※この作品はR-18です。

異世界ハーレム奮闘記   作:文房具

303 / 383
夜月翔のハーレムな謹慎⑦

放課後になった。

 

朝練でムサシ眼魂が綺凛の中に入ったが、結局取り出すことが出来なかった。ゴーストの力を持ってないからか、外からコンタクトを取ることが出来なかったのだ。

 

ムサシ眼魂はうんともすんとも言わず、綺凛も特に体に変化がないとのことだったので、時間の関係もあり解散となったのだ。

 

もちろん何かあれば連絡するようにとは言ったし、昼休みには一応様子を見に行ったのだか、特に問題はなさそうだった。

 

こうなると早くゴーストウォッチを手に入れたいな。とはいえ探して見つかるようなモノでもないか。

 

とりあえず、今日の所はまっすぐ家に帰ることにしよう。どこにも寄り道する予定はない。

 

無かったのだが、

 

「……」

 

歩道を歩いていると10メートルほど先にリムジンが止まった。あのリムジンには見覚えがある。

 

ドアガラスから中を覗き込もうとするが、曇りガラスになっていて何も見えない。

 

すると、ドアガラスが開いた。

 

「入って。早く」

 

見覚えのある護衛の武偵。彼女と入れ替わる形で、俺は車内へと入った。

 

そこで待っていたのは、

 

「こんにちは、翔さん」

「聖天子様、どうも」

 

リムジンと言っても真っすぐ立つほどの車高はない。俺は座りつつ頭を下げた。聖天子様と正面から向かい合う。

 

聖天子様はなんと手ずから紅茶を用意してくれた。ティーバックだけどね。まあ、こんなところで茶葉から紅茶を作られても困るな。

 

「そうですね。いつもは茶葉からですが、車内ではこちらの方が便利ですから」

 

普通は車内でお湯沸かして一服したりしないと思う。俺はそんな聖天子様との感覚のズレに苦笑いする。

 

お茶が完成したところで、聖天子様が口を開いた。

 

「蛭子影胤の件、ありがとうございました。おかげで島に被害が出ることなく、事態を鎮静化させることが出来ました」

「被害が出てないとは言えないかもしれないですけどね」

 

現にキーストーンゲートは占拠され、内部では怪我人も出てしまった。

 

「ですが、大本の計画は阻止することが出来ました。これもひとえに、翔さんのおかげです」

 

聖天子様の立場なら、あの事件の詳細も知っているだろう。ミラーワールド経由の突入も、俺の暴走も。後半はともかく、前半ではかなり貢献したのは間違いない。

 

聞いたところによると、影胤とオイスタッハはどちらも一命をとりとめたらしい。そしてどちらも本国に強制送還の後、裁判が行われるようだ。

 

それぞれのパートナーだが、アスタルテはレティシアさんに眷獣の制御を任せた都合でそちらのお付きに。小比奈は……

 

「大変らしいですね、蛭子 小比奈は」

 

俺の言葉に聖天子様が頷いた。

 

小比奈は島の施設に入れられている。始めのうちは溌剌としていたが、父親と会えないことで次第に暴れ出し、今では逆に1日中ボーっとしているらしい。時折『パパ』と呟いているとか。放っておくと食事も摂らないのだとか。

 

「幼い頃から洗脳まがいの教育をされていたと聞いています。時間がかかるでしょうね……」

 

俺は無言でうなずいた。

 

暗い雰囲気になったところで、聖天子様が話題を変える。

 

「今回の件、本来は更識家に一任されていた件です。本国に報告すれば、日本国防軍からお声がけがあると思いますが」

「謹んで辞退させて頂きます」

 

これ以上タスクを抱えていられるか。今でもいっぱいいっぱいなのに。たとえそれが表彰の類だったとしても、今は遠慮しておきたい。

 

「そうですね。あなたならそう言うと思っていました。それでは現地管理局員との協力、という形にしておきましょう」

 

それなら別に問題ないだろう。嘘は言ってないし不自然でもない。

 

「それでは別に報酬を用意しなければいけませんね」

「別にいいですよ報酬なんて。偶然かち合っただけですし」

 

管理局の仕事の一環だったし、そもそも聖天子様には貸しがあった。数カ月前、腕をぶった切った時の治療費が。あれ、ポケットマネーから出してくれたんだもんな。

 

「そんなものは、夏ですっかり清算されていますよ。全部チャラです」

「や、アレは護衛の一環でしょう?」

 

予定外の行動もあったとはいえ、それ以上でも以下でもない行動だ。それで追加報酬をもらう訳にはいかない。

 

「そんなこと言わずに。そうですね……『何でも』いいんですよ? 私から、心ばかりのお礼がしたいのです」

「ええ? 『何でも』……?」

 

何か良からぬ方向に思考が向かいそうになる。それもこれも、今朝からの行為に引っ張られているからに違いない。

 

まだまだお昼を過ぎたばかりだというのに、すでに2人と2回ずつ。思考が流れるのも無理はない。そう言い聞かせる。

 

「まあ……王道なのはお金ですかね?」

「お金、ですか……」

 

