今年もよろしくお願いします。
「そういえば今日、アイズさんは来てないんだな」
模擬戦の準備を整える中、六課にいるメンバーを見回して俺は呟いた。俺の六課出勤日には必ず来ていたアイズさんが、今日は来ていなかった。
それに加えてアマゾネス姉妹であるティオネさんとティオナさん、セシリアとの決闘以来来る頻度が増えたレフィーヤさんも来ていないようだ。
「ああ。アイズには偶には休むように言いつけたからね。君が六課に復帰してから、ずっと出ずっぱりだっただろう? ティオネ達には偶にはアイズを町にでも連れ出してくれ、と言っておいたんだ」
そう教えてくれるのは今日のローテーションのフィンさんだ。
確かに、アイズさんは俺のシフト表貰ってるんじゃないかって疑いたくなる程、六課の訓練に顔を出していた。しかも俺が休みの日でもロキ・ファミリアの任務をこなしているらしい。
団長が気を使って休みを与えたとしてもおかしくはない。
だがそうなると、いつもと比べてメンバの数は大きく減っている。せっかく実力を測るための模擬戦を行うのに、これじゃ効果半減だな。
「模擬戦の機会は今日だけじゃないんだ。今いるメンバーでも有意義であることには変わりないさ」
「そうですね」
それにアイズさんもいたら、それはそれで大変なことになってたかもしれないし。
「それは言えてるね。君と正面から戦う機会は中々無いだろうし、例の娘と同じくらいやる気を出していたかもしれない」
「怖いですね、それは……」
フィンさんの視線の先にはISスーツを着て体をほぐしている鈴の姿があった。俺の記憶の中で間違いなく一番やる気に満ち溢れていた。
「今日は僕も体を動かすよ。みんなの実力を見たいのもあるけど、名前だけじゃ人は従ってくれないからね」
ロキ・ファミリアのフィン・ディムナ。その二つ名である『
それが名前負けしていないことを示そうというのだろう。
「そういうことだね。戦うときにはお手柔らかに頼むよ」
笑いながらフィンさんは去っていった。
さて、俺も意識を切り替えるとしよう。
鈴が使うIS『甲龍』はセシリアのブルー・ティアーズとは正反対の近接パワー型のISだ。
メインの兵装は『双天牙月』という銘の巨大な青龍刀が2振り。鋭く切断するというよりも、重量で叩き斬ると言った方がイメージに近いな。
そして両肩にある球体型ユニットには『龍砲』と呼ばれる武装がある。
これは空間自体に圧力をかけ砲身を作り、衝撃を砲弾として撃ち出す衝撃砲であり、砲弾だけではなく砲身すら目に見えないのが特徴だ。
アニメだと演出のためかエフェクトがあったのだが、この世界ではそんな生易しいものは存在しない。
砲身の稼働限界角度も無いため、あの球体のどの方向にも見えない衝撃波を放つことができるのだ。
この砲撃で相手の足を止めたところを、双天牙月でぶった切るのがメインの戦術。シンプルで強い。素直なパワーで殴ってくるからセシリアみたいな弱点がない。
しかも多少離れていても見えない砲弾が飛んでくるから撃ち合いも厳しい。
こうしてみると試験機のブルー・ティアーズとは完成度が別物だな。
「弱点を突くか……いやでも弱点らしい弱点が無いからな……下手に小技を使うより、ここは正面からぶつかった方が良いか?」
俺は今回使う機体を選択した。
―――――――――――――――――――――――――――
なのはさんや織斑先生が気を回してくれたのか、俺と鈴は互いに体力MAXの初戦で当たることになった。
今はアスナとフィンさんが戦っていた所だった。
「ふう、うん、お疲れ様」
「はぁ、はぁ、お、お疲れ様です……!」
結果としてはフィンさんの判定勝ちだったな。アスナもやられたわけではないが終始手玉に取られていた。
最終的には時間切れ(人数を考えて時間が区切られている)になっていた。
