「お前ら全員残らず―――」
《GHOST》
「―――殺してやる」
目にもとまらぬ速さで抜刀し、まずは目の前にいる相手を切り殺そうと剣を振り上げるアナザーゴースト。
暗闇の中に、火花が散った。
振り下ろされたアナザーゴーストの剣を受け止めたのは、綺凛が構える赤いオーラを放つ刀だった。
「綺凛、さん……!? なんで……!!」
「なんで、じゃ、ありません!! 何しようとしてるんですか……!!」
ユウキの攻撃は相手を殺すためのものだった。今の瞬間、ユウキは間違いなく人を殺そうとしていたのだ。止めない訳がない。
だがユウキにとって目の前の奴らは絶対に許せない存在だった。自分に暴力を振るったことも、セクハラ紛いをしたことも、そんなことはどうでもいい。姉に危害を加えようとした時点で、ユウキはプッツンしていたのだ。
だから、
「殺す必要なんて、ありません……!! ユウキさんがそんなこと―――」
「邪魔しないで!! 綺凛さんには関係ないッ!!」
「ッ!!」
どういう事情でこの場に来たのかは知らないが、綺凛に何かを言われる筋合いはなかった。
強引に剣が振るわれる。綺凛の身体がふわりと浮かび、大きく吹き飛ばされてしまった。
着地して顔を上げると、アナザーゴーストの目の前にへたり込んだ男が半ば発狂して銃を乱射している。だがその全てが身体を透過していた。
再び剣を振り上げるアナザーゴースト。
「ダメッ!!」
綺凛は叫びながらブーストを全開にする勢いを乗せて振るった刀。今度はアナザーゴーストが吹き飛ばされる番だった。
空中で態勢を整え、音もたてずに着地する。
2人の剣士が睨み合う。
目論見が外れたことで、チンピラ達は我先にと逃げ始めていた。入り口近くにいた者はすでに外に逃げているが、アニキやその横にいた子分達はそこから動けないでいた。出口がアナザーゴーストの後ろにあるからだ。
「た、たす、助けてく―――」
この場で唯一アナザーゴーストと対等に戦えている綺凛に縋りつこうとした子分の1人。綺凛に触れる直前、
「―――待ちたまえ」
「おごっ!?」
突如現れた男性が、伸ばされた手ごと子分の顔面を蹴りぬいていた。
「我が魔王の王妃候補に、他の男性が気軽に触れてもらっては困るな」
「え!? あなたは……?」
妙に芝居がかった身振りで倒れた男に演説している。綺凛には見覚えのない男だが、その声には聞き覚えがあった。
「もしかして、私の家に来ていた……ユウキさん、ダメです!!」
綺凛が男性―――ウォズと話をしようとすると、ユウキは構わずに逃げ始めるチンピラに斬りかかる。ユウキにとって2人に付き合う必要がないからだ。
綺凛もユウキに無視されるわけにもいかない。ウォズとの会話を打ち切って間に割り込む。
激しく斬り合う2人を眺めながら、ウォズは台本を読み上げるように歌い上げる。
「流石は刀堂 綺凛。この短期間で良くそこまでムサシの力を引き出せるようになった」
赤いオーラを纏う綺凛の刀は的確にアナザーゴーストの剣を弾いている。ユウキがそれを見るのは2回目だが、それが幽霊である自分に対しても効果があることは理解していた。
「これならばこの場の有象無象の逃げる時間を稼ぐことは出来るだろう」
ウォズの言う通り2人の実力は拮抗している。綺凛がユウキを引きつけることで、チンピラは(それが良い事かは別にして)無傷でその場から逃げ出せていた。
「だが、時間稼ぎはオススメしない。すでに大本の力が抜き取られているアナザーライダーは何時消えてもおかしくない不安定な存在。本来ならばすでに消えていてもおかしくないのだ」
「っ! そ、そうです!! ユウキさん、その姿になっていたら体が消滅してしまうって……!!」
「どういう事……?」
