
それは背負うでも、両脇を持ち上げるでも、お姫様抱っこでもない。
首を両手で包み、締めあげながら持ち上げたのだ。
「ぅ゛ぁ゛……っ」
気道を塞がれたアスタルテが弱々しく抵抗する。もちろん、そんな抵抗は意味をなさない。酸素を取り込めないことで、アスタルテの意識が遠くなり始める。
このままでは窒息死―――その前に首がへし折れることになる。
「やめなさい!!」
楯無は本気で流水による砲撃を叩きつけた。
魔力だけではなく実際の質量を伴った攻撃は、無防備なジオウの横っ腹に突き刺さる。
大きく吹き飛ばされるジオウ。だが、大したダメージになっていない。
立ち上がり、楯無を真っ直ぐに見る。
仮面の奥の翔の目。それと目が合ったような、そんな錯覚がした。もちろんそんなものは錯覚だ。今の翔には意識はなく、目の前の敵を排除するだけなのだから。
「ッ!?」
ノーモーションで姿がブレ、目の前で繰り出された拳。楯無がそれを何とかいなすことができたのは、翔の様子があまりにおかしかったからだ。
「勘弁してよね!」
楯無の声に翔は何一つ返さない。後ろに下がる楯無に対して無言で距離を詰め、鋭い拳を何度も繰り出す。
その拳が眷獣をブチのめす威力を持っていることを知っている楯無は、冷や汗を流しながら必死に捌く。
殺気がない。ただ目の前の障害を破壊するための攻撃だ。おおよそ人間による攻撃とは思えなかった。そしてこれが、翔の意志によるものだとも思えない。
つまり、
「暴走状態ってことか……!」
翔が見たことの無い姿に変身するのはいつものことだが、今回はあのフードの男に強制的に変身させられた姿だ。本人の意思に反して何か変な機能が追加されていてもおかしくはない。
例えば、本人の意思に関係なく相手を殺すような機能を。
そう考えれば、今までの動きにも説明がつく。あの男によって強制的に今の状態にさせられたのだ。
「思いっきりぶっ飛ばして、おとなしくしてもらうしかないわね」
壊れたテレビを叩いて治すように、衝撃を与えて元に戻すしかない。眷獣を正面から叩き潰す相手を。
「まったく……全部終わったら、色々と教えてもらわないとね」
苦い笑みを浮かべながら、そう呟くのだった。
―――――――――――――――――――――――――
「うぅん……?」
ぼんやりと耀の意識が覚醒してきた。
「あれ、私、どうしたんだっけ……?」
遠くではまだ派手な破壊音が続いている。その音で、今自分が何をしている最中だったのかを思い出した。
「そうだ。私、アイツに……」
直前に見た赤い閃光と凄まじい衝撃。何をされたのかはわからなかったが、そのせいで今まで昏倒していたのだ。
「呆れた頑丈さだな、お前。最低出力とは言え、まともに喰らったってのに」
「っ!?」
隣から聞こえた声に、耀は飛び起きる。
あのフードの男がすぐ隣に腰かけていたのだ。
「お前……っ」
耀はそう呟くや否や、鋭い蹴りを放つが、
「だから意味無いって」
男に当たる直前に脚が止まってしまう。だが攻撃されたというのに、男は何の行動もとらない。敵対する意思が無いのか、そもそも攻撃とも思っていないのか。
「そんなことしてないで。ほら、見ろよ」
耀も、男に攻撃しても無駄だと悟り、言われた通り現在行われている戦闘に視線を向ける。
今までは音でしか感じていなかった戦闘だが、実際に視界に入れると信じられない光景だ。
「翔……?」
変身した翔が、楯無相手に攻撃を仕掛けている。戯れというレベルではない。本気で相手を潰すための攻撃だ。
「すごいもんだ、ハザードフォームは。流石の俺も、ただのパワーだけで眷獣を殴り飛ばすなんて、俺でも骨が折れるようなことをサラッとやっちゃってさ」
「眷獣を……?」
眷獣と言えば、先ほどまで自分と翔が戦っていた相手だ。2人の攻撃でもなかなか有効打を与えることが出来ず、時間稼ぎに徹していたあの?
