食人花は打撃や衝撃に強い。
拳銃は役に立たないし、スピードを出した車で引いても意味が無いほどだ。よって近接戦を挑むのなら斬撃で戦うのが望ましい。
だが、ロキ・ファミリアの幹部であるアマゾネスにはそんな常識は通用しなかった。
「とりゃああああああ!!!」
ティオナが振るうメイスが、数体の食人花を巻きこんで地面に叩きつけられる。さらに跳躍。空中で回転を加えた一撃を振り下ろし、魔物を撲殺する。
ただでさえ強力なティオナの膂力が、バルバトスによってさらに強化されている。だからこそ可能な芸当だった。
「
「騒ぐな!! バカティオナ!!」
新しいおもちゃをもらった子供の様に興奮した様子のティオナに、ティアナはいらだった様子で怒鳴り散らす。
怒りの原因はティオナがはしゃぐことだけではない。自分の思考を邪魔されたことも要因の1つだった。
「(この槍……)」
ティオネは2本の槍を巧みに操り魔物を解体していく。
強靭な魔物の肉体を容易に切断していく穂先。いくら打撃よりも斬撃が効果的と言っても、それは市販の刃物で傷をつけられるという訳ではない。鈍らではダメなのだ。
それが、この槍は容易に相手を切断できる。加えて槍に宿っている呪い。絶対に市販されているものではない。オーダーメイドか、棚ぼたで手に入れたのか。
「(緊急事態だからって、そんなものポンポン貸せる? バカティオナとかアイズに貸したヤツもそうだが、そもそもどこで手に入れた?)」
武器を取り出した手段については、そういう魔法やレアスキルがあるとして納得は出来る。だが中身については別だ。
「(ま、ごちゃごちゃ考えるのは後で。終わった後に団長に相談すればいいか)」
戦闘中のアマゾネスに似合わない思考を放棄し、魔物を屠ることに没頭していく。
そして金髪の剣姫。
いつもの
「(壊さないようにしないと。借りものだし)」
ナイトの武器は召喚すればいつでも新品になる。そのことを知らないアイズは武器を慮って戦っている。
だが怪物相手に出し惜しむ理由もない。
「
風の鎧を身に纏い、風の刃が獲物を包む。武器が壊れないラインを見極め、付与魔法《エンチャント》を施す。
そうすることでさらに苛烈な斬撃を魔物に刻み込んでいく。
そんな3人の姿を見る武偵や管理局員。
武器があればというセリフは、多くの場合ただの負け惜しみだ。だがこの3人は違った。
3人がかりで仲間を助けに行けなかった鬱憤を晴らすように、周りの人たちに指一本触れさせることなく魔物を殲滅していく。
「す、凄ぇ……」
「これがロキ・ファミリアか……」
3人の奮戦により、その巣穴はあっという間に占領されるのだった。
―――――――――――――――――――――――
俺は病院に向けてサイドバッシャーを走らせていた。すでに規制線が張られているようで結構迂回させられるな。
規制線で止められることもあったが、管理局員証を見せ、怪我人を運んでいると伝えるとすぐに通ることが出来た。レフィーヤさんがロキ・ファミリアだってことも関係しているかもしれない。
サイドカーに乗るレフィーヤさんはずっと何かを考えているのか、それとも怒っているのか、唇を噛みしめて流れる景色を見てた。
「痛みます?」
「……いえ、大丈夫です。もっと飛ばしていただいても」
「オーライ」
バイクのスピードを上げた。
俺達の間に会話はなかった。別に普段から話すような仲ではなかったが、それ以上に今のレフィーヤさんからは話しかけないで欲しいという雰囲気を感じる。
感じてはいたのだが、
「……あの」
「はい?」
「……さっきは助けていただいて、ありがとうございます」
「どういたしまして」
律儀にお礼をしてきた。
きっと助けられたことに不満、ではないが思うとことがあるのだろう。アイズさん達が戦っているのに自分だけがこうして病院に運ばれている事とか。
アイズを目標に研鑽を続けているレフィーヤさんにとって、今回の一件は自らの実力不足を痛感する結果になっただろう。
下手なことを言っても解消できるものではない。むしろ慰めはいらないと怒られてしまうだろう。
生きていればいくらでも鍛えられるんだし、伸びしろだってあるだろうしね。
そんなことを考えていた時だった。
「「っ!?」」
その場に停車する。
「また揺れましたね……」
「そうですね……」
魔物発生直前から断続的に続いているこの揺れ。人工島では起こり得ない地震は、確実に食人花の事件と繋がっている。
「もしかして、またどこかに魔物が湧く穴が出来たのかも……!」
「あり得ますね」
レフィーヤさんの言葉に頷きながらバイクを発進させた。病院の方角へ。
「すみません、私のせいで……」
はい? 何が?
