「か、春日部さん!? その能力は……!?」
まさか耀からも、今まで見たことの無い武器が飛び出してくるとは思わなかった楯無。
「ん、今出来るようになった」
耀は詳しく説明する気はない。説明したくても詳しい理論は分からないし、使えるのならばそれでいいと思っていた。
この状況を打破できるのなら。
アドバイスをした男はすでにいなくなっている。その言葉を思い出した。
「(
それはこの世界に来た当初の耀の認識だった。
「(でも、それが違うってことは薄々気づいてた)」
例えばブラドのスタンド『スケアリー・モンスターズ』。あの恐竜とは特に友情を結んだりはしていない。ただ一度か二度接触しただけだ。
それなのに、彼らの超反射神経を自分のものにしている。
そのことが頭の隅にあったからこそ、今回、ミラーモンスターの力を得ることを思いついたのだ。
「(
そして接触していない種であっても、首飾りをその種の特徴を取り入れた意匠の武装に変化させ、系統樹を組み上げることで未知の種族の恩恵を模倣することが可能だ。
どんな理不尽な相手に対しても、すべての種の力を使えるという点で勝率が0にならない。
原作では『対魔王・
「下がってて。私がどうにかするから」
「え、ちょ、今の翔君、普通の状態じゃないから―――!!」
話しているうちに、立ち上がるジオウ。その攻撃目標はたった今攻撃を行った耀だ。
ジオウが狙いを定めた瞬間、耀が担いでいた大砲が光りとともに消え失せる―――否、本来の姿である木彫りのペンダント、
「
今度は白銀の翼があしらわれたブーツへとその姿を変える。
淡い光を放つソレは、空を駆けるペガサスの恩恵を備えたものだ。
耀の体が空へ飛び立つ。それを追い、タカの翼を広げたジオウ。二人が空中戦を繰り広げる。
翼をはためかせて飛ぶジオウとは違い、耀はブーツが発生させる力場のようなモノで飛行する。
空でより自由が利くのは耀だった。
ホークガトリンガーの銃撃をかいくぐり、踏ん張りのきかない空中でも回転を乗せた一撃を叩き込む。
「やあ!!」
攻撃しか頭になかったジオウは、その耀の蹴りを避けられない。地面に激突し、転がるジオウ。
「すごい……」
楯無は思わずそう漏らす。
今の結果は楯無がダメージを与えていたこともある。だが、耀の急成長によるところも大きかった。
「これが、ダメ押し……!」
銀色のブーツがペンダントの姿に戻り、
「
再度ペンダントが変化する。銀色の重厚な装甲、そしてそれにつながるように、右手にはメタルゲラスの頭部と角を模した武具が顕現する。
角を突き出し、まっすぐジオウへ向けて。
「―――」
ダメージを負ったジオウに、それを回避することは出来ない。直撃し、今度こそ動かなくなる。
こうして、ようやくジオウの変身が解除されるのだった。
―――――――――――――――――――――――――――
「う、ぐ……っ」
意識が急速に浮上してくる。
恐らくはハザードトリガーによる脳への強化剤の浸透がなくなったことで、脳の回路が再接続されているんだ。
だが記憶がなくなったわけではない。
夢の中で体を動かすような、ふわふわとした感覚だったが、紛れもなく現実で起こったことだ。
同時に体中が痛みを訴えかけてきた。
これにも覚えがある。楯無さんと耀が俺を攻撃したことによる怪我だ。
ハザードフォームの対処方法が強制変身解除だとは知らないはずだけど、結果的にどうにかなってよかった。
体の向きを変えるだけでもかなりつらいが、この程度は甘んじて受け入れる。それ以上に被害を確認しないと。
「翔君、正気かしら?」
「楯無、さん……」
口調は普通だが、わき腹を押さえて顔をしかめている。俺が攻撃した部分だ。
「まったく、やってくれたわね、ホントに」
「すいません……ありがとうございます」
「お礼なら私だけじゃなくて、春日部さんにも言いなさい」
「そう、ですね」
俺はこの場で唯一怪我をしていない耀へ視線を向けた。
「翔、戦闘は終了したのか?」
にゅ、とレプリカが出て来た。
「済まない、翔。機能が停止していたようだ」
「機能が停止……?」
一体どうして……あの男の仕業なのか?
