「八神さん、クローディアさん。率直に聞きます。すべてが終わった後、翔君の能力が世界中に公開されたとして、翔君の自由が妨げられることはあると思いますか? 拘束や行動の制限、最悪、命を狙われたりすることは?」
桜の質問にはやてさんとクローディアが腕を組み、目をつぶりながら思考する。
ちなみにクローディアの母親は原作では世界を牛耳る企業の1つの幹部だが、この世界では管理局の幹部らしい。
クローディアはパン=ドラの悪夢を使い、そこからさまざまな情報を抜いたりしているとか。
30秒ほど考えて、
「表立って排除するような真似は出来へんと思うよ」
「もちろん国にもよりますが、基本的にいかなる能力、魔法、レアスキルを持っていたとしても、それを理由に不当な扱いを受けることは許されていませんから」
「まあ、それは本人が罪を犯していなければっちゅう前提があるけど。この状況は……ま、本人たちが納得してたら罪には問われないかな?」
はやてさんが場を見回して言った。
全員が納得していればって言うけど、小さい子に手を出すのは納得があってもダメなのでは……? 口には出せないがマズいか……!?
口には出していなかったが、顔には出ていたらしい。
「翔君が不安になる気持ちはわかる。表向きは安全っちゅうことは裏から見れば危険ってことやしな」
「そうですね。場合によっては超法規的措置をとる暗部というのはどの国にもありますからね」
つまり、表向きは能力によって不利益を被ることはないとされていても、裏では……ってことか。
「ええ。裏では排除しようとするか、それともうまく利用しようとするか」
クローディアが腹黒い笑みを浮かべる。
「ふふ、想像してみて下さい、翔。翔の能力の秘密を知った世界中の国々が、国一番の美女を送り込んでくるんです。代わりに手に入る能力のいくつかの使用権を求めてくる。使命を帯びた美女たちは毎夜毎夜抱いてくださいと迫ってきて……」
「やめろやめろ」
どうせそんなのは断るんだし、考えても無意味だ。
確かに俺の能力の発動条件が『俺』と『女性』である限り、そんな要求が起こっても不思議ではないけど。
「そうですね。それに、これから国でそれなりの立場にある女性と関係を持った時、それをだしに能力を要求されてしまうかもしれません。本人の意思関係なく」
「うむむ……」
そう言われると、お姫様や貴族系のヒロインは何人も思い当たる。
や、別に出会った女性片っ端から関係を持とうなんて思ってないんだけどね!
「罪のない個人を実力で排除する。そこらの犯罪組織ならありふれた手かもしれへんけど、公的な機関がするには安易かつ最も最悪な解決手段や」
「一度表に出れば、今までの信用をすべて破壊してしまいますものね」
懐柔ではなく排除方面の話をするはやてさんの言葉に、狂三が頷く。
公的な機関、例えば国が脅威とみなした人物を極秘裏に処理する。陰謀論や妄想なら笑っていられるが、それが事実で、さらに白日の下に晒されればたまったものではない。
その国の信用は地に落ち、国際的な非難を浴びることになるのは間違いない。
非合法な手段で危険を排除していない国はないかもしれないが、
「ですが、どこにも漏らすことなく完璧にこなす算段が付けば、排除される可能性があるのではありませんか?」
「『絶対完璧』なんて確証、なかなか得られないわよ。お兄ちゃんがその時までにどれだけ強くなってるのかにもよるけど、『絶対消せるって確証が得られる程度』ならわざわざ実力行使のリスクは取らないってワケね」
しかも、お兄ちゃんには簡単に能力を増やせるっていう不確定要素もあるしね、とのクロの解説に、雪菜がなるほど、と頷いた。
「……前々から思っとったけど、クロちゃん、本当に頭切れるなぁ」
「そうかしら?」
そうだろ。お前、見てくれはヴィヴィオちゃん達と同い年だってこと忘れてんな?
