聖王教会にあるロキ・ファミリアのホーム。
そこにたった今、アイズが依頼を達成して帰ってきた。事務を行う団員に報告を行い、自分の部屋に戻ることなくそのままホームの外に出ようとする。
目的地は六課の訓練場だ。昨日はどうしても1日かかる依頼を達成しなければいけなくなったため、訓練に参加するのは1日ぶりになる。
その背中を呼び止める者がいた。
「ア、アイズさん! 今日も六課の訓練に?」
「うん。そのつもりだよ、レフィーヤ」
レフィーヤと呼ばれたのは、山吹色の長髪をポニーテールに纏めたエルフの少女だ。ロキ・ファミリアの魔導士であり、ファミリア一の魔導士であるリヴェリアに目をかけられている期待の団員でもある。
「依頼の後ですし、今日はお休みしたほうが……」
「? 全然疲れてないから平気だよ?」
アイズはきょとんとした顔で首を傾げていた。そんなアイズの反応にレフィーヤはむぐぐと唸った。
ロキ・ファミリアが六課の訓練に参加するようになってすでに2週間が経過していた。ローテーションでレフィーヤが参加したこともある。
だがここ最近のアイズはおかしかった。自分の当番ではない日も六課で訓練するようになったのだ。今日の様に依頼があった日でも時間があれば向かっている。
ファミリアの副団長にして魔導士の師匠であるリヴェリアに聞いたところ、六課にいる1人の男性との訓練のために参加しているのだとか。
アイズに憧れてロキ・ファミリアに入団したレフィーヤにとって、その状況は面白くなかった。相手が男性であるという点もマイナスだ。
「(アイズさんに目をかけてもらえるなんて、なんて羨ま―――じゃなくてっ! その人がどんな人なのか、私が見極めて見せます! アイズさんに良からぬことをしようものならその時は……!)」
「レフィーヤ? どうしたの?」
「え、ぁ、いえ! なんでもありませんよ!」
アハハと笑うレフィーヤに小首をかしげながらも、何でもないと言われたのならアイズはそれ以上踏み込むことはない。
「そう? じゃあ行ってくるね」
話が終わったと判断して背を向けるアイズ。だがそんなアイズをむざむざ行かせるほどレフィーヤは物わかりが良くない。
「あ、あのっ!!」
「うん?」
「えっと、その……私も行っていいですか? 今日はやることもないし、だったら訓練しよっかなぁ、なんて!」
当番ではないアイズも毎回訓練に参加しているのだ、そこに1人追加されても特に問題は無いだろう。そう判断したアイズは首を縦に振った。
という訳で2人揃ってホームを出発する。
道中では特に何も起こらず、六課に到着した。
問題は六課で起きていた。
「なんだろう」
「騒がしいですね」
首を傾げながら、人が集まっているところに向かう2人。
そこには今日の当番のリヴェリアが、話の輪の一番外側で事の成り行きを見守っていた。
「アイズか。今日も来たのか。レフィーヤも珍しいな」
「何かあったの?」
「私も詳しく聞いたわけではないがな。どうにも例の少年が……」
2人はリヴェリアから事のあらましを聞いた。
「決闘?」
―――――――――――――――――――――――――
セシリアに投げつけられ、地面に落ちた手袋を見ながら俺はつぶやく。
「決闘、ね」
その時、内心心臓はドキンドキンと早鐘を打っていた。だってIS超序盤のセシリアわからせイベントが、少し形を変えているとはいえ目の前で発生したんだ。ちょっと興奮するくらいは許してほしい。
「ええ、決闘の勝者が敗者に何でも1つ言う事を聞かせられる。私が勝ったら昨日の件を考え直してもらうよう、貴方の口からも言っていただきます!」
「俺から何か言ったとしても、外回りの件は元に戻らないと思うけど?」
実際には俺の意見が通る可能性は高いが、俺が外回りを譲るつもりがないだけだ。
ってか、勝者が敗者に何でもって、なんとまあ無茶な条件を出してくるもんだ。負けた時のことなんてこれっぽっちも考えてないだろ。
「オルコット、良い加減にしろ。これ以上迷惑をかけると言うのなら、次回以降の合同訓練からは外してしまうぞ」
「いいえ。理不尽に対して口を閉じるわけにはいきませんわ!」
なんと織斑先生に反論してセシリアは続けた。
「夜月 翔。貴方のことは少し調べさせてもらいました。八神部隊長直々のスカウトによって管理局、特務六課へと入隊。しかし入隊してからわずか一月で命令違反による謹慎。謹慎が明けたと思えば、訓練への参加もそこそに隊長陣と何やらコソコソとしていますね。加えて昨日の急な人事、何かコネでも使ったんじゃありませんか?」
使ってるかどうかと聞かれれば、間違いなく使ってる。と言うか肉体関係も持ってる。そこを突かれるとちょっと反論しにくいな。
出来るのは昨日のなのはさんのような『いえ、もう決まった事なんで』という『上が全部決めたんで知りませんよ』ムーブ。あれ? なんかセシリアの方が正しいこと言ってるんじゃない……?
