「…………」
「…………」
うん、気まずいね。
「二人とも経過は順調ね、明日にでも退院……もう、2人とも、結局ずっとそうだったわね」
俺は何とか解決したいと思ってましたよ、御門先生。
横のベッドに寝ているヤミを見ながら心の中でつぶやいた。
ティナが退院して2日。俺たちは2人きりでずっと同じ病室にいた。いただけだけど。
会話は一切なし。ヤミはひたすら本を読み、話しかけても目を合わせてくれない。そのうち一人でしゃべっているのが虚しくなって俺も話しかけなくなってしまった。
毎日誰かしらお見舞いに来るみんなにも無反応。
「これから一緒に暮らすことになってるのに、そんなんで大丈夫なの?」
「そうですね。最後にヤミの声を聴いたのは……」
え、っと、確か……この病院ではもちろん、保脇と戦った時も聞いてないから……
「パンツの時……?」
ガン!!!
ヤミのベッドの横についている手すりが歪んだ。
「Dr.ミカド、こんな男と一緒に暮らせというんですか? 冗談なら本当にやめてほしいです」
「……ちなみに聞くと、パンツの時って何のこと?」
「夜月 翔。言ったら殺しますよ」
「だそうなので」
この病院で初めての会話で殺しますよ、は中々に乱世。ヤミの
「ふーん。ま、想像はつくけどね。そっかそっか。でも健全な男の子なら普通じゃないかしら? まったく興味を示さないほうがまずいと思うわよ?」
「夜月 翔は年上年下異性同性かまわずに手を出す色欲魔ですから」
「あ! それ! いい機会だから言っておくけどな、俺は同性は好きじゃないからな!」
結局反論する機会がなくてそのままになっていた誤解。早めに解いておかなければ。
「では異性は?」
「そういえばお見舞いに来るの、全部女の子だったわね」
2人はそれぞれ違った表情で俺を見てくる。ヤミはジトッとした目で、御門先生は明らかに面白がっている目で。あれは俺が言葉に詰まると思っている目だな。しかし、俺はそんなに甘くない。
「もちろん、かわいい女の子は大好きです。男だったら誰だって、いくつになってもそうです」
「ぷっ、アハハッハ! もー、すがすがしいわね! ヤミちゃん、彼いい子よ。変にムッツリじゃなくて、本音も言ってくれて」
「えっちぃ人は嫌いですし、そもそも、誰かと一緒にいるのが好きじゃありません」
ヤミはますます嫌悪感が強くなったみたいだ。ここからどうすれば好感度が上がるんでしょうか。リトさんマジパネェよ。あんなにラッキースケベかましておいて。
「そんなこと言ってももう遅いわよ。だってもう顔写真付きで武偵のデータバンクに登録しちゃったからね~」
「何時の間に……」
「仕事が速いなぁ……」
武偵のデータバンク。登録されてしまうと、武偵三倍の法則(武偵が犯した罪は通常の3倍になるという決まり)が適応されるようになる。さらに、顔写真があると
つまり、いろいろな意味で逃げづらくなったのだ。
これだと、元のように暗殺者家業に戻るのは厳しいし、それ以外に食べる手段がなかったヤミは提供された条件を飲むしかなくなってしまった。
俺の家に住んで武偵高に通う、という条件を。
「だから……だから、いまからでもやり直してね」
「……余計なお世話です、Dr.ミカド。私が今までしてきたこと、そんなに簡単に無くせるなんて思ってません」
「まあ、武偵は血の気が多い奴がたくさんいるし……」
「一番の問題は、あなたの家に住むことですよ?」
ですよね。
うーむ……原作でも心を開いてくれたのは奇跡のレベルだったからなぁ。長い目で付き合っていくしかないってことか。
そっぽを向くヤミを見ながら、そう思うのだった。
――――――――――――――――――
現在針の筵状態。周りの話されてもいる人にはじろじろと見られ、ひそひそと話されている。正確には、見られているのは俺ではなくヤミだけど。
そう、原因は俺の隣、というには少し離れて歩いているヤミだ。真昼からあの黒い戦闘服を着ていたら、いくらいろいろなことに慣れているこの島の人でも何事かと思ってしまう。
あれから何事もなく退院できた俺たちは、ショッピングモールに向かっていた。目的はヤミの服。