なんだろう。この選択肢を間違えた感じ。明らかに聖天子様の温度が下がった感じは。

 

「それは難しいですね。私が自分で振り込むわけではないので、理由を尋ねられてしまいます」

 

ずっと言っているが、影胤については依頼でも何でもない。にもかかわらずお金を支払うというのはおかしいだろう。友達の医療費なら問題ないのか。

 

「他にありませんか?」

「他にって……」

 

思いつかないだろ、そんなの! や、あれがいいか……? ダメもとで言ってみるか。

 

「じゃあ」

「はい」

「無理そうだったら、断っていただいて構わないんですけど」

「……はい」

 

聖天子様が少し緊張した面持ちになる。わざわざ『断ってもらっても』なんて前置きをしちゃったからか。

 

「日本政府のちょっとした情報とか、どうでしょうか」

 

 

 

「……」

「聖天子様?」

「……申し訳ありませんが、いくら翔さんでも機密情報をお話しするわけには……」

「ですよねー」

 

そうなると思い浮かばないな。

 

「そうですか。それでは次にお会いする時までに考えておいてください」

「なん……いえ、何でもないです。分かりました」

 

俺は素直に、そう素直に返事を返す。

 

たとえ何故か口調が刺々しくなったとしても、おそらく俺の回答がマズかったからだし、それについて深堀すると大変なことになるのは分かっているのだ。聖天子様相手だとしても。

 

だから『なんか怒ってます?』みたいなことは言わずに、今日の所は立ち去るのが吉だ。

 

走り去っていくリムジンを見ながら、俺はそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~……」

 

翔と別れた後の聖天子のリムジン。聖天子は先ほどの会話を思い出してため息を吐いていた。

 

「(私は思い付きでなんてことを……)」

 

護衛が一緒に乗っているため声には出さないが、彼女の心臓は大きく跳ねていた。

 

―――――

「そんなこと言わずに。そうですね……『何でも』いいんですよ? 私から、心ばかりのお礼がしたいのです」

―――――

 

ちょっと思い付きで言うにしては軽率な発言だった。もしも敵対する権力者にそんなことを言ってしまえば、どんな無理難題を吹っ掛けられるか分かったものではない。

 

前日の菊之丞との会話が無ければそもそも頭に浮かぶこともない内容だったが、翔を信用しての発言でもあった。

 

「(翔さんも繰り返して確認していましたし、私が『何でも』なんて発言するのは控えた方が良いですね)」

 

心の中で何度も頷く。翔に良識があったおかげで変な要求はされずに済んだが。

 

「(あの時は少しドキッとしましたが)」

 

―――――

「じゃあ」

「はい」

「無理そうだったら、断っていただいて構わないんですけど」

「……はい」

―――――

 

一体どんなことを要求されるのか、一瞬とはいえ身構えてしまった。翔の力なら、聖天子を抑え込むことなど簡単だ。いくら外に護衛がいたとしても、そんなものは関係ないだろう。

 

そんな刹那的な行動をとる人物ではないとしても、ほんの少しだけその可能性を考えてしまった。

 

「(別に乱暴されるとは思いませんけどね。乱暴するつもりなら、確認なんか取らないでしょうし)」

 

実際に要求されたのは日本政府の情報だったのだが。

 

「(情報って。いや、情報ですか。あの流れで。『何でも』褒美を与えると言って日本政府の情報? どれだけ仕事熱心なんですか)」

 

実は聖天子本人、あの場で刺々しい態度を取ったとは思っていなかった。あくまで必要な情報を必要な分だけ言葉にしたのだと。本人はそう考えていた。

 

「―――聖天子様?」

「っ、はい。何でしょうか」

「いえ、これからの予定ですが……考え事ですか?」

 

護衛の武偵が不思議そうな顔をしている。

 

「何でもありません」

「もしかして、さっきの男に何かされましたか?」

「いえ何も。何も、ありませんでした」

「そ、そうですか。では、次の予定ですが―――」

 

気づかぬうちに再び刺々しい態度を取った聖天子に、護衛は怯みながらも何も言わずに続きを話し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

夜、綺凛宅にて。綺凛はムサシ眼魂が体に入った影響を感じられずに床に就いていたが、

 

「……ん、あれ……?」

 

綺凛は目を覚ました。いや、姿勢を考えればうたた寝をしていたのだろうか。

 

綺凛は白い剣道着を着て畳の上に正座していたのだ。直前の記憶では布団で横になっていたはずだった。

 

しかもこの場所、自分の家の道場ではない。周りに目を向けると、畳の地面が広がるだけで四方に壁はない。畳以外は真っ白な空間だ。

 

「あー、良かった良かった。ちゃんと呼べたみたいね」

「っ!? あ、あなたは?」

 

突如目の前に現れた人物。全身黒の体に上半身には赤いパーカーを着ている。控えめに言って不審者だが、その体からは抑えきれない剣気が溢れている。

 

だからこそ、単純な不審者と侮れない。

 

体を浮かせて、いつでも動ける体勢になる。

 

