そして気が付いたらお気に入り数が2100件を超えてました。本当にありがとうございます。
「ああ、よろしく頼む」
《分かった。調べておこう》
なんだかんだ有能なジャンヌとの電話を終了する。
あの襲撃からしばらくたち、2回目の会談が2日後に迫っていた。もちろん犯人が捕まることはなく、聖天子様は自宅から一歩も出られない状況らしい。
幸いと言っていいのか、天童 菊之丞は予定を切り上げて早めに帰ってくるらしい。だから何か変わるのかといわれると厳しいけど。
結局あれは、ティナによるものではなかったのか。あの後現場を調べたが、俺が倒したはずのヤツどころか血液すら残っていなかった。雨だったせいかな? そのせいで、読心能力者もお手上げ状態。
第1回目会談のデブリーフィング(反省会のようなもの)と第2回目会談のミーティングでは『暗殺者を手引きしているのは夜月 翔だ』会が開かれた。
言わなくてもわかるとは思うが、保脇だ。
あいつもうやばい。何がやばいって、理論を無視して俺を犯人にしようとしてくるところ。ほかの護衛の人みんな引いてたもん。
それに加えて……なんというか、妙に自信たっぷりというか……なんとなく『嫌な』感じがするんだよなぁ。
俺から話しかけると絶対大変なことになるから観察しかしてないけど。
そもそも、俺はほかの人からもあんまり快く思われてないからね。保脇ほどじゃないにしろ、エリートの人たちにとってはぽっと出の俺が気に食わないのは仕方ないとは思うが。
そんな共通の敵を持ってる人たちからすら距離を取られる保脇。マジ哀れ。普通そこは協力する場面でしょうが。
そんな人たちのことは置いておいて、暗殺未遂のことだ。
ジャンヌに依頼したのは彼女が
早くて、明日には調べてきてくれるらしい。ほんと助かる。会談には間に合うからな。
「よし、行くか」
俺は目的地に向かって歩き出した。
―――――――――――――――――――――
「ほれ」
「ありがとうございます」
買って来たたこ焼きを、ベンチに座ったティナに渡す。相変わらず眠そうだな。
俺は隣に座り、たこ焼きにソースとマヨネーズをかけてやる。
ティナの格好はパジャマでは無く、オレンジ色のフード付き黄色いパーカーに黒いミニスカートだった。
ちなみに2人きり。別に単独行動しているわけじゃない。クロとの待ち合わせだ。
まだ初等科のクロは、依頼を受けるのは非推奨。授業を優先しないといけないらしい。聖天子様になるべく早く来てほしいと言われてしまった俺は、午後の自由履修(高等部になると、通常授業は午前で終わり、午後はそれぞれ自分に必要なスキルを磨いたり、依頼を受けたりする)を利用して、一足先に、聖天子様の住んでいる豪邸の真ん前の噴水のある公園に来た。
来たのはいいのだが、そこで何とティナと偶然ばったり出会ってしまったのだ。
俺は少し迷ったのち、少しティナに付き合うことにした。理子の時と同じで文字の上では知っていても実際は違っている、なんてこともあるしな。
それに少し下種な話になるけど、話せばあの不可解な能力についてわかることがあるかもしれないし。
しかし、ティナは今日もブレない。
いつものように、たこ焼きにカフェインの錠剤をこれでもかとかける。とても不味そうですね。
そしてたこ焼きを長めの爪楊枝で刺し、口へと運ぶ。だが、
「あう……っ!」
開けた口には入ることはなく、地面にべちゃりと落ちた。
「あーあ。ほら、貸して貸して」
俺はティナが持っていた爪楊枝を持つと、たこ焼きに刺した。しっかり中のタコに刺さったことを確認すると、ティナの口に放り込む。
丸々一つ口に入れたため、ほっぺが膨らんでいる。それを必死に咀嚼する姿は……なんか、いいね。心が洗われるよ。
「翔ひゃん、もっとくらひゃい」
まだ口に残っているのにねだってくる。
「はいはい。食え食え」
「ぱくっ、はむはむ」
そして2個目、3個目と、お前ご飯ちゃんと食ってんの? と言いたくなる程で即飲み込んでいく。
「ほら、ソースがついてるぞ」
時に、ティッシュで口の周りについたソースを拭き取ってあげたりしながら。穏やかな時間が流れていく。
