※この作品はR-18です。

異世界ハーレム奮闘記   作:文房具

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初めての外回り

2人は深夜の共有スペースに集まっていた。

 

学食は閉まっている時間なので、チェルシーはここに来る前に紅茶を淹れ、魔法瓶に入れて持ってきていた。

 

簡易的なカップに注いで2人で飲み、話を始める。その姿はメイドと主人ではなく、ただの幼馴染のようだった。

 

「それで、何でも言うことを聞くというのは?」

「言葉通りですわ。わたくしが勝ったら外回りの件に対しての進言を、向こうが勝ったら何でも1つ言うことを聞くと」

 

頭を抱えるチェルシー。そして一言。

 

「お嬢様。あなたは馬鹿なんですか?」

「ばっ!? チェルシー! なんてことを―――!!」

 

声を上げようとしたところで、夜中であることとそう言われても仕方のない愚行を犯したことを思い出し、踏みとどまるセシリア。

 

自省できているのなら、メイドとしてこれ以上何か言う事はない。

 

そんな主人の様子にため息を吐きつつ、顎に手を添えるチェルシー。

 

「いえ、しかし……そこまで無茶な要求はされないと思います」

「そ、そうかしら?」

「これが2人きりの場で交わした密約ならともかく、大勢に囲まれた場で行った口約束ですから。逆にお嬢様はどのような要求をされると思っていますか?」

「そ、それは、やはり金品とか、わたくしとの交際とか……」

 

という思考になるのもしょうがないことだった。

 

セシリアは小さいころから両親が残した遺産を守るために大人相手に奮闘しており、そこでやり取りさせるのは主に金銭やセシリアの立場を目的とした関係づくり―――いわゆる政略結婚の申し込みだった。

 

幸いにも、婚約や結婚による交渉はすべて退けることは出来たが、多額の金銭を払う結果になった苦い思い出はあった。

 

にもかかわらず今回そんな不用意な発言をしてしまったのは、やはり同世代に負けるわけがないという驕りが大きかった。

 

だが、約束してしまったものはしょうがない。

 

金品などは分かりやすいものではあるし、交際、もしくは社会的な立場を求めないのなら、もっと先の直接的な行為を要求されるのではと思ってもおかしくはなかった。

 

「ですが」

 

セシリアは翔のことを調べたが実際に調べたのはチェルシーだ。

 

一晩という短い時間、加えて翔の活躍はほとんどが秘匿されていることもあり、大した情報を集めることはできなかったが、それでも手に入った情報はある。

 

それは学校での生活態度だったり、武偵高の生徒から見た人柄だったりだ。

 

「学校での生活態度は極めて平凡。成績は今年の4月を過ぎたあたりから急激に伸びていますね」

 

その理由はいまだにわからないが、その実力は今日はっきりと示された。

 

「友人は女性が多いようですが、特に女性関係で目立ったトラブルは無し。どちらかというと周囲からのやっかみが強い」

 

女性が多い六課でうまくやれているのはその辺りが大きいのだろう。

 

「意外な情報は、聖天子様の護衛として指名された実績があること。デビルーク王国のララ王女の婚約者候補になっていることですね」

 

コネがあるのではと思ったのはこの情報があったからだ。

 

「今重要なのは彼の性格です」

 

いくら『何でも言うことを聞く』という発言をしていたとしても、要求する内容には限度がある。

 

法外なお金や男女交際などを望まれてもセシリアのプライドは絶対に断ることはない。そしてそれは、勝負に勝った翔にとって正当な権利でもある。

 

だが権利があるからといってあまりにも横暴な態度をとれば、それは己に跳ね返ることになる。

 

中にはそんなことなど知ったことかと考える異常者もいるが、調べた限りでは翔はその異常者ではない。むしろお人好し。無意味に他者を追い詰めるような真似はしない人物だ。

 

「だいぶ彼の性格頼りの考えですが、そこまで的外れでもないかと。ああ、ですが、約束をした側が1日ほっぽり出してしまったことも事実です。明日はなるべく早く、出来るだけ殊勝な態度で臨んだ方が良いですね。間違っても相手を挑発することは―――」

「わ、わかっています! わたくしだって、そこまで向こう見ずではありませんわ!」

 

本当か、とチェルシーは思った。だったらこんなことにはなっていないのでは、と。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「あの、夜月さん、よろしいですか?」

 

次の日の六課の訓練。例の件で荒れてしまった外回りに出かけようとしているところで、俺はセシリアに声をかけられた。

 

「その、今日の外回りが終わったら、少し時間をいただけないかと……昨日の決闘の件で」

「ああ……」

 

いつもとは違い若干背中を丸ませたセシリアは目線を下げていた。

 

それは当然の反応だろう。俺が勝ってしまったんだからな。

 

負けたショックからか、結局昨日は決闘の後一言もしゃべらなかった。俺からもそうだし、向こうからも。

 

俺としてはそのままうやむやになってくれるごく少ない可能性を期待してもいたんだが、流石にそううまくはいかないらしい。

 

「わかった。終わったら戻ってくる」

「は、はい。お待ちしてますわ……」

 

