隊長陣への説明 事前準備
「はい、それじゃあ、今日の夕方になのはさんの家で」
《ん、ヴィヴィオちゃんはそっちの家にお泊りするように言っておいたから。そないきばらんといてな。別に取り調べやないんやから》
「はい。ありがとうございます」
俺は電話を切った。
「本当に良かったんですの?」
狂三が鋭い視線を向けてくる。
『良かったのか』というのは、俺の事情を話すことにしても良かったのか、という意味だ。
「今からでも、都合の良いお話を作ることは出来ると思いますけれど。所詮口約束ですし」
「や、それはダメだ。ここでごまかすのは、絶対に」
俺は今日、はやてさん、なのはさん、そしてフェイトさんに俺の事情を説明することになった。
ユウキの件ではやてさんに行動の報告をしたとき、すべて終わったら説明すると言ったことを清算するのだ。
狂三の言う通り、そんなものは口約束。ごまかすことはいくらでもできるし、話さなかったからと言っても罰則があるわけではない。
だがそんな不義理はしたくない。
それにアナザーライダーのことはすでに俺だけの問題ではなくなっている。いまだライダーの力をばらまいている敵の正体は分からない。何度か現れたフードの男が犯人なのかもわからない。
だがアナザーライダーの犯人は明確にネームドのキャラを狙っている。今までたくさんの原作キャラに会っているが当然何もかもを網羅したわけではないし、俺の知らないキャラクターも存在するだろう。
俺達だけで対処するのは限界だ。
必要なのだ。六課のように大義名分をもって手広く情報を集めることができる組織というものが。
その為には俺の知識を共有して、わずかな違和感にも気が付いてもらう必要がある。
「もちろん、翔さんの判断が一番ですわ。何があってもわたくしがサポートいたします」
最後には狂三も頷いてくれた。
とは言っても、今日一日、緊張から家を出発する時間になるまで何も手につかなかった。
「じゃあ、行ってくる」
いつも通りの挨拶だったはずだが、みんなには苦笑と心配の中間くらいの顔をされてしまうのだった。
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「ふーっ……」
翔との電話を切ったはやては高鳴る胸を抑え込んでいた。
「ついにかぁ……」
ついに、翔の秘密を聞く日がやってきた。
翔は誠実な人間だ。そうでなければ、翔の周りにあんなにも女の子が集まってくるわけがない。
嘘やペテンで侍らせているケースもあるが、翔には当てはまらないだろう。
そんな翔が今の今まで隠し続けてきた秘密。何が出てくるのか気になってしまうのはしょうがないことだ。
「じゃあ、ちょっと行ってくるなぁ」
「はい! 行ってらっしゃいです!」
「ユウキの部屋は我々にお任せを」
リィンフォースⅡとシグナムの言葉を背に、はやては出発するのだった。
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「で、お休み取ったってことだね」
「まあまあ、こういう時やないと、こうして一緒にお出かけもできひんやろ?」
「それは、そうだけど」
「それに2人共、有休消化率が悪いんよ。上の人にいろいろ言われるんやからこういう時にでも効率的に消化しとかないと」
「それ、はやてちゃんも同じじゃないの?」
翔の話を聞くことは業務ではない。よって、業務時間中に行うことは出来ないのだ。逆に業務時間中に聞くと報告の義務が発生することになる。
それを理由にして、なのは、フェイト、はやての3人は揃って休暇を取っていた。
この島で一緒に働いているにも関わらず、こうして休日を合わせて一緒に買い物に出かけるのは初めての事だった。
本来ならはやてもユウキ関連の準備(役所的な手続きは終わっているので引っ越しや、はやての家に用意するユウキの部屋の準備など)があったのだが、そこは守護騎士たちが引き受けてくれていた。
「まあ、同じところで働いてるからこそ、同じ日に私達全員が休みってわけにもいかないんだけどね」
「ね~」
「そやけど、別々のところで働いてても1年に一回くらいしか集まれへんやん!」
それは各々に忙しいからなのだが、青春時代を仕事に費やし、花の20代すらも仕事に費やそうというのは、色々と悲しくなる。
だが、
「ま、こん中ではフェイトちゃんが一抜けしそうやけど」
「え? 何が?」
「決まっとるやん! 『彼氏いない歴 = 年齢』の『寂しい女同盟』!」
