「改めて。ファミリアのメンバーを助けてくれてありがとう」
「一緒に戦う仲間に対して当然のことをしたまでですよ」
掲げられたグラスに応じる。
「逆に、病院前ではレフィーヤさんに助けられました」
「……あなた、本当にそう思ってます?」
「思ってるよ。なんで疑ってんの?」
俺は病院前での出来事を話す。怪我を押して魔法を行使し、俺のことを助けてくれたと。道路一面を凍結させる規模の魔法。
「流石は
「やっぱりバカにしてますね……!」
全然してないんだが。
「そうか。素直に褒められると師匠の私も鼻が高い」
「リ、リヴェリア様……」
柔らかい微笑を浮かべるリヴェリアさんに褒められて、レフィーヤさんの顔が赤くなった。
「……それにしても」
「ん?」
「流石はロキファミリア。美人さんが多いですね。神様の趣味だとか」
「おおっと! 初手にその話題とは! 自分、根性あるやん?」
この世界にはロキの様に神を名乗る存在がいる。神話上に伝わる神々の名前を名乗る彼らは
それが
とてつもなくお手軽だが、それには神の眼鏡にかなわなければいけない。
というのも、神は揃いも揃って娯楽好きのろくでなしが多いのだ。おまけに人の嘘を見抜くことが出来る。基本的に面白そうな奴、興味のそそられる者しか眷属になることは出来ない。
さらに言えば
それは近代になって、気軽に超人を生み出せる神に対して国が考えた措置だった。
この考えが広まった時、神々は『ああ、我々にとって生きづらい世の中になった、よよよ』と涙を流したが、なんだかんだ適応して現代に至っていた。
そういった理由もあり、神の眷属になるのは簡単な事ではなかった。より眷属を選別するようになったからだ。
「くはっ、教科書丸暗記したみたいやな。勉強熱心で結構や! 聖王教会で会った時にはウチらのことなーんも知らんかったのになぁ?」
「流石に一緒に戦うとなったら少しは調べますよ」
俺の説明にくくくとロキが笑った。
ちなみに、女好きのロキの方針でロキ・ファミリア内は女性冒険者の割合が多く、男性冒険者は肩身が狭い思いをしているらしい。
こうしてみると確かに女性が多い。しかも全員美人。
「ウチの子から聞いたで? 自分だって人の事言えないらしいやん?」
「俺のこと、ファミリアのホームではどんな風に話されてるんです?」
大体予想はつくけど。
「そりゃ、別嬪さんの多い六課でたくさんの女性に囲まれている色男。ウチの子にも囲まれとるんやろ?」
「フィンさんがそう言ってるんですか?」
「僕は見たままを話してるだけだよ」
「実際どうなん? そん中の誰か、いや、2人、3人とよろしくやっとるん?」
「ロキ」
リヴェリアさんが片眼を閉じてロキを諫める。
「プライベートですから。ご想像にお任せします」
実質の肯定。違いますと言ったところで、ロキ相手にごまかしは効かないからな。
「かーっ!! 聞いたかフィン! 忙しいのは分かるけど、ソッチの方も考えんと野望も夢のまた夢やで~!」
「へぇ~、見かけによらず優秀な雄なのね。団長も、どうです今夜、お試しに!! 私を!!」
「ハハハ……」
ロキは大騒ぎし、ティオネさんがフィンさんに迫り、迫られたフィンさんは苦笑いしてジョッキを傾けている。
そんな中、
「……不潔。最低」
レフィーヤさんの絶対零度の視線が突き刺さる。
「アイズさん。あんな人に付き合うの、もうやめた方が良いですよ!」
「……? どうして?」
「だって……! この人やっぱり女性にだらしなくて……! その内アイズさんにも手を出すかも……!!」
「何やて!? それは許さへんで!!」
「ロキ、騒ぐな。レフィーヤもだ」
またもやリヴェリアさんが諫めてくれる。同時に、ロキと一緒に殺気立っていたファミリアの面子も目を反らす。
彼女は王族出身のエルフなのだが、エルフの里を出ての生活が長いおかげか、同じファミリアにアマゾネスがいるからか、こういったことに理解があるらしい。
今の会話の流れを理解出来ないのは1人だけだった。
「女性にだらしないって、どういう事?」
「えっ、それは……ええと……」
アイズさんがレフィーヤさんに逆質問している。困り果てて周囲に助けを求めているが、ファミリアのメンバーは決まずそうに目を反らしてばかりだ。
まあ、これに答えるってことはアイズさんにソッチ系の話をするってことだからな……腰が引けるのは分かる。
そんな教育係、俺もやりたくない。俺も目を反らしちゃう。
誰も助けてくれないと悟ったレフィーヤさんは重たい口を開いた。
「だから、それは……何人もの女の子と仲良くする、ってことで」