「私が怪我していなかったら、あなたも戦いに行けたじゃないですか。そうすればもっと、皆さん楽に戦えて……」
「そんなに気にしなくても……ケガは誰だってするし、そのことをあげつらって何か言うつもりは無いし」
「……違うんです。そうじゃ、なくて……すみません。余計なことを言いました」
そう言って黙り込んでしまう。
「余計じゃないだろ。不平不満は積もり積もって後々大変なことになる、かもしれない。だから言える時に言っといた方が良い。相手は俺じゃなくてもいい。ファミリア内の信頼してる人とか」
「……相談したところで解決するコトじゃないですから」
風邪をひくと気弱になる、と同じような現象だろうか。何も出来ずにケガで戦線離脱してしまったことで、必要以上にネガティブになっている。
そしてネガティブになっているからこそ、普段は言わないようなことが漏れてしまう。
「正直、あなたのことが分かりませんでした。なんでアイズさんがあんなにこだわってるのかも。ああいう武器、隠してたんですね」
「ああ、まあ、ね」
MSは何種類も見せているが、それが逆に底が知れないと思われる原因になっているかもしれない。
アイズさんの場合、武人的な強さを求めているわけではない。強くなる手段があれば彼女的には興味があるんだろう。
この世界はダンまち原作とは違い、レベルアップだけが強くなる方法じゃないからな。俺の持つ特異な武器や能力に興味を持ってもおかしくない。
それが俺に興味を持った理由だろう。
「そう、だと思います。アイズさんは本当に強くなることに一生懸命で、今のままでも十分強いのに、それでも上を目指してて、だから私の―――」
そこまで喋ってレフィーヤさんはハッとした顔になる。
「な、何言わせようとしてるんですかっ!!」
「言っとけ言っとけ。本人にチクったりはしないから」
むぐぐと、何かを詰まらせているかのように真っ赤になる顔。
「何であなたにそんなことを……痛たたた……っ!!」
「おい、大丈夫か? そんなにリキむから」
「あなたが悪いんでしょ……!!」
「や、そんなことないだろ」
なんてことを話していると、病院が近づいてきた。いつも俺が入院している病院だ。
「よーし着くぞ。取り合えず御門先生かティアーユ先生に連絡して……ん?」
俺は前方に視線を向けた。
目的地の病院は近い。目と鼻の先だ。
だがその前、病院が面する道路に巨大な穴が開き、わらわらと食人花が湧き出していた。その光景に、レフィーヤさんの顔は蒼白になる。
「ウ、ウソ……」
「こりゃ、やるしかないな」
あの様子を見ると、今さっき開いた穴らしい。周りには誰もいないが放置も出来ない。何より病院前だ。
「ひ、一人でやるんですか……?」
「もう場所は送ってるから、そのうち皆来る。それまではやってみる」
「わ、私も……」
「ケガしてるだろ。無理するなって」
「っ」
そ、そんな顔されても……レフィーヤさんがケガしてるのは事実なんだし……俺の方が悪いことしてるみたいじゃないか。
「とは言えこんなに出るのか……」
わらわらと湧き出す食人花。その数はいまだに増え3桁に届こうとしている。とはいえバスターライフルで焼き払えるのはさっきの戦闘で実証済みだ。
「いや、それはマズいか……?」
雑に砲撃すると、敵が散ってしまうかもしれない。魔物は人間を襲ってくるが、勝てない相手に愚鈍に向かって来るものでもない。勝てない相手からは逃亡することもある。
四方八方に逃げ、ビルと隙間にでも入られれば見失う可能性かもしれない。1匹でも逃がしてはいけない。
「数を抑え込むには圧倒的な火力か―――同じく数をぶつけるか」
俺は選択する。ベルトを装着。
俺は緑色のメダル3枚を取り出して弾く。
そのメダルは、
《OOO》
起動したオーズウォッチに吸い込まれた。続いてジオウウォッチも起動させる。
「変身!!」
《RIDER TIME! 仮面ライダーZI-O!》
《ARMOR TIME!》
《KUWAGATA! KAMAKIRI! BATTA! OOO!》
クワガタとカマキリとバッタ、緑色の3匹の虫が変形し、ジオウに変身した俺に装着されていく。
同時に爆発的に俺の力が高まっていくのを感じる。
「う―――オオオオオオォォォォ!!!」
以前サゴーゾコンボに変身した時と同じように、自分の中に溜まった力を吐き出すように咆哮する。
「よし!」
俺の体が―――分裂した。1人が2人に増え、2人が4人に増え、最終的に50人にまで。
「よし、行くぞ!!」
「「「「「よっしゃーーー!!!」」」」」
1人の俺の掛け声で辺りに散っていく俺達。バッタの脚力を生かして、ビルに登る者、カマキリのブレードを展開してさっそく食人花に斬りかかっていく者、クワガタの頭から電撃を放射して食人花の進軍を止める者。
50人の分身が時には連携しながらも、増えていく魔物に対抗して、着実に数を減らしていく。
ガタキリバの分身はとても奇妙な感覚だ。
当然俺の意識は一番初めの本体にあるのだが、分身体の考えていることもある程度把握出来る。それが50人分。頭がパンクしそうだ。
だが行ける。食人花を囲むように、逃げ出すことが無いように陣形を整える。
このまま押し止められる。殲滅することも―――いや、欲は出すまい。確実に殲滅できるならまだしも、トラブルが起こったら目も当てられない。
ま、時間をかけたら、それはそれでコンボの負担が襲って来るんだけどな。ぶっ倒れないように気張るしかないか!
