自宅会議①
翌日、六課が休みでも学校はある。午前中だけだが学校に行く必要がある。
授業終了後、すぐに家に帰り準備を行う。
「ああ。人数分の席と食事を用意してくれ」
「かしこまりました」
頭を下げて去っていくホテルマン。
「や~、それにしても狙いすましたように出てくれたな」
今回のアスナ達主催の集まりは、ホテルリゾートダイオラマ球で行われることになっていた。
そこに来てまさかこんなアイテムが出てくれるとは。
高級リゾートホテルスタッフ
高級リゾートホテルのダイオラマ球で働くスタッフ。
人間型のロボット。
このスタッフは内部にある、ありとあらゆる施設を動かすことが出来る。
昨日のラムとの行為の結果手に入れたアイテムだ。
これのおかげでここの施設を動かせるようになった。今日の話し合い―――会議の会場もそこで出される軽食や飲み物もスタッフに一言言うだけですべて準備してくれる。ホントに便利だ。
「そうですね。まさか分かれて帰っただけで、女性といやらしいことをするとは思いませんでしたけど」
「……返す言葉がありません」
雪菜の刺々しい言葉に、全力で頭を下げる。
「いえ、それが先輩に必要なことだってことは分かってますから」
話していると、アスナたちが呼んだ娘達が集まってきたらしい。ぞろぞろと会場に人が集まって来た。
始まるな。何が話されるのか、俺も分かんないけど。
――――――――――――――――――――――
まとめ役はアスナと桜だ。
「揃ったみたいだし、はじめよっか」
たくさんの女の子が席に着いている。
俺と関係を持った娘―――雪菜、クロ、アスナ、狂三、アリア、理子、ティナ、桜、セイバー、セイバーオルタ、コッコロ、アインハルト、綺凛、フェイトさん、はやてさん、ラム。そして関係は持ってないけど耀とヤミ、ユウキ、ティアーユ先生……って多い多い!! 何人いるんだよ! 壮観だよ!
驚いたのはユウキも来たことだ。どうして呼ばれたのか不思議がっている様子が無いという事は、何が話されるかもわかっているんだろうか。
ティアーユ先生はヤミの関係者、か……? 俺と関係を持っている娘でいないのはメアだ。
で、呼んでないのに来たのが、
「クローディアさん。あなたはどうしてここに?」
最初、彼女が来た時にはみんな焦ってたからな。本当に不意打ちだったらしい。
「それは皆さんご存じなのでは?」
「それは……」
クローディアの持つパン=ドラの能力、及び副作用はすでに共有済みだ。妹達事件の時、その能力を使って俺を手助けしてくれたことも。
今日のことも、
「もう、翔ったら。乙女の秘密をそんなに簡単に話すなんて……この後で埋め合わせをしていただかなければいけませんね♪」
「今はそういう時間じゃありませんよ、クローディアさん」
「ふふふ、そうですね桜さん」
ニコニコと笑い合う2人。もしかしてこの2人、仲悪い?
「この後、ですか……」
「雪菜? この後なんかあるのか?」
「いえ、先輩は気にしないで下さい」
「うん……?」
き、気になるんだが。
だが今は話してくれないらしい。クローディアという珍客がいたものの、会議が始まろうとしていた。
「それで、司会はアスナと桜? 翔じゃないんだね」
フェイトさんの言葉にアスナが頷く。
「はい。翔君は……その、思い込むことがあるので」
「ああ、それは……」
確かに俺には原作キャラに対して強烈なバイアスがある。それが原因で、判断を曇らせる可能性は否定出来ない。
「翔が良く思い込む……?」
「家ではそうなんですよ。結構思い込んでドジしちゃったり」
「え」
「そ、そうなんだ。全然知らなかった……!」
「えぇ?」
え、俺、家でそんなか? それともフェイトさんを納得させるため?
何か、一緒に住んでない娘はそうなんですか? って視線を向けてくるけど、俺も聞きたいよ。そうなんですか?