「仲良くするのがいけないの?」
「え、や、普通に仲良くするのはいいんですけど、とっかえひっかえにしてる? みたいな……」
「いろんな女の子をとっかえひっかえ……ロキみたいに?」
「「ぶはっ!」」
俺とロキは思わず吹き出してしまった。同時にレフィーヤさんに睨まれた。
さらに、
「おい、どけ」
「あっ、は、はい!」
奥に座っていた狼人族の青年が立ち上がった。間にいた団員が慌てて椅子を引く。
「ベート? どこに行くんや?」
「……ッチ、便所だ。いちいち聞くんじゃねぇよ」
あからさまにイラついた空気を纏うベートに席の空気が悪くなる。
「感じワル~、べーっだ!」
団員のほとんどが思っていることを口に出すのはティオナさんだった。
「すいません。あんまり良い話題じゃありませんでしたね」
「ええて。元はと言えばウチが話を振ったんやし」
「ベートも悪気があるわけじゃないんだ。ただ、あの時の件が尾を引いているんだと思う」
『あの時の件』というのは聖王教会での決闘の事だろう。そしてこの流れ、フィンさんが話題を変えようとしているのがわかる。
俺としてもアイズさんにアレの話をしたくはないので乗っかることにする。気になっていたことでもあるしな。
「ま、アイツは自分を負かした相手と膝を突き合わせるような奴じゃないからのう」
ガレスさんが腕を組み重々しく頷いた。
「じゃあ、六課の訓練に来ないのは」
「うん。不用意に君と顔を合わせるとトラブルになると思ってね。いずれは改善したいと思っていたからこの機会にでも、と思っていたんだけど」
お酒も入ってたしね、とフィンさんが笑う。
「ねえ団長。どうしてベートっていつもあんななの?」
先ほどまでベートさんに向かって舌を出していたティオナさんがやはりみんなの声を代弁する。
「あ、そうだ、翔君はあんまり話してないから知らないと思うけどね―――」
そう言ってティオナさんはベートさんの普段の素行について説明してくれた。
極端なまでの実力主義を掲げ、自分が格下や弱者と見なした者を『雑魚』と見下して嘲笑う。敵対者だけでなく仲間にも。
時には罵声や暴力による恐怖で押し付けようとする自己中心的な振る舞いも。
その辺りはやはり原作とは変わらないんだろう。
「アイツはアイツで不器用過ぎる。誤解されずにはいられない、と言ってもいい。詳しくは奴の個人的な事情に関わる。私達の口からは説明出来ないが……奴の言葉がそのままの意味だとは思うな」
ロキとファミリア大幹部の3人が揃って苦々しい顔をしていた。彼らもこの状況を解決したいとは考えているんだろう。
「でもさ~、あんな風に言わなくたっていいじゃん」
クエスト中にも何度も言い争っているらしいティオナさん。ま、合わないよな、この2人は。
「でも」
「え?」
俺の言葉にティオナさんの視線が向けられる。それだけじゃなく、他の団員の視線も。
「罵倒はヒドイかもしれないけどさ。実際に仲間を見捨てたりしてるわけじゃないんだろ?」
「そりゃあ、まあ……」
「本当に弱い人のことが嫌いなら、普通助けないだろ。そんなにボロクソ言ってる相手なんて。勝手に死んでろって唾はいてんじゃないか? だから、割と本心じゃないのかもしれないぞ」
「え~?」
「いや、それはないわね。アイツに限ってそれはない」
って言うだろうな。常日頃からベートさんに接している人からすれば。他の団員も頷いている。リヴェリアさんの言う通り誤解しかされない人だな。
俺だって、原作で過去を知らなければ、嫌味なヘイト役としか思わなかったし。
と、そこに、
「おい、バカゾネス。何の話してやがんだ」
ベートさんが戻って来た。
少し話も聞こえていたらしく相当にいら立っている。
「人のいねぇ所で、人の話してんじゃあねえよ」
「ねえ、ベート」
そんなベートにも物おじせずティオナさんが問いかける。
「……あぁ?」
「ベートの言う『雑魚』とか、酷いセリフってさ。本当は別の意味あったりする?」
「……」
全員の視線が集中する中、
「っぷ」
ベートはこらえきれないとばかりに吹き出した。
「どんな話してるのかと思えば、そんなくっだらねぇこと話してたのかよ!! くくくっ、バカか……!」
腹をよじって笑うベートさん。
「おい、お前だろ。そんなバカみてぇなこと言いだしたのは。ウチのメンバーが今さらそんなこと言う訳ねぇからなぁ!」
視線が俺を射抜く。
「どんな風に聞いたかしらねぇが、俺の言葉に裏も表もねぇんだよ! 弱え連中を貶すのは強え奴の役目だ! 俺等がしなけりゃあ、誰がするってんだ! でなけりゃあ勘違い野郎どもが益々増えやがる! 冗談じゃねえ!」