これ、クロが来たら大変なことになるな。ま、それはその時考えるとしましょうかね。
「今日はありがとうございます。私に付き合ってくださって」
「んー、俺も時間が空いてたからなー」
ちょっと嘘です。
「私、翔さんのこと好きです」
「突然の告白だなぁ」
「恋愛的な意味ではありませんよ? 私子供で、そういうことまだわかりませんから。でも……」
脈絡がない『好き』はまだまだ心臓に悪くて困る。多少のボディタッチくらいならもう息をするようにできるんだけどな。はいはい、クズだね、俺。
これは子供特有のストレートな感情表現だから。勘違いしないから。
「こんなにやさしくしてもらったの、久しぶりです。私、両親が死んでからあまり楽しくない気分ですから」
「……」
ティナは暗い表情、小さい声で、言う。
携帯電話が鳴りだす。その時、ティナの表情が強張った。俺のものではなく、ティナのものが鳴ったんだ。
「出ていいぞ」
「いえ、私はこれで帰ります」
ティナは立ち上がり、俺に背を向けて走り出すが、
「また会ってくれますか?」
不安そうな表情で振り返った。
「おう。また来い」
連絡先は交換してあるしな。
笑顔でそう答えると、ティナは安心した顔になり、走っていった。
……次会うときは戦うことになりそうだけどな。
「『痛い』……ねぇ……」
俺は流れる雲を見上げて、そう呟いた。
「たこ焼き残っちゃったんだけど、食べるか?」
ティナと入れ替わるように俺の前に現れた金色の少女。実際はなかなかに過激なデザインな、金具以外は黒一色の服を着ている。が、それが霞むくらいの綺麗な長い金髪だ。
「いえ、私はたい焼き派なので」
その少女は見ず知らずのはずの俺に、まるで世間話のように返しながら、巨大な棘付き鉄球で俺が座っていたベンチを木っ端みじんに破壊した。
「あなたに恨みはありませんが、ここで死んでもらいます」
こいつ―――ッ!!
一瞬で俺に肉薄した少女は、刃物に変えた手を横なぎに振るってくる。静止状態の車でアクセルを底まで踏んでもこのスピードは出ないだろう。
(
倒れこみつつ後ろに跳ねる。2倍速でやっと躱せた。
攻撃を予測してあらかじめ用意しておかなければ、死んでいた。
「変身!!」
《PERFECT PUZZLE》
《What's the next stage?》
《Dual up!》
《Get the glory in the chain! PERFECT PUZZLE!》
さらに転がりつつパラドクスに変身する。
噴水周りにいた人たちはようやく異常に気が付いて逃げていく。まばらにいた人の声はどんどん小さくなっていく。
周りの人がいなくなってくれるのは個人的に好都合。全力でやるとしよう。
「お前、金色の闇だな。誰に依頼された」
ダメ元で聞いてみる。
特徴的な服装と能力。こんなやつ、一目でわかる。
この娘は『金色の闇』。『Toloveる』に登場するキャラクターで、全身をナノマシンによって自在に変化させることができる
暗殺者から警護していたつもりが、いつの間にか殺し屋を差し向けられていた件について。しかも、マジで強い奴。
「知っていましたか。ですが、聞いても無意味ですよ」
「ここで死ぬからか?」
《高速化》
さっきとは違う。しっかりとスピードについていける。
切りかかってきたヤミの手を、冷静に受け流す。ヤミの顔は驚きに染まっていた。ここまで完璧に対応されるとは思っていなかったのだろう。
俺はヤミに向かって拳を放つが、さすがに当たってくれない。
戦場は地上から空中へ。ヤミは背中から翼を出し、俺はゲームエリアであることを生かして足場を作る。
《伸縮化》
ゴムゴムパンチも華麗なロールで躱され、逆に巨大な鉄球に押しつぶされる始末。
「なるほど、依頼主の言っていた通りですね。いたいけな少女に暴行を振るうのが好きな変態だと」
「おいマテ」
依頼主ぶっ飛ばす。
「極め付けには、年上年下異性同性かまわずに手を出す色欲魔だと」
「それは違―――……違う……? 違う!! 同性には手を出さない!!」
最初否定できないなと思い、すぐにその中にある不穏なワードに反応する。
依頼主マジぶっ飛ばすからな!
