「……」
リビングには重苦しい空気が広がっていた。
全員で楽しい食卓を囲んでいたはずのテーブルには現在、『王妃のベルト』が置かれていた。
病院から帰りたっぷり睡眠と休養を取った俺はその夜、みんなの前で事件のあらましを話した。
その中で話題に出たものに全員の注目が集まったのだ。
「それで、それが『王妃のベルト』なんだね」
「ああ、そうだ」
アスナの確認に頷いた。
ここにある王妃のベルトは綺凛から預かったものだった。
このアイテムは今回のキーになったとはいえ、得体のしれないものであるのは確かだ。それも変身だけでなく、俺のアイテムボックスへのアクセス権というド級の能力まで付与されている。綺凛には思いがけない業を背負わせてしまった。
だが幸い、このことを知っているのは俺と綺凛、そして今ここにいる俺の身内だけだ。ああ、あとウォズか。あいつがこのことを知らずに手渡すわけがない。
「先輩のせいじゃありませんから気にしないで下さい」
「そうそう。それにうまく使い回せば、アナザーライダーとの戦いにも役立つかもしれないしね―――という訳で」
理子が見ほれるような動きで机の上の王妃のベルトをかっさらう。
「一番乗り~!」
少し離れた場所に着地した理子がくるりと回転してポーズを決めた。フリルがふんだんにあしらわれたスカートがふわりと膨らみ、その腰にベルトがあてがわれた、が―――
「あれ?」
「ん?」
ベルトが巻き付かない。何度試しても同じだ。
「理子さん、ちょっと貸して下さい」
雪菜が試してもそれからさらに全員で回して試してみても、誰も装着できなかった。そこから導き出される答えは、
「綺凛専用か」
「そうですわね」
最初に装着した人にしか使えない。実に分かりやすいシステムであり、最強のセキュリティだ。
「でも翔君も装着出来るんだよね」
「ああ、まあ俺は力の大本だしな。自前のジクウドライバーもあるし、アイテムボックスにもアクセスできる。わざわざコイツをつけるメリットはないな」
アスナの言葉に、俺はもともと持っていたドライバーを取り出す。
「力の大本……」
「桜さん? 何か気になることでもあるんですの?」
「いえ、本当にベルトを装着するだけで、翔君のアイテムボックスにアクセス出来るのかなって」
というと?
「翔君の力は魔術ではないですけど、その根底にあるルールのようなものは共通していると思うんです。そこを基準に考えると、単純な貸し出しならともかくアイテムボックスっていう根底にまでアクセス出来るのに、ベルトを着けるだけっていうのは簡単すぎるような気がして……」
「いい指摘だと思うわ、桜。私もそう思う。もっと強いパス、繋がりが必要なんじゃないかってね」
今度はクロに視線が集中した。
「わざわざ『王妃のベルト』って言ってるんだから女性専用でしょ? そこでお兄ちゃんとのパスってことはつまり―――アレしかないんじゃない?」
クロの目がきらりと光った。
「つまり、お兄ちゃんとセックスしてないと使えないのよ!!」
誰からも反論は……なかった。アスナや雪菜ですら『何を馬鹿な』と笑い飛ばさない。
俺も納得してしまった。まったく証拠の無い発言なのだが……なんというか、『俺らしい』条件だと思ってしまった。
「なるほど。確かに魔術でも性行為はパスを繋ぐポピュラーな手段。それでいて気軽に出来ないのならセキュリティとしてもバッチリですね……」
何故か妙に納得している桜。生涯の伴侶となる男女がやることやってないわけないし、俺の伴侶だったらなおさらだ。その上でのさらなる信頼と考えれば……
でもただの予想でしょう?
