「国についてはこのくらいですね」
桜が話をまとめた。
俺としては日本が(住み慣れているという理由で)望ましいが、大国との争いに巻き込まれるかもしれない。
他の国には縁もゆかりもない―――と思われたが、現在俺はララの婚約者候補なので繋がりはある。そう考えた場合、デビルークはかなり良い条件の国になる。
ただ、ギド王やセフィ王妃の説得を乗り越える必要がある。
「じゃあ次は管理局やね」
「うん。私達に何でも聞いて」
現役で働いているとあって、はやてさんとフェイトさんが張り切っているが、
「正直、管理局はあまり乗り気ではありませんの」
「だよねぇ~……」
狂三と理子が苦い声を出す。俺も内心同じ気持ちだった。
ずっと六課が維持されて、上層部からの要求もすべて跳ね返してくれるならいいんだけど、そうでない限りは遅くても2年後の事件が終わったら管理局を辞めるつもりだ。
ぶっちゃけ、事件後も管理局に所属したとして、遠方に配属になってみんなと離れ離れになっては意味が無かった。
俺の安全もそうだが、みんなの安全も保障されていなければいけないのだ。
「そっか、翔、辞めちゃうつもりなんだ……」
「今のところは」
「六課の維持、は出来なくないと思うけど……」
俺のためにそこまでコネを使ってもらわなくてもいい。それに六課に所属していても何処からちょっかいを受けるか分からないのだ。
少し短いが管理局の話が終わる。
「次はファミリアですね」
クローディアが話を切り替えた。
「ファミリアは格式ばった組織よりはよっぽど自由が利くところやな。それでいてファミリアによっては世界的にもとてつもない影響力がある」
「国家系ファミリアになると、軍隊全員が眷属って国もあるからね」
はやてさんとフェイトさんが続ける。
やっぱり『神』の後ろ盾って言うのは大きいんだろうな。
「ファミリア選びのコツは―――入団できる前提で話すと―――自分のやりたいこととファミリアの活動方針が合っていること、それと『神格者』のファミリアを選ぶこと」
「神格者……?」
「人格者と同じ意味だよ。読み方が同じだからそうやって区別されてるだけ」
神を名乗る人たちは自由人が多いからな。そうじゃない人を見極めろってことだ。
「それこそ、今六課に来とるロキ・ファミリアは世界でも最高峰のファミリアの1つやな」
現在は聖王教会を後ろ盾としているロキ・ファミリアは、現在は学園島を中心に活動しており、遠征と称して遠方の犯罪者や魔物を討伐しているらしい。
「他には……それこそ、ロキ・ファミリアと並び称されてるんは、今はアルディギアを拠点に活動しとるフレイヤ・ファミリアかな?」
「そうですね。個人的には
「
「ああ、そんな話も聞いたことあるなぁ……」
フレイヤ・ファミリアはアルディギアを拠点に活動してるのか……あれ? じゃあ豊穣の女主人にいたシルさんは……? フレイヤと関係なし……なんてありえないだろうし。
俺の疑問をよそに話が進んでいく。
「他には大陸を幅広く守っとるガネーシャ・ファミリア、戦闘系じゃなければ情報とか物品の流通を扱うヘルメス・ファミリアなんかもあるなぁ。メジャーどころはそんくらいかな。治療系とか農業、漁業系も紹介しとく?」
「いえ、今は」
今は入団するファミリアを選ぶのではなく、選択肢の提示の時間だ。詳しくは後でいいだろう。
「ですがはやてさん、大手ファミリアの1つを紹介し忘れていませんか?」
「ん? そうやったっけ……?」
「正義のファミリア。アストレア・ファミリアです」
え?
「確かにあそこはロキ・ファミリアにもフレイヤ・ファミリアにも引けを取らんけど……でもあそこ、今は新しい眷属は増やさへん方針やったよね? それに入団出来るんは女性だけやったって」
「ですが大抗争の時は一時的に男性も加わっていたらしいですよ?」
「それは緊急事態だったからやない? ……翔君? どうかした?」
「いえ……」
アストレア・ファミリアって、原作でリューさんが昔いたところじゃないか? 本編開始時にはリューさん以外全員が死亡。ダンジョンの中に武器を墓標代わりにした墓があるってあったよな?