綺凛も思い出して叫ぶ。錯乱していたユウキも消滅という言葉を聞いて動きを止めた。
「く、詳しい仕組みは全然分からないんですけど、とにかく! 変身してたらそのうち消滅しちゃうって……!! だから落ち着いて! 一度変身を解いてください!!」
「……」
ユウキは突然出た荒唐無稽な話を咀嚼しようとする。これはこの場を収めるための2人の出まかせなのではないか。だが、ウォズはともかく綺凛の必死な表情を見るに真実なのではないか。
そんな思考は、
「ひいいぃぃぃっ!!!」
チンピラの叫び声で霧散することになった。
アナザーゴーストが動きを止めたところを好機と思ったのか、今まで恐怖で固まっていた者が動き始めたのだ。
「逃がさない!!」
「ユウキさん!!」
すかさず間に割って入る綺凛。チンピラの眼前で刃物同士がぶつかり合い火花を散らした。
「僕が消滅するとか、そんなのはどうでもいい!! 姉ちゃんに危害を加えるかもしれない奴らを、このまま逃がすわけにはいかない……!!」
「そんな!!」
綺凛の奮闘で倉庫内のチンピラの人数は一桁になっていた。その間、ユウキは誰のことも傷つけていない。
今回の件でユウキに恐怖を覚えたチンピラ達が、再度ユウキに手を出す可能性はかなり低い。だが、その一部が暴走して破れかぶれの特攻を仕掛けてくる可能性もある。ユウキが殺意をむき出しにしたことで可能性を残してしまった。
「ふむ。それでは」
「なんだ、これ……!!」
ウォズが身に着けていたマフラーが自在に動き、幽霊であるはずのアナザーゴーストを拘束する。
「あなた……」
「という訳だ、刀堂 綺凛。紺野 ユウキは絶対に説得には応じない。彼女の持つ決意は、生半可な説得で覆るようなモノではないのだ。アナザーゴースト消滅までの時間を考えれば後は―――実力行使しかない。時間稼ぎではなく、この場で倒すしかないのだ」
「だから私だったんですね」
今、綺凛がアナザーゴーストと戦えているのは自分の中にムサシ眼魂があるからだ。アナザーライダーを倒すには同じライダーの力が必須。
つまり―――!!
「いや、それは違う。確かに君はムサシの力を断片的に引き出している。だがそれはあくまでも『ムサシ眼魂』の力であって、『仮面ライダーゴースト』の力ではない。その刀でアナザーゴーストを倒しきることは不可能だ」
「じゃあどうすればいいんですか!!」
もったいぶった言い方をされているが、流石の綺凛も理解していた。ウォズは解決策を持っていてわざとこういった言い回しをしているのだと。
ウォズは軽く笑って何処からかアイテムを取り出した。
片膝をつき、それを綺凛に差し出してくる。
「これを」
「これって……翔さんの……?」
ウォズが小さな座布団に乗せて差し出してきたモノ。それは翔も使っているベルト―――『ジクウドライバー』。その向かって左側のスロットが無いものだった。
「似ているが異なるモノだ。我が魔王が持っているモノが『魔王のベルト』ならば、これは『王妃のベルト』と言うべきものだ」
「お、王妃!? 先輩の、ですか!?」
「その通り。君にはその資格がある。後はその覚悟だけだ」
「覚悟……」
「その一生を我が魔王に捧げ、命尽きるまで力になる。その覚悟だ。これを手にすればその宿命からは逃れられなくなる。その宿命と戦う覚悟があるのなら―――このベルトを手に取るのだ」
ウォズは頭を下げ、選択を綺凛にゆだねた。
「はな、して……っ!! 早く追いかけないと、アイツら……!!」
アナザーゴーストは未だマフラーに拘束されているが、その拘束も限界に近付いているのがわかる。
「このベルトを使えば、ユウキさんを助けることが出来ますか?」
「もちろんだとも」
「もっと、翔さんの力になれますか?」
「王妃となれば、これまで以上に」
「……」
