次の日。学校も終わった放課後。
『やめな―――さい!!』
「おおう……そうくるのね」
画面に映ったエアリアルが、手のひらを使って敵兵をぺしゃんこにした。こうして水星の魔女、12話が終了する。
あれから数日、暇を持て余す俺は2日をかけて水星の魔女BDを視聴したのだ。なんだかんだ、この謹慎期間にBDが出たのは良かったと思う。まとまった時間がとれたしね。
「で、続きは?」
手元にある物は最後まで見たが、明らかに終わりではない。あれで完結だったらサ〇ライズにクレームが殺到するだろう。というか、最後にSEASON2とか書いてあったし。
というか、
「分かった気がする」
今回、エアリアルには12話までのBDが付属していた。だが中盤で中破したエアリアルは修理ではなく改造され、別の機体に変貌を遂げていた。つまりあれがこの後の主人公機なんだろう。
「あれを獲得しないと、続きが見れない……?」
あのラストで続きが見れないなんて何て生殺し。残酷なことを考えたものだ。
「でもこの仕組みで行くと……」
俺の知らないガンダムがあるってことは、俺の知らないライダーだったり、ジャンプ漫画だったりも、ガチャで来るかもしれないってことか。
そう考えるとちょっと……や、かなりワクワクするな。
「ま、それにはみんなの協力が必要不可欠なんだけど」
戦力強化でも俺の中ではギリギリなのに、アニメや特撮の続きが気になるから、なんて理由ではな。これは続きを観れるのは当分先になりそうだ。
「で、今度はこっちか……」
覇気習得指南書(見聞色編)に目を落とす。原作でもここの修行シーンはばっさりカットされてたからな。いったいどんな内容なのかと思ったんだけど、フムフム……こんな感じなのね。
まあ訓練自体は誰でも出来そうだな。問題は習得までにどのくらい時間がかかるのかってところだ。
才能の有無もそうだし、ルフィ達でも年単位で時間がかかっているはずだ。果たして例の『3年後』までに俺が習得できるのだろうか。
「ま、やらないよりはマシってね」
そう呟いて俺は指南書のページをめくっていく。やれることはすべてやらなければ。後悔してからでは遅いのだ。隙間時間を見つけて練習していこう。
しばらく指南書の文字を追う事に集中し、1時間ほどしたところで顔を上げた。
「……そろそろか?」
時間的にそろそろ来るはずだ。それも相当緊張してな。これからする行為を考えれば当然だけど。
昨日見たあの行為については……まあ触れないでおこう。あの鏡のことはアインハルトは全く知らない訳だし。
ピンポーン!
「お」
ウワサをすれば。
俺はソファーから立ち上がり、玄関に向かった。
「いらっしゃ―――い?」
「こんにちわ。アインハルト・ストラトス、参りました」
そこに居たのは俺の想像した通りの人物、緊張した面持ちのアインハルト―――と、
「「こんにちはー!!」」
「あはは、こんにちは……」
「おっす」
チームナカジマの面々がそろっていたのだった。
「……何で?」
想定外の娘達の訪問に、思わずそう呟いてしまうのだった。
―――――――――――――――――
「そうだ。みんなに連絡しておかないと」
翔との約束のことを思い出したアインハルトが、チームナカジマのグループチャットにメッセージを飛ばした。
(アインハルト)明日の訓練ですが、急遽予定が入ってしまったので参加できません。申し訳ありません。
「送信、っと、これでいいかな」
送信するとすぐに返信が返ってくる。
(ヴィヴィオ)えー!? どうしたんですか?
(コロナ)どこか具合でも悪いんですか?
(リオ)アインハルトさんが訓練を休む!? そんなことが!?
(ヴィヴィオ)確かに! そんなに悪いのかな……
「……」
適当に学校の用事とでも返しておけばよいものを、3人の反応を見たアインハルトは、
(アインハルト)いえ、大したものではないので、気にしないで下さい。体調が悪いという訳でもありませんから。
そう言われて気にしないなんてこと、出来る訳がない。
(ヴィヴィオ)ホントですか!? 何か困ったことがあれば相談してください!
(リオ)そうですよ! 大変だったらコーチにも相談したほうが!
「……ふぅ、ええと……」
善意のコメントにアインハルトは一息吐いて返信する。
(アインハルト)本当に大丈夫ですよ。用事と言うのは翔さんに呼ばれているだけですから。少し特訓に付き合って欲しいとかなんとか。
(ヴィヴィオ)えー!? 秘密の特訓!?
(リオ)一体どんなことをするんですか!?