だが、もうアイツはいなくなっている。考えても仕方ないことだ。もう、終わったことなんだ。
「ホント……」
酷い目に遭った。と、言いそうになって口を閉じた。どう考えても、周りの方がひどい目に遭っている。
「とりあえず、春日部さん。インデックスさんをこっちに連れてきてもらえるかしら」
「わかった」
そう言って耀は姿を消す。ミラーワールド経由で向かったのだ。
「さてそれで、この場をどうしましょうかね……」
ため息を吐きつつ、視線を周囲に向ける楯無さん。俺達の周りには俺達と戦っていた敵が全員倒れている。まさに死屍累々だ。
「楯無さん、あの2人は……」
「まだ生きてはいるわ。すぐに治療すれば助かると思う。その後どうなるのかは分からないけどね」
そのまま死刑になるか、刑務所にぶち込まれるのかって事だろう。
「影胤もですか?」
「生きて捕まえられるのならそうするわ。元々、そういう話になってたしね。捕まえた後は上の人の判断よ。っ、ふー……っ」
楯無さんも大分しんどそうだ。
「誰のせいだ、誰の」
「すいません……」
俺が頭を下げると、
「まったく……」
ため息を吐いた楯無さんは地面に転がっていたアイテムを回収してくれる。
「こっちは押収しておくわね」
「わかりました」
ハザードトリガー以外を受け取った。別に惜しくはない。あれ単体で使う事なんて、今後ないだろうし。
そうしていると、
「翔!!」
慌てた様子の耀が水たまりから飛び出してきた。
「ど、どうしよう! この娘、すごく具合が悪そうだよ!!」
背中に背負っていたインデックスを、俺のすぐ横に横たえた。
汗まみれの顔に銀髪が張り付いている。ささやかな胸部は、その荒い呼吸で何度も何度もせわしなく上下していた。時折顔をしかめてうめき声を上げている。
「ただの風邪、じゃないわよね……もしかしてアイツらに、何か毒物を仕込まれてた?」
楯無さんがもっともな理論を組み立てるが、恐らくそうではない。そしてこの状態。恐らくタイムリミットが近づいている。
これはなりふり構ってはいられない。
「すぐに地上に行きましょう」
「……何かあるの?」
楯無さんはすぐに察したようで、余計な言葉は省いてくれる。
「このままだと、この娘が死にます」
「原因は?」
「禁書目録です」
俺はあえてインデックスではなく禁書目録と言った。
「彼女が保有している禁書が、彼女に悪影響を及ぼしているって事?」
「そもそも楯無さんは禁書目録の秘密は知っていますか?」
「知らないわ。春日部さんは?」
「私も知らない、です」
俺は2人に向けて説明する。
「―――という訳です」
「……なるほど、そういうことなのね。理解したわ。どうしてそんな機密をあなたが知っているのかは置いておくとして」
「……ひどい。1年おきに記憶を消すなんて」
楯無さんは本当に優秀な人だ。疑問は湧いて出ているはずなのに、今必要な事象を理解して、適切に受け止めている。
「この体調不良がタイムリミットの前兆ってことなのね」
「そのはずです。タイマーでもあればわかりやすいんですけどね。正確な時刻は魔術師に聞かないと」
「わかったわ。重傷者2名のこともあるし、何とか動くとしましょうか。春日部さんにメインで動いてもらうと思うけど、行けそう?」
「はい。行けます」
耀が動き始める。
「あ、さっきの話ですけど、まだ続きがあるので、上に向かってる最中に説明します」
「分かったわ。道中で聞きます」
俺達が動こうとしたとき、
ガコン!! という大きな音と共に隔壁が開き始めた。
その向こうには、
「特務六課本隊、到着しました!!」
スバルさんを先頭にした、特務六課の本隊がいた。一直線にこちらに向かって来る。
「タイミング良いね」
「そりゃ清々しいほどの皮肉だな」
耀が悪い顔で呟いている。
「せめてあと10分早かったら、翔を元に戻すのが楽だったのに」
「その節は本当に申し訳なかったと思ってるから……」
そんなことを話していると、
「先輩! 無事ですか!!」
「翔君!」
雪菜とアスナも踏み込んできた。
そして横になっている俺を見て、顔色を変えた。
「翔君……!? 大丈夫!? どこかケガしたの!?」
「ケガと言えば、まぁ。全身痛いか」
「今回は一体どんな無茶をしたんですか?」
「翔が敵に寝返りそうだったからぼこぼこにして、おとなしくさせた」
「「え?」」
おい、適当なことを言うな。敵に寝返りそうになった瞬間なんて、一瞬たりともないだろ! 敵味方関わらず暴走しただけで!