それがこの世界ではしっかり存在していて、しかも2大ファミリアと肩を並べてるだって?
それに大抗争の時に居たっていう男も気になる。
まさか……
「先輩、もしかして……」
雪菜もその可能性に思い当たったらしい。他の娘も何人か考えこんでいる。
「翔君?」
「……その大抗争の時にいた男、俺かもしれないです」
「……うん? や、大抗争って7年前の出来事やん? 翔君がこの世界に来たんは今年の4月じゃなかったん? 物理的に不可能やろ?」
そうとも言えない。何故なら俺はタイムベルトを使って10年前の聖杯戦争に参加したのだから。
あの時の様に緊急ミッションが発令、強制的に過去に飛ばされるって可能性もある。
「な、何でもアリやな……ちなみに聞くけど、タイムベルトは自由に時間を超えられるわけやないよね?」
「はい。普通は全然動きませんよ」
はやてさんが息を吐いた。流石に自由に過去改変が出来る可能性は摘み取っておきたかったんだろう。
「ちなみにアストレア・ファミリアと連絡を取ることは出来るんですか?」
「一応連絡窓口はある。でもあのファミリア各地の紛争で引っ張りだこやからなぁ……単純な戦闘だけやなくて救助活動とか慈善活動とかもしてるらしいし……や、翔君の名前をだせば行けるんかな……」
確かに、過去、俺がそこに居たのならその手は有効だろう。
「そやね、後日連絡してみるわ」
アストレア・ファミリアの件もあったが、これでファミリアの話は終わった。
次は武偵の会社だが、
「これもあんまり考えてないですね」
「んー、会社経営はね……」
「同じく、どこかに入社することも考えてないですね」
最初から除外されていた選択肢だった。あまりにも伝手が無く、自分が立ち上げるにしてもノウハウが無い。
最後に、
「その他組織とは?」
「武偵でもなければ管理局でも、国の軍隊でもない組織だね」
分かりやすいところで言えばイギリスの時計塔。それに連なる魔術の一族。エルメロイ家なんかもここか。
「そうそう。あとは翔が壊滅させたイ・ウーとかもそうかな」
「ああ、あそこもか……」
フェイトさんの言葉に腕を組む。
要は国家の枠組みを超えて力を持っちゃってる組織ってことか。
「まあここもツテはないですからね」
「翔君、エルメロイ2世と仲良くなかった?」
「それはそうですけど……いくら仲が良くても時計塔に所属する気はないですし」
魔術師のアレコレに巻き込まれたら身の安全どころの話ではなくなりそうだし。もちろん助けを求められれば手は貸すけど。
「まあ、ここは所属しようと思って所属出来るようなところやないから、あんまり気にせんでも良いと思うよ」
はやてさんの言葉で締めくくられた。
で、一通り出そろったところで、これからの行動方針を決めなければいけないのだが、
「こうして並べると、今はデビルーク王国が一番の候補になるね」
「そうですわね。なんたって翔さん、今はララさんの婚約者候補ですもの。この繋がりを使わない手はありませんわ」
思えば聖天子様もお飾りとはいえ日本のやんごとない身分の人だ。彼女専属の護衛として働くという手もなくはないのだが……
「聖天子様、お兄ちゃんの事情を受け入れてくれるかしら?」
「まあ、だよな……」
デビルークとどっちの方が、と言われればやっぱりデビルークの方が受け入れてくれそうだ。聖天子様は潔癖症というか、この場合は常識的な考えで否定してくると思う。
それに言い方が悪いが、聖天子様では俺たちの庇護先には役者不足に思う。各国の攻撃やら圧力やらを受け止めきれるかと言われると、現段階では難しそうという判断になる。
「ですが、良い関係は保っておくことに越したことはありませんね」
「だな」
クローディアの言葉に頷く。別に関係を切ろうとは思ってないからな。
「デビルークにはなるべく早めに話を通しておいた方がいいよね」
「そうですね。話が拗れて婚約者候補の関係を撤回されたら、一から考えないといけないし」
アスナと桜の言う通りだ。
国王ギドもそうだが、この手の話では絶対的ラスボスである王妃セフィ様がいる。
ハーレム否定派であるセフィ王妃。その考えを娘にまで押し付けてくるのかはわからないが、『側室が出来ることを前提としてララと結婚する』となれば一言物申したくもなるだろう。
それに何より、親を説得する前段階で、ララの気持ちもある。
原作ではみんなで幸せになれば良いと(正直、深く理解しているとは思えなかったが)ハーレム容認の姿勢を見せていた。
だが俺達のプランでは明確に、俺達の安全のために利用されることになる。それも結婚という、女性の人生にとっての一大イベントを。それでも『全然いいよ~、アハハ~』と笑ってくれるかもしれないが、それはそれで俺の良心ががが……!!