何故か『特訓』が『秘密の特訓』に変換されてしまった。言葉だけが独り歩きしてしまい、ヴィヴィオ達のボルテージが上がっていく。
「マズい、ですね……」
ナニをするかなど、説明できるわけがない。これが綺凛だけなら話は別―――もしかすると一緒にするという話になったのかもしれないが、今の所綺凛からの反応はない。
変な方向に話が大きくなる気配を感じて、
(アインハルト)翔さんからも内容は詳しく聞いてなくて。でも私1人だけで来て欲しいと。
これで話を打ち切ろうとするも、
(コロナ)一人だけ……? じゃあ、綺凛さんは呼ばれてないんですか? アインハルトさんと翔さんだけで特訓を?
アインハルトと綺凛が、ヴィヴィオ達の年代と比べて翔と仲が良いことは周知の事実だ。にもかかわらず、アインハルトと2人きりというのは違和感がある。
聡いコロナだからこそ気づけることだった。
(コロナ)綺凛さん、最近様子がおかしいですし、もしかしてそのことで何かお話があるのかもしれないですね。
「流石です、コロナさん……!!」
本当は全然そんなことはないのだが、綺麗にまとまる雰囲気を感じ、小さくガッツポーズをとるアインハルト。だが続くチャットに再びあわあわとした表情になってしまった。
(ヴィヴィオ)えー!! じゃあ私達も参加したいよ!
(リオ)だよね! 綺凛さんの事、ほっておけないもん!
(コロナ)だよね。アインハルトさん、翔さんに何とか許可をもらうことは出来ませんか?
(アインハルト)聞いてみるので、少々お待ちください。
メッセージを打ち終わって頭を抱えるアインハルト。
「……うぅ、どうしよう……!!」
―――――――――――――――――
「……という事があったんです」
「なるほどな……」
まあ、ウチに来るとなったら当然訓練には行けなくなるわな。そしてその連絡も、当然入れる。そしたらみんな気になって質問する。
アインハルトが訓練よりも優先する『用事』なんてそうそう思いつかないからな。1人暮らしだから家庭の事情云々も使えないし、下手な嘘はすぐにばれる。それにアインハルトは嘘をつくのに向いてない。
実際、うまくかわしきれなかったしな。
というか、水星の魔女に気を取られてアインハルトからの連絡に気が付かなかったみたいだ。やっちまったな。
とは言え、来てしまった以上どうすることも出来ない。子供達だけならまだしも、ノーヴェさんまでいるとは。下手な言い訳は通用しないと思った方が良いだろう。
「それで、秘密の特訓って何をするんですか!?」
「アインハルトさんに言われて、『コレ』持ってきたんですけど、何処で使うんですか?」
「もしかして、綺凛さんのことを話すのかなって思ってたんですけど……違うんですか?」
「……まあ、そうだな。みんなも持ってきちゃったか……」
『コレ』というのは別に変なものではない。場所によっては必須になる衣服だ。主に水辺で着用する―――要するに水着だった。
「ああ。ホント、こんなものアインハルトに持って来させて、何させようとしてたんだ? ん?」
ノーヴェさんがニヤニヤと聞いてくる。
もちろん、ちゃんとした思惑ってものがあったんだけど。
「……ああ、わかりましたよ。今日アインハルトを呼んだのは別に綺凛のことを話したかったからじゃない。別に気にならないわけじゃないけどな。本当はこの世界を探検してもらおうと思ったんだ」
俺はみんなを新しく手に入れた『世界』に案内することにした。
―――――――――――――――――――――――
『中』に入ると、俺たちは豪華なホテルのロビーに立っていた。柔らかな絨毯に、見ただけで高級だとわかるようなシャンデリア風の照明とソファー。そして誰も立っていない受付―――いや、そもそもこのロビー自体に、人がまったくいないのだ。
「わー! ひろ~い!!」
「すっご! 貸し切りじゃん!」
「ヴィヴィオちゃん、リオちゃん、待って~!」
「おーい、お前ら! 走んなって!!」
周りの状況を確認していると、すぐ隣にいた子供たちが我先にと駆け出した。
大声を出しながらあっちこっちに、色々なところをべたべたと触りながらだ。通常なら咎められる行為でも、前述のとおり誰もいない空間なら許されるのだ。一応ノーヴェさんが注意してるけど、誰もいない空間だってことを前もって説明していたからか、その口調はずいぶんと軽い。
ということでやってきたのは、昨日手に入れた高級リゾートのダイオラマ球だ。
今日の本来の予定とはだいぶ違ってしまったのだが、ここには来ようと思ってたからな。本来ならアインハルトと2人で色々と確認しながら色々するつもりだったんだけど、みんなも来ちゃったからな……
「……で? そろそろ説明してほしいんだけど?」
ノーヴェさんがちびっ子たちを追って少し離れたところで、俺は横でただ1人縮こまっているアインハルトが上目遣いで頭を少し下げた。
「すみません。勝手な嘘をついてしまって……」