「それにさぁ。翔君に攻撃するってことは理子達の『敵』になるってことじゃん? 命知らずだよねぇ~?」
理子が好戦的な笑みを浮かべながら笑う。
もちろん今の戦力で国を相手取れるとは思っていないが、一度攻撃すれば、それは両者の間に不可逆の溝を作ることになる。『排除しようと思ったけど出来なかったので、やっぱり仲良くしましょう!』なんて通じないのだ。
それにどこかの国に攻撃された場合、その敵対国がすり寄ってくる可能性がある。俺を守るという名目で。
俺がそれに応じるかはさておいて、敵対国との関係が出来てしまうのは面白くないだろう。もしかするとそのまま敵対国と協力関係になるかもしれないのだから。
そしてそれは、俺の身内に対しての攻撃でも同じだ。
「ですがすべての障害を無視してでも、翔を敵にする決断がなされる可能性があります」
クローディアの真剣な表情に全員が黙る。その先を何人かは予想出来ていた。
「翔が『世界の敵』になった場合です」
「……ああ。だよな」
予言の文言、しきりに俺を魔王と呼んでくるウォズ。
ありえないと言いたいのは山々だが、どうにもその流れにあるように思える。
「やっぱり、一番考えられるのは罪の擦り付け、だよね」
「本当にどうしようもない理由で世界を破壊しなければいけなくなり、その理由がうまく民衆に伝わらない、言えないという可能性もありますわ―――その辺りはどうですの?」
アスナと狂三に視線を向けられたクローディアは首を横に振る。
「残念ながら」
「あなたのパン=ドラにも見通せない未来があるということですの?」
「私が毎晩見ている悪夢は、この子が勝手に見せているものですから。知りたい情報を便利に引き出すことは出来ないんです」
そもそも悪夢を利用して情報を集める行為は想定されていなかったんだろう。都合よく利用し始めたクローディアをパン=ドラは面白がり、それに付き合うようになったのだ。
だが完全な味方ではない。妹達事件では最後までアナザービルドや打ち止めの情報は出てこなかった。意図的に情報を隠して面白がっているのかもな。
「そうですね。こうして私たちが悩んでいる姿も、この子は楽しんでいるのかもしれません」
テーブルに出したパン=ドラを苦笑いしながら撫でた。
「なのでパン=ドラからの情報をあてにしすぎるのは危険です。有益なコトがわかったらラッキーくらいに思って下さい」
「ずいぶんとピーキーな武器を使ってるんやなぁ……」
全員のセリフを代弁したはやてさん。
「話を戻しましょう。2年後、翔君がどんな存在になっても私たちが翔君を見捨てることはない。2年後の事件を乗り切ることも大切だけど、その後の生活も大切だよね」
アスナの言葉にみんなが頷いた。
意識していなかったが、2年後に迫る事件を超えても俺達の生活は続いていくのだ。
や、まあ、実は俺は2年後の事件のカウンターとして呼ばれていて、それが過ぎたら元の世界に送還されるって線もないわけじゃないけど……今それを考えてもしょうがない。今は生活が続く前提で動くべきだ。
それにしても未来のことを具体的にプランニングしてたなんてな。
「アスナさんの発案なんです。将来のことをもっと具体的に考えようって」
横に座っていた雪菜が教えてくれる。
アスナはいいところのお嬢様だ。きっと小さい頃から進むべき学校、会社、果ては結婚相手まで意識させられていただろう。たとえそれが親に押し付けられたものでも、俺より遥かに考える機会が多かったはずだ。
俺みたいな高校生のガキなんて、次の定期テストの事すら想像出来ないしな。本当に感謝。
確かに2年後の事件を無事に乗り越えたとして、ふらふらとしているわけにもいかない。
受験だってそうだ。受かることがゴールではない。もちろん受かることが第一なのは間違いないが、むしろ受かってからが本番と言える。
「そうですね。事件解決後の翔の影響力を考えると、田舎でスローライフとはいかないでしょうね」
「えっと、ごめんね、ちょっといいかな……?」
ティアーユ先生が手を上げた。
「翔君の事情とか秘密? っていうのは、そんなにすごいものなの? 国を相手にするとか世界の敵とか言ってるけど……それに美女を送り込むとか……」
「ああ、そっか……」
事情を説明するって連れてきておいて、説明しないで進めちゃってたか。同じ気持ちなのかユウキも何度も頷いていた。
「じゃあ説明は俺から―――」
俺は2人に事情を説明する。はやてさん達にしたものと同じ説明だ。そう、同じ説明をした。
「なるほ、ど? つまり翔君はこの世界の人じゃなくて、私が怪物になったあのアイテムもこの世界のモノじゃない……」
ティアーユ先生は割とするすると受け入れてくれた。全然疑っていない。
「だって翔君が嘘つくとは思えないし、ここにいるみんなが信じてるんでしょ?」
そう言ってもらえるのはうれしいが、色々騙された経験があるんだし、もうちょっと警戒心を持った方が……ま、これがティアーユ先生か。
「……夜月 翔の言う通りです。ティア、もう少し疑うという事を覚えて下さい」
「う、うん。気を付けるね、ヤミちゃん……」
ヤミに心配されたのがうれしかったのか、注意されてるのにちょっとうれしそうだ。その様子を見てヤミがため息を吐く。