訓練に戻っていくセシリア。

 

「翔君、行こっか」

「はい」

 

準備を整えたなのはさんと六課を出発するのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

なのはさんと外回りに出た俺達は、なのはさんの運転でキーストーンゲートに向かった。目的地はそこに併設されている武偵局だ。

 

その道中。

 

「セシリアちゃんと、昨日の事話してたの?」

「はい。出来ればうやむやになってくれれば良かったんですけどね」

 

セシリアと話している時にすでになのはさんが近くにいたことには気が付いていた。特に不都合な話をするつもりは無かったし、放置しておいたんだけど。

 

「なので外回りが終わった六課までお願いしてもいいですか?」

 

今日は週末で明日は六課が休み。外回りが終わったらその場所で解散して家に帰るつもりだったのだが、セシリアと話すために一度戻る必要が出来た。

 

「うん。いいけど、あんまり変な事要求しないであげてね」

「その話は、昨日、終わってます……」

 

俺は初めからセシリアに対してヘンテコな要求をするつもりはまったく無い。無いのだが、昨日の夜、その辺りはきっちりとみんなの前で宣言させられた。

 

「そ、そうなんだ……」

「そうなんです。だから間違っても変な要求をすることはないですよ」

 

俺はわざわざ印象を悪くするつもりは無い。セシリアとはこれからも一緒に戦っていく予定なんだからな。

 

俺の返答を聞くとなのはさんは満足したのか、その話題を打ち切った。

 

それからしばらく車を走らせると目的地に到着した。

 

そもそもこの外回りの目的は、先のキーストーンゲート襲撃事件を受けての島全体の警備体制の強化である。

 

今までは商売敵だった管理局と武偵の関係構築。風紀委員との連携も考えられているらしい。

 

特に難航しそうなのは武偵との関係構築だ。まずは大手の武偵組織に声をかける形で進められていた。ロキ・ファミリアもその1つであり、こちらも聖王教会のツテですでに協力体制になっているのは知っての通り。

 

そこから先は武偵局を通して進めていく手はずになっている。

 

その為の外回り。

 

俺となのはさんは応接室で武偵局の担当者と会話していた。

 

だがその担当者というのが、俺にとっても予想外の人物だった。

 

「ようこそ、高町さん。えっと、そちらは……?」

「今日から担当が変わったんです」

「そうだったんですね。エイナ・チュールです。よろしくお願いします」

「ぁ、ああ、はい。夜月 翔です。よろしくお願いします」

 

一瞬の衝撃から抜け出した俺は、どもりながらも頭を下げた。

 

眼鏡をかけ理知的な空気を醸し出している目の前の女性は、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』に登場するキャラクターであるハーフエルフの女性。名前は自己紹介にも合った通り『エイナ・チュール』である。

 

原作ではギルドの受付嬢をしていた彼女だが、まさかこの世界では武偵局で受付嬢をしているとは。

 

なんでも、キーストーンゲート襲撃事件の時にもここのカウンターで働いていたらしい。

 

その辣腕ぶりから若干19歳にもかかわらず、こうして管理局とのパイプ役に抜擢されたらしい。面倒ごとを押し付けられたのかもしれないけど。

 

「(それにしても)」

 

声が。聞き覚えのある声が。

 

「どうかしましたか?」

「いえ。なんでも」

 

俺の態度にエイナさんが首をかしげている。

 

声のトーンや演じ分けがあるとはいえ、同じ人が出している声だ。知っている声なのに全く違うトーンで話されるのはやはり慣れないものだった。

 

それにしてもあの人の声のキャラがもう3人か。

 

「(それだけたくさんの作品に出演してるってことか……)知り合いに声が似ていたもので」

「知り合いに?」

「あ~、アスナちゃん?」

「それとララです」

「ララ王妃も? そうだっけ……?」

 

なのはさんもアスナはともかく、最近はあまり来ていないララにはピンと来てないみたいだ。

 

「まあこちらの話なのであまり気にせず。世の中には同じ顔の人が3人くらいいるらしいですから。声が似てる程度ならもっといるでしょうし」

 

そんな感じで打ち合わせが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「こちらが今武偵局で把握している事件の情報になります」

「あ、それはこちらに」

 

俺はエイナさんが出した分厚い資料を受け取る。

 

俺のメインの目的はこの情報だった。

 

この島の武偵局だけあって島中の武偵からの情報が集まる。情報科の中には重要な情報を金で売りつけている場合もあるらしい。管理局ですら把握していない情報も転がっているのだ。それらをすべて完全記憶能力に任せて頭に叩き込んでいく。

 

残念ながらこの世界には魔術も魔法も超能力も超科学もある。そのため不思議な事件や現象には事欠かない。

 

ここからあの謎の男がもたらした異世界の能力由来の事件を選別するのは難しいが、とっかかり位はつかんでおきたい。そうでなくとも不穏な事件の前触れをあらかじめ知っておくのは悪いことではないだろう。

 