「や、いいよ」
しょんぼりと肩を落としてしまったアインハルトの頭をなでる。そしてそのまま耳を寄せた。
「それとも、みんなは邪魔かな? これじゃあ、今日はできないかもしれないもんな?」
「そんっ、な、邪魔なんてこと……っ」
言葉に詰まるアインハルト。だがそれは図星であったことの証明にもなる。
「ごめんごめん、冗談だよ。ま、機会があったらな。見ての通り人もいないし、適当に隠れただけじゃバレちまう」
「そう、ですね」
この場で2人そろって姿を消すようなことがあれば、みんなは血相を変えて探し回るだろう。気配遮断があるので見つからない可能性もあるが、コトが終わった後に何をしていたのかと聞かれるもの面倒だ。
なので、『機会があれば』というのは別行動になる場合か、『みんなの目の前でしていても問題ない』という極めてあり得ない状況だな。
そんなことを話していると、みんなが戻ってきた。
「お兄さ~ん!」
「おう、どうだった?」
「すごいです! 人がいないのは少し怖いですけど!」
「でも、これが特訓……なんですか?」
ヴィヴィオ、リオ、コロナが思い思いの感想を述べている。
「特訓……ってのは方便で、ホントはここの探検をしようって話だったんだ。ほら、正直に言っちゃうとアインハルト来てくれないかもしれないだろ?」
そんなことはないですけど、という視線がアインハルトから向けられる。
コロナちゃんが手を挙げる。
「じゃあ水着を持ってきたのは……?」
「ここには屋上プールがあるからな。入りたくなったら入ろうかと思って」
「「プール!?」」
俺の言葉に目を輝かせるのはヴィヴィオちゃんとリオちゃんだ。
「はいはい! 私プールに行きたいです!」
「私も私も!」
「あっ、私はもっと別のところも見て回りたいんですけど……」
ヴィヴィオちゃん、リオちゃんがプール、コロナちゃんは別の場所と意見が分かれてしまった。
「うーん……ここは危なくないんだよな?」
「はい。少なくとも不審者が入ってくることはないですよ。出入りに俺の許可が必要なんで。乗り物も動いてないですし、事故の心配もありません」
「そっか、じゃあ、何かあったら連絡しろよ? あぶねーことはすんなよ」
「はいっ!」
コロナちゃんが元気よく頷いた。
「んじゃ、2時間後にここに集合にすっか。翔とアインハルトはプールにはいかないだろ?」
「俺は……まあ、どちらでもいいんですけど」
ちらりとアインハルトを見た。選択はそちらに任せるという意味だ。
どうしてノーヴェさんが決めつけて話しているのかは、俺とアインハルトに配慮してくれたからだろう。
本来ならここは、2人で来るはずだった。俺達の関係を何となく察しているノーヴェさんだったら、察してくれてもおかしくはない。
「私は、そうですね。私も見て回ろうと思います」
「じゃあ、俺もそうするかな」
「りょーかい……ガキ2人はアタシに任せな。お前は、な」
耳を寄せて小声で呟いてくる。
配慮してくれるのはありがたいんだけど、こう、ずっとニヤニヤされてるのは面白くないな。
「ホントはコロナもプールに行ってくれた方が良かっただろ? 変なところ見られちまうかもしれねぇしな」
「俺とアインハルトは、いったい何をすると思ってるんですか?」
俺はきょとんとした顔で逆に問い返してみた。本当に心当たりが無いとばかりに。
そんな俺の態度に、にやにや笑いを引っ込め、困惑するノーヴェさん。
「い、や……何って、ほれ、アレだってアレ」
「アレとは?」
「だからアレだよ! 恋人同士でするアレって言ったら、アレだろ?」
「はい」
「……だ、だからな」
もごもごと、ノーヴェさんは赤くした顔を横に向けて、
「…………キスとか? 2人きりになってさ?」
何とも可愛らしいことを、小声のボリュームをさらに落として呟いた。そのうぶな反応に、思わず笑ってしまう。
「なっ!? てめっ、何笑ってんだよ!!」
「いえ、お気遣いありがとうございますと思って。そうですよね。恋人になったら、そういうことしますよね」
俺の態度があまりにも余裕だったからだろう。ノーヴェさんが追加の質問をしてきた。
「……あの、さ。お前ってもしかして、いや、多分そうだとは思ってるんだけど……経験あんの?」
「普通にセクハラですよ」
「ぐむむ……!!」
俺の交友関係や生活状況を知ってる人なら、確信してるだろう。表立って喧伝することでもないが。
「それじゃあ、ノーヴェさんの厚意を有難くいただきたいと思います」
「……ケッ! 余計な気回すんじゃなかったぜ!」
耳まで赤くしたノーヴェさんはそう吐き捨てて、屋上プールに行くためのエレベーターに向かっていった。
「翔さん? ノーヴェさんと何を話されていたんですか?」
「いや、別に何にも? じゃ、行くか」
「お二人は一緒に行動するんですか? それでは、私はこっちの方に行ってみますね」
コロナに手を振りながら、ホテルの外に向かって歩き出すのだった。