アスナは息を切らしているが、フィンさんは槍を肩に担いで腕を組んでいた。
「良い腕だね。技と駆け引きはウチのアイズにも引けを取らないよ」
「はい。ありがとう、ございます……」
あまりにも簡単にあしらわれてしまったからか、アスナは少し肩を落としていた。フィンさん相手ならしょうがないと思うけど。
2人は訓練場からはけていく。
次は俺達の番だ。
《それじゃあ次は翔君、凰さんだね。2人共、準備は良い?》
「もちろん! 早く始めて頂戴!」
「はい。何時でも行けますよ」
MSを纏って飛び出す。フィールドは市街地。そこに降り立った。
空に浮かぶ甲龍。それを見上げる形になる俺。今回は、自立飛行の能力が無いMSなのだ。
「ふーん。セシリア相手に使ったやつじゃないのね」
「ああ。甲龍相手にビットを飛ばしてもあんまり意味無いしな」
甲龍の龍砲は迎撃にも使える。
例えば魔導師に誘導弾を撃たれた場合、撃たれた方も黙っているわけがない。避けるか防ぐか撃ち落とすか。
誘導弾だと避けても追いかけてくるので大抵は防ぐか撃ち落とすのだが、撃ち落とそうとした場合、今度は誘導弾の方が黙っていない。
銃口を向けられたら撃墜されないために、それを避けるように動くだろう。
だが龍砲には銃口が無い。さらに砲弾も見えない。故に容易に撃ち落とされてしまうのだ。
そしてそれはビットの場合にも同じことが言える。
エアリアルのビットは俺が動かしているわけではないのだが、中の子も見えない砲弾を避けるのは難しいと伝えて来た。
かと言って、龍砲の射程範囲外からビットで攻撃しても攻撃の網目が緩くなって回避されやすくなってしまう。近接戦に強い甲龍は装甲も厚いだろうしな。
「ってか、今回は飛べない訳?」
「ジャンプは出来るぞ」
そう、今回のMSは自分で飛ぶことは出来ない。このガンダム―――バルバトスは。ちなみに形態は第4である。
手にはあの特徴的なメイス。背中には滑腔砲と太刀がマウントされている。
「だったら―――」
鈴は地上に降りて来てくれる。
自由飛行が出来ない俺のためだろう。
「サービス良いんだな」
「そっちこそ。アタシのこともセシリアみたいにする気でしょ?」
俺の
やっぱりそう受け取られるよな。セシリアに対してビットを使って圧倒したように、自分のことも得意な近接格闘で叩き潰すつもりだと。
「そう簡単にはいかないから。舐めないでよね!」
「舐めちゃいない」
そんなことは分かっている。地上に降りたのはある程度条件をフェアにするための配慮。龍砲を使わないとは言っていないってことだ。
《それじゃあ準備はいいかな? ―――始めっ!!》
「喰らいなさい!!」
「くっ!?」
始めの合図と同時に空間が震える。
とっさに横に飛ぶ。すると後方の建物が大きく抉れた。
やっぱり、龍砲の弾丸は見えない。だが発射される瞬間は文字通り衝撃が伝わってくるので感知はできる。
見聞色の覇気がもっと熟達していれば発射のタイミングすらも感知できるかもしれないが、あいにくと鈴の敵意を読み取るだけで精一杯だ。
「へえ、やるじゃない!! だったら……これならどうかしら!!」
「っ!!」
連続で発射される龍砲を滑るように回避していく。やっぱり鈴は俺を近づけさせるつもりは無いらしい。
鈴も近接戦が得意なはずだが、同時に龍砲という強力な武装がある。短気な性格に見えて堅実に責めてくるな。
「ほらほらどうしたのよ!
そうそう考えつくかよ。単純に強い武装なんだから。
だが、確かに逃げ回っているわけにもいかないな。そろそろ反撃を―――
「ん?」
なんだ? なんだか地面が揺れた気が……
「よそ見してんじゃないわよ!!」
「うわっと!?」
足を止めたところに龍砲を叩き込まれる。メイスでガードしたが大きく吹き飛ばされてしまった。
なんだ、さっきの。龍砲の空間圧縮をなんかと勘違いしたのか?
