翔が去った会議室では話し合いが再開した。
当然議題は『準備』についてだ。
「だから翔に一回出て行ってもらったんだね」
「うん。翔君、能力のためにってするのあんまり好きじゃないから」
この会議はアスナ発案。将来のことを考える思考があったのはもちろんだが、このように大々的に会議をしようと言い出すことになったきっかけがあった。
先日行われた六課での模擬戦だ。
翔が鈴と戦う前、アスナはフィンと模擬戦していた。結果は惨敗。自慢としていた閃光のようなレイピアは一度もフィンを捉えることはなかった。
その余裕ぶりを見て、自分の力がまだまだ足りていないと思い知ったのだ。
「フィン団長は歴戦の勇者やから―――って問題やないもんね」
「はい。そんな言い訳、実戦では何の役にも立ちませんから」
少なくとも相手に対抗出来る力を身につけなければ、理不尽な相手に対しては交渉のテーブルに着くことすら出来ない。
「もっと強くならないといけない」
それは翔は当たり前だが、周りにいる女の子達にも当てはまっていた。
そのためには強いアイテムもそうだが、
「王妃のベルト。やっぱりこれが欲しいよね」
単純に貸し出されるのではなく、翔のアイテムを自在に扱えるようになるアイテム。王妃とも呼ばれる存在になり、翔とより深い仲となるのだ。
「あ、先に言っておくけど、ベルトを持ってるから立場が上とか、そういうのは無しね。私もそうだけど、翔君も嫌がると思うから」
アスナの言葉に全員が頷く。それは同意の証だった。
「ありがとう……ごめんね、綺凛ちゃん。一番最初にベルトを手に入れたのに……」
「い、いえっ! そんな全然ですよ! 私がこのベルトを貰えたのは、単純に運が良かっただけですから! それに翔さんが嫌がるっていうのも分かりますし!」
突然謝られた綺凛は慌てて手を振った。
「で、でもどうやってそのベルトを手に入れればいいんでしょうか?」
この会議で初めてアインハルトが発言する。
アインハルトは友人の綺凛がベルトを手に入れ、『翔の戦い』に貢献したことで、少し焦りにも似た感情が芽生えていたのだ。
今まで横並びだった関係。そこから一歩先に行かれたような感覚に。
出来ることならベルトを手に入れたい。そう思っての発言だった。
「もちろん、翔君に能力で出してもらうんだよ」
「……それは」
そうだろう、という言葉をアインハルトは飲み込んだ。
翔のアイテムの力を引き出せる道具を、この世界の技術で―――少なくともすぐに―――作成することは不可能だ。
必然的に翔に出してもらうしかないのだが、
「でも翔君の能力、狙って出したいもん出せる訳やないよね?」
「ええ。その通りです」
そんなこと出来るならとっくにやっている。
ならばどうするのかと、はやての顔も疑問に染まる。疑問を浮かべているのは他の、翔と一緒に住んでいる娘も同様だ。いやその中で1人だけ、クローディアだけがすべてを察しているとばかりにニコニコしている。
「確実に出ないなら、数をこなすしかありませんね?」
なんてことを口にした。
「そりゃ、まあ、そやけど……」
それも当たり前の事だろうと、思考が顔に出るはやて。いまいちクローディアの言いたいことに辿り着けていない。
それもそのはずだ。
腹黒クローディアがからかいたいのは、言葉に反応して顔を赤くした娘達なのだから。
「ね、アスナさん、桜さん?」
「え?」
名前が出たことではやての視線と意識が向けられる。
「……クローディアさん」
「やっぱり全部分かって……」
恨めしそうな顔をしてた2人だったが、やがて観念して話しだした。それが元々の予定だったからだ。
「あ~、ええっと、うん……」
が、いざ口にしようとすると、なかなか決まった言葉が出てこない。アスナにしては珍しく歯切れが悪くなっている。
が、覚悟を決めた。
「これから翔君と、明日の朝まで、できうる限り、しようと思ってます」
一言ずつ区切って、はっきりと告げた。
その意味が、計画を知らされていなかった面々の頭に段々と沁み込んでいき、赤面という結果に繋がる。
「明日の調査、何があるか分かりませんから」
アスナ達には翔の情報が共有されている。もしかすると死人が出るかもしれないことも。だからこその強行スケジュールだった。
「で、でもそれって、翔君と……!!」
「はい。なので将来についての会議はここまでで。これから先の『行為』をするつもりのない人は、このまま帰宅してもらえればと」
「い、や―――それは……」
あまりにも荒唐無稽なアスナの提案に、はやては何も言えなくなってしまう。だができるだけ冷静に考え、
