「間一髪だったか」
レフィーヤさんに迫る食人花をバスターライフルで焼き払い、照射したビームをそのまま動かして近くにいた食人花も消滅させた。
島では同時多発的に魔物が発生しているらしい。原因不明の地震が発生し、その後地面に穴が開き、そこから食人花が這い出してきているとか。
現在、12か所の穴から10や20と言った数が出現していて、今も増加中。さらに食人花はこの島周辺で発生したにしては桁違いの力を持つ。
特に衝撃、打撃に強い。武偵がスピードを出した車で引いてもぴんぴんしていたという報告が上がっている。
拳銃も通常弾は役に立たず、装甲貫通弾やハイパワーライフルが必須。おまけとして魔力に集まる性質も持ち、魔導士は意図せず敵のヘイトを集めることになるらしい。
俺はバスターライフルを両手で構えた。
「3人共、避けろ!!」
「「「っ!!!」」」
俺の言葉に穴の近くで食人花と戦っていた3人が一斉にその場を離れる。流石はアイズさん達。この状況でも俺が何をしようとしているのかすぐに理解してくれる。
「威力は―――このぐらいか!!」
再び放たれるバスターライフルの閃光。それは穴の淵に集められていた食人花を舐めとるように消し去っていく。逃げた食人花もビームの柱が追いかけて滅する。
照射が終わるとそこに居たはずの食人花はすべて消滅していた。それだけでなく、ビームが当てられたアスファルト部分が溶け落ち、車が走行不能になっていた。
これは、撃つ方向は気を付けた方が良いな……だが当面の危機は去った。
俺は横たわるレフィーヤさんの元に着地する。
「大丈夫か」
「あな、た。どうして、ここに……? う、くぅ……!!」
「もう通報されてるからな……あ、もう喋んなくていいぞ」
くっそ、俺、回復系の能力はないからな。楽な姿勢をしててもらうしかない。
「レフィーヤ!」
「大丈夫!?」
すぐにアイズさん達が駆け寄ってきた。
「す、みません。足、引っ張っちゃって……」
「バカ、何言ってんのよ。夜月、今はどうなってんの?」
ティオネさんが問うてくる。
「今は島中にあのタイプの魔物が大量に発生しています。そこみたいに地面が抜けて、その穴からわらわらと。データ送ります」
「ありがと。んー」
俺から送られたデータを睨むティオネさん。その間も俺は言葉を続ける。
「とりあえず俺は他のポイントに向かいます。管理局や武偵も事態を把握して動き始めているんで、俺は手が回ってなさそうなところに行こうかと」
俺と鈴が先行したのは訓練で戦っていてすぐに飛び立つ準備が出来ていたからだ。今頃、六課の他メンバーも出撃しているはず。
「分かったわ。私達も戦線に加わる。いいわね?」
「うん」
「もっちろん!」
ティオネさんの視線にアイズさんとティオナさんが頷いた。
「ああ、それじゃあ武器を……」
素手で食人花の相手は厳しい。そう判断した俺は
空間に出来上がる金色の歪み。そこから2本の槍が姿を現した。
ちなみに武器は武器庫から俺の手に転送することも出来るが、こうしてあらかじめ
「あ、アンタ、何それ……」
「細かい話は置いておきましょう。これはどちらの槍も呪いがかかっているので気を付けて下さい。特に黄色い方は」
俺は槍の効果について説明した。
「了解。そんなヘマはしないわ」
ひゅんひゅんと獲物の具合を確かめているティオネさん。すると俺の袖を掴んでぶんぶんと振りまわすティオナさん。
「ね、ね! 私も私も! 私は重いヤツが良い!」
「お、重いヤツか、うーん……」
ティオナさんは普段、大剣型のダブルブレード『
「これとか?」
「うーん、ちょっと軽いなぁ」
エンジンブレードはお気に召さなかったらしい。
だがそうなると重い武器が思い浮かばないな。さっき使ってたバルバトスのメイスとか……?