大きく深呼吸した綺凛はベルトを手に取り、恐る恐る腰に近づけた。すると即座にベルトが巻き付いた。
装着すると同時に、
「(これ、使い方、分かる……あれ? なんだかお腹の中、温かい……?)」
説明書など読まなくても、このベルトの使い方が理解出来た綺凛。手を開くとそこには1つのウォッチがあった。
両手で丁寧に操作する。
《GHOST》
それは翔の保管庫にあったゴーストウォッチだった。
ウォッチを起動すると、綺凛の胸の中央から赤い人魂が飛び出してきた。しばらく周囲を周回するとウォッチの中に吸い込まれ、ウォッチの絵柄がオレ魂からムサシ魂に変わる。
「これを―――こうっ」
スロットに装填し、
「変身っ!」
回転させた。
《ARMOR TIME!》
《KAIGAN! GHOST!》
次の瞬間、綺凛の着ていた服が再構築され、ゴーストのアンダースーツを模したものに変わる。その上から、周囲を飛び回る赤いパーカーゴーストを着込こんだ。
さらに出現したガンガンセイバーが真ん中から割れ、二刀に分離。綺凛の手に収まった。
「祝えッ!!!! 全ての時空をしろしめす時の王者、仮面ライダージオウ。その伴侶の1人が誕生した瞬間であるッ!!」
「あ、あの、あんまり大きな声で言わないで下さいっ」
聞いている者は数人しかいないのだが、それでも綺凛は恥ずかしがって顔を赤くする。
と、同時にユウキの拘束が解けた。
「それでは王妃よ。この場はお任せします」
と言ってウォズは消えていった。
だが何となくそんな予感がしていた綺凛は慌てずに二刀を構える。刀堂流に二刀を使う技はない。だが、翔にレッドフレームを貸し出されたことで練習を始め、ムサシという最強の二刀使いとの手合わせを経て、その腕は格段に上がっていた。
それは、
「(綺凛さん、こんなに……!? インターミドルで戦った時とは、全然、別人だ……!!)」
連鶴ではない二刀を使った連撃に、ユウキは防戦一方になる。
確かに綺凛はインターミドルの時に比べて二回りは強くなっている。だがそれ以上に、ユウキの腕が落ちていることが原因だった。
インターミドル時点ではほぼ互角だった2人。
そこからユウキは、アナザーゴーストになることで毎日のように実戦を繰り返していた。だが、その内容は幽霊の能力に任せて攻撃を透過させ、障害物を気にせずに一刀で切り捨てるというモノ。
体力の消費を抑えるために無駄な動きを最小限にした結果だが、結果的にユウキの一番の強みである反応速度を鈍らせることになった。
「(負ける―――)」
変えられない事実としてその結果が脳裏に浮かんだ。
同じゴーストである以上、後は本人の腕で勝負が決まる。ならば、今のユウキに勝ち目はゼロだ。
目の前を掠める刀に気を取られていては、死角から襲い掛かってくる刀に反応出来ない。
「(だめ、だ。負けられない。ボクが姉ちゃんを―――!! あ、れ、姉ちゃん、を? ぁ、ぇ……?)」
「っ!? これって、もしかして……」
突然アナザーゴーストの体が揺れ始めたのだ。霧のようにゆらゆらと、手先も薄くなり始めている様にも見える。
あれはマズい。あれが消滅という現象なのではないか。もう時間がない。
「その前に決めます!!」
綺凛はベルトを操作する。
《FINISH TIME! GHOST OMEGA TIME BREAK!》
ベルトから赤いエネルギーが刀に注ぎ込まれ、背面にはゴーストのマークが浮かび上がった。
「―――これで……やああああぁぁぁっ!!!」
消えかけのアナザーゴーストは何の抵抗も見せず、その攻撃を受け入れた。
斬りぬいた綺凛はアナザーゴーストの背後で残心する。直後、倒れたアナザーゴーストはユウキの姿に戻り、ゴーストによって倒されたことでアナザーゴーストが正規の手段で消滅していく。