だが代案があるわけでもない。
理想を言えば、どこにも迷惑をかけないよう俺達独自の組織を立ち上げたいのだが……どんなに不思議な能力を持っていようが、一介の学生である俺達があと1年半でそんな組織を立ち上げられるとは思えない。
現実は厳しい。
「現実、か。
「翔君……」
自嘲するように笑う俺にアスナも悲痛な呟きを漏らす。
アスナだけではない。ララを利用することが最善手であることに、ほとんどの娘が沈んだ顔をしていた。
「別にそんなこと気にする必要ないんじゃない?」
そんな中、けろりとしてるのは理子だ。
「ララって、ああ見えてちゃんと考えてるし、嫌なら嫌って言うから。さっさと話してみて、ダメだったら次の手を考えれば良いんじゃない?」
「「「……」」」
その言葉に俺達はそろって黙る。
やがて、
「それもそうだね。こんなところで考えてもしょうがないし、すぐに行動しないとだよね」
アスナが応えた。
「ララには俺から言うから。みんなも良いよな?」
そこだけは譲れないという俺の意思が伝わったのか、反論はなかった。
流石に伝えるのは島の地下の調査が終わってからになるとは思うけど。
「それでいいよ。忙しいときに焦って伝えて、その後話せなかったら大変だし」
「でも気を付けて下さいまし。例の予言まであと2年……いえ、その周辺は事件にかかりきりになると考えますと、1年半後までには立場を万全にしておかなければいけませんわ」
狂三の言う通りだ。予言のリミットギリギリなんて身動き取れるとは思えない。そう考えると時間が無いな。
「さっきの翔君が狙われるかどうかってお話、一番怖いのは中途半端な時期に翔君のことを知られた時だと思うんです」
桜の意見だ。
「私の魔術もかなり特殊で、ウェイバーさんにはエルメロイ家の庇護が無ければホルマリン漬けの標本にされていたかもしれないって言われました」
「ん、それはエルメロイ2世に聞いたよ。それが翔君にも起こり得るって事やな」
「はい。今でこそ、多少の刺客なら撃退できるくらいの実力をつけることは出来ましたけど、昔はそうじゃありませんでした。実は貴重な霊薬や素材を交換材料にして私を引き取りたいって家もあったみたいで」
だが、全部断ってくれたらしい。しっかり守ってくれていたってことか。感謝。
さらに不用意に外を出歩いて攫われないように、護衛をも付けてくれていたのだとか。ますます感謝。
「つまり桜は、手段を問わずに翔を手にしようとする輩が心配なんですね。それも、準備が整っていない段階で」
「そうです」
クローディアの言葉に桜は表情を硬くして頷いた。
確かに。仮に今の段階でどこかの国が全力で俺を潰そうとすれば、俺はなす術無くやられるだろう。その可能性がゼロになることはない。
唯一の対抗手段は、
「早急に『準備』を整える」
後ろ盾はともかく、武力は。これだけは俺達だけでいくらでも伸ばすことが出来る。
「結局はそこになるよね……」
アスナは考え込むように目を閉じた。
「うん。じゃあ一旦―――翔君は席を外そうか?」
「うん? え、なんで?」
疑問に思って問いかけるが、
「や、わかった」
「ごめんね。お風呂でも入ってて?」
「そうするかな」
席を外してほしいってことは俺にあまり聞かせたくない話があるんだろう。一体何を話すのか気になるところではあるが、俺に不利益なことを話すわけがない。そのくらいの信頼はある。だったらここはおとなしく立ち去った方がいい。
俺は会議室を出てどこに行こうかと一瞬迷い、
「ああ、じゃあ、言われた通り風呂にでも行っとくか」
大浴場へ向かうのだった。