「違うとおっしゃるのなら実力を示されたら如何かしら? 特別扱いされているのが、本当に実力だと言うのなら!」
「……」
毎度の通り、受けるメリットのない決闘だ。
このまま『決まったこと』で押し通すことも出来る。
「あ、あのね、セシリアちゃん。一回ちょっと落ち着こ? ね?」
「アスナさん。貴方は随分と夜月さんと仲がよろしいようで。この件について何か知っていることがあるのでは?」
「え、っと……」
女の子達からの援護射撃も厳しそうだ。俺と仲が良いせいで共犯者のような扱いを受けてしまっている。
アスナでもダメな時点で交渉の余地はない。口下手な雪菜と耀はもちろん、桜でも無理だ。
「おい! 何やってんだ! さっさと訓練始めんぞ!」
そこに今日の訓練担当のヴィータさんがやってくる。そして俺達の間に流れる不穏な空気を感じ取ったらしく、何があったのか聞いてきた。
そこで俺は現在の状況を説明する。
「決闘だぁ? (どうするんだ? アタシから断るか? はやてに聞いたけど、お前あんまり自分の能力を見せびらかしたくないんだろ?)」
ヴィータさんから念話が飛んでくる。
実ははやてさんと相談して、俺の事情については守護騎士にも伝えられていた。基本的に教官の立場になる彼女達にもサポートしてもらおうと思ったのだ。
はやてさんはあまり訓練には顔を出さないし、なのはさん、フェイトさんと同等の立場の彼女達と認識をすり合わせておかなければ訓練でも支障があると考えたのだ。
「(はい。そうしてもらえると―――)」
だが、ふと思いついた。
このまま行けばセシリアは、織斑先生によって合同訓練からは外されることになるだろう。俺への敵意を持ったまま俺の目が全く届かないIS学園の中に。
そこにあのフードの男が接触して何やらよからぬ事をすると、どうなる……? タイミングが悪ければ俺が気づいた時には手遅れになるのではないだろうか?
決闘して俺への敵意が消えるのかはわからんが、訓練参加を取り消されるのは阻止した方が良いんじゃないか?
「(いえ、やっぱり受けます)……分かったよ。その決闘を受ける。ヴィータさん、申し訳ありませんが」
「……わーったよ。でも今日の分のメニューがあるかんな。やんなら明日以降にしろ。まあ別に、訓練の後でも良いっつうんならシュミレーターを貸してもいいが」
「俺はいつでもいいぞ」
「では明日にしましょう。負けた理由を訓練の疲れのせいにされたくはありませんもの」
こうして決闘の日程が決まったのだった。
――――――――――――――――――――
「って感じなんだ」
「そうだったんだ」
1日ぶりに訪れたアイズに今の状況を説明した。ちなみに後ろでは今日初めて会うレフィーヤが睨みを利かせていた。この娘もまた、セシリアとは違った形で主人公にライバル心を燃やすキャラクターだ。
だが今は、そちらにかまっている暇はない。
試合開始時間はすぐそこに迫っている。ヴィータさんが気を利かせて訓練開始前に模擬戦を設定してくれたのだ。
「それでどうするんですか、翔君」
桜が聞いてくる。
正直、俺は勝とうが負けようが外回りへの参加券を譲るつもりはない。だがセシリアを納得させるためにはやはり『勝利』が欲しいだろう。それも圧倒的な勝利が。
セシリアのISはブルー・ティアーズだよな……じゃあ、あれの試験運用の相手になってもらおうかな。
俺は武器庫からあの機動戦士を呼び出すのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「逃げずに来たことは褒めて差し上げますわ」
「それはどうも」
市街地ステージとなった訓練場の上空で、俺とセシリアはにらみ合っていた。
セシリアは思った通りブルー・ティアーズ。訓練でずっと見てきた機体だ。
色はISも含めて全体を通して青に統一されている。そこに装甲やアンダーシャツに包まれていない白人特有の白い肌、風に揺れる金髪がアクセントになっていた。
空に悠然と浮かぶその姿は自信に満ちている。これから始まる決闘の未来をすでに見据えているのかもしれない。
「それにしても、そのような装備を隠していたとは……」
セシリアは俺の姿を見てそう呟いていた。
俺はレプリカのBJの上から機動戦士の装甲を纏っていた。主役機らしいトリコロールのカラーリングに、ぱっと見ではシンプルなシルエット。少し目を引くものがあるとすれば、腰背面にあるスカートのようなユニットだろう。
ガンダムエアリアルである。
余計な言葉は交わさずに待機していると、審判役のヴィータさんから念話が入った。
《よし、2人共準備が出来たな。それじゃあ―――始めっ!!》
「はっ!!」
