「ふう……っ」
段々と溜まる疲労。恐らく動きも鈍ってきた。だが、
「まだ行けるなッ!!」
「「「おおーッ!!!!」」」
己を鼓舞して戦線を維持する。
魔物が逃げ出さないように体力を温存しつつの戦いだが、湧き出す魔物の数は最初に比べるとかなり減っている。
そろそろ殲滅を考えて戦った方が良いかもしれない。俺がこうして抑えている間に救援が来てくれればよかったのだが、コンボの疲労で倒れたところに1匹でも残っていればお陀仏だ。
そんなことを考えていると地面がわずかに揺れ―――親玉が現れた。
直径10メートルほどの大穴、それとほとんど同じ太さの食人花だ。
「デカ……っ!!」
そいつは俺達を見つけるとすぐに攻撃を始めた。人の胴体ほどもある蔓で味方の食人花ごと何人かの俺を吹き飛ばした。
「わーー!?」
「囲めっ!!」
「小さい奴も残ってるぞ!」
「カバーする!!」
予想外の強敵の登場に包囲網が崩れかける。幸い、今までの立ち周りが良かったのか、食人花は俺への攻撃を優先してくれて外へは出て行かない。
援軍の登場は魔物であっても士気を向上させるものらしい。
今までよりもさらに強烈な攻撃が俺達に打ち込まれる。釣り合っていた均衡が、少し、ほんの少しだが食人花側に傾きかけ、俺は慌てて対抗する。
が、押し返せない。俺の動きが鈍くなっているのだ。蓄積されたコンボの疲労が、俺に牙をむき始めた。
そんな時だった。
「ウィーシェの名のもとに願う」
「っ!?」
エルフの
俺達は即座に陣形を変える。高まる魔力に引かれ、レフィーヤさんの方に向かおうとする食人花。それを押し止め、一か所に集まるように。
俺達の動きは迅速だ。
それはどこか予想していたからかもしれない。レフィーヤさんならケガをしていようが、無理するなと言われていようが、こうして立ち上がるのではないかと。
「森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ。繋ぐ絆、楽宴(らくえん)の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪。どうか―――力を貸し与えてほしい」
視線を向けると、レフィーヤさんは目を閉じて詠唱に集中していた。俺が敵を通さないと信じているのか、それとも呪文の詠唱に集中しているのか。
そして、最初の魔法が発動する。
「『エルフ・リング』」
ダンまちとこの世界の魔法は仕様が大きく異なる。
ダンまち世界では、魔法はどんなに才能があっても1人3つまでしか覚えられない。だがこの世界では頑張ればいくつもの魔法を習得することも、自分で開発することすらも可能だ。
『エルフ・リング』には『エルフの魔法に限り、詠唱とその効果を完全把握していれば、他者の魔法を使用出来る』という効果がある。
原作の彼女はこの魔法によって数多の魔法を行使することができ、それが強みだったのだが、この世界の仕様のせいで若干の弱体化を食らっている。
それでも強いことに変わりはない。それに、この世界独自の強みもある。
この世界ではいくつでも魔法を習得出来るが、経験で自動習得できるダンまち世界と違い、練習という工程が必要であり、さらに適性が無い魔法は使えない、または効果が薄くなってしまう。
だがエルフ・リングは『詠唱とその効果を完全把握していれば魔法を使える』ので、習得難易度や、本人の適性を無視して魔法を行使できるのだ。
「終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に
呪文が完成する。
借り受けた魔法はロキ・ファミリアの副団長であり自らの師の魔法だ。
「全員、跳べ!!」
魔法の通り道を開けるように、バッタの脚力を生かしてその場から飛び上がる。
「ウィン・フィンブルヴェトル!!」
放たれる極寒の津波。それは馬鹿魔力とも称されるレフィーヤの全力の魔法だった。
三条の吹雪は常夏の島を真冬に染め上げる。病院前の開けた大通りに魔法が吹き荒れ、そこに居たものをすべて凍結させる。小型も大型も関係ない。すべて等しく動きを止めていく。
凍てついた食人花。そいつらに向かって、
《FINISH TIME! OOO SCANING TIME BREAK!》
「「「「セイヤーーーー!!!!」」」」」
凍り付いたすべての食人花に降り注ぐライダーキックの雨。芯まで凍り付いた食人花達は、元の耐性がなくなり、容易に砕かれていく。巨大な個体も同様だ。
攻撃が終わると、道路にはバラバラに砕かれた氷の破片が散乱していた。
「痛たたっ……やりましたね」
「ああ」
レフィーヤさんがお腹を押さえながら俺のほうに歩いてくる。
終わったと気を抜いた瞬間、疲労が一気に押し寄せてきた。
「ぅ、ぁ―――」
50人分の体を動かしていた負担が今更ながらに脳みそに、体に響いてくる。