地面に刀を突き刺して、それを杖のように使いながら、地面にへたり込む綺凛。
「はぁぁぁぁ~~……」
大きく息を吐き、終わったと思うのだった。
―――――――――――――――――――
藍子が入院している病院。俺は突然現れたバードドーパントと、ほぼ一方的な戦闘を行っていた。
相手は俺がドーパントと戦えるレベルであることが想定外だったのか、軽いパニックに陥っていた。
そして、失礼かもだが相手が弱い。達人たちと戦闘を繰り返してきた俺を相手にするには役者不足だった。
「ごぱっ!? ク、クソっ!! 聞いてねぇぞ! こんな奴がいるなんて!!」
「そいつは興味深いな。いったい誰にここのことを聞いたんだ? お前、藍子のことを狙ってきてたよな?」
「だ、誰が言うかグギャ!? ガハッ!?」
ジカンギレードで切り裂いて地面に倒したところを、思い切り蹴飛ばす。
「そりゃそうだよな。教えてくれるわけないか」
それにしても、これだけ騒いでいるのに警備員が誰も出てこないな。近くを巡回してた人はコイツにやられちまったってことか。
「ま、相手がドーパントってんなら、コイツを使ってみるか」
《W》
《ARMOR TIME!》
《CYCLONE! JOKER! W!》
「姿が変わった!?」
俺の変化にいちいち反応して隙を作ってくれる。そこに打撃をお見舞いし、もう一度床に転がってもらった。
「やってられるかよォ!!」
絶叫しながら壁をぶち破って空へ飛び立つが―――
「逃がすかよ!!」
「あぶっ、クソ! やめ……!!」
ジカンギレードのガンモードを連射する。
まだ飛び慣れていないのか、それとも俺の射撃でバランスを崩しているのか、その場で滞空してバタバタと暴れている。
だが、これは好機だ。
「よしッ!!」
《FINISH TIME! W MAXIMUM TIME BREAK!》
病院の廊下から助走をつけ、
「でえええええっ!!!!」
足を揃え、キックの体勢で飛び出した。
だがこのままでは、空高く飛んでいるバードドーパントには若干飛距離が足りない。すると両肩に合体していたメモリロボットが分離し、俺の背中を2体同時に蹴飛ばしてきた。
それによって加速。飛んで逃げようとしているバードドーパント。そいつの背中にライダーキックを叩き込むッ!!
「ぎぃぃぃやぁぁぁっ!!??!!?」
当然避けられるわけもなく、悲鳴と共に爆散した。
「ふう……」
変身者が病院の中庭に墜落する―――直前に俺がキャッチすることで地面との激突は防いだ。
「ったく、ナニモンなんだよ、こいつは……」
大した強さじゃなかったとはいえ、こんなところで飛び出してきて良い存在じゃないぞ、ドーパントってのは。
と、
「ん?」
何かが空から落ちてきた。その方向に目を向けてみるが、落ちた物体はどこかに転がったらしい。気になった俺は男を地面に転がしてその物体を探す。
「こいつは……」
それはガイアメモリだった。
イメージ通りの骨のような装飾が施されたもの―――ではなく。
メモリブレイクによって粉々になっている―――訳でもなく。
まるでライダーが使っている純正ガイアメモリのようにキレイなメモリが、そこには転がっていた。しかも差し込み端子が青みがかっている。
端子が青。青だと? まさか―――T2ガイアメモリ!?
俺は手に取ってそのメモリを観察しようとする。
「あ!?」
その前に、メモリが忽然と姿を消してしまった。幻だったのかと思うほど、その場には何も残っていない。
どこかに転送されたのか?
「いったい何なんだ……」
だが考えても仕方がない。こうしている間に隙を突かれてユウキが訪れてしまっては本末転倒だ。
俺は駆けつけてきた警備員に事情を説明すると、急いで部屋に戻ったのだった。