《KNOCK OUT FIGHTER!》
《The strongest fist Round 1 Rock & Fire!》
「大変身!!」
《Dual up!》
《Explosion Hit! KNOCK OUT FIGHTER!》
「無駄です」
髪の毛が蠢いた。一房一房が鋭利な刃物のようになり、あたりに降り注ぐ。
近づくことすらできない猛攻。俺の姿が変わったことに警戒したのか、距離を取られたまま、まともに動くことすら出来ない。
「はあああああぁぁぁぁ!!!」
俺は手のアーマーを合わせ、炎のオーラを出した。バリアのような役割をして、攻撃の手が緩む。
ふぅ……しょうがないな。この手だけは使いたくなかったんだが……四の五の言っていられるほど、余裕がない。
俺は息を吸い込む。外から見ても息を吸っているとわかるくらいオーバーに。そんな俺を見て、ヤミは足を止めた。警戒しているのか?
依頼主からどんな情報を受け取っているかは知らないが、それだけで判断しないということだろう。
だが無意味。お前はこれを気にせず俺を叩き切るか、耳をふさぐかをしなければならなかった。それをしなかった時点で俺の勝ちだ。
吸った息を、一気に、一発逆転の気持ちを込め、解き放つッ!!
「今日のお前のパンツの色は白だなッ!!」
「なっ!!!」
ヤミは短いスカートを抑える。両手がふさがり、鋭利な刃物だった髪の毛はふにゃりと歪む。
そんな短いので飛び回っていたら見えるのは当たり前だろうが。見られたくないなら、スカートなんてはくんじゃないぜ!!
「もらったあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
―――
「ぶち抜けえええええええぇぇぇぇ!!!」
パズルができない今、他の能力を使って加速する。
俺の変態発言と不意の加速にヤミは反応することができない。とっさに固めた防御をやすやすと突破して、突き刺さる。
そのまま炎の拳が大爆発を起こした。
爆発の熱と余波でフェンスが歪み、植木が消し飛ばされた。ヤミの方は、噴水を突き抜け、反対側まで吹き飛ばした。
「ふぅ……」
俺は腕を回しながら一息つく。
瓦礫の中から人影が飛び出し、去っていった。
ヤミだな。何とか撃退したか。最悪の勝ち方だったけど。ってか、あれで気絶しないんですか。
俺は変身を解除する。
緑がきれいだった公園は、見る影もなく破壊されている。花壇に植えられていた花は踏み荒らされ、噴水も水道管が破れたらしく水が止まってしまっている。
本当に、申し訳ないと思ってます。
戦闘の爪痕にげんなりしていると、俺は地面に倒れた。
「……あ、れ?」
腹部に違和感を感じ、触れてみる。
ヌルっとした温かい感触がする。
それは俺の血だった。
霞む目で最後に見えたのは、血濡れのナイフを握った髑髏の仮面だった。
――――――――――――――――――――
「高い金を払ったのに、失敗するとはな。金色の闇」
「……」
とある裏路地。そこに保脇はいた。暗がりでわかりずらいが、ぼろぼろの服を着たヤミもいる。翔との戦闘のダメージが抜けきってないのだ。
ヤミは翔を殺すために保脇が雇った暗殺者だ。
新しく力を得た保脇だったが、暗殺者を殺すのと、一緒に戦っている(もちろん保脇はそう思っていない)武偵を殺すのとでは、当たり前だが意味が全く違う。
前者に比べて後者の罪が重くなるのは目に見えている。
冷静になった保脇はもしもばれたときのことを考え、翔を殺す役はヤミに任せたのだ。そして、今聖天子を狙っている暗殺者を抹殺する役も。
「次は必ず仕留めます。私はこれで――」
「待て。夜月 翔はもういい。奴は通り魔に腹を刺されて重体だ。どこのどいつにやられたのかは知らんが、マヌケな奴だよ」