俺は現状維持を選択し、戦いを続けるのだった。
――――――――――――――――――――――
「やっぱり、すごい……すごく強い……」
訓練では1度も見せたことの無いジオウへの変身。オーズアーマーからのガタキリバコンボによる分身。
集団で1匹の魔物を取り囲んで切り刻んだかと思えば、すれ違いざまに魔物が両断されることもある。
湧き出す魔物をそれ以上の集団の力を以て圧し潰していた。分身と言えば個々の能力が落ちるというのが定石なのだがそれが見られない。
1人で抑えるという大言も、出まかせではないと理解させられる。
「っ……!」
同時に襲って来る劣等感。
レフィーヤは心のどこかで考えていたのだ。訓練の様子を見て、アイズが翔に興味を持っているのは何かの間違いなのだと。あの程度の男からアイズが得る物は何もないのだと。
だが違った。
臆することなく魔物に向かう姿は、ただ強い能力や武器を持っているだけの人物には出せない『覚悟』に満ちていた。
アイズが自らの糧になると思ってもおかしくないほどの。
両手を握り締める。身体に力が入ると、蔓を受けた腹がじくじくと痛んだ。
「わたし、は……」
目の前で戦闘が行われているというのに、ここで丸まっているだけ。
「わっ!?」
地面が少し揺れた。
そして目の前の穴から今までの5倍近い大きさの食人花が生えて来た。
「な、何、あれ……」
ビルの3階ほどの大きさ、大人数人を丸ごと飲み込めるような弁花の口を大きく広げ、同胞の、あるいは手下の食人花の敵であるジオウを威嚇し、攻撃を開始した。
「苦戦してる……」
魔物の強さもそうだが、ジオウが段々と動きに精細さを欠いている。レフィーヤは知らないことだが、コンボの反動が段々と表れてきているのだ。
じれったい思いをするレフィーヤ。
「私が援護すれば……」
食人花を焼き払った翔の攻撃。それは確かにすさまじかったが、自分の魔法なら同等以上の攻撃が出来る。
「でも無理に割り込んであの人のリズムを崩したら……」
知り合ったのは1週間前。接するのは訓練で顔を合わせるときだけ。まともな会話は数える程度。
それでいきなり連携を取るのは難しい。ただでさえ、食人花は魔力に引かれる性質があるのだ。急に攻撃の方向を変えられたら、ジオウでも対応しきれないかもしれない。
相手の力量が分からないからこその不安。相手のことを知らないからこその不信。
それがレフィーヤを襲って―――
「違う……」
首を振って否定した。
「あの戦いに割り込むのが怖いだけだ、でもそれじゃあ……」
何も変わらない。
「(醜く誰かに嫉妬したって、何も変わらない)」
変わらないのは嫌だ。変わりたい。強くなりたい。あの人に追いつきたい。
「(追いつきたいなら戦うしかない、強くなるしか、無い!)」
苦しくても、痛くても、戦えるなら諦めず戦う。少なくともあの人はそうするはずだ。
「(ただ、あの人だけを見て、追いかけるしかないんだ)」
頭に思い描くのは憧憬の少女。その周りではなく彼女だけを思い、追いかける。
「私、だって……!!」
決意したレフィーヤはサイドカーを降りる。
「あなたのこと、信じます。合わせて下さい……!!」
エルフの少女は
なんだか鈴じゃなくてレフィーヤのお話になってきましたね……