「いやいやいや、ダメやん! そんな、明日の朝ギリギリまでって! 明日は島の調査もあるんやし、ほどほどにしとかんと……!」
「疲労については大丈夫です。精神と時の部屋がありますから」
部屋内部の時間経過の倍率を最大にすれば、外界の1分で6時間分の休息をとることが出来る。修行以外での部屋の活用法だった。
同時に2人しか入れないとはいえ、30分もあれば全員十分すぎるほどの休息をとることが出来るだろう。
いっそのこと部屋の中ですれば……と、思うかもしれないが、そこはそれ。真っ白な空間では盛り上がりも何もあったものではない。文字通り『白けてしまう』ため今回は見送った。
「なる、ほど……」
さらりと出てきた不思議空間の情報をはやては何とか飲み込んだ。
その後に残るのは、戦力アップさせつつ翌日に疲労を残さない完璧な計画だけだ。
「今日、家に帰る必要がある人は順番を早めにセッティングします。そうじゃない人は後に。それで、なんですが」
アスナは一度言葉を切った。
「この計画に参加する人は何人くらいいますか?」
そう言われて顔を赤くしながら見合わせるのは、計画を初めて聞かされたメンバーだ。この作戦に参加するということは即ち、これから一晩にわたり、翔と交わるということになる。
だがやがて覚悟を決めた1人が手を挙げると、その後に続くようにぽつりぽつりと手が上がるのだった。
―――――――――――――――――――――――
「ふぃ~」
会議室から出た俺はアスナに言われた通りお風呂に入っていた。広々とした大浴場を独り占め。少し寂しいが、広々と使えると思えば良いだろう。
とは言え、皆が会議している間、俺だけずっとくつろいでいるわけにもいかない。
「レプリカ、情報出してくれ」
「うむ。これか?」
レプリカに出してもらうのは7年前に起こった『大抗争』と呼ばれる事件の情報だ。
今から約15年前、科学の世界大戦を終えた世界の秩序を守っていたのは管理局と
科学の世界大戦の傷も癒え、時代の変わり目を感じた両ファミリアと管理局は、『陸の王者ベヒーモス』や『海の覇王リヴァイアサン』と並ぶ強大なモンスター、『隻眼の黒竜』の討伐に乗り出した。
だが結果は失敗。
こうして3本の矢のうち2本を失い、残った1本も折れかけになったことで、世界はたちまち大混乱に陥ることになる。築き上げられた秩序は失われ、『暗黒期』と呼ばれる混乱の時代が訪れたのだ。
各国は
結果、戦力の流出を嫌がった各国の思惑により、残された管理局の戦力がさらに低下することになる。
それが最高潮になったのが7年前。
首謀者は『エレボス』と呼ばれる神。7日間続いたその戦いは、国同士の戦争を除けば最大の死傷者数を記録したとも言われている。
何と
「なるほどね……」
この辺りは、ダンまち原作では出てなかった情報だからな。重要そうな事件だし、そのうち描かれてたのかもしれないけど。
だが、流れは理解出来た。
これでいつ過去に行くことになっても大丈夫だろう。や、大丈夫って言うのは流れが把握出来たって意味であって、そこで戦い抜けるかって言われるとそうじゃないからな。
戦い抜くための力。
「ま、手に入れようと思えば手に入れられるんだけどな……」
やっぱり、ちっぽけなこだわりなんて捨てるべきなんだろうか。
そんなことを考えていると、唐突に浴室の扉が開いた―――
―――――――――――――――――――――――――
翔達がダイオラマ球内部で会議をしている頃、
「あ~、みんな何話してるんだろ~」
家のリビングではララが1人暇を持て余していた。
「やっぱりお仕事のお話なのかなぁ?」
「管理局の方も来ていましたしそうなのでは? まあ、それならなぜウチで? という疑問はありますが」
「だよね~……」
当然ながら2人は会議に呼ばれず、内容も知らされていなかった。
退屈ではあるが、ララも大事な話をすると言われればおとなしく待っているくらいの分別はついた。同時に、どこか国の王宮での暮らしを思い出して憂鬱になってしまうが。
「最近翔、お仕事ばっかりだよね」
「それは仕方ないでしょう。」
「あんまり一緒にいられなくてつまんない!」
一緒に学校に行っているが、学年が違うため顔を合わせる機会がない。せいぜい通学路とお昼休みくらいだ。
そして放課後(午後の時間)を、翔はほとんど六課で過ごしている。
必然的に一緒に過ごせる時間は限られてしまっていた。
「どうすればもっと一緒にいられるかな……やっぱり私もトクムロッカ? に入ればいいのかなぁ?」
「そ、それは……何度も申し上げましたが、ザスティンやお父上お母上と相談しないことには何とも……!!」
「そーだよねぇ。めんどくさいなぁ……」