「そんな同盟、入った覚えはないよ!?」
「強制加入やからな!」
こういう場でのはやての理不尽にはすっかり慣れてしまったなのはとフェイト。
「で、実際翔君とはどうするつもりなん?」
「ぶっ!?」
はしたなく唾を飛ばしてむせてしまうフェイト。
「どうって、ええ!? 何が『どう』なのかな!?」
「おー、古典的な返しやな。今の話の流れで理解できひんフェイトちゃんやないやろ?」
「うぐ……っ、それは……っ」
無論フェイトも理解していた。だが、認めたくない部分もある。そのことは誰にも話していないはずなのだから。自分の中で秘密にしていたはずなのに。
「そっ、そもそも! どうして私が翔と、その、『どう』って話になってるのかな!?」
「いや、な、フェイトちゃん……」
「あはは、フェイトちゃん……」
「その目は何っ!? 2人とも!!」
訓練中に周りの人に激突したり、こんなにも挙動不審になるのは、もう答えを言ってしまっていると同じなのだが。恋愛経験ゼロの2人に分かってしまうくらいにはバレバレだった。
「(仕事にも影響出そうやし、さっさと告白させてくっつけたほうがいいんとちゃう?)」
「(えぇ~? でももしダメだったらどうするの? 絶対フェイトちゃん引きずると思うよ?)」
「(や、ダメなんてありえへんやろ。フェイトちゃんに告られて断る男なんておらんて)」
「(でも、もう誰かと付き合ってたら? 翔君って、女の子達と住んでるんでしょ? それにララ王女のこともあるし)」
「(あ~、確かに。その辺りも翔君の謎やなぁ……でもずっとこのままにしとくわけにも……ああ、社内恋愛はおもろいけど面倒やなぁ)」
などとはやてとなのはが念話でやり取りする。
「悶々としててもしょうがないんやし、思い切って今日告白してみたら?」
「え゛!?」
「なんだかんだ理由つけて2人きりにするから、その時に。あ、思い切って押し倒しても良いんやない?」
『押し倒して』の意味が分からないほど、フェイトも『初心』ではなかった。
「ダ、ダメだよ、そんな! 私みたいなおばさん、絶対相手にされない……!!」
もはや返答がすべてを物語っていることに、はやてとなのはは苦笑いする。
「いやいや、おばさんって……フェイトちゃんがおばさん呼ばわりされたら、世の中の女性はみ~んなおばあちゃんやん……」
「そうだよね。実際、そこまで離れてるわけじゃないしね」
「そうかな?」
「え?」
なのはの何気ない一言に、すん、と平坦な声になるフェイト。
「私、結構離れてると思ってたんだけど」
「う、う~ん? そうかな?」
なのはもそこまで考えてのセリフではなかったため、はやてに助けを求める。フェイトの声色がまじめすぎて適当な返答をすることが躊躇われたからだった。
その視線を受け、はやても腕を組んで真面目に考える。
「翔君何歳やったっけ? えっと……高1だから、今年16歳。じゃあ7歳差やね」
「数字にされると少し離れてる気もするね」
「だよねぇ~!!」
なのはが意見を改めたことで頭を抱えて机に突っ伏してしまうフェイト。
「で、でも、そういうのって個人個人の感覚だし!」
「そやそや。私らに言ってもしゃーないことやな。当たって砕けるつもりでぶつからな。翔君がどう思ってるかなんて、私らには分かんないんやし」
「も~! 他人ごとだと思って適当に言って……!!」
赤くなるフェイトをいつものようにからかうはやてだったが、ふとそこで、なのはが口を開かないことに気が付いた。
「どしたの、なのはちゃん? 元気ないやん」
「そ、そうかな? そんなことないよ?」
そう言ってストローに口をつけるなのは。
フェイトが翔にお熱なのは確定事項として、その話題が出た時になのはの元気がなくなる。これから求められる真実は―――
「そうや―――!!」
「違うからね」
「まだ何も言ってへんよ?」
「ずーっとからかってるでしょ。私とフェイトちゃんのこと」
からかっているというのは、
「私はずっと、この2人がくっつくもんやとばかり思っとったけどなぁ」
この世界では制度の改正などがあり、多くの国で同性婚が認められている。
そのためはやては、この島で一緒に住むという話になった時にはもう決まりかと思ったほどだ。友人2人の新しい生活を祝い、お店の予約をする寸前だった。その時の誤解は解かれたのだが。
「当時はそうじゃなくても、今はってことは―――」
「ありません」
「ないよ。なのはとは良い友達だもん」