俺達が適当な話をしていると、
「ゴメンね、楯無ちゃん! インデックスちゃんは先に連れていかないといけないから!」
スバルさんがインデックスのことを連れて行こうとしている。この場の誰よりも優先して。
これはもしかして、上の方で何か交渉があったのかもしれない。そしてこれだけ急ぐという事は、タイムリミットが近くなっているという予想も間違いではないのだろう。
「痛つつ……それなんだけど、翔君から話があるらしいから、彼もいっしょに連れて行ってもらえるかしら?」
「私が背負っていきます」
耀が手を上げた。
「?? わ、分かりました! それじゃあ行こっか!!」
「はい」
スバルさんは首を傾げたが、特に質問することなくすぐに頷いた。緊急事態で迷う時間が惜しいのだろう。
スバルさんがインデックスを、耀は俺のことを背負う。
「全速力で行くから、ついてきてね!」
「大丈夫です。翔、しっかり掴まっててね」
「はいよ」
耀の体が浮かぶ。
俺達は一足先に、外へ向かうのだった。
―――――――――――――――――――――――――――
「詳しく説明して、夜月君。時間も無い事やし手早くな」
地上に戻った俺は、八神さんにインデックスについての説明を行うことになった。
俺もここに来るまでに話を聞いたが、どうやら六課とイギリス清教の間で情報共有が行われたらしい。
インデックスを早く上に連れて行こうとしていたのも、俺の予想通りタイムリミットが近づいていたからだった。
その証拠に、八神さんの後ろにいる神裂が苛立たしげに眉を寄せている。余計な話で時間を浪費したくない。それが表情から滲み出ていた。
そんな神裂をフェイトさんが心配そうに見ている。
「はい」
だが、この説明を放棄するわけにはいかない。
「結論から言いますと、今夜インデックスに行われる予定になっている儀式―――記憶消去は必要ありません」
「……何ですって?」
たった一言で、神裂の表情が変わった。
「あなたは、何を根拠に……!!」
「神裂さん!!」
フェイトさんの制止を振り切って詰め寄ってくる神裂。襟を掴まれ、憤怒の表情で睨まれる。
「適当なことを言うな!! そんな下らない妄想のために、貴重な時間を浪費するつもりかッ!!」
下手な言葉を続ければ、そのまま拳が飛んできそうだ。
慎重に言葉を選ぶ。
「インデックスの記憶を消さなければいけないのは、魔導書の知識で脳の容量が圧迫されているから。そうですよね?」
「……そうですッ! だからもう時間がない! あの娘は完全記憶能力はどんな些細な内容でも記憶し、忘れることが出来ないんです!!」
「だから、元々魔導書の知識で埋め尽くされているインデックスの脳は、その些細な記憶の積み重ねですぐに容量がいっぱいになってしまい、死んでしまう」
「だから……!!」
だから、自分たちを早く解放して欲しい。その言葉が出ないほど、神裂は冷静を失っていた。
俺は静かに告げる。
「俺もそうですよ」
「……はい?」
「ですから、完全記憶能力。俺も持ってます」
「……はぁ?」
神裂はぽかんとした表情になる。
まあ俺の場合、この世界に来てからの後付けだけどな。
だから完全に記憶しているのはここ半年の記憶だけ。でも、周りにとっては生まれつき持っていると思われるだろう。その勘違いを利用させてもらう。
「1年で15%、でしたっけ? 脳の容量がいっぱいになって死ぬんだったら、俺、とっくに死んでますよ」
「そ、れは……」
この辺りについて、少し調べればすぐにわかることのようにも思うが。魔術師ゆえにネット検索という手段を思いつかなかったのか、単に上司の言ったことを信じ込んでしまったのか。
言葉を詰まらせる神裂。畳みかけるように、つまり、と続けた。
「完全記憶能力は人を殺すような体質じゃないってことです。インデックスの記憶を消す必要なんてないんです」
「……っ」
自分たちが涙を呑んで取った選択が、実は無意味なものだった。その事実に、神裂の表情が歪む。よく見ると涙すら浮かべているようにも見える。そのことに罪悪感を感じるがこうしないと話が進まない。
だが、そんな神裂の様子を見かねたのか、八神さんが助け舟を出す。
「んー……でも、現に苦しんどるわけやろ? インデックスちゃんが記憶しとるんは魔導書。それが悪さしてる可能性は? 例えば、普段よりもたくさん、脳の容量を消費してるとか」
「それはないです」
俺はきっぱりと否定する。
「仮に魔導書にそんな効果があったとしても、圧迫されるのは知識を記憶する意味記憶だけ。思い出を司るエピソード記憶を消したとしても、何の解決にもなりません」
「そ、っか……」
その助け舟はあっけなく沈没してしまった。
「翔、詳しいね」
「……まあ、自分の事ですからね」
フェイトさんの賞賛に顔を反らしながら答え、話を続ける。
「……では、どうしてあの娘は苦しんでいるんですか?」
「そやね。実際、記憶を消したら体調は戻るんやよね?」
「はい……それは、間違いありません……」
八神さんの疑問に神裂は弱々しく頷く。
「簡単ですよ。インデックスが1年周期で記憶を消さなければ生きていけない。そういうシステムを作った人がいるんですよ」
俺の発言に、その場の全員が息を呑むのだった。