病院に泊まるための荷物を取りに家に戻った。
日は沈み、これからが活動時間という人たちもいるだろう。今回の目標のユウキも今はそうなっているのかもしれない。
いつユウキが訪ねてくるか分からない以上、一刻も早く病院に戻らなければいけないのだが、その前にクロとティナから気になる話を聞いていた。
八神道場の休止、ユウキの家へのシグナムさんの派遣は八神さんから連絡があったため知っている。『それくらいしかできないけど』と言われたが、それだけでも十分だ。
問題は、
「誰かに見られてた、か……」
「はい。私達が目的ではないように見えましたが」
ティナが言うのなら間違いあるまい。こう見えても元暗殺者だからな。
ユウキの家は集合団地のような場所らしいから、別の住人のトラブルという線もある。
「でも気になるな。ユウキが狙われるとしたら……今までの報復か」
「そうですね。裏の人間の可能性が高いですね」
ヤミがぽつりと呟き、みんなの視線が集中する。にもかかわらずヤミは淡々と続けた。
「紺野 ユウキはここひと月の間、無差別に犯罪者を潰して回っていた。あらゆる組織に恨みを買っている可能性が高いです」
「あ~、わかるわかる。チンピラってさぁ、共通の敵を見つけると無駄に連携しだすよねぇ。敵の敵は味方ってヤツ?」
裏の顔をのぞかせた理子が顔を歪めて不快感を露わにする。
チンピラとは弱いものをいたぶるからチンピラなのだ。管理局や大手の武偵事務所、もしくは有名人相手なら、チンピラは怖がって手を出したりはしない。
「どこで正体がバレたのかはわかりませんが、大きな組織に所属していない個人、報復攻撃を受ける可能性が限りなく低い個人、恨みをぶつけるのにこれ以上適した相手はいませんよ」
「経験あるのか?」
「やられたほうですが」
ま、ヤミは報復なんてするタイプじゃない(えっちぃことを除いて)からな。
そう言われるとやっぱり不安になってくる。特に証拠がないのにユウキが目的だったんじゃないかって思ってしまう。
「……やっぱり、お話を聞いておいた方が良かったでしょうか?」
「や、いいよ。何かあったら大変だし」
でもこの話を聞いて何もなしはない。そいつらの目的がユウキへの報復だった場合、アナザーゴーストの件を片付けても別の問題が発生することになる。
「ちょっと調べてもらってもいいか? 何か分かったら六課に情報を流そう」
「ん、おっけー。ご褒美期待してるね~」
理子は指で輪っかを作ってウインクしてきた。
「私は出来るだけ子供達と一緒にいることにします。チンピラに見られた以上、報復に巻き込まれるかもしれません」
「ああ。頼む」
ヤミがいればそんじょそこらのチンピラに負けることはないだろう。
これで話はまとまった。そろそろ病院に向かおうと立ち上がり、
「ところで翔君」
「ん? なんだ、アスナ」
「昨日の夜って、家を抜け出してたんだ?」
「じゃあ行ってくる!! しばらく帰らないから!!」
俺は逃げるように家を飛び出すのだった。
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病院に帰ってきた俺は、すぐに藍子ちゃんの病室に向かった。
《あ、夜月さん! 帰ってきたんですね!》
「ああ」
こうして俺達の長い夜が始まったのだった。
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メディキュボイドに繋がれた藍子ちゃんだが、『眠る』という行為は必要だ。だが、今日は俺がいるという事で長めに起きているらしい。
ま、寝坊しようがどうとでもなるからな。
俺も夜更かしを、ってかユウキが来るまでずっと徹夜予定だ。学校も行かないし、いつもの朝練もお休みする。
って訳で俺は藍子ちゃんが眠くなるまで雑談することにした。
流石ユウキの双子とだけあり、人見知りすることなくコミュニケーション出来るし、あっという間に仲良くなってしまった。
《ところで翔さん》
「ん?」
日付が変わるころには、藍子、翔さんと呼び合うほどに打ち解けていた。
《ユウキのこと止めるって言ってたけど、ぶっちゃけユウキに勝てるの? ユウキ、かなり強いと思うけど。大会でも凄かったし!》
「ああ。それね」
ちなみに藍子は、ユウキの試合の様子を八神道場の面々からのビデオ通話で見ているらしい。この前のインターミドルもネット配信を見ていたとか。妹との共通の話題として興味を持ったらしいのだが、今ではすっかり自分の趣味にもなっているのだとか。
俺は強いが弱い。さまざまな特殊能力を駆使、相手の能力を把握するという最強の強みがありつつも、実際は戦い始めて半年の素人に毛が生えたような実力だ。