開始と同時にセシリアはメインの武装であるライフル銃、スターライトmkIIIを使って攻撃してきた。
だが、直線の攻撃なら今の俺が当たる道理はない。機体をロールさせ、次々と放たれる光線を避けていく。
「なるほど、単純な射撃程度であれば回避は造作もないと」
では、とセシリアは一拍置いて、機体にマウントされていたパーツを切り離した。それはそれぞれが独立して動き回り、俺に殺到する。
「踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる
セシリアはブルーティアーズ―――機体名の由来にもなったビット兵器が4機、手持ち武器のスターライトmkIIIも交えて俺への攻撃を開始した。
正面だけでなく、四方から放たれるビーム攻撃。流石に余裕がなくなる。
「うわっと!!」
「あら、意外とすばしっこいですわね!!」
それらをすれすれで回避していく俺。高度を下げてビルの影に入っても、ビット自体が『目』になっているのか逃げきることが出来ない。
この世界の魔導士は魔力で弾丸を形成し、思考で操作して当てる攻撃―――誘導弾というものを使う。
こういったオールレンジ攻撃を行う場合、空間認識能力というヤツが必要になる。対象を三次元的にとらえて正確に攻撃する能力だ。
実際にエアリアルのビットを使った攻撃をしてみると、例えるならクレーンゲームで筐体を横から見ず、景品に対して正確に軸線を合わせるような感じだった。軸線が少しでもずれると当たらないし、実戦では景品自体が逃げ回るし反撃もしてくる。
もっとも、命中しなくとも全方位から銃口を向けられているというプレッシャーは、十分に相手の動きを制限する効果があるので、当たらなくても無意味とは言えないが。
ただ、当たらないよりも当たる方が、雑な制御よりも精密な方が良いのは言うまでもない。
ブルーティアーズはそういった思考誘導の補助デバイスであり、通常の誘導弾よりも高威力の射撃を行う砲台でもあるのだ。
原作ではビットの操作に集中している間、自身の行動がおろそかになるのがセシリアの弱点として挙げられていたが、ニュータイプかコーディネーターでもない限り大体みんなそうだ。
桁外れの数の誘導弾を操るなのはさんでも、動き回るのではなく防御を取ってるんだからな。
誘導弾(誘導兵器)を緻密に操りながら自分も戦闘するというのは、そのくらい難しいものなのだ。
使いこなせない二刀流(直接戦闘と誘導兵器の併用)より達人級の一刀流(どちらかに絞った)の方が強い。普通は。
ただ、
「じゃあ頼む。みんな」
俺の装備しているエアリアルは普通じゃない。
体中に装着されていたビットが分離し、俺の身体の周りを、球を描くように飛び回る。
それを見たセシリアが笑う。ビットを機体周辺に戻し、腰に手を当てて髪を靡かせた。
「なるほど、わたくしと張り合おうとおっしゃるのですね」
「そういうことだな」
「ふふ……舐められたものですわっ!!」
その声とともにセシリアのビットが攻撃を開始するが、
相手の敵意に反応したのか、一瞬早く俺のビットの銃口がすべてセシリアに向けられ―――発射。
「へ?」
セシリアがそんな間抜けな声を漏らした時には、ビット2機が赤い爆発に変わっていた。
我を取り戻したのは、合間を縫ったビームがブルーティアーズの装甲をかすめた時だった。
先ほどとは完全に立場が逆転した。
ビットによるビームの檻から必死になって逃げようとしているセシリア。自分の回避に精一杯になったせいで、ブルー・ティアーズの操作がおろそかになる。残った2機もすぐに爆炎に変わった。
「こ、このっ!!」
ビットの撃ち合いでは敵わないと考えたのか、ライフルを連射してくる。
背面にマウントされていたビームライフルが自動的に俺の手に収まった。
こんな状況でもセシリアの射撃は正確だ。俺も正確に、その光線に向けて撃ち返す。
「弾丸を弾丸で跳ね返して……っ!?」
驚愕の声は横からのビット攻撃で破壊されたスターライトMARKⅡの爆発音によって掻き消える。
その爆発に紛れて急接近。セシリアが爆炎を振り払う頃には、
「っ!!」
俺は目と鼻の先に迫っていた。
「イ、 インターセプター―――!!」
焦ったセシリアが近接用の武器を呼び出そうとしているが、すでにサーベルのグリップを握った俺の方が速い。
《そこまでだッ!!》
ヴィータさんから静止の声がかかる。
ビームサーベルの切先はセシリアの喉元に。さらに機体を取り囲むように周囲に展開したビットが完全に逃げ道を塞いでいる。
セシリアの方はと言うと、ビットは全損、メイン武器も無くなり、近接用の武器の呼び出しに失敗したのか、その手には何も持っていない。
勝敗は誰の目にも明らかだった。