翔ならば何か奥の手を持っていても不思議ではないが、それでも耀には納得できない内容だった。
そんな考えを見透かしたように、男が笑って告げる。
「ああ、違う違う。俺が変身させたんだよ。ハザードフォームにな。コイツはな、正義のヒーローが人殺しをする回に出て来たヤベー代物なんだよ。実際ヤバかったな」
「あなた……翔にそんなことして、何が目的なの?」
男の適当な口調に、耀は怒りを何とか抑え、問いかける。
「俺の目的、なんてどうでもいい。今はそれどころじゃない。そうだろ?」
「翔があのまま暴れまわるから、って事?」
「ああ。俺もハザードフォームの正確な能力は知らんから、お前ら2人で戦えばなんとか出来るかもしれないが……少なくとも2人は今すぐ処置しないと命に係わるぞ。や、もう死んでるのかな?」
翔はいざとなれば人を傷つける覚悟がある。だが、自分の意思に関係なく、敵味方問わず虐殺したとすれば話は別だ。
そんなこと、耀が許すわけがない。
「……それじゃあ、あなたがこれ以上何もしないなら行くけど」
「何もしない。約束しよう」
軽い調子で男が言う。
「早く行ってやれ。観察していたが、更識 楯無1人じゃ、ハザードフォームの相手は荷が重かったみたいだ。この場では、お前が一番の切り札だ」
男の言葉を普通に考えれば、ここからもう1人加われば翔をどうにか出来る、という意味だ。
だが耀は別の意味を感じ取った。どこか、それ以上のニュアンスを含んでいるのではと。
「どういう事?」
「
「……っ」
耀は唇を噛みしめる。
今回、自分の力が大きく拡張される感覚があった。それでもまだ足りないというのか。それ以上に、自分の力について、自分以上に知っている目の前の男が気に入らない。
「そんな怖い顔をするなよ」
「……あなたは何を知ってるの?」
「それが人にものを聞く態度か、問題児? ……っと、冗談冗談。教えてやるって」
耀の殺気が向けられたことで、おどけるように両手を上げて降参のポーズをとる。
そして、口を開いた。
―――――――――――――――――――――――――
「―――」
「ぐうぅ……っ」
ISが稼働の限界を超えて悲鳴を上げている。
ジオウは右手にジカンギレードソードモード、左手にはホークガトリングを持ち、楯無に肉迫する。
ミラーワールドに逃げ込むことも出来ない。楯無が長時間姿を消せば、他に攻撃が向くかもしれないからだ。倒れたまま動かないアスタルテや、いまだに戦線に復帰しない耀などに。
攻撃のために利用しても、超人的な反応速度で迎撃される。死角から攻撃しても、
結果として、防御のために一瞬だけ入り、距離を取ってすぐに出る。そのくらいにしか使えない。
むしろそう言った回避手段を取らなければ、すでにやられていた可能性が高い。衝撃を与えて元に戻すなんて、夢のまた夢だった。
「(手加減なんてしてられないわ!! 大技を使っても、動きを止めないと!!)」
散布する水滴。大技を繰り出すための準備だ。それに気を取られたせいで回避が疎かになる。
楯無の右の脇腹から嫌な音が聞こえた。
「―――う、ぐ……っ!!!」
派手に吹き飛ばされ、地面に転がる。
確認するまでもない。ジオウの蹴りが突き刺さったのだ。
常に纏っている水のヴェールはハイパワーライフルの弾丸を完全に受け止める。ISには装着者を守るために常に最適な防御魔法を張るシステムがある。
それらすべてが威力を殺してもなお、ここまでのダメージを与えてくる。むしろこの場合は、楯無が戦闘不能にならなかったことを賞賛しなければいけない。
「(肋骨、何本逝ったのかな……! 無茶苦茶ね、ホントに……っ)」
傷口を押さえると、インナーが破れているのが分かった。
「でも」
ゆっくりと近寄ってくるジオウを見る。一言も発せずに淡々ととどめを刺そうとするその姿は恐怖の一言だが、楯無の顔には笑みが浮かんでいた。
「……距離は取らせてくれたわね」
準備していた魔法を起動させた。
「―――
水を霧状にして散布。一気に気化させて水蒸気爆発を起こす大技だ。
範囲を絞りつつも威力は最大で。このブロック全体が揺れるほどのエネルギーが発生する。
起き上がった楯無にホークガトリンガーを向けていたジオウは避けきれるわけもなく、その爆発に巻き込まれる。
発生した霧はすぐに晴れる。
痛む体を引きずって、楯無は様子を確認する。
そこには。
「倒れてる……?」
地面に倒れ伏しているジオウがいた。
数秒の間動かなかったが、
「う、嘘でしょ……」
ジオウがゆっくりと起き上がった。
ダメージはあるようだが、戦闘不能には陥っていない。
楯無が武器を構える、その時、
「―――!!」
「ッ!?」
何かが横からジオウに撃ち込まれ、大きく吹き飛んだ。
続いて響き渡る銃声、いや、それはもはや大砲の音だ。
「今度は何よ……!!」
楯無はいら立ちを隠しもせずに、音の合った方向を見る。
そこには、
「
右手で緑色を基調とした巨大な大砲を構えた耀が立っていた。