キーストーンゲートの襲撃は夜中の内に終結した。管理局全隊が目を光らせていた甲斐もあり、その後に予想された混乱も起こることが無かった。
早めに撤収して島に目を光らせていた六課だったが、日が昇ったあたりで警戒モードが解除され一息つくことが出来た。
だが、六課にはまだもう一つやらなければいけないことがあった。
「これなぁ……」
流石に疲労が見えるはやて。その目の前にあるのは赤いトリガー、楯無が回収したハザードトリガーだった。
楯無のISに記録されていた戦闘映像は、はやてにも送られている。そこに記録されていたのは、圧倒的な戦闘力で相手を蹂躙するジオウだった。
敵を打ちのめした後は楯無に襲い掛かり、耀によってようやくその動きを止めた。控えめに言って暴走状態だった。
それを引き起こしたのがこのハザードトリガー。謎の男が翔に使ったアイテムだ。
「そちら、どうするんですか? 上に回しますか?」
傍らの蛇倉が問いかける。
「……いや、やめておこか。何処に流れるか分からんしなぁ」
詳しく分析すれば何か分かるかもしれない。だが、不用意に広まると不要な兵器が作られてしまうかもしれない。
妹達事件の件。内部にいるかもしれない裏切り者のことを考えると、不用意に広めることは出来ない。
「そうですね。それがいいかと思います。幸い、このことを知っている人間はごく限られていますからね」
「しばらくはうちの部隊で分析、話が聞ければ翔君からもお話を聞くって方向で進めようと思う」
はやての意見に蛇倉は首肯する。
「それで、夜月の件ですが」
「ああ、まあ……一旦こうするのはしゃーないわな」
はやては自分の判が押された書類を見て、ため息をつくのだった。
――――――――――――――――――――――――――
時刻はお昼前。
検査前、ティアナさんが病室を訪ねて来た。昨日から休んでいないのか、ずいぶんと疲れているように見える。
わざわざここに来たのは、俺に対して重要な用事があったからだ。手渡された書類、そしてその説明を受けた俺は、
「謹慎、ですか……」
ティアナさんに告げられた言葉を繰り返した。
「そうね。今回の件はあなたには責任が無いとしても、実際にケガ人が出てしまった。形だけでも処罰しないといけないの」
「いえ、分かります」
ハザードで暴走した結果、俺は犯人だけではなく味方にまで手を上げた。軍隊で言えば味方に向かって発砲したようなモノ。通常ならば叛逆行為だ。
今回はハザードフォームにより制御不能な状態になっていたことを鑑みて、2週間の謹慎処分。かなり軽い処分だ。
でも、六課でなければあの男との関係を根掘り葉掘り聞かれることになるだろう。それも含めたかなり私的な処分に留めてくれたんだな。文句は言えない。
「謹慎って言っても、学校に行くなってわけじゃないからね。学校が終わってから、通常は六課にいる時間は出歩かずに家にいること」
「分かりました」
それを告げると、ティアナさんはお大事にと言って帰っていった。
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「おーす」
「おう、浅葱か」
そして午後。検査が終わり、病室で暇を持て余していたところに入ってきたのは、制服をセンス良く着崩した派手めな少女。藍羽 浅葱だった。
「調子はどう?」
「もうほとんど元気。手続きが終わって、今日の夕方には退院だって」
検査結果は特に問題無し。昨日の投薬がしっかりと効いてくれたらしい。
「そりゃよかったわ。はい、お見舞い」
浅葱が適当なお菓子の詰め合わせを小さな机に置いた。
「わざわざお見舞いに来てくれるなんてな」
「あのまま別れるってのは締まらないでしょ」
浅葱にはキーストーンゲートのシステムの復旧を頼んだまま戦闘に向かった。そのまま病院に搬送されたため、顔を合わせることなくここに来ていた。
「つーか、なんで病院の場所が分かった―――いや、何でもない」
浅葱にすれば、俺が搬送された病院を調べるなど朝飯前なんだろう。
「そう言う事。ってかアンタ、この短期間に入院しすぎでしょ。どうなってんのよ」
「ほっとけ」
どうやら過去の入院記録まで見られたらしい。
「別にアタシがどうこう言う事じゃないかもしれないけどさ。あんま周りには心配かけないようにしなさいよ」
「はいはい……」
まさか浅葱にも注意されてしまうとは。
言いながら、お見舞いとして持ってきたお菓子に手を伸ばし始めた。
「お前が食うのか……」
「別にいいじゃん。いっぱいあるんだし。1人で全部は食べれないでしょ?」
「別に俺1人で食う訳じゃないし」
食べきれない分は家のみんなに分ければいい。むしろ家にいる人数を考えると、この程度では足りないくらいだ。人によっては1人で平らげてしまう娘もいるし。
「ふぅん? 誰かと一緒に住んでんの? 親?」
「……いや、シェアハウス、かな?」
間違ってはいない。ちょっとごまかしているだけだ。この島では学生の一人暮らしと家族暮らしの割合は半々程度だ。
「姫柊さんと?」
「何でそう思った」
シェアって言ったら、普通男性だと思うんじゃないのか?