「うんうん。すぐに警戒するのはいいけど、ちょっと待ってね」

「ぇ、と……?」

「あ~、はいはい。いい感じなのでここからは私が。はい。それでは」

 

何やらパーカーの人物が独り言を言っている。

 

「ごめんなさいね。ここの武蔵さんにお願いして私が表に出るようにしてもらったんだけど。や、なんかこの世界、すごく特殊みたいね」

「む、ムサシ……?」

「その通り! 私は新免武蔵守藤原玄信なのです! こんな姿だと締まらないけどね?」

 

パーカーの人物は武蔵と名乗り、手を振っておどけて見せる。

 

ムサシというのはあの武蔵の事なのだろうか。朝練でのトラブルで自分の体に入ったモノも確か『ムサシ何とか』だったような気がする。でも武蔵は男のはず。目の前の人物は何というか、ずいぶんと女性口調だ。

 

混乱の中でも綺凛は考える。

 

「じゃあ手っ取り早く、死合ましょうか」

「ッ!?」

 

いつの間にか武蔵が持っていた二刀で、綺凛は斬られた。

 

「~~~~ッ!!!」

 

腹を裂かれた。そう思った綺凛だったが、

 

「運が良かったわね。夢(ここ)じゃなかったら死んでたわよ」

 

朗らかな雰囲気が一変。剣士としての貌を見せた武蔵に綺凛が息を呑んだ。

 

「(踏み込みが全然見えない!? ホントに……っ!?)」

「ほら、あなたも早く抜きなさい」

 

いつの間にか綺凛も手に愛刀を持っていた。言われるがままに刀を構える。

 

「うんうん。綺麗な構えね」

「な、何ですか、これ」

「うん?」

 

夢の中の登場人物に真面目に問いかける。だがすでに、綺凛にはここが夢だという認識はなくなっていた。

 

このまま斬られるがままになっていては、現実で目覚めることが出来なくなる。その予感が、綺凛の感覚を限界まで覚醒させていた。

 

「あなた、最近悩んでたでしょ? 同じ剣士としてのお節介。せっかく才能にあふれた若者なのに、このまま腐っちゃもったいないじゃない? だからちょっと荒療治しようと思ってね」

「それは……」

「ほら、油断しない!」

「ッ!!」

 

今度は何とか受け止める。衝撃までは受けきれず後ろに吹き飛ばされるが。

 

未だ状況を飲み込めずにおろおろしている綺凛に向かって、武蔵が吼える。

 

「いつまでも受けに回ってるつもり? 力が足りないと思ってるなら全力で斬りかかってきなさい!!」

「っ、はい!!」

 

綺凛の踏み込みは武蔵に遠く及ばない。だがあえて武蔵は綺凛の剣を受ける。

 

「良い剣ね。とっても素直」

「くっ……!!」

 

綺凛は連鶴を使って切れ目のない連続攻撃をしている。にもかかわらず武蔵には、笑って雑談をする余裕すらある。

 

インターミドルでは負けてしまったものの、そこの実力者も綺凛の剣技には一目置いていた。剣技だけならばと思っていた部分もあった。にも関わらず、目の前の人物には通じない。

 

目の前の人物が本当に武蔵なのかは分からない。だが、自信のあった剣術が通じないという事実に綺凛の心が蝕まれていく。

 

「(やっぱり、私の剣じゃ……)」

「ふ~ん? この状況で他に考え事?」

「がっ―――ぁ?」

 

連鶴の合間。存在しない空間に、二刀によって綺凛の両肩から腕が切断される―――場面を幻視する。痛みを錯覚し、刀を取り落としてしまう。

 

「これで2回目ね。続ける気力ある?」

「はい……っ!!」

「それは結構。それじゃあ続けましょうか―――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……!!」

 

綺凛は布団から飛び起きた。

 

心臓が痛いほど跳ねている。

 

荒い呼吸に体中にかいた気持ちの悪い脂汗。ズキズキとした痛みを、傷口もないのに体中に感じる。さらにはどっしりと重い疲労感。

 

そしてやけに鮮明に覚えている斬り合いの夢。否、あれはただの夢ではなかったのだ。

 

綺凛は自分の胸に手を添える。自分の中に入っていったムサシ眼魂に意識を向ける。あの夢は間違いなく、この眼魂の力によって引き起こされたものだ。

 

ズタズタに切り裂かれたが、何かを伝えようとしていたのではないか。夢の中での出来事を思い返す―――と、自分の枕もとで鳴り響く携帯にようやく気が付いた。目覚ましのアラートだ。

 

「あっ、時間!」

 

慌てて時計を見る。現在時刻はすでに家を出て、朝練の場所に向かっている時間だ。

 

今からすぐに向かおうにも、軽く水浴びしたのではないかと勘違いしてしまうほど汗をかいた体だ。エチケット的にシャワーは浴びたい。だがシャワーに時間を使うと往復だけで家に帰ってくることになる。

 

「はぁ……アインハルトさんに連絡しよ」

 

今日の朝練には参加できない旨を、アインハルトに伝えるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。