実はヤミ、私服を持っていないのだ。あるのはあの戦闘服だけ。ヤミ本人、それまで必要だと思ってなかったみたいだけど、これからはそうはいかない。家には制服が届くとはいえ、せめて部屋着くらいは買っておいた方がいいだろう。ま、俺が女子の服の選び方が全く分からないってこともあるけど。
あ、無いといえば、ヤミはブラも持ってないんだってさ。まったく余談だけどな!! つまりあの大胆なデザインの戦闘服を着ているときも、上は着けてないってことなんだよ。や、本当に余談なんだけど。
ちなみにいうと、俺の家の格納庫(一階部分)にはヤミが居住兼移動用として使っていた空中艇がある。すっからかんで寂しかったから丁度良かった。
もちろん会話はなく、そもそも距離が離れているため一緒に来ているかもわからない状態で目的地のお店に到着する。少なくとも年頃の女の子が休日に買い物に行くようなお店じゃないけど。
ヤミのほうをちらりと見ると、特に表情を変えている様子はない。ま、ヤミが表情を変えたのなんて、パンツのことを指摘した時くらいだし。
「……いま、変なことを考えませんでしたか」
「多分ヤミの想像通りのことを考えてたと思う」
無表情で他人に興味がなさそうなのに、他人の表情はしっかりと見ている。そこはそういう世界に生きていたからだろうか。
「はぁ……本当にえっちぃ人ですね」
「でも、突然ズッコケてスカートに突っ込んだりしないから。安心していいぞ」
「あたりまえです。そんなことをすれば殺します」
え? 原作では殺せてないけど?
「また失礼なことを考えてますね」
「ほんと表情読むの上手いよな」
「……今のはカマをかけたんですが……何を考えていたんですか?」
「う、ん……なんか、俺の知っている限り、ヤミちゃんの戦績があんまりよくないなぁ、と思って」
俺に撃退されて、保脇には戦闘不能にされて、いいところがないような気がする。
「本当に失礼ですね。言っておきますが、電気は私と極端に相性が悪いんです。あなたとの時は……」
顔を赤くして睨み上げてくるヤミ。
「負けそうだったし、弱点を突くのはセーフってことで」
女の子の弱点を突いたクズは俺だ。
店の前で話しているのも迷惑なのでそろそろ中へ。
「んじゃあ、適当に選んじゃって」
「……はい」
ま、そこまでこったものを買う訳じゃない。部屋着と寝間着を数着そろえれば今日はいいとしようよ。
そんな心持ちでいると、ヤミはすぐに戻ってきた。
手には上下セットのジャージが3組あった。
「それでいいのか?」
「……着れればどうでもいいですから」
そういってヤミは店の外へ向かっていった。お会計はもちろん俺だ。
ほんと、前途多難だな。なんだかんだそれなりに話ができるジャンヌとは全く違うよ。
―――――――――――――――――――――――――
少しでも仲良くなるために、一緒に昼食をとることにした。
ショッピングモールで一番大きなフードエリアだ。麺類、丼もの、一人用の鍋、デザートなどなど、基本的な料理の中でここで食べられないものはないといっていい。
「私はたい焼きで」
「えぇ……それ主食ぅ?」
「悪いんですか?」
「その食生活でその体だったら何も問題ないと思うけど」
「かっ、からだ……っ! あなたは……っ!」
自分の体を抱きしめるようにして警戒をあらわにするヤミ。なんでこうなってしまうんでしょうか。
次は気を付けよう、次は気を付けようと心の中で意味のない反復をする。そして注文しようと、
『お客様にご連絡いたします。誠に申し訳ございませんが、店内でトラブルが発生したため、誠に勝手ながら、本日の営業を終了させていただきます』
そんな店内放送が流れてきた。
「ん、なんかあったみたいだな」
「そうですね」
俺たちは目で合図をしてその場を離れていった。
――――――――――――――――――――――――――
『お客様にご連絡いたします。誠に申し訳ございませんが、店内でトラブルが発生したため、誠に勝手ながら、本日の営業を終了させていただきます』
もう何度目かわからない店内放送が鳴り響いた。
