何度も言っているが武偵は血の気が多い。血税をもらって人様のために働いている公務員とは違って、将来の商売敵になるのだから仕方がない部分もあるが。
お互いに承諾した私闘で怪我した場合は、法律でも保護されないときている。
そんなこともあって、武偵にはいくつかの決闘の方法がある。絶対にこの方法にしなければいけないというルールはないが、相手も自分も必要以上のケガをしないように何れかのルールに則るのは暗黙の了解になっている。
再起不能まで叩きのめせなんて言われたら、わざと負けないといけなかった俺としてはとてもラッキー。
「でもないな……」
今回のルールは相手の胸に着けた校章を先に破壊した方が勝ちというルール。校章は左胸のポケットにある為、防弾・防刃性の制服を着ていても下手を打つと命にかかわる。私闘は黙認されているが、やるならお互いに覚悟を持てという意味だろう。
そして、このルールの一番の問題は、
「パラドクスになれない……」
当然、服が完全に隠れる仮面ライダーへの変身はNG。や、努力はしたんだよ。でも校章ってピンで留められてるからパラドクスの装甲に刺さらないし。ルール変えてくれって頼むのも嫌だったから。
今使える手札で勝つしかない。
ああ、そう言えば、武器・能力ガチャの報告してなかったっけ。
タイムベルト
時間旅行できるようになるベルト。ただし、自由な時間設定以前に、使うタイミングも指定できない。端末に送られた緊急任務でごくまれにこのベルトが自動で作動する。元の時代に戻るときも緊急任務終了後、ちょうど1週間後に元の時代に戻るように強制作動する仕様になっている。
『僕のヒーローアカデミア』に登場する『個性』と飛ばれる特殊能力の一つ。『常闇 踏陰』の個性。
鳥の影のような怪物を使役することができるようになる。この影自体に自我がある。
影自体がかなり遠くまで伸びるので、攻撃と防御両方に幅広く使うことができる。
弱点は、周囲が暗いほど凶暴かつ強力になるが制御しづらくなり、逆に周囲が明るいと能力値は下がってしまうが、制御しやすくなること。
この2つだった。
タイムベルトは、そのうち過去か未来に行って何かするフラグにしか見えない。しかも、タイミングが全くつかめないってのも質が悪い。
これを加えた今の俺なら綺凛相手でもワンチャンあるかな。あると思いたい。
あ、でもまだ綺凛と戦うと決まってるわけじゃ―――
「―――いいな。そして、お前の相手はこれだ」
「……はぁ」
分かっていたこととはいえ、何のためらいもなく綺凛の肩に手を置く男性。この人は綺凛の伯父の刀藤 鋼一郎だ。
外野もひそひそと話す気配が伝わってくる。俺は耀の首根っこを押さえて飛び掛からないようにしている。耀は正義感とかそういうもので動く娘じゃあないけど、これはそれ以前の問題だ。
「安心しろ。貴様が負けたところで、こちらは何も要求しない」
「そういう問題じゃあないと思いますけどね……別にいいですけど」
分かっていて言ってるんだな。原作を知って展開をある程度知っていても、結構
「伯父様! 私は……っ!」
「黙れ! お前は私の言うとおりに動けばいい!!」
綺凛の抗議を一蹴した鋼一郎。周囲がこんなに冷えてるのによくやりますね。
「で、ですけど!」
なお食い下がろうとする綺凛。そんな綺凛を目の力で黙らせる。睨まれただけで、メドゥーサに石に変えられたみたいに動けなくなってしまっている。
「綺凛。私に逆らうつもりか?」
「……いえ、そんなことは……」
綺凛はクマに睨まれたウサギのように体を縮こまらせる。
「ならいい。この男、あの聖天子様の護衛任務を受け、しかも襲ってきた暗殺犯を撃退した実績がある。実力はランク以上だ。今のうちに倒しておけば、後々役に立つことがあるだろう」
ああ、その暗殺犯、そこにいますよ。愉快愉快。
聖天子様のこと調べれば出てくるんだな。武偵殺しのことは隠蔽されてるのに。聖天子様だから、別に隠す必要がないって思ってるのかもしれないけど。
耀と鋼一郎は俺たち2人から距離を取った。残されたのは暗い顔で俯く綺凛と俺だけだ。