格ゲーで言えば、常に相手のキャラに有利なキャラを選べるという感じだ。『有利なキャラ』なので必勝ではないが、そこに原作キャラへの知識も合わさればそれなりに戦える。たとえキャラの扱いがそこそこでもな。
だがアナザーライダーに対しては、そのライダーの力で戦わなければいけないという縛りが発生する。そうなってしまうと俺の強みである多彩な能力というものを生かせない。
また格ゲーで例えるとミラーマッチのようなものだ。そこそこの腕しかない俺は、その道のプロにはどうしても勝てないのだ。実際、最初の戦闘では手も足も出なかったしな。
《う~ん? よくわからないけど、それってつまり勝てないってコト? ダメじゃん、それ!!》
「ま、だけどね」
俺はディケイドウォッチを取り出した。
試してみたところ、ゴーストでのファイナルフォームタイムでは闘魂ブーストを通り越してグレイトフル魂だった。それだけのスペック差があれば多少の腕の差は覆せるだろう。
これだってゴーストの力だし、ゴーストで倒した判定になるはずだ。
そんなことを話していると、病室の扉が開いた。
時間が出来たら御門先生とティアーユ先生が様子を見に来ると言っていたのでそのどちらかだろうか。そう思って目を向ける。
だがそこに居たのは、
「こんばんは、我が魔王」
「ウォズ……お前……!」
いつも通りの微笑を浮かべ、巨大な本を持った男だった。
《どちら様? 翔さんのお友達?》
「友達じゃないけど……」
敵とも味方とも言えない。あいまいな存在だ。俺に色々とアドバイスをしているが、裏では何をしているのかわかったものじゃない。
警戒しつつ身構えていると、ウォズは恭しく腰を折った。
「まずは改めて。我が魔王が新たなるライダーの力を継承したことに、最大の祝福を」
しっかし、こいつの言う『魔王』ってのは一体何なんだ? どうしてライダーの力を集めていくと魔王になるんだよ。まあ、ディケイドも『悪魔』とか呼ばれてたから、ジオウもTV本編では『魔王』って呼ばれてたのかもしれんが。とするとやっぱり、こいつは俺と同郷の人間になるのか?
だが使えるライダーの力が増えるというのは悪いことではない。ウォズの言う通り喜ばしいことだろう。
だが、
「ライダーの力は手に入れたが、アナザーゴーストは野放しになっているだろ。これで終わりにするつもりはないぞ」
「その通りだ、我が魔王よ。今回は少しまずいことになっているようだ」
「何だと?」
俺は目を細めてウォズを睨みつける。
「先日の戦闘、我が魔王は見事仮面ライダーゴーストの歴史を継承した。それは全世界の人々に祝福されるべき事柄だ。それはいい。問題はウォッチを抜き出したにもかかわらず、アナザーゴーストを倒すことができなかった点だ」
左手で持っているゴーストウォッチに目を落とす。
俺はこれまで何人かのアナザーライダーと戦ってきた。
ティアーユ先生が変身していたアナザービルド、耀が変身していたアナザーオーズ、アリアが変身していたアナザーダブル。そうだな。確かに今までは毎回、最初に戦ったときに倒している。逃げられたのは今回が初めてだ。
「今でもアナザーライダーが存在しているのは、言ってしまえば残り香。大本の力はなくなっているのだから、何もしなくても消滅するだろう」
「そうなのか?」
だとすれば何がまずいのか。
「単純な話、いつ消えてしまうかわからないウォッチで変身していれば、変身者もウォッチの消滅に巻き込まれて消えてしまうかもしれないということだ。ウォッチの消滅は、ただ変身が解除される程度の生易しいものではない」
《そんなっ!!》
単語のほとんどが理解できないだろう藍子。だがユウキがかかわっているという事実、そして『消滅』という言葉に大きく反応していた。
ウォッチを抜き出してそのまま消滅するのならこれほど楽なことはない。俺はアナザーライダー近づいてウォッチを回収する。そのまま力が消えるまでのらりくらりと時間稼ぎすればよいのだから。
だがそうではない。アナザーライダーを消滅前に倒すことが出来なければ、変身者も一緒に消えることになるのだ。
「じゃあユウキは……!!」
「心配する必要は無い。昨日の戦闘後、無事に家に辿り着いたところまでは観測している」
「何……!? じゃあその後は!?」
クロの話では今日は家にいなかったと言っていた。それはつまり―――
「途中で変身を解除していたことも観測している。その後変身していれば、どうなるか分からないがね」
ウォズは笑顔を張り付けたまま肩をすくめるだけだ。
「ふざけてるのか!!」
「私が望んでいるのは、あなたが一日も早くすべてのライダーの力を継承することだ。確かに王妃は重要だが、全てはあなたあっての事。優先順位が異なる」
その言葉に、俺の思考は一気に冷えた。そうだ。こんな得体のしれない奴に頼る方がおかしいのだ。
「それでは」
言うべきことは告げたとばかりに部屋を出ていこうとしているウォズ。それを呼び止める。