でもみんなは『そうである』として話を進めるらしい。その方が都合がいいしな。
そのまま始まる、かと思いきや。
「ちょっと待ってくださいまし。わたくしはまだクローディアさんが参加することを認めていませんわ」
「私もかな~」
狂三と理子から待ったがかかった。
「この場に集まっている皆様と同じように翔さんに思いを寄せているから、では納得していただけませんよね?」
「その言葉を信じる根拠がありませんわ」
「夢の中なんて対策不能の場所から情報抜かれるなんてちょっと怖いしね~」
狂三はぴしゃりと断じ、情報を扱う理子はパン=ドラの能力を危険に思っているらしい。
「お二人のおっしゃりたいことは分かります。私のことが信用出来ないのでしょう?」
「そうですわね。正直、どうしてあなたがそこまで翔さんに思いを寄せているのかが分かりませんから」
「だよねぇ? 翔君に会ったのだって、この島に来てからなんでしょ?」
「はい。あの時、病院で会ったのが初めてですね」
俺がホワイトスネイクと戦って腕をぶった切った時の話だな。あれ以降、妹達の事件までまともに会う事はなかった。
だとすると楯無さんではないが、おかしいと思うのが普通だ。
ただこの理由についても原作の予想の範囲でみんなに共有している。
……いや、これこそ俺が持ってるバイアスなんだろうな。原作キャラに対してそれ前提の態度で接するのは。
だからこそ、2人はあえて突っ込んだんだろう。
「どうすれば皆さんに信用していただけますか? この場で服を脱いで恭順を示し、信用して下さいと土下座すれば良いでしょうか?」
「いや、やめてくれよ……」
そんなことされてもこっちが困ってしまう。それは女の子達も同じのようだ。
「ここはやはりご自身の口から説明していただきたいですわね。どうしてそこまで、翔さんに執心しているのか」
「……分かりました。あまり理解されるとは思っていませんが―――」
クローディアが話し始めた。
――――――――――――――――
皆さん、私がパン=ドラの代償によって毎晩自分が死ぬ悪夢を見ていることは知っているんですよね? ではそこから少し発展させて……毎日のように自らの死を体験させられるうちに考えるようになったんです。
理想的な死とは何か。
そうして出会ったんです。あなたに。
その夢の私はその時に比べて大分成長した姿でした。もちろん最後には死んでしまうんですが、その夢の中ではあなたの腕に抱かれ、どこか満ち足りたような気分で死ぬことが出来たんです。
その夢から覚めて、朝のベッドで、初めての感情を2つ体験しました。1つはパン=ドラを手にして初めて、早く夜になってほしい。もう1つは夢の中に登場したあなたに会ってみたいという気持ちを。
ふふ、そうですね。もうこの頃から、翔のことを気になり始めていたのでしょう。
夢の中の登場人物に恋をするなんて馬鹿げていると思うかもしれません。ですが私にとってパン=ドラの見せる夢はもう1つの現実でした。いえ、そう思わされていたのかもしれないですね。
ですが根付いた価値観はそう簡単には変わりませんでした。
現にこうして実際にあなたに会うために、こんなところまで来てしまいましたから。
――――――――――――――――――
「……」
クローディアの独白に、全員が聞き入る。事前に内容を知らなかった綺凛やアインハルトは理解が追い付いていないようだ。
「それがあなたの理由ですの?」
「はい。私の命が尽きるその時まで、翔のために力を尽くしたい。そう思い、この場に座っています。と言っても、夢の内容を証明する手段がありませんが」
最後には冗談めかして締めくくる。
それは俺がみんなに話した内容と一致していた。でもこんなにあっさりと話してくれるなんてな。原作では結構渋ってたから意外だ。
「……いいえ、結構ですわ。わたくしは理解いたしました。皆様はどうでしょうか」
狂三の言葉に、全員が無言の肯定を返した。
「ありがとうございます」
頭を下げるクローディアに狂三が一言。
「―――ですが」
「はい?」
「いささか自分の命について軽く考えているように思えますわ。夢の中で翔さんと接していたというのなら、そういう考えを嫌がることも分かっているはず。そこは改めていただきたいですわ」
「……肝に銘じます」
微笑を引き締めたクローディアが頷いた。
「すみませんアスナさん。話を遮ってしまい」
「ううん。いいよ。じゃあ改めて―――」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ。なんでいるのかって言ったら、ユウキとティアーユ先生は何で来てるんだ? その、あんまり関係ないんじゃないかって思うんだけど」
2人とも俺の事情を知らないと思うんだが。俺とも関係を持ってないし。
「2人共アナザーライダーに変身したでしょ? 他の人と違って、解決したからそのままって訳にもいかないと思って。それに、例の男と接触もしたんだしね」
ティアーユ先生は朧気らしいが、ユウキはバッチリ顔を合わせている。確かにこのままほっぽり出すのは危険か。
聞けば2人共、自分の身に起きたことが気になっているらしい。自分を怪物に変えたウォッチが何なのか。それを集め、自分の力としている俺は何者なのか。
2人共今までは必要以上に聞かないようにしてくれていたらしいのだが、この機会に説明してしまおうという魂胆らしい。
でもそれはつまり、俺達の側に来るってことだ。これからの争いに巻き込まれることになる可能性が高い。
「それはもう2人に話してるよ。それでも良かったら今日来て欲しいって」
にもかかわらずここにいるって事は、それでもかまわないという事か。
「うん。私自身、あの研究から助けてもらったし。それに、イ―――ヤミちゃんの面倒も見てもらってるし。しっかり聞いて、私に出来ることなら手伝いたいと思ってるの。涼子と違ってケガの治療は出来ないけどね」
「ティア……」
ヤミが微妙そうな顔をしている。
今なお微妙な距離感だからな。俺に協力するとなれば必然的に顔を合わせる機会が増えるだろうし、身をかわす方法でも考えているんだろうか。
それとも、『俺への協力』で何か変なことを思い浮かべたか。
「ボクもしっかり知りたい。そして、出来ることならボクも翔さんの力になりたい! 今のボクと姉ちゃんがあるのは翔さんと綺凛のおかげだから」
「ユウキさんのことは、あの事件が終わってすぐに声が掛けられてたんです。それで朝練にも参加するようになって」
綺凛が説明してくる。
じゃあ聞いてなかったのは俺だけなのかよ。いや、この会議の準備が進められてたってことなのか?