周りにはすっかりと野次馬が集まっていた。見世物じゃあないんですがね。見たいって気持ちはわかるけど。
「……ごめんなさいです」
綺凛は囁いた。
「私……刀藤 綺凛は、夜月 翔先輩に決闘を申し込みます」
「俺はてっきり、君の叔父さんと決闘すると思ってたんだけどな」
心にも思ってない無駄話を始める。
「私だって先輩と闘いたくなんてありません。でも、仕方ないんです。私には叶えたい望みがあります。そのためには伯父様の言うとおりにするしか……っ!」
「言う通りが悪いなんて言っちゃいない。今の待遇が見過ごせなかったんだよ」
どんどん頭が冷えていく。
「お願いします、先輩。ここで先輩が引いてくれればそれで収まります。だから、お願いします」
「そうしたら、君はどうなるんだ?」
降って湧いたように遭遇したこのイベント。何の心構えもなく、ただVividのメンバーとの顔合わせになると思っていた。
「私は……私のことは別にいいんです。どうにもならないことですから」
「なら、引けないな」
覚悟が決まってきた。
「そうですか……夜月先輩は優しいのですね」
「そう思うか?」
顔を上げた綺凛の顔にもう迷いはなかった。数秒前までの気弱な雰囲気は見る影もない。
「では、仕方ありません。私も負ける訳にはいかないのです」
腰の鞘から刀が抜かれ、構えられる。戦いたくないと言っていたのは嘘のように構えに隙ってもんがない。俺を切り伏せると、全身が叫んでいた。
俺も
鋼一郎の声で、決闘の火ぶたが切って落とされた。すぐさま
(行くぞ、
(アア、任セナ)
さあかかって―――
「参ります」
俺は決闘中に対戦相手から目を離すようなマヌケではありません。あ、これは、いつのまにか綺凛の姿が消えて、胸元に白刃が迫っていたことに対する言い訳です。
「っ!?」
どうにか躱し、後ろに下がって距離を取ろうとするが、そんな暇を与えないとばかりに追撃が迫る。これってさっきのクロとアインハルトの戦いと同じじゃない?
尋常じゃない剣速だ。無防備になった瞬間に次の攻撃の動作に入っている。無駄な動きも遊びの攻撃も全くない。
「夜月先輩、お強いんですね。驚きました」
「こっちもだよ。まさか、ここまでなんてな……」
(余裕コイテル場合カ! 紙一重ダッタゾ!!)
っち、お前ビビりか、
綺凛は有名剣術、刀藤流宗家の娘。原作でも剣技のみでは5本の指に入るくらいの実力者だった。
「やっぱり、勝てなさそう……」
剣ではね。
今回の勝負はチャンバラではない。左胸の校章を破壊した方が勝ちなのだ。俺の本命は
奇策と奇襲は一発で決めないといけない。トリックが割れてしまうと、次からの成功率が著しく下がる。
少しかき回しておこう。
「ッ!!」
完全記憶能力。これは別に知識だけを記憶するのではない。俺が経験したものを完全に記憶するのだ。
学校での実習に加えて日々のアリアとの格闘、アスナや、雪菜の体の動かし方も記憶している。
そして今、
「まさか……『連鶴』、ですか?」
「これの事か?」
踏み込み、綺凛とまったく同じ動きで切りかかる。
難なく躱されてしまうが、その顔は驚愕に染まっていた。
見せてもらった技しかできないけどな。
『連鶴』とは、『鶴を折るが如し』と称される刀藤流の奥義の名だ。四十九の繋ぎ手の型を組み合わせ、完全なる連続攻撃とする。一瞬たりとも途切れずに正確な斬撃を相手に浴びせ続けるのだ。
刀藤流でも使える人物は限られ、さらに綺凛と張り合えるレベルの連鶴を使えるものは門下生には存在しない。
「先輩は一体……」
存在しないはずの俺を見て明らかに動揺している。離れたところに立っている鋼一郎も目を見開いている。
ま、こんなの張りぼてだ。
そんな奇策の手品がいつまでも達人に通じるわけがない。最初は拮抗しているように見えていたが、時間が経つにつれて俺の攻撃が誘導され始めた。俺が綺凛の攻撃しやすい位置に来るように。
手遅れにならないうちに、俺は
弾速が違う銃弾と爪弾。
なんと綺凛は超人的な反射神経で、ベレッタから発射された銃弾を、爪弾に当たる前に跳ね返していた。お前は石川五右衛門か。
そこから連鶴に入る。俺の手には剣がない
「防げ!!
