「システムを、作った……!? どういうことですか!」
神裂が先を急かすように早口で言う。
「インデックスには『1年周期で記憶を消さないと死んでしまう』そんな術がかけられているんです」
「……ありえません。そんなこと」
神裂達は1年間ずっとインデックスと一緒にいた。当然、怪しい術がかけられたとすれば気づいているだろう。
「はい。あの娘に何かされれば、我々が気が付かないはずがない」
「部外者の仕業じゃないから、じゃないのか?」
「……どういうことでしょうか」
神裂は分かっていないようだが、
「はぁ……なるほどなぁ」
八神さんがうんざりとした様子でため息を吐いた。
「つまりは神裂さんのお仲間―――イギリス清教がインデックスちゃんに術をかけた、っちゅうことやな」
「そんな……! 何の為に!」
「裏切りの防止、敵に渡った時の安全装置。強い武器には色々と制限をつけておかないと、自分に向けられた時が怖いやん?」
意外にも八神さんが淡々とした口調で言う。や、自分も管理局ではそう言った立場にいるからこその意見なのかもしれない。
こう見えてこの人は、『歩くロストロギア』の異名を持っているくらいなんだ。
「……っ」
神裂も『聖人』という力ある特性を持っている。自分にも心当たりがあるのかもしれない。
「だから、その術を解除出来れば、インデックスちゃんが記憶を消す必要は無いって事やね」
「その通りです」
ここで悲壮感にくれていても仕方ない。八神さんが話を進める。
まあ実際、どんな術がかけられているのかは分からないんだけどね。
脳みそに細工して1年でいっぱいになるようにしているのかもしれないし、1年周期で相手を殺す呪いが掛けられていて、そのカウントを戻すトリガーが記憶消去になっているのかもしれないし。
「だとすると、今から解呪を行うのは時間的に難しいのではありませんか? どのような術なのか分からないのでは。だとすれば、やはり今回は……」
「や、そこは問題ないんやない? なあ、翔君?」
「ですね」
「どういうことですか?」
神裂は俺の右手について知らない。
「俺の右手には
「それなら……!!」
神裂の顔に希望の光が灯る。喜びに笑みがこぼれそうになる顔を引き締めて頷いた。
「……一度試してみたいと思います」
無理をして神妙な顔を作っていた。
時間をかけずに無効化できるのなら、儀式にも影響はないだろう。その結論に至ったことで説得が成功する。
「では、さっそくお願いします」
インデックスはすでに車の中に乗せられている。そちらを指し示してくるが、
「……や、ここでするのは危険ですね」
「何故ですか?」
……どう説明するか。
理由としては、1回の
キーストーンゲートの目の前で、そのモードになってもらうのは困るのだ。
だが流石にこれは、自分が完全記憶能力を持っていても推理しきれるものではない。だが、こう言うしかない。
「……まあ、あれですよ。俺みたいにこの秘密に気が付いて、術を解除しようとした場合のカウンターがあるんじゃないかと思ったんです。だからもう少し人気のない……そうだ、イギリス清教の教会とかに行った方が良いんじゃないかと思います。」
「そう、ですか……そういうのなら……」
少し納得していないように見えるが、それ以上は何も言わなかった。ダメだった場合、すぐに記憶消去の儀式に入れると思ったんだろう。
だとすればすぐに移動、という話になると思いきや。
「ん、ちょっと待ってな」
八神さんに通信が入った。
「ん、あ、了解了解」
「部隊長?」
「ん、突入しているみんながそろそろ上に戻ってくるって」
ああ、説得にも結構時間がかかっちゃったからな。これじゃあ、先に戻ってきた意味がなくなっちゃったな。
「そう言う事。でも事情が変わったことやし、インデックスちゃんのことは、みんなですることになりそうやね」
八神さんが肩をすくめて言うのだった。
―――――――――――――――――――――――――
みんなが戻ってきた。
集まったところで状況説明、今後の方針を伝える。
全員揃って教会に向かうことは出来ない。流石に持ち場を放棄することは出来ないからだ。
教会に向かうのはフェイトさん、ティアナさん、雪菜、耀、アスナそして、俺だ。
「じゃあ早くいきましょう。時間もないことですし―――」
「「「は?」」」
なんだかみんなの声が重なった。
「先輩、何言ってるんですか?」
「や、何って―――」
「動けないくらいケガをしてる翔君が、何を言ってるのかな?」
「や、でもね……」
