俺は説明会のため、なのはさんの家に向かっていた。
電話でのはやてさんの言葉通り取り調べではないので、家にお邪魔して夕飯を頂きながらだ。どこかの施設を使わなかったのは、どこに目と耳があるかわからないからであり、自宅の方が安心出来るからだった。
小一時間ほど移動し、目的地に到着する。
この島では珍しい戸建ての貸し家。なのはさんとフェイトさんのシェアハウスだ。
窓からは明かりが漏れている。夕飯を食べながらというお話になっていたので、その準備をしているのかもしれない。
ここまで来て立ち止まっているわけにもいかない。
俺は意を決してチャイムを鳴らした。するとすぐに扉が開く。
出迎えてくれたのは、
「い、いらっしゃい、翔君」
妙に色っぽい吐息を漏らすなのはさんだった。
……なんで?
――――――――――――――――――――――
「あ、いらっしゃい、翔」
「ようきたなぁ、翔君。少し待っててな。もう完成するから」
「ありがとうございます。それはいいんですけど……」
なのはさんだけでなく、中で食事の準備をしていたフェイトさんとはやてさんも、どことなく顔が赤いように見える。
「お三方、もしかして熱とかあります? 顔赤いように見えるんですけど」
はやてさんは言うに及ばず。聞いた話によると六課にも最近ちょっとした変化があったらしい。チンピラや違法取引をしていた企業の捜査も率先してしてるみたいだし、疲労が溜まって体調を崩しているのかもしれない。
「え? そんなことないよ? ねえ、はやてちゃん」
「そやな。翔君の気のせいちゃう?」
「そうそう、翔、早く座って?」
俺は席に促された。
いつもなのはさんとフェイトさん、ヴィヴィオちゃんが食事しているだろうテーブル。その証拠に同じデザインの椅子が3脚。1つだけ別デザインの椅子があった。
「ごめんね、いつもは3人だから。ささ、座っちゃって!」
言われて椅子に座る。
そして並べられる料理。全員が座ったところで口を開こうとする。
「ええと、それでは……」
「あ、ちょい待ち」
待ったをかけたはやてさんの手に分厚い本―――夜天の書が現れた。
「ん、と、これとこれとこれ、あとこっちも、これも必要か……」
はやてさんはぶつぶつと呟きながらいくつもの魔法を発動させていく。
「よし、これでオッケーやな」
「はやてさん、これは……?」
全ての魔法を発動し終わると、俺たちが座っているテーブルは光る板のようなものに覆われていた。向こう側は見えない。まるで密閉空間だ。
「これは光を完全に反射する壁を作る魔法。これの外からはどんな手段を使っても中を見ることはできひん。それと空気の膜を作ってそこを超える音をゼロにする魔法、あとは―――」
つらつらと今使った魔法を羅列していくはやてさん。
つまりとんでもない数の対盗聴盗撮用の魔法を使ってくれたってことか。うわ、デバイスも圏外になってる。電波も遮断されてるんだな。
「うん。今日ここでの話は上と外には絶対に漏らさへん。これで話してほしい」
「分かりました」
この場の主役は俺だ。3人の女性の視線が俺に向けられる。だが、どことなく赤くなって目もうるんでいるように見えるのはやっぱり気のせいじゃない。
「色々と突飛な話もあるかと思いますが……」
「大丈夫。覚悟の上やから」
「翔の言うことだったら信じるよ」
「わかりました」
まずは軽いジャブだ。
「俺はこの世界の人間じゃありません。違う世界の地球から来た異世界人です」
「……違う世界の地球っていうんは並行世界とか、そんな感じ?」
あらかじめ突飛だと言っていたおかげか、はやてさんは冷静に質問してくる。
「いえ、全く違います。一番は―――俺の元居た世界には魔法や魔術、超能力なんてものはありません。すべて物語の中の代物です」
「魔法のない世界……」
「全然想像できひんなぁ……」
「そうだね……」
まあ、『ない』と断言できるほど俺は世界のすべてを知っているわけじゃない。もしかしたらどっかの山奥では密かに継承されてるかもしれないからな。でも、この世界のように当たり前の技術ではないのは確かだ。
「それで翔君はどうしてこの世界に? 目的は何なのかな?」
続いてなのはさんの質問だ。
「目的らしい目的はないですね。俺も偶然この世界に来たので。変なアプリをタップしたら無理やりに。思い返してみれば、アレが元の世界で唯一経験した不思議なことでした」
「そう、なんだ……じゃあ翔君は元の世界に戻りたいとは思わない?」
「え?」
「だって好きでこの世界に来たわけじゃないんでしょ? 帰りたいとは思わない?」