2人そろって言い切ってしまう。
「じゃあなのはちゃんの心配事って?」
「―――だからないよ。心配事なんて」
そう、心配事ではない。ほんの少し気がかりな事があるだけだ。
はやてに言ったように、なのはにはフェイトへの恋愛感情は全く存在しない。
気にしているのは、フェイトがもし翔と付き合う事になったとして、今の生活はどうなるのかという事だ。
今、なのはとフェイトは2人でママとしてヴィヴィオを育てている。フェイトが付き合うことになって関係が進めば、翔を家に招くことになるのか、それともフェイトが家を出ていくことになるのか。
どんな選択をしてもフェイトを責める事はできない。ヴィヴィオの親権だってなのはが持っている。フェイトは好意で手伝ってくれていただけなのだ。だがヴィヴィオはそれを受け入れるのか、翔は理解してくれるのか。
もちろんヴィヴィオは聡い娘だし、翔が優しい事は分かっている。その時が来ればうまく収まりがつくのかもしれない。
気が早い事も理解している。結婚、同棲どころか付き合ってすらいないのだから。
まずは親友の初恋を祝福して、それが少しでも幸福な結果になる事を祈らなければいけない。色々と難しい道のりになりそうな事は想像できてしまうが。
だからこれは不安なことではないのだ。将来を不安に思って行動しないなど、愚かとしか言えないのだから。
なのははそう思い、その思考を頭の隅に押し込んだ。
――――――――――――――――――――――――
「ここ?」
「そやね」
「マッサージなんて初めてだから緊張するなぁ」
3人は雑貨のビルの中、目的地のお店の扉の前に立っていた。カフェでのランチを終え、次なる目的地に到着していた。
「ま、座り仕事も多い事やし、定期的に体のメンテナンスはしとかな。特に腰は壊してからやと遅い言うしな」
「でもいいの? はやてちゃんの奢りなんて」
「そうだよ。私達も出すよ?」
「かまへんて。今回は色々と面倒かけたし、今日は堪能してくれれば。ホントは翔君にも色々とお礼しなきゃなんやけど」
はやては今回の事で翔に対して何かお礼をしようと思っていたのだが、その悉くを断られてしまっていた。
それは翔の中にある責任感の表れだった。自分の世界由来の能力によってもたらされてしまった被害については、自分がどうにかするという決意だ。
そう言いながら店に入る3人。
すぐさまいらっしゃいませと店員が出迎える。はやてが名前を告げるとスムーズに案内された。マッサージ店に来るのは初めてだったが、予約の段階でそのことを伝えていたため、丁寧な説明ですぐに理解するとこが出来ていた。
だだ、
「これ、ホント……?」
「わ、わぁ……」
「お店のサイトには写真あったし、変なもんやないと思うよ。今回はオイルも使うから。水着みたいなモンやん」
なのはとフェイトは着替えるようにと準備された下着のような衣服に少し抵抗を覚えていた。
あらかじめ知っていたはやてはてきぱきと着替えるが、この格好に着替える事に抵抗がないのは、このマッサージの本来の仕様を知っていたからだ。
「(ま、実は2人には言ってなかったけど、このお店はちょっと変わったサービスもしてるみたいやしなぁ)」
そう、ここは以前、理子がアスナやアリアにプレゼントしたマッサージ店、まさにその店舗だった。
はやては当然それを理解して、コースを選んでいた。2人にお金を払わせなかったのはそのためだった。2人にこのお店のコースを詳しく見られて変えられるのが一番困るのだ。そのことも店員には話してあった。
これを使って、フェイトの背中を押そうとしているのだ。
なのはも連れてきたのは仲間外れにするのはアレだと思ったからだ。
「ではお二人はこちらへ」
「あれ? はやては違うの?」
「ん、どうせ何度も来ることはないんやし、ちょっとお高いコースにしてみたんよ」
「お連れ様も、今からコースの変更は出来ますが?」
「あ、いえ……」
「私達は、ね?」
店員の問いかけになのはとフェイトは顔を見合わせ、首を横に振った。
「かしこまりました」
「くふふ、じゃ2人とも。しっかりと楽しんでな〜」
はやては心の中で笑うが……はやて自身舐めている部分もあった。なのはとフェイトは(お金の面で)断られないようにノーマルコースでセーブしていたが、ぶっちゃけノーマルでも最高級コースでも変わらないだろうと。
経験が無かったこともあり、プロの腕というモノを甘く見ていたのだ。
そのツケはすぐに支払うことになる。