「メアが来てないのは?」
「あの娘は別に味方ってわけじゃないでしょ? むしろヤミちゃんを殺し屋に戻そうとしてる。そんな人に私達の行動方針をわざわざ教えちゃう必要は無いよ」
それもそうか。クラスメイトになったり、セフレになりたいなんて言うから忘れてたけど、メアは今はまだ敵なんだ。
「じゃあ、翔君も納得してくれたところで、始めたいと思います」
アスナが全体を見まわして話し始めた。
「今日話したいのは現在の第一目標、3年後に来ると言われている予言の事件―――それを超えた先についてです」
予言事件を超えた先? どういう事だろうか。
「ああ、さっそくごめんやけど訂正1つええ? 例の予言やけど、3年後3年後言っとるけど、実際にはあと2年くらいかな?」
3年後の予言が出てから方々に根回しを行い、メンバーの都合をつけて仮組の特務六課を始動させたのが今年の4月で、予言からすでに半年経過していたらしい。今年はもう10月が終わるくらいなので、やっぱり2年ってことになる。
「もちろん、予言に出てる時間には多少ブレがあると思う。翔君が3年になって夏休みから卒業までの間に、何か起こる想定や。その期間を超えても何もなかったら1年くらい様子を見て、今回の予言は外れだったかな? っちゅう結論が出るかな」
と言うはやてさんだが、俺という存在を知った今となっては、何も起こらないとは思ってないだろう。
「つまりあと2年……いえ、余裕をもって1年半で、予言事件解決だけじゃなくてその後の準備もしなきゃいけないってことですね」
今回の会議、予言事件よりも『その後』って奴が重要らしい。
「翔君は巻き込まれる……というか事件に首をつっこみ過ぎて目の前に集中しちゃってるからあんまり意識してないと思うけど、一番の山場を超えた先も考えないとだよ」
「仮に3年後にやってくるという予言の災厄を乗り越えたとして、その後翔君が、我々がどのような振る舞いをするべきか、今日はそれを話し合いたいんです」
アスナと桜が説明してくれた。
「なる、ほど……」
確かに俺は目先の事件の解決に常に全力を注いでいた。先の事なんて、考える余裕はなかった。
「それが悪いとは言いませんわ。ですが考える機会があるのなら、話し合っておく必要がありますわ」
「つまり翔君の進路相談、っちゅう訳か……」
だからこうして俺の事情を知っている人達を集めたのか。俺の進路はみんなにも関係するから。
「予言の内容から考えても、翔さんが事件の中心に近い所にいるのは間違いありませんわ」
「というか先輩は、関係なくても自分から首を突っ込みそうですからね」
狂三と雪菜の言葉を首肯する。
元より目の前で起こる悲劇を見過ごすつもりはない。それが俺と同郷の人物が起こす事件だろうと、そうでなかろうと。
「それはいいんです。そこが翔君の良いところですから。問題はその結果、翔君が不幸になるんじゃないかってことです」
桜はまじめな顔で続ける。
「八神さん、クローディアさん。率直に聞きます。すべてが終わった後、翔君の能力が世界中に公開されたとして、翔君の自由が妨げられることはあると思いますか? 拘束や行動の制限、最悪、命を狙われたりすることは?」
こうして会議が始まるのだった。