身体から力が抜け、思考が一気に鈍くなる。上下の感覚も無くなった。
「ええ!? ちょ、何であなたの方が倒れるんですか―――!?」
それはレフィーヤさんの叫び声だったのかもしれない。だが俺には、どこか遠いところで響いているように聞こえた。
まあ、病院の真ん前だし、いっか。
俺は意識を手放すのだった。
―――――――――――――――――――――――――――
「セシリア、援護!!」
「はいっ!!」
後方からの援護射撃。ブルー・ティアーズの射撃は食人花を倒すほどではないが、無視できるほどでもない。
結果、動きを止めたところを、鈴の双天牙月が食い荒らす。食べ残しはフェイトが高速で回り込み切り裂いていく。
「(うん。イイ感じだね)」
安定して魔物を駆逐している自分たちのパーティの動きに頷くフェイト。
上空から戦場を俯瞰し、的確な援護を行う
「(翔に聞いてちょっと不安だったけど、2人共素直だし。そろそろ時間かな)」
セシリアも鈴も、フェイトの指示にはしっかり従っていた。
セシリアは意識を切り替えた後なので当然だったが、あの鈴も。
やがて魔物を殲滅した3人。再び湧き出してこないか、穴の様子に注意しながら集合する。
「テスタロッサさん、次はどちらに?」
すでに3つの巣穴を制圧している3人。セシリアは次への意欲に満ちていた。口には出さないが鈴も同じだ。
最も、鈴が口を開かないのは別の理由もあるかもしれないが。
「うん。ここに待機かな。他の所もあらかた殲滅し終わったみたいだから」
「あら、そうですのね」
残念そうに肩を落とすセシリア。
「後は穴をふさぐだけ。その確認のために私達はここに待機」
「塞ぐ……? ですが、いったいどうやって……」
まさか工事が終わるまでここにいる訳ではあるまい。
そんな表情を浮かべるセシリアに、フェイトは微笑みを浮かべながら上を指さすのだった。
――――――――――――――――――
リインフォースⅡをユニゾンしたはやては、島の上空にいた。島の端から端までを視界に収められるほどの上空。視力を強化する魔法を使っても、魔物が湧き出す穴は米粒ほども見えない、そんな場所。
「よし! やるで、リイン!!」
《はいです!》
そこではやては魔法を行使しようとしていた。
彼女の足元に魔法陣が展開される。
「使う魔法はコレやな」
八神 はやては『夜天の書』の主。魔力を集めることで完成する夜天の書には、その蒐集相手の使える魔法がすべて記載されている。はやてはその中の1つを、自らの莫大な魔力を以て引き出した。
「リイン、穴の場所は?」
《現在確認している穴は全部で27。座標情報を送ります!》
「よーし、一気にいくで!」
自分を中心に27の魔法陣が形成される。それぞれの魔法陣は目標となる穴に標準を合わせていた。
「発射!!」
降り注ぐ冷気の爆弾。大気中の水分を凍らせながら落下するそれらは、細かい氷の破片の尾を引きながらロックオンした穴めがけて一直線に進んでいく。
まるでゴルフボールをホールインワンしたかのように穴に吸い込まれ―――起爆した。解放された冷気が瞬く間に穴をふさぐ氷を形成する。
《着弾、確認したよ、はやて》
「ん、他のところはどう?」
フェイトの報告を皮切りに、各所に配置されている管理局員から成功の報告がされる。
最後の1つの成功報告を聞いたはやてはほっと息を吐いた。
島の全域を射程に収め、複数の目標に冷気の爆弾を精密に発射する。日本であれば『戦略級魔法』と称されてもおかしくない魔法。それにより、学園島に空いた穴はすべて氷で塞がれることになった。
はやては本部へと連絡を入れる。
「はい、現在見つかった穴はとりあえずこれで大丈夫かと。強度的には10トントラックくらいなら問題なく通れます。あ、でも滑りやすくなってるので、転倒には注意と伝えておいて下さい」
魔法を使ったことによる建材の劣化、魔物がどこからあふれ出したのか、溢れ出した魔物はしっかり倒されたのかなど調べなければいけないことはいくらでもある。
だがとりあえず、今回の事件はこれで幕引きとなるのだった。
―――――――――――――――――――――
事件は終わったが、六課では別の問題の片づけが残っていた。
「一緒に出撃した夜月の意見を聞かず、通信を遮断。模擬戦の続きと称して撃墜数のスコアを競おうとした。間違いはないか?」
「……ありません」
千冬の厳しい声に、俯きながら頷く鈴。
戦闘終了後、六課に帰投した鈴は当然のように千冬に呼び出されていた。用件は問うまでもない。
「テスタロッサから報告を受けた。危うく魔物にやられそうになっていたらしいな」
「はい……2人に助けてもらえなかったら危なかったです……」
「まったく、夜月に感謝するんだな」
「え?」
何故ここで翔の名前が出てくるのか。首を傾げる鈴に千冬が告げる。