「何でって、付き合ってんじゃないの?」
「や、付き合ってるが」
「でしょ? あの反応見たら誰だってそう思うわよ」
どうやら、浅葱と雪菜はどこかで会話していたらしい。俺がキーストーンゲートに先行突入している時だろうか。
だからって、一緒に住んでいるってのは飛躍しすぎじゃないのか? 当たってるんだけどさ、その推理は。ただ、その相手が1人じゃないだけで。
「別に隠す必要は無いでしょ。邪魔したりしないわよ」
そりゃ、浅葱はそういう性格じゃないし、俺達のことを言いふらしてもメリットはないけどな。俺の相手が雪菜1人だったら。
浅葱と話をしていると、ノックも無しに病室の扉が開いた。入ってきたのは、
「おいーっす。どうよ、調子は」
「矢瀬!?」
「基樹!?」
俺と浅葱が同時に驚愕し、浅葱は怪訝な顔で俺を見た。
「え、何よ。アンタ、基樹と知り合いなわけ?」
浅葱と矢瀬は原作では同じ高校に通う幼馴染。幼馴染というのはこの世界でも変わらないらしい。だがこの世界では、矢瀬は武偵高で浅葱は一般校。同じ高校ではない。
「夏休み前までは同じ学校だったんだけどね。突然転校したのよ、コイツ。それがまさか武偵高で翔と同じクラスなんてね……」
「ああ。不思議なこともあるもんだな」
矢瀬はお見舞いの品(浅葱のものよりもずいぶんコンパクト)を机に置き、椅子に腰かける。
「ああ、そうだな」
俺は素直に頷く。
まあ、多分偶然だしな。俺と浅葱が知り合ったのは。矢瀬が俺のクラスに転校してきたのは明らかな思惑があるけど。
「で、オメーはどうしてここが分かったんだよ」
「那月ちゃんに聞いたんだよ。昨日、管理局絡みで色々あったんだろ? お見舞いついでに……ほれ、今日渡されたプリントだ」
「そりゃどうも」
その程度のことで、わざわざ病院まで来てくれたのか。その心遣いに涙が出そうだ。
「ホントはヤミちゃんに頼もうかとも思ったんだけどな。『机にでも入れて置いたらどうですか』って言われちまって」
「いや、ヤミは引き受けないだろ。そういうのは」
「……そうか? そうは思わないけどな」
そういう雑用は引き受けないだろ、アイツ。
「ま、何事も無くて良かったよ。翔もこの島もな」
「それは同感だよ」
入院している俺に向かって『何事も無くて』ってのはどうかと思うが。
「それに今回は腐れ縁のコイツを助けてくれたんだろ? そのことについても礼を言わないとな」
「……えぇ? アンタ、そんな殊勝な心掛けがあったの? 初めて知ったんだけど」
ヘラヘラと頭を下げる矢瀬に浅葱は怪訝な顔を向ける。
「あって悪いかよ! ないよりマシだろ!」
「あったらあったでキモいけど」
幼馴染特有の遠慮のない物言いだ。
話していると、
コンコン。
病室の扉がノックされた。
「またお客さんか? 流石、人気者の夜月 翔だな」
「何言ってんだ。どうぞー」
「失礼します」
顔を見せたのはステイル、神裂、そしてインデックスの3人だった。
「じゃ、俺らは帰るか」
「そうね」
その面子を見た矢瀬は椅子から立ち上がった。それに浅葱も続く。ステイル達の格好を見て、何かしらの関係者であることを悟ったんだろう。
「んじゃまた、学校でな」
「そのうちね」
2人が病室から出ていき、入れ替わりで3人が入ってくる。
「すみません。お話し中でしたか」
「いや、大丈夫だ」
今朝起きたらフェイトさんから、イギリス清教の人たちに入院している病院を教えてもいいかと連絡があったのだ。当然OKを出していた。
いつ来るという連絡はなかったが、突然の来訪は浅葱と矢瀬も同様だ。どちらかを優先することはない。
神裂達が横一列に並んだ。
「この度は本当にありがとうございました。あなたのおかげで、この娘の記憶を消す、などという愚行を冒さずに済みました」
そう言って頭を下げて来た。神裂は深々と、ステイルは軽く、インデックスはその中間あたりまで。
「話には聞いてましたけど、うまくいったのなら良かったです」
「はい。この娘の体調や記憶には、何の問題もありません」
わざわざあいさつに来てもらったとは言え、俺達の間でそこまでおしゃべりすることはない。
「お二人はイギリスに戻るんですか?」
「はい。今日の夕方には」
「闇討ちとかされないように気を付けてくださいよ」
闇討ち相手はもちろんイギリス清教だ。インデックスの秘密を知ったものは~とか、そう言う事が無いとは限らない。まあ、原作では全然そんなことなかったわけだけど。
「そうですね。気を付けます」
神裂も心得ているのか、素直に頷いていた。
「それよりもこの娘の警備についてだ」
ステイルが話を変える。今回、記憶の件はどうにかなったが、インデックスが小比奈に攫われたという事実は変えられない。