「だったら私が実験台になる」
そう言って手を上げるのは耀だった。
「この中で事情を知っててしてない人は私しかいない」
「いえ、私もしていませんが」
「ヤミ? でもする気はないよね?」
「……まあ、そうですが」
何やら話は進んでいるみたいだけど、言いたいことがある。
「いやでも、これからベルトが増えるとは限らな―――」
「増えます」(雪菜)
「もちろん増えるよね?」(アスナ)
「増やすまで絞るしかないんじゃない?」(クロ)
「むしろわたくしの分身の分も増やしていただかないと」(狂三)
「こんなに女の子増やしたんだしさぁ、責任取ってもらわないとだよねぇ?」(理子)
「まさか綺凛さんだけってことはありませんよね?」(桜)
「しっかりと検証には付き合うから、ね?」(耀)
「我々の間に上下を作らないためにも、ベルトは平等に必要ですね」(アルトリア)
「まあ、私がトップであることには変わりないがな」(オルタ)
「お兄さんとのつながり、私も欲しいです」(ティナ)
「最低でもここにいる全員分でございますね」(コッコロ)
「コッコロ。私は違います」(ヤミ)
や、ベルトが出たら誰かにあげるつもりだし……そうなると今度は『誰がもらうのか』が問題になるのか。
来るかも分からない未来を考え、頭が痛くなるのだった。
―――――――――――――――――――――――――
翔がひと時の休息を楽しんでいる間。翔の呼びかけでユウキを襲ったチンピラの対処をしている人がいた。
オフィスの最上階。
スーツ姿の男性2人だ。眉間にしわを寄せて話し合っていた。
この会社はチンピラを使って非合法な取引を行っていた会社の1つ。男達は会社でも重要なポストに就いている。
「アイツらめ。今まで受けた恩を忘れおって」
「まったくです」
実は今朝になって、今まで使っていたチンピラがもう二度と仕事は受けない。関わらないと連絡してきたのだ。詳しい話を聞こうにも、幽鬼に殺される、逃げないとなどと叫ぶばかりで会話にならなかった。
それが既に数グループ分。すでに次の取引に影響が出るレベルになっていた。
「忌々しい幽鬼め……ああいう自分の正義を振りかざす輩が一番厄介だ」
「とは言えどうしましょうか」
「どうもこうもない。すぐに代わりのチンピラを手配しろ。多少金を積んでも構わん。とにかく、取引は絶対に成功させる必要がある!!」
「いえ、それはそうなのですが……今回、降りた奴ら。管理局にでも駆け込んだら面倒なことになるのでは?」
「我が社がアイツらと関わった証拠など出てくるわけがないのだからな」
その時、
「しゃ、社長!!」
バン!! と音を立てて部屋の扉が開かれる。入ってくるのは数人の平社員。普段は社長室に入る権利すら持たない奴らだ。
「なんだ! 騒々しい―――」
「これは一体どういう事なんですか!?」
社員が突きつけてくる端末には何かの資料が映し出されていた。
そんなものに取り合わずさっさと追い出そうとしていたところ、資料の中に見覚えのある単語が見えた。
それに惹かれて資料を目で追っていくと、社長の顔がどんどん青くなっていく。
「な、ん、何だそれは!! いったいどこからそんなものを……!!」
そこにはこの会社が行っていた悪事がこれでもかと書かれていた。
「どこって、すでにネット上にばらまかれてますよ!! しかも監視カメラの映像も一緒に!! 今は問い合わせが殺到して……社長からも何か説明文を掲載してもらわないと!!」
「な、なんだと……!? (警備会社は買収したはず。まさかアイツらまで裏切ったのか!?)」
そこにさらに社員が飛び込んでくる。
「失礼します!! あのネットの件について管理局が来ていて、我々ではどうにも……!!」
「くっ、そォ……!!」
社長は歯を食いしばり、この状況を打破するために頭を巡らせるのだった。とっくに詰んでいるとも気が付かず。
―――――――――――――――――――
「はい、これで3社目っと。モグワイ次は?」
「コイツだな」
「はいはいっと」
浅葱の指が滑らかにキーボードを叩いていく。すると次なるターゲットになっていた会社の犯罪の証拠がネット上にばらまかれた。
「ったく、警備会社まで悪さしてるなんて世も末ね」
「だな」
言いながらも警備会社のサーバをハックして改ざんされていた監視カメラの映像を復元、ネットにばらまく準備を進めていく。
「あ、六課にも送っといてね。翔が話を通してるらしいから」
「あいよ」
電子の女帝の前にはあらゆる電子ブロックは役に立たない。
汚い会社が必死に隠していた真実をいとも簡単に表に引きずり出してしまう。
「(あ、そうだ。どうせだったら
そう考えて情報の送り先を1つ追加するのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
とあるボロアパート。
「クソっ、クソクソッ!! 何が安全な報復だ、ふざけやがって!!」
この男はユウキへの報復のために集まっていたチンピラだ。ユウキがアナザーゴーストに変身した時、真っ先に風向きが変わったと判断して倉庫を飛び出した1人だった。
夜が明けるまで適当な場所に震えながら潜伏し、交通機関が動き出した朝方にようやく自分の部屋に帰ってくることが出来たのだ。
だが、自分の部屋でも呑気に休んでいるわけにはいかない。彼は今ホラーゲームさながらに、自分を殺そうとする怨霊から逃げなければいけないのだから。