「お前が通信を遮断した時に、あいつはしっかり我々に報告してきたんだ。そのおかげでお前にいち早く援軍を送ることが出来たんだ」
千冬はその時のことを思い出した。
――――――――――――――――――――――――
「まったく、あのバカは……」
翔の報告を聞き、頭痛を抑えるように自らのこめかみをつつく千冬。
「はぁ……夜月。お前はそのバカとは分かれて行動しろ」
《いいんですか? 1人だと何があるか……》
「一緒に行動しても連携出来ない可能性が高い。人員も限られている今、有能な人間を遊ばせておく余裕はないからな。それに、今のお前たちの関係で、無理についていこうとすれば、最悪、向こうから撃たれる可能性がある。そうなれば別の問題が発生するだろう?」
戦果を焦って味方を攻撃する。それは翔がキーストーンゲートの事件で起こしてしまった(とされている)ものだ。
翔の場合、事情が事情だったため形だけの謹慎程度で実質の罰則はなかったが、通常であれば重罪。
「だが今のアイツはやりかねん。この非常時に余計な手間を増やしたくはない」
「六課ももうすぐ出撃や。鈴音の方にはなるべく早く援軍を送るように手配しておく。それでええかな?」
「ああ、それでいい」
はやての提案に頷く千冬。
「ちゅーわけで、翔君は手が足りてなさそうな穴に行って魔物を押し留める、巻き込まれた民間人の救助。できれば殲滅が望ましいんやけど、それよりも重要なのは町に魔物を広げないことや。1匹でも逃したら、どんな二次被害があるかわからへんから」
《了解です!》
その言葉を最後に通信が終了する。
「苦労してるみたいですね」
「ああ、まったくだ。是非とも例の剣姫を教育した方法を伝授して欲しいな」
「それは……母の愛、かな?」
「ふむ。それは真似できないな。私に母親の真似事は出来ん」
千冬の本気か冗談か分からない態度に、フィンは肩を揺らして笑う。
「彼の方はいいのかな? 彼の方も1人だったんじゃ?」
「ん、んー、まあ翔君やからなぁ」
「ずいぶんと信用してるんですね」
「自分の部下は信頼するもんやん?」
「それもそうだね」
「はぁ、私も生徒を信頼したいものだ……」
はやてとフィンは笑い合い、千冬はため息をつくのだった。
―――――――――――――――――――
「そんなことが……」
自分は翔と競う事しか考えていなかった。だが翔は冷静に上司に報告し、事態に対応していたのだ。
と、ここで鈴は違和感を覚えた。
六課のメンバーは島中に散っていた。当然翔も。だから帰投時間にもばらつきが出るのだが、翔がいつまで経っても帰ってこない。
「あの、アイツは……?」
「病院だ」
「病院!?」
鈴の顔が青くなる。
思い出されるのは自分の身に起きた出来事。1人で魔物に立ち向かい、あと少し助けが遅ければ取り返しのつかない事態になっていた。
今の話を聞く限り翔が1人で無茶をするとは思えないが、1人で戦った結果負傷することも―――
「何を勘違いしている。負傷したわけではない」
「え?」
「負傷者を病院に運んでいる最中、魔物と交戦。そこで力を使い果たし自分もその病院へ、だそうだ。まだ目は覚めていないようだが、ケガはないらしい。病院から連絡があった。ふっ、アイツにも少し間抜けなところがあるようだな」
翔を罵っているようにも聞こえるが、口調は柔らかく口元には笑みが浮かんでいた。
「そ、う、ですか……」
一方、翔の状況を聞いた鈴は身体から力が抜けてしまった。
「話は以上だ。さっさとIS学園に帰れ」
「え?」
「なんだ。何か言いたいことがあるのか?」
「ぇ、い、いや、何か処分とか、罰則とか……」
「そんなものはない。私が頭を下げておいた」
「っ!?」
あの千冬が頭を下げた。学園では神のような扱いを受け、本人も唯我独尊を貫く千冬が。
「何を驚いている? お前達が私の生徒である以上、何かやらかせば私が頭を下げるのは当然だろう?」
それにより、鈴はおとがめ無しになった。
この判断にはやてもフィンも同意していた。
これが民間人も見殺しにしてスコアを稼いでいたとなれば話は別だったが、鈴はやるべきことはしっかりやっていた。通信遮断については言い訳出来ないが、そこまで大問題にすることでもない。
若い人材のやらかしはただ罰を与えるのではなく、成長の機会を与えなければいけないのだ。
もちろん、これを経てなお何の変化も見られないのであれば、色々と考える必要が出てくるが。
「……っ」
鈴は唇を噛む。
当然のように言われたセリフ。子供の様に好き勝手にふるまい、無様を晒し、挙句他人に頭を下げさせる。
あまりにも幼稚な行動を今更ながらに痛感していた。
千冬はさらに続ける。
「だが私は中国政府にも軍にも通じていない。IS学園にいる限り他国からの影響は受けないからな。ゆえに、私に報告義務はない。お前が
そう言い残して千冬は去って行った。