最初の放送でパニックにならなかったのは幸いだったが、たくさんの人がゆっくりとはいえ出入り口に殺到したため、数人の怪我人が出てしまっている。
そもそも、なぜ避難をしているか。それは最近起きている
そんな人がどんどん少なくなっている店内を出入り口とは反対方向に走っている女の子が一人。
偶然ここに遊びに来ていて、携帯の通知を見て走り回っている武偵の女の子。
その娘の名前は『初春 飾利』。頭に過剰とも思える花飾りをのっけている。
特別な能力を持つわけでも運動も得意でもない、どちらかというと後方支援で力を発揮する彼女だが、こうして走り回っているのは理由があった。
店内放送が流れる少し前まで一緒にいた迷子の女の子を探しているのだ。
「御坂さん!」
「上の階見てきたけど、やっぱりいないわ!」
ここでもう一人の少女が合流する。
『御坂 美琴』。この島でも3本の指に入るほど強力な電撃使いだ。
「もしかして、もう外に行ったんでしょうか?」
「分からないわ。でも、もしも中にいたら大変なことになるかもしれないから。もう少し探しましょう!」
「はい!!」
そう言葉を交わして再び別れようとしたとき、
「あ! お姉ちゃーん!」
その女の子が初春に駆け寄ってきた。その手に、いなくなるまでは持っていなかった人形を持って。
「よかったです」
「そうね」
2人とも、見つけることができた安心感ですっかり気を緩めてしまった。一瞬とはいえ、どうしてみんなが避難しているのかを忘れてしまうほどに。
「眼鏡をかけたお兄ちゃんがね、この人形をじゃっじめんとのお姉ちゃんに渡して欲しいって!」
「え、私に?」
初春がその人形を受け取ろうと手を伸ばし―――
「ヤミ! 人形を放り投げろ!!」
まったく別方向から聞こえた声、目にも止まらないスピードで現れた人影。初春がそれを認識した時には、人形は宙を舞っていた。
人形の形は空気に圧縮されたように歪んでいた。
御坂は瞬時にあの人形が拙いものだと理解する。
(
美琴がポケットの中のコインを取り出す。しかし、焦ってしまったのか、握り損ね、落としてしまう。
(しまっ! 間にあわない……っ!!)
御坂の視界がとてもゆっくりになる。
人形はどんどん形を歪め―――横から迫ってきた莫大な光の束に焼かれた。
「は?」
視線を移すと、そこには光る剣を持った一人の男がいた。
「うん、威力の調整が利くようになってきたな……」
男は自身が作り出した破壊痕を見て満足そうにうなずく。
これが夜月 翔と御坂 美琴の出会いだった。
――――――――――――――――――――――――――――――
まさか、ちょっと行ったショッピングモールで原作イベントに突入するとは。大丈夫? 俺、退院してまだ1日経ってないんだけど?
それもあるけど、
「なんだかんだで、ヤミ乗り気じゃない?」
口ではいやいや言っていても、意外と素直に武偵的行動をとってくれるんだな。俺の指示にも従ってくれるし。
「状況には早く慣れる必要がありますから。あれくらいなら」
なんだかんだで実力は高いってことなんだよな。
そんなことを考えながら、久しぶりの我が家に入る。
「「「「「「「おかえりなさい!!」」」」」」」
家の玄関を開けたら皆にお出迎えされた。
考えてみれば、家を数日開けたのは初めてだったっけ。
「今日は翔君とヤミちゃんの退院祝いと……」
「ティナさん、ヤミさん、そしてもう一人の歓迎会ですわ」
案内されるまま入っていくと、テーブルには所狭しと料理が並んでいた。
俺も驚いているが、ヤミはもっと驚いているだろう。何せ家に来てから突然のこの騒ぎなんだから。
ま、そんなに大それたことじゃないけど。今日は楽しくみんなでご飯を食べようってだけなんだし。
あ、でもその前に。
俺は久々にガチャマシーンに向き合った。そしてボタンを押す。
『春日部 耀』をゲットしました。
新しい住人に来てもらわないとだよな。みんな待ってるみたいだし。
ちなみにいうと、次原作は超電磁砲ではありません。
そんなことよりも大変な問題があります。
モチベーションが尽きてきました。
先の展開はもう決まってるのに、キーボードに乗せて指が動いてくれないんです。
これはまずいですね。