「おい。一つ聞かせろ」
「なんなりと」
「お前じゃないんだよな?」
お前じゃないのか。アナザーウォッチをばらまいているのはウォズではないのか。ここまで訳知り顔でぺらぺらと教えてくるなんて怪しすぎる。
「私ではない。そしてこんなことをしている下手人の正体も知らない」
「……そうか」
ここでその言葉の真偽を確かめることはできない。今は俺をまっすぐ見て言ったその言葉を信用するしかない。
ウォズはもう一度礼をして、病室を出て行った。
――――――――――――――――――――――
「おつかれっス」
「おう、首尾はどうだ?」
いつもの店。アニキは子分に今日の成果を聞いていた。
子分は首を横に振りながら席に座る。
「ダメっすね。八神道場がいつも練習してるっていう場所に行ってみたんスけど、それらしいガキはいませんでしたよ。休みだったんスかね、練習」
「そうか……」
ネット上には特に休みの日などは書いていなかったのだが、詳しい事情を気にしてもしょうがない。
いないのなら日を改めるだけだ。
「家の方がどうだ?」
インターミドル会場でバイトをしていたバイト子分は、アパートに張り付いてユウキが帰ってくるのも待ち構えていた。
バイト子分も首を横に振る。
「や、紺野 ユウキは帰ってきませんでしたね。ただ丁度良くお見舞いに来てた娘がいたんですよ! 話を聞いた感じ、風邪ひいたとかなんとか。風邪かどうかは分かりませんけど、昨日見た感じケガはしてんじゃないですか」
だとすれば今は家にいるのか。1人暮らしの女の子が病気かケガをして。襲って下さいと言ってるようなものだ。
「でもびっくりしましたよ。ミウラ・リナルディは同じ八神道場何でわかるんですけど、まさかチームナカジマまで来るなんて」
「チームナカジマ?」
「はい。言いませんでしたっけ? そこも今回の大会で大暴れしたチームで―――」
「そのチームのメンバーも紺野 ユウキと交友があったってことか」
バイト子分の話を遮るアニキ。『そう言う事になるんでしょうね』とバイト子分は頷いた。
ここまで良い進捗が無いが、デバイスを立ち上げたデバイス子分は違った。
表示されているのはゴロツキ達の連絡網。そこに書きこまれた情報は島中のゴロツキに共有される。そこにユウキの情報が書き込まれていた。
「続々と俺らも混ぜろって奴が増えてます!」
「そいつは僥倖」
兄貴も満足そうに頷く。
「はい! ……ただ」
顔を顰める子分。
「俺らで幽鬼に勝てるのかってコメントもありますね。数を揃えれば良いって相手じゃないとかも」
「ふむ……」
それは兄貴も理解していた。
とんでもない剣技に物体を透過する能力。全方位から銃弾を撃ち込んでも幽鬼には効果がないだろう。
だからこそ情報を集めて能力の弱点を調べているのだ。
調べ始めてまだ1日目だ。焦らずじっくりやっていくのが一番だ。
と、そこで、
「もしもし」
「あ?」
カウンターに座っていた男が声をかけて来た。
上等なスーツに一目で高級ブランドだとわかる腕時計。こんな小汚い店にはふさわしくない、上品な男だ。
身に着けているモノだけを見ればゴロツキ共のカモにされるような人間だが、纏う雰囲気から無意識に避けていたのかもしれない。
「……あんだよ」
「いえね、少々気になるお話をしていたもので。紺野 ユウキについてですか」
「はあ?」
アニキの顔が不快に歪む。
「テメェ、盗み聞きしてんじゃねーぞ!!」
子分が立ち上がり威嚇するが、上品な男はカウンターに座ったまま背を向けている。
「おい、おっさん! 何とか言えよ! そっちから声をかけて来たんじゃねえか!」
何も答えないことで無視されたと考えた子分が、男の肩に手をかける。
瞬間。
「―――こひゅ!?」
子分が喉を押さえた。
口をパクパクと動かしているが何も聞こえてこない。うめき声も呼吸の音すらも。
口からは涎が垂れ、眼が血走る。舌まで突き出し必死に酸素を求めているようだが―――やがて崩れ落ち失神してしまった。
「すみませんね。手荒な真似はしたくはなかったのですが」
「な、何なんだよ、アンタは……!!」
倒れた子分を睥睨し、静かに謝罪する男。その格の違う態度に、アニキとその子分たちは一瞬で立場を理解した。
口調は強気だが、語尾に脅えが混ざっている。
「ですから紺野 ユウキに関してですよ。話を聞くところによると、彼女に攻撃を仕掛けたいと。ですが相手が強く、うまく仲間が集まらない。そう言う事ですね?」
「……まあ、そうだ」
「でしたら私が、とっておきの情報を提供しましょう。彼女を跪かせる魔法の言葉を」
それは確かに、復讐するために喉から手が出る程欲しい情報だ。
「それに」
男は懐からとあるモノを取り出した。
「復讐には色々とご入用でしょうからね」
USBメモリのようなモノを。