少なくともすぐにあの場から逃げたこの男にはその考えがあった。ユウキがすでにアナザーゴーストではないことを知らないのだ。
「(どうする? あのガキの殺気は本物だった。次にあったら間違いなく殺される……!! どっかに身を潜めるか島を出るか。いっそのこと管理局にタレこんで保護を依頼するか?)」
その場合は男の罪―――ユウキを呼び出して暴力やセクハラをしたことも話さなければいけないが、命には代えられない。この程度の罪なら絶対に死刑になることはないし、刑務所に入るとしても2、3年だ。命が助かるにしてはあまりにも安い取引である。
「よし、そうしよう」
男は素早く判断し、家を飛び出した。が、
「おや」
「は?」
アパートを出たところでばったりと出くわした。
一部の連中には高値で売られていると言われている有名学校、常盤台中学の制服。無理して背伸びしている印象を受けるのは、それを着ているのがまだまだ幼い少女だからだろうか。
「(こんな時間、こんな場所に常盤台のガキだと……? っ!? アレは!?)」
そしてその右手には緑色の腕章。
「
腕章をひっぱり、強調するように男に見せる少女、白井 黒子。
「ッ!!」
その宣言を聞いた瞬間、男は白井を突き飛ばして走り出した。
「(クソッ、何でだよ!! どうして!!)」
こんな一個人に向かって自宅まで来て話を聞くなんて、どう考えてもあり得ない。間違いなく何か男の罪を裁きに来たのだ。
それにしても突き飛ばして逃げるのはやりすぎだが、今の男には正常な判断が出来なかった。
だからこそ逃げたのだ。常盤台中学に所属している学生は全員、レベル3以上の超能力者であることは常識だというのに。
「まあまあ、逃げないで下さいまし」
「いっ!?」
男の視界が青空に切り替わった。地面を蹴っていた足が空を切る。
痛みもなく地面に寝転ぶ姿勢にされていた男。続いてトトトッと何かが突き刺さるような音が聞こえた。
攻撃かと思い身体を起こそうとするが服に引っ張られる。視線を向けると金属矢が男の服ごと地面のアスファルトを貫いていた。
「な、何だ、こりゃ……」
何かで射出したにしては金属や周辺のアスファルトが綺麗すぎる。まるでそこにあったものを無理やり押しのけて出現したように見える。
そして自分の傍らに黒子が突然現れたことでその予想は確認に変わる。
「テ、
「ご理解していただけたのなら、無駄な抵抗はやめていただけますか? すぐに管理局が到着するので」
黒子の手の金属矢をみて、男は無言で天を仰ぐのだった。
――――――――――――――――――――――――――
連行されていく男を見送りながら黒子は端末を手に取った。
「初春、こっちは終わりましたわ。次はどこですの?」
《はい。次は移動してるみたいですね。私の方でナビゲートしますね》
「了解ですわ」
初春の指示に従い、
「
目標の男に対して全く同じセリフを言い、同じように男が逃げ、拘束して管理局に引き渡す。
朝からずっと繰り返すこと、6件目。黒子は少し休憩して初春と雑談していた。
「まったく、何なんですの」
《ですねぇ、島中で捕物が始まってますよ。あ、また来た》
「今度はどこですの?」
《うーん、これはちょっと厳しいかもしれませんね。AMF搭載の多目的多脚戦車の密輸。その倉庫の場所です。ここは管理局に任せておきましょうか》
「管理局でも少し手こずりそうですわね」
《ですね。あ、次はここにしましょうか》
そう言って黒子は次の場所に飛ぶのだった。
――――――――――――――――――――――――
某国のスパイが大急ぎで物品―――多目的多脚戦車を運び出す準備をしていた。浅葱がこの取引をしていた会社の情報をばらまいたことで、スパイは一足先に取引を切り上げてこの島を脱出することにしたのだ。
「急げ!! 積み込み次第すぐに出航する!」
取引が十分でなくまだまだ必要数には達していないが、管理局に検挙されて0になるよりはマシだ。だからこそ、夜中ではなく朝方にリスクを冒して作業をしている。
多脚戦車が次々と輸送用の船に積み込まれていくが―――次の瞬間、オレンジ色の閃光が船を貫いた。
「っ!? 管理局か!? AMF起動しろ!!」
《ち、違います!! 今の攻撃、魔力反応はありません!!》
「何? なんでもいい! AMFは起動しておけ!!」
部下の焦った声が聞こえてくる。今の攻撃で船には風穴があき、沈みかけていた。
「(管理局が接近していれば、部下からの連絡で事前にわかるはず……いったい誰なんだ?)」
あの規模の攻撃をするにはそれなりの装備が必要だ。そんな武器を持ち込んでいれば管理局じゃなくても部下から報告がありそうなものだが。
思考を巡らせる間もなく、二度目の攻撃が飛んできた。いや、飛んできたと思った瞬間には着弾しているオレンジ色のレーザーのような攻撃。
スパイは攻撃が飛んできた方向に銃を向けた。
「アレは……」
スパイは目を見開いた。
常盤台中学の制服を身に纏う茶髪の少女。コインを弾き次なる獲物に向かって狙いを定めていた。
「まさ、か、
そうして、レベル5の一方的な蹂躙が始まった。
数分後。
「ま、こんなもんかしら」
能力を使った電磁レーダーを使い、周囲の状況を確認した美琴は息を吐いた。
「さてと。管理局が来ないうちに退散しようかしら」
そう言って美琴はその場を離れるのだった。