「え、何それ! 見せて見せて!」
「それにはまずこれを着てもらわないと」
ティオナさんにバルバトスを装着してもらう。ガンダムの武装はその機体を装着しないと使えないのだ。どういうロックがかかっているのか、都合よく武器だけという訳にはいかない。
「うおー!! いいよ! これ!」
「でもアイツらに鈍器はあんまり効果が……」
「ダイジョブダイジョブ! これで行くよ!」
ぶおんぶおんとメイスを振り回すティオナさん。
そういうならと、最後にアイズさんと向き合った。
「私は剣が良いけど……」
「剣ならそれでいいんじゃない?」
ティオナさんが地面に突き刺さったままになっていたエンジンブレードを指さした。それを引き抜き何度か素振りするアイズさんだったが、
「私には重い、かな?」
「そうでしょうね」
アイズさんはスピードを重視する剣士だ。これは合わないんだろう。じゃあ、これはどうだろうか。
《KNIGHT》
《ARMOR TIME!》
《ADVENT! KNIGHT!》
アイズさんに装着されるナイトを模した軽装の鎧。腰のダークバイザーを抜いて何度か振り、頷いた。
「うん。良い感じ」
「すごーい! そんなのも出せるの!?」
「……そう、ね。確かにすごいわ」
アドベントカードの説明は……いらないか。装備を配るのに時間を使っちゃったし、アイズさんは自分の力で十分すぎるほどこの事態に対応出来るだろう。
そろそろ他の場所に向かわないと。俺の言葉にアイズさん達は頷いた。
「あ、あの、私は……?」
地面で楽な体勢を取っていたレフィーヤさんは苦しそうにしている。
「アンタは休んでなさい」
「そうだよ、ケガしてるんだから!」
「ここは私達に任せて」
「っ、はぃ、わかり、ました……」
3人に言われたレフィーヤさんは唇を噛みしめながら頷いた。完全に忘れていたが、ケガしてるんだったな。戦いに参加しないにしても、この場に放置は出来ない。
「ただ救急車は……」
この混乱のせいでいつ到着するか分からない。かと言ってこの場に放置は出来ない。誰かこの場に留まるか……
「いや、俺が連れていきます。乗り物もありますし」
サイドバッシャーを取りだす。
俺の意見に他3人が頷き、レフィーヤさんがかなり不満げな顔になる。が、代案はないのか何も言わない。
周りにいた人のことは居合わせた武偵に任せ、俺達は散っていった。
――――――――――――――――――――――
「とりゃあああああ!!!」
醜悪な花弁の中央にある魔石を粉砕し、魔物が灰と消える。
「そりゃああああ!!!」
双天牙月を振り回し、群がる食人花を蹴散らしていく鈴。
穴から湧き出る食人花に対して、鈴は1人で奮戦していた。
翔も本当は鈴から目を放すつもりは無かったのだが、鈴が翔を気にせずに飛んで行ってしまう事と、追いかける途中でレフィーヤ達を見つけてしまったことで、現在は完全に別行動になっていた。
おまけに、
「アンタら全員、他の所に行きなさい! ここはアタシだけで十分!」
「は? い、いや、だが……!!」
「つべこべ言うな! ここはアタシがいれば十分だってコト! 分っかんない訳!? アンタたちがいても役に立たないのよ!」
「っぐ……!!」
鈴に怒鳴られた武偵や駆け付けて来た管理局の面々が顔を歪ませる。
確かに鈴の甲龍は圧倒的だった。
打撃に耐性があるため龍砲はあまり役に立たないのだが、その分近接格闘に全振りした鈴の突破力は圧倒的だった。双天牙月が振り回されるたびに食人花が引きちぎられていく。
周りの誰にも頼ることなく魔物を殲滅していく。
その姿を見せられれば、お前たちは必要ないと言われることも理解出来た。
手持ちの拳銃は役に立たないし、魔法や超能力で攻撃しようにも生半可な攻撃は食人花のヘイトを集めるだけで、彼らを助けるために鈴に余計な手間を増やしていた。
だから『役に立たない』と言われても仕方がないのだ。言われた方の心情は別だが。
「……わかった。他に行かせてもらう」
だが手が足りていないのも事実。この場が鈴一人で大丈夫というのなら、他に回るのも悪くない。
セオリーで言えば、いくら強いとしても1人残して全員が移動するなんてあり得ないのだが、鈴の傲慢な物言いがそうさせてしまった。
「へへん、分かればいいのよ!」
離れていく武偵達。魔物を屠りながら、鈴は鼻を鳴らした。
「(これでこの巣穴はアタシが制圧ね。楽勝だっての)」