「『でも』、じゃ、ありませんよ先輩。先輩は病院です」
雪菜とアスナにきっぱりと断言されてしまう。だが、俺には体を引きずってでも行かなければいけない理由がある。
「インデックスの『首輪』を破壊するには、俺の幻想殺しがないとダメだろ?」
「いえ、私の雪霞狼があれば十分ですよ」
俺が右手を握ると、対抗するように雪菜が雪霞狼を振る。
「そやな。雪霞狼で十分なら、翔君には病院に行ってもらったほうがええな」
八神さんも同調して頷いた。
楯無さんはすでに、いつもの病院に搬送されているらしい。俺もそこに運ばれようとしている。
どちらも魔力を無効化する性質を持つ。確かに『2段階目』なら雪霞狼で十分だろう。だが、1段階目の『場所』は刃物で触れるには少々危険すぎる。
「……そう言えば、場所の説明はしてなかったか」
俺がやる気満々だったから忘れていた。
「場所、ですか?」
「ああ、その呪いの魔法陣というか、そういうやつが刻まれている場所……の予想」
俺は慌てて付け足した。
当然、俺が確定情報を知っているわけがない。でも事情を知っている女の子達には伝わっているはずだ。これが真実であると。
「どこでしょうか、その場所というのは。私はあの娘と1年間過ごしてきましたが、心当たりがありません」
1年という長期間、魔術を持続させるには、相応の準備とその核となる魔法陣が必要だ。霊装に刻んだり、時には体に刻んだり。
「彼女が常日頃から身に着けるものは支給されている『特殊な修道服』だけですが、見ての通り今は着ていません」
特殊な修道服というのは原作にも登場していた『歩く教会』の事だろう。『教会』として必要最低限な要素だけ詰め込んだ『服のカタチをした教会』。
神裂やステイルの攻撃にもびくともしないという防御霊装だが、アレは関係ない。
「当然、彼女の体に刻まれているという事も無い。誰かがこっそりかけ直しているという事でしょうか? いや、それはないか……」
身体に刻まれていることはない。断言するなぁ。まあ、確認する機会もあったんだろうな。女性同士だし。
誰かが掛け直すという線も、神裂やステイルの監視を潜り抜けては難しいだろう。
「……先輩?」
「話を続けると、えー、体に刻まれてる……と考えています」
「ですから彼女の身体には……いえ、続けて下さい」
「神裂さんでも見ていない場所にあるんじゃないですか?」
「私でも見ていない場所……?」
その言葉でみんなが考え始める。
「クイズにするつもりは無いので言ってしまうと、喉奥にあるんじゃないかなーと……思うんですよね。ほら、普通そんなとこ人に見せないし。例え同姓でも」
「じゃあ、確認してみよっか」
アスナがすかさずアシストしてくれる。
「そうですね。そこまで言うのなら」
神裂も頷く。
2人で車に乗っているインデックスの所に向かった。
すぐに2人は戻ってくる。
「あった?」
「うん。喉の奥に魔法陣があったよ」
「何処の系統に属する術なのかは分かりませんでしたが」
アスナが頷き、俺は胸を撫で下ろした。原作と位置が変わっていなかったこともそうだが、ここまで推理を披露しておいて『違いました』では格好がつかない。
「な? そこに雪霞狼は厳しいだろ?」
「……そうですね」
雪菜は悔しそうに顔を歪めた。
どんなに技量があろうとも、刃の幅がある雪霞狼をインデックスの口の中に突っ込むのは不可能だ。
「……わかりました。最初だけ先輩にお願いします」
「ああ、その後何かあればみんなにお願いするよ……まあ、何もないかもしれないけどね!」
最後に慌てて付け加えた。
まあ、何かあるのは確定してるし、できればそっちにも手を出したいんだけどな。相手が相手だ。今の俺では間違いなく足手まといになる。
俺たちの会話を遮るように、
「大丈夫」
耀が待ったをかけた。
「耀?」
「翔はこのまま病院に行って。私がどうにかするから」
「や、どうにかって……」
どうにかしようと思って、どうにかできるモノでもないと思うんだけど。
「見てて」
そう言って、耀はとあるものを見せてくる。
それを見たみんなは、
「うん。なら翔君は無理に行く必要はないんじゃないかな?」
「そやね。翔君以外にも出来るなら、翔君には早よ病院に行ってもらわな」
「翔はゆっくり休んでてね。私達でどうにかしちゃうから」
「そうですね。あ、救急隊の皆さん。この人がどこかに行こうとしたら絶対に止めて下さいね。そういう人なので」
あれよあれよという間に救急車に詰め込まれ、俺は病院に搬送されることになってしまった。