「まあいいか」
集中集中。
「行くぞ!!」
俺はこの模擬戦、初めて前に出た。
「正面から? 単純すぎるでしょ!!」
龍砲を連射して来るがメイスを盾に、かまわず突撃する。
「そんな力業……攻められないからって、強引に突破できるなんて思わないでよね!」
直後、龍砲の狙いが俺ではなく俺の足元になった。
直撃はしないものの、衝撃のせいで体勢が崩れてしまう。そして俺達の距離は十分に近くなっている。
「動きも単調! 貰ったわ―――!!」
鈴は双天牙月を構えて突撃してきた。
ああ、そうだ。それを待っていた。
近寄ればより確実にとどめを刺せる近接攻撃を選択する。堅実な教科書通りの戦い方を選択していた鈴だが、やっぱりちまちまと攻撃するのは性に合っていないようだ。
精神を集中し、手のひらの熱をメイスに移していく。金属が温まっていくようにメイスが『見えない鎧』を纏っていく。
「武装強化……!!」
武装色の覇気の練習の成果だ。もっとも今の練度だと、しっかり集中してほんのわずかに覇気を纏わせるので精いっぱいだが。
それでも、そのわずかな差異だけで十分だ。差異は相手の計算を狂わせる。
双天牙月に勢いをつけたメイスを叩きつけた。
「っ!!??」
予想外の衝撃を受けたのだろう。握っていた双天牙月が吹き飛んでビルに突き刺さった。
すかさずもう1本を振りかぶってくるが、すれすれで回避してメイスを突き出す。鈴は地面にめり込んだ武器から手を放して後ろに回避するが、俺はさらに先端からパイルバンカーを発射した。
腕のアーマーでガードすることで本体への直撃は避けるが、そのアーマーはひしゃげて破壊される。
「やるじゃない……!!」
鈴は最初に吹き飛ばした双天牙月を拾って構える。
仕留められなかったか。でも双天牙月の片方は俺の足元だ。確実に戦力は削いだ。ここから―――
次はどのように攻めようかと思案していると、
ビーッ! ビーッ!
ア、アラーム? なんだ、模擬戦の終了時間はまだまだのはずなんだけど。
《翔君、凰さん。模擬戦はストップ。エマージェンシーだよ》
―――――――――――――――――――――――――――
この世界には魔物、もしくはモンスターと呼ばれる存在がいる。
ダンまちやプリコネ、その他作品に登場するクリーチャー系の要素だ。
大まかな傾向はダンまちのモノに近い。致命傷を与える、もしくは体のどこかに備わっている『魔石』と呼ばれる器官を破壊することで倒すことが出来る。
倒されると体は灰となって崩れ去るが、時折体の一部がその場に残ることがある。それは『ドロップアイテム』と呼ばれ。魔術の触媒や特殊な武器の作成に使われることから高額で取引されている。
発生原因は不明。だが、マナの吹き溜まりであるホットスポットで多く生まれることが確認されている。
ちなみに俺はこの世界に来て、まだ魔物を見たことがない。
この島は龍脈、つまりホットスポットの真上に存在しているのだが、この島を浮かべておくための様々な魔術的仕組みのために溢れる魔力が利用されており、めったなことでは魔物は発生しないのだ。
したとしても大した強さにはならず、パトロールしている管理局にすぐに刈り取られることになる。
にもかかわらず、魔物の大量発生。それも、
「極彩色の植物型のモンスター……」
極彩色のモンスターといえばソードオラトリアで登場する魔物の強化種だ。それが現れたって? どうなってるんだ?
《今は管理局も情報を収集してるんだけど数が多くて。六課にも救援依頼が来たの。私達は出撃準備を進めてるんだけど、2人とも体力に余裕があるなら先行して対応して貰えるかな?》
「了解です!」
「分かったわ!」
《管理局のデータベースにも記録がない魔物だから気を付けて!》
なのはさんの通信に鈴はすぐさま飛び立ち、俺はバード形態のウイングガンダムを呼び出して空へ飛び上がった。
前を飛んでいた鈴に追いつく。鈴のISは俺の攻撃によって腕部分の装甲が破損していたはずだったが、予備パーツに交換したのかすでに元通りになっていた。
「模擬戦は邪魔されちゃったけど、こっちの方が都合がいいわね」
「はあ? 何がだ?」
「どうせ戻っても模擬戦は再開されないでしょ。だったらこっちで勝負するわよ。せっかくわかりやすい魔物って敵がいるんだしね!」
「な、何だと!? おい、敵を甘く見るなよ! なのはさんも言ってただろ! 管理局のデータベースにも記録が無いって!」
「ごちゃごちゃうっさいわね! 市民が危険に晒されてんだからどうせ倒すしかないでしょ! そのついでに倒した魔物の数をカウントするだけよ! 良い!?」
そう言って鈴は速度を上げてしまう。
「お、おい!」
速度を上げる鈴に俺は追従する。だがムキになっているのか俺が加速した分だけ鈴も加速していく。
通信で呼びかけてみても、デバイスの通信も念話も切っているらしい。何の応答も無い。
「まったく……!!」
空路は早い。あと1分もすれば現場に到着だ。状況も切迫している。鈴の言う通りごちゃごちゃ考えている暇はなさそうだ。