地面に空いた魔物が湧く大穴を、仮に『巣穴』と呼んでいる鈴はそんなことを思った。
「(確かにちょっと強い魔物かもしれないけど、アタシにとってはお茶の子さいさいよ!)」
鈴も鈴なりに未確認のモンスターを警戒していたのだが、これまでの戦況ですっかり油断してしまっていた。
「ほら、さっさと来なさいよ! 全員纏めてぶっ飛ばしてやるわ!!」
うぞうぞと咲き誇る食人花に対してそう吠える鈴。
その油断のツケは実にあっさりと支払うことになる。
そもそも食人花は、レフィーヤが倒れた時、素手とは言え実力者であるアイズ達が3人がかりでも突破出来なかった相手だ。
周りにいた武偵や管理局が撤退したことで、すべての魔物のヘイトを一身に集めることになった。
ヘイトが集まることと散ることの利点は表裏一体。散れば敵がばらけて処理が面倒になるが自分への攻撃も薄くなる。逆に集まればすべて自分に向かって来るので追いかける手間が省ける。後はそのすべてを自分が処理できるなら問題ない。
処理できるのなら。
「あっ、この……っ!! 放しなさいよ……!!」
四方八方から襲い来る強靭な蔓。1匹2匹を叩き潰してもすぐにおかわりが湧いてくる。
やがて片腕を絡めとられてしまう。いつの間にか取り囲まれ、周りから蔓の乱打が襲い掛かる。
食人花を一撃で叩き潰すことが出来る双天牙月は、近づかれると取り回しが悪い。近づかれた時は龍砲を使って脱出するのだが、衝撃や打撃に強い食人花には効果が薄い。空へ飛んで逃げようにも強靭な蔓が何本も体に巻き付き、地面に縫い止められる。
「(ウソ、マズい? こんな、だって、さっきまで楽勝だったのに、倒せないわけじゃないのに……!!)」
360度どこを見ても極彩色の魔物。すべてが敵だ。
鈴の焦りを現すように、効果の薄い龍砲がめちゃくちゃに発射されるが、発射ポットにも蔓が巻き付き悲鳴を上げる。粘液に濡れた歯に噛みつかれ、装甲が削られた。
空に逃げようともがくその姿は、蜘蛛の巣に捕らえられた蝶のようだった。
完全に押しつぶそうと醜悪な花を咲かせ、その中央にある魔石を輝かせながら飛びかかる食人花。
「っ!!??」
とっさに目を瞑る鈴。
次の瞬間、飛びかかった食人花は上空からの狙撃によって魔石が撃ち抜かれていた。
空から降り注ぐビーム。その先には、青い機体が見えた。
「ブルー・ティアーズ……セシリア!?」
スターライトmkIIIを構え、さらに周辺にビットを展開したブルー・ティアーズが光線を雨あられと降らせていた。
全員のヘイトを集めるように、道路に存在する魔物にまんべんなく、触手が届かない空中から。
「鈴さん、今のうちに立て直してください!」
「っ! 言われなくても!!」
その場で回転。まとわりついていた蔓を引きちぎって空中に逃れる。
「アンタ、何でここに……」
「何故って、六課にも出動命令が出されていましてよ! 先行したあなた達の救援に来るのは当然ですわ!」
「それは、そうかもしれないけど……」
セシリアの言葉にようやく今は実戦の最中であることを思い出す鈴。今までずっとスコアの事しか考えていなかったのが急に恥ずかしくなってくる。
鈴を助けたことを誇るでもなく、
射撃を続けるセシリア。全員の注意を存分に引きつけたところで合図を出した。
「テスタロッサさん、今ですわ!!」
その時、雷光が閃いた。
「え?」
鈴が間抜けな声を漏らすと同時に、雷光が通り過ぎた場所にいた食人花が斬り捨てられている。
雷光の正体はフェイトだ。セシリアの誘導、そして食人花の知覚範囲外からの超スピードでの強襲。密集していた魔物の群れの中央に風穴を開けた。
突然の乱入者に混乱する食人花。魔力に引きつけられ一斉にフェイトの方を見る。
そのフェイトは左手を向けていた。
「プラズマスマッシャー!!」
放たれる黄金の閃光。雷撃を伴う砲撃は、何体もの食人花を消滅させ、
「逃がしませんわ!」
撃ち漏らした魔物の魔石をセシリアのビットが処理してしまう。
あっという間の殲滅に、鈴は何も出来ずに眺めていることしか出来なかった。
「凰さん、大丈夫だった?」
「え、あ、はい……」
フェイトに問われどこかへ飛んでいた意識が戻ってくる。
「よかった。まだいけそうなら私達に合流して欲しいんだけど、行ける?」
「は、はいっ! 行けます!」
鈴はフェイトとセシリアと合流して、次の魔物の元へ向かっていった。