「一回負けた相手にそんなこと言っても無様なだけじゃない? それにこの子、たとえ強くてもそんなことしないわよ?」
「るっせえぞ、クソアマゾネス!」
ティオネさんの茶々に噛みつく。
言葉にはしないが、ベートさんはこう思っているはずだ。『次は負けない』と。
それは彼の矜持もあるのだろうが、実際に戦ったら、あの時程楽な戦いにはならないだろう。
俺を侮り、嫌々戦った教会での模擬戦と、明確に俺を意識した状態で戦う場合とでは発揮される力は段違いになるはず。リベンジの機会があるのなら、と闘志を燃やしているに違いない。
「その時は受けて立ちますよ」
無益な決闘はしない主義だが、俺が原因でベートさんほどの戦力を運用出来ないのであれば話は別だ。
全力でぶつかってわだかまりを解消する必要がある。
「テメェ……」
「でもまあ、しばらくは例の件にかかりきりになりそうだし、再戦はお預けになりそうかな?」
フィンさんのおどけたようなセリフに、ベートさんは舌打ちして自分の席に戻っていった。
ここからベートさんの話を再開するわけにもいかず、話題は別のものに移るのだった。
―――――――――――――――――――――
そして会計の時間になった。
ロキの宣言通り、会計はすべて神様持ち。ゴチになります。
身構えてたけど、本当に親睦会だったな。
会計するロキとリヴェリアさんを残し、メンバーは外に出る。その途中。
「あの……」
「はい?」
声をかけてきたのはメガネにおさげの少女だ。
「リーネさん。ですよね?」
「あっ、はい。覚えててくれたんですね」
彼女の名前はリーネ・アルシェ。一軍(アイズさんやフィンさんなどの主力陣)を支える二軍の中核メンバーの一人で、主に
「どうかしたんですか?」
「さっきの話でベートさんの事、その、ありがとうございます」
そう言って頭を下げて来た。
「私がお礼を言うの、おかしいかもですけど……」
「それは、まあ。本人には否定されちゃいましたけどね。リーネさんもベートさんのあの態度には別の理由があると思ってるんですか?」
「……はい。そうなんです」
それにしても、
「……? どうかしましたか」
「いや……」
今回の件。食人花の魔物を利用する敵が相手だとして、この島の地下にアイツらの根城―――人造迷宮があるとすれば。この娘は……
「外に出ましょうか」
状況もメンバーも原作とは全然違うんだ。そこまで原作に引っ張られる必要は無い。たとえそんな状況になるとしても、俺が、いや、みんなで乗り切るしかない。
出口まであと少しの所で、
「あっ」
「あ」
シルさんに捕まった。
「どうでしたか、このお店のお料理?」
「美味しかったですね。その内また来ますよ」
と、お茶を濁そうとしたところ、
「良かったです! このお店、デリバリーサービスもやっているので是非! あっ、このお店のアプリ入ってます?」
「え。いや……じゃ、じゃあ、ダウンロードしておきます……」
ぐいぐい来るシルさんに押され、俺はその場でアプリをダウンロードする。
「今後も、豊穣の女主人をよろしくお願いします」
お辞儀するシルさんに押されながら、俺は店の外に出るのだった。
――――――――――――――――――――――――――――
帰宅後、ロキ・ファミリアのホームでは、主神であるロキとフィン、リヴェリア、ガレスが集まっていた。
「明日からはベートも参加させようと思う」
「ん、ええと思うで」
フィンの言葉にロキが頷いた。今日の翔とベートの絡みを見て、これ以上気を使っておく必要は無いと判断したのだ。
「ベートに対してあまり物怖じしない者は珍しいからな」
「まったく、どっちが年上かわからんかったな」
それで、とフィンが話を変えた。
「ロキ、彼はどうだった?」
「特に怪しいところはあらへん。聞いてる通り善人。ベートの話も年の割にフラットに物事見とるな~って。妙に確信してる感じがしたのはちょい不思議やったけど」
僕も同じだ、とフィンが頷いた。
「あの武器の出所については突っ込まんかったな」
「親睦を深めようって言ってそんなに突っ込まないよ。騙し討ちになるじゃないか」
「気になりはするが、他人の能力について必要以上に詮索するのはマナー違反だからな」
もちろん一緒に戦う以上、どこまでが『必要以上』になるのかは微妙なところだが。
「彼の性格からして非合法な手段で手に入れたものではないと信じたいよ。敵にはなって欲しくないね」
フィンのセリフに、他の面々も頷くのだった。