「で、でも! 今回はホントの事って、信じてもいいのよね?」
「それはまあ」
「そっかそっか。翔君は違う世界からこの世界に来て、その時に備わった、不思議なアイテムを作り出す条件が―――」
突如、ぼふっ! とティアーユ先生の顔が真っ赤に染まった。
「ぁ、ぇ、っと、ヤミちゃん、もしかして―――」
「何を勘違いしているんですか。私はしていません」
「でも、一緒に寝たことはあるよねぇ?」
「いいいいいいい一緒に寝たぁ!?!??!? それってもう……っ!!」
「峰 理子。余計なことは言わないで下さい。余計な勘違いをします」
などと騒いでいた。
もう一方、ユウキや綺凛達の席では、
「え、じゃあ、綺凛と翔さんって……そうなの!?」
「う、うん」
「アインハルトさんも?」
「そ、そうですね……」
「ほ、ほぇ~……ねね、ちなみになんだけど、どんな感じなの? その、アレってさ……」
意外にもユウキは興味津々と言った様子で2人に聞いていた。
「どんな、と言われても……」
「こ、言葉で説明するのは難しいですね……」
「や、やっぱり、気持ちいい、の?」
「「……っ」」
にわかに騒がしくなる会議室。そこに手を叩く破裂音が響いた。
「はいはい。色々と言いたいことがあるんは分かるけど、今は会議の方を先に進めよか?」
はやてさんの言葉に全員の背筋が伸びた。
クローディアが話を再開させる。
「先ほどの続きですが、やはり翔には将来的にどこかの組織に所属していただく必要があるかと思います。そうしなければ、おそらく生きづらい人生になってしまうかと」
「『制度的にOK』と『実際にやってOK』にはおっきな差があるしなぁ……」
「ふらふらしてると、年がら年中どっかのエージェントに監視される、って可能性もあるしね」
「そうですよね……」
「それは嫌だな……」
いくら制度的に自由が認められているとはいえ、放置はしておきたくないだろう。
流石の俺も全世界から厄介者として扱われても平気なほど、肝っ玉はデカくない。やはり安心できる場所、立場は必要だ。
大いなる力には大いなる責任が、ではないが、めんどくさいから何処にもかかわらず適当に過ごす、というのはあまりに無責任なんだろう。
「選択肢としては、国、管理局、どこかのファミリア、武偵の会社―――これは自分達で会社を立ち上げることも含みます―――後はその他組織。こんなところでしょうか?」
分かりやすいようにと大きなディスプレイに表示するクローディア。
「まずは国やけど……ここはあんまお勧めできへんなぁ」
「どこかの国に所属すると表明するだけで国家間のパワーバランスが変化しますからね。国同士の争いに巻き込まれる事になるでしょう。もちろん、所属する国にもよるとは思いますが」
「国に所属するとしたら、翔に希望はないのかな?」
フェイトさんに問われ、少し考える。
「ん~……あんまりこだわりはないですけど……やっぱり日本かな?」
「あ~、翔君、ここに来る前は日本に住んでたんやもんね。でも日本かぁ、日本……」
「マズいですか?」
「そんなことないよ? 私も少し住んでたけど、すごく住みやすいと思う。治安も良いし」
「フェイトちゃんの言う通り、普通に暮らす分には全然問題あらへん。でも……」
「日本は大陸国と睨み合っていますから。翔が所属すると一気にパワーバランスが変わりますね」
「歓迎されるか、煙たがれるか……」
「歓迎されると思いますよ? 有能な人材は喉から手が出る程欲しいですし、他の国に行って脅威になるなら自分の国に、と思うでしょうから。戦力にするにしても監視するにしても都合が良いですし」
なるほど。住み慣れてる国の方が良かったんだけど、そう安易には決められないか。でも他の国には縁もゆかりもないしな。
「あれ? でも翔ってララ王女の婚約者候補だよね? デビルークって選択肢はないの? そもそもララ王女はこの会議に呼ばなくて良かったの?」
「ララさんは、その、こういう会議に出てもあんまり理解出来ないんじゃないかと思いまして」
アスナは言いにくそうに答えた。正直、それには同感だ。
でも、ララの問題も先送りにはしたくない。
今はギドもセフィもララの意思を尊重して、卒業までに俺を自分(ララ)に惚れさせたらOKとして見守ってくれているが、その相手である俺がこんなプレイボーイだと知れたら……
「娘の気持ちを弄んだクソ野郎として殺されるかもしれん……」
「それはないと思うよ?」
アスナに即座に否定される。
「ここに来たのはララさんのわがままもあったかもしれないけど、それでも身辺調査はしたはずだから。翔君がたくさんの女の子と仲良くしてることはもう知ってるよ」
「そ、それもそうか……」
「デビルークはあまり他国との繋がりが無い国ですから、翔が王になったとしてもそこまで影響はないと思います……そして何より、重要な情報があります」
クローディアが自信満々に笑う。
「デビルークの王族は一夫多妻が認められているんです。つまりララさんを正妻として翔が王になれば、周りの娘も一緒に保護されるという事ですね。優良物件ですよ」
「国に対して優良物件はやべぇな……」
いろんな問題はあるけどね。ララ本人がここにはいない訳だし。
こうして進む会議。まだまだ始まったばかりだ。