これまで何度か繰り返されたやり取り。いつも通りのララの反応にほっと息を吐くペケ。
実際のところ、ララが六課に入る―――というより、戦い方を学ぶというのは『アリ』の選択だった。
現在デビルーク王国は国王ギドの圧倒的な武力とその妃であるセフィの政治手腕、そして一国で学園島に匹敵すると言われる科学力を武器にしている。
今後のことを考えれば、ギドに匹敵する武力の育成は必須。だがそれは口で言うほど簡単ではない。
王族親衛隊でありデビルーク最強の戦士であるザスティンでさえ、ギドには遠く及ばないのだ。
だがギドの血を引く娘達は別だった。彼女達は生まれつき、ギドの持つ強力なパワーを受け継いでいた。その中でも一番は長女のララだ。夏に翔とザスティンが戦った際、割り込んでザスティンを吹き飛ばしたことからも、その潜在能力の高さが伺える。
本人も特技が発明と並んで格闘と答える程度には、戦うことは嫌っていなかった。もっともイマイチ危機感が足りておらず、実戦的な訓練がしたことがないのだが。
だからと言って管理局―――特務六課への入隊は不可能ではないが面倒の方が大きい。
王族だろうと制度的に入隊を拒まれることはないが、どう運用するにしても腫れもの扱いされてしまうだろう。命令するにしても前線に配置するにしても。部隊の健全な運用の観点からすれば、それはあまり好ましくない。
だからこそペケは、こうしてこの話が出るたびにララの性格を利用して諦めさせていたのだ。
だがこの時は違った。
「ううん―――やっぱり私、翔と一緒に働く!」
「ララ様!? い、一体どうして……!?」
「ずっと守られてるだけじゃ、翔の事ドキドキさせられないと思うの! ロッカの偉い人も来てるみたいだし直接頼んでみる! パパとママは後で説得する!」
「う、うむむ……!!」
ララの意思にペケは唸ることしか出来なかった。
ずんずんと進むララはすぐに翔の部屋に到着する。
部屋の中央には起動しているダイオラマ球が浮いている。
「これだよね。ん~、と、入るには……」
「ラ、ララ様、せめて会議が終わって皆様が出てきてからにしてみては?」
「ダメだよ。遅い時間になって『その話はまた今度』なんて言われたくないもん!」
「うくく……!」
ペケと言い合いながらダイオラマ球を弄るララだが、今回の会議に参加予定ではなかったララは翔の許可を得ていないため中に入ることが出来ない。
「も~! こうなったら……」
ララはとあるアイテムを取り出す。
「そ、それは……!」
ぴょんぴょんワープ君・改だった。
「ララ様! 翔殿から発明品はむやみに使わないようにと……!」
「ダイジョーブだよ! 家の中だし!」
座標を指定し、ためらいなくアイテムを起動するララ。その瞬間体が光りに包まれ―――ペケを残して消失した。
「ララ様……!」
ペケの視線はダイオラマ球へと注がれていた。
――――――――――――――――――――――――
「んー? 成功かな?」
ララはホテルのロビーに立っていた。
当然のように全裸だ。
きょろきょろと辺りを見回すララに、翔のアイテムであるホテルマンが近づいてきた。
「ララ様、何がお困りでしょうか?」
ダイオラマ球の入室設定には登録されていなかったララだが、ホテルマンの接客対象には既に設定されていた。
ホテルマンの仕事は客人の用件を聞き、もてなすことだ。ララも王宮暮らし時代の名残で、ためらわず要件を伝える。
「ええっと、翔のいる場所に連れてって?」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
ホテルマンは全裸のララに顔色を変えることなく、一礼すると歩き出した。ララも全く警戒することなくその背中についていく。
やがて到着したのは、
「こちらでございます」
「ここ、お風呂?」
赤と紺色の2つの暖簾には、どちらも白で『ゆ』と書かれている。ホテルマンが指し示すのは紺色の方だった。
「お風呂で会議してるのかなぁ?」
などと的外れなことを考えるララ。いや、むしろそれは正常な思考だ。仕事の会議をしていると思ったら風呂に入っているのだ。疑問にも思うだろう。
「他に何か御用はありますか?」
「あっ、それじゃあ何か着るもの持って来てほしいな。このままだと翔に怒られちゃうから」
いまさらながらに衣服を要求するララ。かしこまりました、とホテルマンは立ち去っていく。
静寂に包まれる廊下。
そんな場所でぷるっと体を震わせるララ。羞恥は感じないと言っても、だんだん肌寒くなってきたのだ。
そんな状態で、目の前にはお風呂がある。
「入っちゃおーっと」
決断も早く、ララはお風呂に突撃していくのだった。