俺が軽く資料に目を通す傍ら、なのはさんも現在の状況について確認し始めていた。それに対してあらかじめ用意していただろう資料をエイナさんが渡してくる。

 

俺もそちらの資料に目を移した。

 

この武偵局には島中の武偵への依頼が集められている。依頼人と武偵の仲介をしている施設なのだ。エイナさんがいることからもわかるように、冒険者ギルドのようなモノだな。

 

そこに管理局も依頼を出して戦力を募集しているという訳だ。

 

また、大手の武偵グループには直接声をかけているのだが、

 

「いくつかの団体に声をかけていますが、まだいい返事はもらえていませんね。受付で宣伝もしていますが、そちらもあまり」

「やっぱりそうですよね……」

 

管理局と武装探偵は敵対しているわけではないが商売敵だ。募集をかけてもそう簡単に掴まるわけがない。報酬もそこまで多くないしな。

 

しかも募集の内容もふわっとしていて、何をやらされるのか分からないんだよね。依頼を要約すると、島の有事の際、管理局の指揮下に入って事件の対応に当たるというモノだ。

 

「これからも募集は続けていきますが、正直、このままではいくら待っても意味が無いかと……」

「はい……」

 

エイナさんの言葉は暗い。

 

特に打開案も出ないまま打ち合わせは進んでいく事になった。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

外回りを終えて六課に戻ってきた俺はなのはさんと別れ、面談などに使われる小部屋に向かった。内容も内容なので、そこに来てほしいと指定を受けたのだ。

 

すでに訓練は終了していて、雪菜達は帰宅しているようだ。

 

部屋に到着するとその前にはメイド服を着た女性が立っている。この六課はレムとラムのおかげでメイド服が珍しいものではなくなっているが、その女性が着ているメイド服は2人がいつも着ている物とはデザインが違っていた。

 

その女性は俺に気が付くと腰を折って深々と頭を下げてきた。

 

「お待ちしておりました、夜月様。わたくし、セシリア様の専属メイド、チェルシー・ブランケットと申します。以後、お見知りおきを」

「初めまして、夜月 翔です」

 

そういえば確かにセシリアには専属メイドがいたな。ビジュアル面で印象がなかったせいで気が付けなかった。

 

今まで六課に来たことはなかったはずだが、今日に限ってということは、やっぱり俺の要求が気になっているんだろう。

 

「オルコットさんはもう中に?」

「申し訳ありません。まだ到着しておらず」

 

訓練はすでに終わってるはずなんだけど、何があったんだろうか?

 

「お嬢様は身を清めていらっしゃいます」

「は?」

 

つまり訓練後のシャワーを浴びてるってことか? なんでわざわざとも思ったが、セシリアは曲がりなりにも年頃の乙女であり上流階級の人間だ。人と会うとなれば最低限の準備が必要なんだろう。

 

具体的には訓練で流した汗を洗い流す程度の準備は。これからそこまで広くない部屋で男子と話をするんだからな。

 

もしかすると、少しでも清潔感を出して印象を良くしたいのかもしれない。

 

そこまで身構えないでほしいんだけどな。そんなつまらないことをいちいち指摘したりしないんだけど。逆にこっちが緊張するよ。

 

最近は精神と時の部屋も使い覇気の習得に勤しんでいる。経過時間の倍率は外1日につき部屋の中2日という最低値で肉体的な変化はないという状態ではあるが。

 

素質があったのかは知らないが、自分に向けられる強烈な感情ならぼんやりとわかるようになってきた。決闘を挑もうとしていたセシリア然り、今目の前にいるチェルシー然り。

 

俺に対しての恐れが目の前の少女から伝わってくるのだ。この分だとセシリアも同じかもな。

 

操作技術が未熟なせいで覇気のオンオフができない俺。心を読める能力者の苦悩が少し分かる気がする。

 

「じゃあ中で待ってます」

 

この場にいてはお互いのためにならないと判断し、俺は部屋の中に引っ込むことにする。

 

「夜月様」

「はい?」

 

ドアを半ばまで開けた状態でチェルシーさんに呼び止められる。振り返ると一歩踏み出してきた彼女に、強引に紙切れを握らされた。

 

「わたくし個人の連絡先です」

 

囁いたチェルシーさんは一歩下がり先ほどと同じように、や、先ほどよりも深く頭を下げた。

 

「お嬢様のこと、なにとぞ寛大な処置をお願い致します―――何か必要なことがあれば、そちらに連絡下さい」

 

恐れの中に、ピリピリとした覚悟が伝わってくる。

 

セシリアへの対応を寛大にして、何か必要ならチェルシーさんに、か。つまり、無茶な要求をする場合は自分にして欲しいということだろう。

 

例えば、男子高校生が考えるような下世話な要求をする場合は、自分を身代わりにしてほしいと言っているのだ。

 

だからそんなに警戒しなくても……と言っても無理な話か。ちゃっちゃと結論を出してしまうしかない。

 

「は、はぁ。まあ、わかりました」

 

俺は曖昧に頷いて部屋に入ることしか出来なかった。

 




久しぶりに人物紹介も更新したので興味があればそちらもどうぞ。
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