「ああ、それは……」
この世界に来て忙しすぎてそんなことを考える余裕もなかったな。
「未練がないと言えば嘘になりますけど、今はこっちの世界でやらないといけないこともありますし、取らなきゃいけない責任もあります。なので今のところ帰ろうとは思ってないですよ」
「そっか、そうなんだね」
なのはさんがどこか安心したような表情になる。その視線が流れてフェイトさんに向けられている。視線を向けられているフェイトさんも横にいるはやてさんも、それには気が付いていない。そのままフェイトさんが口を開いた。
「やらないといけないことって何かな?」
「最近島で起きている事件の元凶を叩くことです」
説明はウェイバーの時と同じだった。創作上の能力が現実になっていると聞いた3人は一様に難しい表情を浮かべている。そしてそれを悪用しようとしている人物がいるということも。
「新谷 航平もその一人やったっちゅうことか……」
「はい。あいつは捕まってるので最低もう1人、俺と同じように異世界から来た奴がいるはずです」
「その子がユウキに、そのウォッチちゅうのを渡したと」
「はい」
「そか……」
はやてさんに静かな闘志を燃やしていた。
「それで、一番大切なことだけど」
なのはさんだ。
「はい」
「その能力の発動条件は何なのかな? 新しい能力を手に入れるための条件って言ったら分かりやすい? さすがに無条件ってことはないんでしょ?」
「それは―――」
分かっていた。
ウェイバーの時は目先の事件の解決のための説明だったためはぐらかす事は出来たが、今は長期的な対策を立てるための情報共有だ。だとすれば能力の発動条件は一番大切な部分。それによって取れる対策が全く変わってくるからだ。3人が興味を抱くのは何ら不思議なことではない。
「俺と敵の能力発動条件が同じとは限りませんが」
と、前置きをするがゾンビの件もある。9割方同じだろう。
「能力を増やす条件は、女性との性行為です」
「「「……」」」
3人そろって頭を抱えていた。
流石大人の女性。『性行為』という単語が出てきても慌てたり取り乱したりしない。や、突然の単語に単純に反応できていないだけかもしれない。
「ちょっとストップな、翔君……ギャグとして言っとるわけやないんよね?」
「女性に言うギャグにしてはセクハラが過ぎると思いますが」
「じゃ、じゃあ、本当なの?」
フェイトさんの問いかけに頷いた。
「はい。具体的には俺が……」
言っててだんだん恥ずかしくなってきた。いくら事実であり必要なことでも、女性の上司に向かってこれを言うのは。だが恥ずかしがっていても仕方がない。溜めれば溜めるほど、言いにくくなっていく。
「俺が女性との性行為で射精した回数です。射精1回につき1つ、新しい能力かアイテムを獲得することが出来ます。行動としてはそれだけですが、この性行為はお互いが同意していなければ条件を満たしません」
務めて冷静に、しかし少し早口でまくし立てた。
「「「……」」」
再び訪れる沈黙。俺も黙る。
「なか、なか、に信じがたい話やな……」
ようやくはやてさんはその言葉を絞り出した。
「そ、そうだよね。まさかそんな……え、ごめんね。ホントにホントだよね?」
「本当です」
なのはさんの疑いだが、これは疑いすぎとは言えないだろう。俺だってこの世界に来る前だったらどんなギャグ設定だと笑い飛ばしてたさ。そう簡単に飲み込んでもらえるなんて思ってないよ。
でもそんな中、フェイトさんは冷静に質問してきた。
「ねえ、翔。翔って今、たくさんの女の子と一緒に住んでるよね? その中の誰かとしてるってことなのかな?」
「誰か、ちゅうか全員やないの?」
「え、でもそうなると、ララ王女とも?」
「まあ……病院でのこともあったしな……」
「や、ララとはしてませんよ!!」
「ほなら、全員やないなぁ」
はやてさんは調子を取り戻したのか、からかい気味に言ってくる。それをなのはさんが真に受けて驚いていた。
そんな2人に惑わされず、フェイトさんはまっすぐ俺を見てくる。
「でも能力を手に入れてるってことは、誰かとはしてるってことだよね?」
「それは……」
俺は一度息を吐いた。そして覚悟を決める。
「さっき言いましたよね。取らなきゃいけない責任があるって。確かに俺は何人かの女の子と関係を持っています。でもそれは能力を得る為じゃありません。俺はその全員のことを愛しています」
「ぜ、全員……?」
3人共、俺の相手が1人だけとは最初から思っていなかったのだろう。だが所謂本命は1人で、他の娘とは一時の関係だと考えていたのかもしれない。だがそうではないのだ。