「任セナ!!」
俺のバックアップに徹してもらっていた
「せぁ!!」
謎の物体にも臆することなく切りかかる綺凛だが、
防御のための
周りの人たちはこれで勝負が決まってしまうと思っている。今の俺の体勢から綺凛の刀をかわすことは不可能だと。
しかし、俺は全く別のことを考えていた。
爪が、
指を
(ACT2!?)
そう思ったときには発射した爪弾が綺凛の服をかすめていた。
すこし、ほんの少しだけ、それこそ繊維を1,2本削り取ったくらい。虫眼鏡でも使わなければわからないくらいの被弾。
そこに『回転』のエネルギーは食いついてきた。
「なっ!!」
綺凛は自分の服に起きている異変に気が付いた。
左わき腹に発生した当たった覚えのない服の損傷が、次第に移動し始めたのだ。爪弾が外れても、回転のエネルギーは死んでない。服にわずかに残った回転エネルギーが、効果を発揮しているのだ。
見たこともない事態に思考が追いつかなかったのか、回転の穴は左胸のポケットを校章ごと吹き飛ばして消えた。
俺は急いでスタンドの
「チュミィィィィィン……?」
「ACT1のままか……」
俺には周囲の歓声は全く聞こえていなかった。ほんの一瞬だけ変化した自分のスタンドのことで頭がいっぱいだった。
―――――――――――――――――――――――
「って、ことがあったんだよ」
「へぇ~、そうだったんだ」
あの決闘から数日。学校が休みのこの日、久しぶりに、かなり久しぶりに家でのんびりしていた。あの日、現場にいなかったアスナへの報告を終えた。
あの決闘の後の鋼一郎の顔は傑作だった。顔が真っ赤っか。俺が話しかけても無視して立ち去ってしまった。綺凛は綺凛で、慌てて一礼して去っていった。
「それでその子も暴力を振るわれなくなったんだね」
「どうだろうなぁ」
同じソファーに座りつつ、アスナが入れてくれたお茶に口をつける。
負けるなんて微塵も思ってなかったからあんな条件出したんだろうし、契約書を作ったわけでもないんだからなぁ。守ってなくても知る手段がない。
あの後どうなっているかなんてほとんどわからない。雪菜と耀は学年が違うし。今度様子を見に行ってくるか……
「それよりいちゃいちゃしよーよー、せっかく2人きりなんだしさー」
「ずいぶん直球だね!?」
考えることが多すぎる。時には何も考えないで甘えてみたいときもある。
「あっ、もう、翔君は……よしよし」
勝手に膝枕をしてしまったが、アスナは嫌がらずに頭をなでてくれる。
頭の後ろにある幸せな感触を楽しめて、目の前にはアスナの慈愛に満ちた笑顔と、衣服を押し上げる二つの双丘。
あー、癒される。お昼を食べたからか少し眠くもなってきた。聞こえてくる時計の秒針の音が、子守歌代わりになってるな。よし、今日は少し昼寝でもして、
ピンポーン!!
「……」
「……」
クソが。
「ちょっと殺してくる」
「やめてね?」
俺はアスナから離れて玄関に向かう。
この最悪のタイミングでチャイムを鳴らす馬鹿野郎は一体どこのどいつだ? 新聞の勧誘だったら、傘のフルスイングをケツに叩き込んでやるぜ。
「どこのどちら様ですかぁ!!! ……あれ?」
「こ、こんにちは!!」
そこには緊張した面持ちのアインハルトがいた。だけではない。
「あ、あの、こんにちは……っ!!」
「綺凛ちゃんも?」
俺から会いに行く手間が省けてよかったというべきなのか? それとも、別の?
この訪問にはいったいどんな意味があるというのだろうか。そして、神様は俺を休めてくれないんだろうか。
原作の設定では綺凛とアインハルトは同い年です。どう思いますか?