「……まさかとは思いますが、俺に護衛をしろと……?」
「何を言っている? そんな訳が無いだろう」
何か、見た流れを感じたが、ステイルはきっぱりと否定してくる。
「いや、完全に外れとは言えないか。今後はこんなことが無いように、教会の警備を強化させる。だが、何かあった時は済まないが……」
「もちろんです。その時は全力で対応しますよ」
その後簡単な挨拶をして、3人は帰っていくのだった。
――――――――――――――――――――――
「じゃ、俺はここで」
「あれ、アンタどこ行くの?」
出口に向かっている最中、矢瀬が急に進路を変える。明らかに出口ではなく他の病室に向かおうという足取りだ。
「もう1人お見舞いに行かないといけない人がいるんだ」
矢瀬の親はこの島の重鎮。今回の事件で怪我した知り合いがいて、その人のお見舞いだろうと適当に判断する浅葱。
「そ、んじゃ、先に帰ってるわね」
手を振って別れた2人。
矢瀬は誰も通っていない通路を歩き、やがて1つの扉の前に辿り着いた。
中に入る。
「どうも」
「いらっしゃい、基樹君」
ここは楯無が入院している病室だった。どちらかと言えば、こちらの方が本命だ。
この2人は知り合いだった。
それは裏の仕事をしている仕事仲間であり、矢瀬家と更識家という日本の格式ある家に生まれ、年も近いことが理由だ。小さい頃から顔を合わせる機会もあり、独特の友人関係になっていた。
「今回はお疲れ様でした」
「まさに水際。ギリギリの所だったわね」
日本からの逃亡犯である蛭子 影胤の企みを無事に阻止することが出来た。
キーストーンゲートを占拠されてしまったものの、彼らの思惑を潰し、捕まえることが出来たのだ。
それだけでも各国からの批判は免れないだろうが、企みが成功して島を沈められた時の批判と比べれば、塵のようなモノだ。
「で、それもこれも夜月 翔のおかげってことか」
「……ま、そうね。連中の足止めはともかく、あんなにスムーズに内部に侵入できたのは彼のおかげで間違いないわ」
今回の事件で、翔の一番の貢献はミラーワールド経由での侵入だった。
それが無ければ多数の犠牲を覚悟で要塞と化したキーストーンゲートへ突入し、それでも間に合うかギリギリだった。いや、おそらく間に合わなかっただろう。
「浅葱が攫われなかったのもアイツのおかげだしなぁ。偶然にしちゃあ出来過ぎてるって感じだが」
こんなに早いうちにキーストーンゲートの制御を取り戻せたのは、翔が浅葱の誘拐を阻止したことも大きい。
駆け付けたのが並みの局員であれば、奪還は無理だった。
「今まで見てきた感じだと、能力の出自はともかくとして人間性に問題があるようには思えないな」
「一番の問題がわかってないってことじゃない」
いくら翔が人格的に優れていようと、その能力が周りに被害を出すなら放置することは出来ない。まして今回は正体不明の人物が翔に影響を与えたのだ。悪意を持つ人物が翔の能力を振るえばどうなるか。想像もしたくない。
楯無のため息に、矢瀬は肩をすくめた。
「ま、監視は続けますよ。何かあれば報告します」
「くれぐれも絆されないでね」
「……アイツの周りを見てると、楯無の方が心配なんだが」
「言ってくれるわね」
軽口をたたき合いながら、矢瀬は病室を後にするのだった。
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「そう、それでいい。今はそのままだ」
何らかの手段を使って楯無と矢瀬の会話を盗聴していたウォズは、満足げに頷いた。
楯無と矢瀬の結論は現状維持。何か行動を起こすという訳ではなく、今まで通り翔の監視に留めるらしい。
ここで何か行動を制限されるようなら、対策を講じなければいけないところだった。
「さて、次の出来事は……ふむふむ」
手に持つ本をぺらぺらとめくり、今後の出来事を確認していくウォズ。
その途中。
「……なんだ、これは」
ページをめくったウォズの声が、少し硬くなった。
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矢瀬を待たずに家路についていた浅葱。
「アンタも戻って良かったわ、モグワイ」
《ああ。今回は流石に焦ったな》
携帯に映る不細工なアバターは、人を小バカにしたように笑っている。
「何笑ってんのよ。アンタも抵抗しなさいよ」
《おいおい、プロテクト破ってプログラム書き換えたのはそっちだろ? 無茶言うなよ》
「ったく」
モグワイの言い分はもっともだったため、浅葱は言い返さない。
そんな浅葱の背中に、『2019』と書かれた時計が吸い込まれていった。
一応出したけど、ここまで進められるのかな……?