もちろん、何かしらの心変わりで関係を断ちたいという娘が出てくるかもしれないが、そうでもない限り、関係を持った娘との責任は果たすつもりだ。
「そ、それは……なるほどなぁ……ま、トラブルにならんようにな……」
本人たちが同意しているのなら法を犯しているわけではないので、とやかく言うことは出来ないからな。
ここで一旦、俺の話は終わった。
「それじゃあ次はこっちからや」
はやてさんが話してくれる。
六課が設立された理由、その大本になった『予言』の話を。
《魔法と科学が集い交わる地、
未知の力が満ち、さらなる混沌を極める、
6つの輝石集まりし時、
時空の魔王が現れ、すべてを無に還す》
「これが予言の内容や。何か、心当たりはある?」
「……」
これを見て、俺は背中から汗をドバドバ流していた。
『魔法と科学が集い交わる地』。まあ、それはこの島だろう。俺にとってはこの『世界そのもの』が『魔法と科学が集い交わる地』だけど、それは置いておく。
「うん。そうだね。それは間違いないと思う」
なのはさんが頷いた。
次の『未知の力が満ち、さらなる混沌を極める』。これも俺達が持ち込む能力、外来種能力だ。今はライダーがメインだけど、MSや、もしかすると悪魔の実の能力者なんかが飛び出してくるようになるかもしれない。
「そうやな。前はスタンドのことを話してたけど、それだけやないみたいやな」
次の『6つの輝石集まりし時』。これは……何だろうか。6つ、6つか……うーん、今は考えても出てきそうにないな。
そして最後の『時空の魔王が現れ、すべてを無に還す』。
「翔君?」
「どうした? 顔が青いけど」
「実は……」
俺はウォズのことを話した。
「つまり、その『魔王』ってのが俺のことかもしれないんです」
「「「……」」」
説明を終えると、はやてさん達は苦い顔で考え込んでいた。
「そのウォズって人のことは信用できるのかな?」
「信用は出来ませんが、色々と俺の知らないことを知っていて、俺達をコントロールしようとしてるのは確かですね」
魔王云々だってアイツの虚言かもしれないからな。でも、完全に無視するには俺達に干渉しすぎている。
「今は何とも言えないね」
「そやな。味方かどうかも分からん人の言葉を真に受ける訳にはいかへん。全く気にしないっちゅうことも出来へんけどな」
こればっかりは相談したところで解決するわけじゃないから、この結論はしょうがないか。
予言についての話はこのくらいだ。
次は、
「で、これからの事やな」
「うん。翔君の事情を踏まえてってことだよね」
「私達としては、これからも翔君には六課に協力して欲しいんやけど」
「もちろんです。むしろこちらこそお願いしたいくらいです」
事情を公開して連携できるのなら、今までにない動き方や対策もとれるようになるかもしれない。
「そやね。些細な異変でも翔君に伝えて、事件の捜査にもなるべく参加できるような態勢を整えて……」
「でも翔君だけを頼りにすると負担が集中しちゃうから、私達もその能力について知っておかないとだね」
確かに六課の力で広く情報を集めるのなら、能力の特徴があらかじめわかっていれば引っ掛けやすいだろう。
「そのためには、やっぱりスタンドとか、ライダーとか、ガンダムについて知っておかないとですよね」
紹介しなければいけない作品は山ほどある。
「じゃあ、そうですね、とりあえずはライダーのクウガから行きましょうか……!!」
俺は食い気味に
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「わ、もうこんな時間!?」
ライダーのクウガから始まり、ガンダム、スタンドなどなど、さまざまな作品について時間を忘れて熱く語った俺。
魔法を解いて時間を確認したところもうすぐ22時だ。かれこれ3時間近くしゃべっていたことになる。
「アハハ、まだまだあるんやろ?」
「そうですね! まだまだ語りきれませんよ!!」
「でもまあ、いったんお風呂に入って来て、続きは明日以降でもええんちゃう?」
「……そうですね。皆さん、割とお酒も飲んでいましたし」
この3人が、お酒を飲んでいる姿というのは少し意外でもあったが、いい大人なのだから別に悪い訳ではない。
顔が赤くなりつつもまだまだ正気を保っているところを見ると酔いつぶれてはいなさそうだしな。
「私達はちょっと酔いを冷ましてから入ろうかと思ってるから、ね?」
「分かりました。じゃあお先に」
俺は着替えセットを持って脱衣所に向かうのだった。