翔はあの後、すぐに駆け付けたクロによって病院に運ばれた。そのことは連絡を受けてすでに知っている。人目をはばからず笑ってしまったため、周りからは白い目で見られていたが、今の保脇はそんな些細なことを気にするほど心の狭い人間ではない。
「次の依頼をする。明後日の聖天子様の会談、襲撃する者がいた場合、そいつを殺せ。人数は気にするな。その分金は払う」
「……わかりました。ですが、お金はいりません。今回失敗したので」
「フンッ、好きにしろ……どうせそんなもの、意味はなくなるからな」
闇に消えた声にそうつぶやく保脇。
保脇はことが終わり次第、ヤミのことも消すつもりだった。
ヤミもプロの暗殺者だが、どこからか自分がしたことが漏れないようにするためだ。ヤミも暗殺者の一味に見えるだろう。死体が一つ増えたところで、何の違和感もない。
『力』に目覚めていない頃はそんなことは不可能だったが、今は違う。今ならどこにいても聖天子のそばにいられる。
「まったく、そんな風に机に突っ伏して……跡になってしまいますよ、聖天子様」
保脇は幽霊のような足取りで、夜道を歩くのだった。
――――――――――――――――――
家に帰ったティナはすぐにシャワーを浴びた。
返り血が付着するなんてヘマはしていない。それでも、洗い落としたかった。
「ごめんなさい……!」
何度擦っても、人を刺す感触が生々しく残っている。
目からは涙がとめどなく流れ、瞼を閉じれば、ティナの刺した傷口からどんどん血を流す翔の光景が映る。
《最近聖天子の護衛についた武偵について調べが付いた》
《名前は夜月 翔とクロエ・フォン・アインツベルン》
その名前が出たとき、ティナは一瞬心臓が止まってしまったかと思った。
《……ほう、その反応、何か心当たりがあるのか?》
《偶然知り合いに……? 好都合だ。油断させて近づき、殺せ。相手もまさかお前のような小娘が暗殺者だとは思わないだろう》
《私の期待を裏切らないでくれ、ティナ・スプラウト》
翔と別れて出た電話。楽しかった気分は一瞬でなくなってしまった。
いつの間にか知らない女性と戦い始めていた翔。翔がパラドクスに変身したところで、ティナの目からは涙があふれてきた。
動悸が激しい心臓を無理やり抑えるようにカードを使った。
戦闘が翔の勝利で終わり、一息ついていたところを後ろから―――
「ごめんなさい……翔さん……っ!」
マスターの命令は絶対。逆らえば帰る場所がなくなるだけではない。命がなくなる。
人を傷つけたのはこれが初めてではない。人形のように、マスターに言われたことを淡々とこなしていた。それでも、痛かった。
携帯の着信音が鳴る。
「っ!?」
ティナは震える手で画面に触れ、ゆっくりと電話に出る。
「……はいマスター」
《しくじったな、ティナ・スプラウト。先ほど搬送された病院を調べた。腹部の傷は深いが致命傷ではない。一命をとりとめた、とな。なぜ、首や心臓を狙わなかった》
「あ、え、その……っ!」
《夜月 翔に絆されたのか?》
「……っ」
《……まあそれは後だ。会談の次の計画書が流れてきた。クロエ・フォン・アインツベルンはともかく、夜月 翔が出てくることはないだろう。これが最後だ。絶対にしくじるな》
ティナはこれで自分の人生は終わったと悟った。この任務が終了次第、自分はマスターによって消される、と。
逃げ出したとしても、世間知らずのティナでは生きていくことなどできないし、追っ手に見つかるのだって時間の問題だ。
人殺しの道具が、余計な感情を抱いてはいけない。機械的に引き金を引き、相手を冷たくしなければならない。
それができなくなったとき……
「ごめんなさい……翔さん……っ!」
ごめんなさい、ごめんなさい、一晩中泣きながらその言葉を繰り返すのだった。
最近『グリモア~私立グリモワール魔法学園~』というアプリにはまっています。
平凡なゲーム内容に、自分的にはスマホゲーで3本の指に入るストーリー。
時間のある方、どうでしょうか?