何なんだ、あの異常な連帯感は。
救急車の車内、雪菜の注意もあってか皆さんの視線が厳しい。これは脱走出来なさそうだ。もともとまともに動く身体じゃないんだけどね。
「携帯はいじってもいいですよね?」
俺は知りうる限りの情報をみんなに送り、力を抜くのだった。
――――――――――――――――――――
「それじゃあ、始めましょうか」
フェイトの言葉にその場の全員が頷いた。
イギリス清教の教会に到着後、話はスムーズに通された。
儀式の準備をしていたステイルは、インデックスの喉奥の魔法陣を見ると一瞬で意識を切り替え、協力的になっていた。
教会の建物に囲まれた中庭のような場所、その中心がインデックスの儀式の場所として準備されていた。今はそこに寝かされているが、儀式のためではない。
インデックスを取り囲むようにBJを纏ったフェイト、ティアナ、雪菜、アスナ、ステイル、神裂が立っている。
また、魔術の心得のあるシスターは建物に被害が出ないように防御用の結界を張っていた。それは建物に張られた、ステイルのルーンが刻まれたカードを保護する役目もある。
準備万端。だからこその『始めよう』という言葉だった。
先ずは第一段回。翔が行う予定だった喉奥の魔法陣の破壊だ。
代わりを買って出た耀が、寝かされているインデックスの前に立つ。
「ふぅ……」
軽く息を吐き、目を瞑る。
すると、ぼんやりと耀の体が光ってきた。
「(耀さん、本当に……)」
それは雪菜にとってなじみのある光だ。自らが持つ槍の光に酷似しているのだ。
耀はさっきまで、アスタルテの眷獣である
雪菜の雪霞狼の神格駆動波術式を解析、搭載した眷獣と。
そのため耀はすでに、
それは腕力や防御力だけではない。眷獣が持っている特殊能力すらも、自由に行使できる。
魔力を無効化する神格駆動波術式すらも。
「(耀さん、どうしてこんなに一気に……私の一番の武器を……)」
そんな雪菜の想いをよそに、耀が光を携えた指をインデックスの口の中に挿入する。
それはすぐに起きた。
否、起こるのが分かった。
「獅子の巫女たる高神の剣巫が願い奉る」
霊視によってその未来が見えた雪菜は、祝詞を捧げ始める。その行動に迷いはない。霊視による未来予知もそうだが、何よりも翔からの連絡で『コレ』が起こるのは分かっていたのだ。
雪菜の行動に、事情を知らない者は怪訝な表情になる。だが、それよりも、
「わっ!?」
「耀ちゃん!」
耀がインデックスから弾き飛ばされた。
その耀をフェイトが抱き留める。
「大丈夫?」
「はい。魔法陣は壊しました。多分」
そう、魔法陣は破壊された。それは間違いない。
それにもかかわらず、
「彼の予感は的中したという事ですか……っ」
「……っ」
神裂とステイルの視線の先には体を起こすインデックスがいた。だがそれは体の筋肉を使った動きではない。浮遊するように物理法則を無視して起き上がる。最終的には地面から足が離れていた。
その目には光が無く、代わりに赤い魔法陣が描かれていた。
「首輪の破壊を確認。対象術式を神格波駆動術式と断定。首輪の再構築は不可能。対象術者、および周辺人物の排除を開始します」
自動書記がインデックスの声を借りて警告してくる。
その異様な空気に、周りのシスターに恐怖が広がりそうになるが、
「ティアナ、バインド!!」
「はいッ!!」
フェイトの声で2人の全力のバインドがインデックス―――自動書記に巻き付く。
だが、それよりも速く、
「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威を持ちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」
祝詞を完成させる雪菜。
練り上げられた霊力が雪霞狼に宿り、破魔の光を宿す。
それは耀が作り出したものよりも強い。それは雪菜の適正か、それとも意地か。
警戒すべき神格波駆動術式の使い手。自動書記が雪菜に視線を向けた時には、
「はぁッ!!!」
雪菜の一閃が自動書記を捉えていた。
「術式、破壊。修、復、ふの、う―――……」
「よっと……ん、大丈夫そうだよ」
魔法陣が消える。浮力を失って地面に倒れこむインデックスを、アスナが受け止めた。
直前まで熱に浮かされていたインデックスの体温が、みるみる下がっていく。呼吸も落ち着いていた。
「こちらも大丈夫そうですね」
翔からの情報で、『
こうして、インデックスの首輪が破壊されるのだった。