「翔……!!」
「い、いったいどこに……」
アイズとレフィーヤが無駄だと分かっても周りを見回す。
「分からない、が、篠ノ之博士の目的は
フィンは親指を一舐め、
「(篠ノ之博士の性格は聞いていた通りだ。自分の興味の無いものにはとことん無関心かつ辛辣。逆に言えば、篠ノ之博士が興味を持つ程の何かが、
フィンの思考の隙間を埋めるのはガレスだ。
「アイズ、レフィーヤ。少し落ち着け。あ奴が危険に陥ることはない『そういう話になっておる』だろう?」
「……それは……そうかも」
「ちがっ、違いますよ!! 私は! 今のはその、とっさに! 何の抵抗もしないで連れていかれたのに驚いたからで……!!」
2人の少女の様子を見て、一瞬だが空気が緩むロキ・ファミリア。
そこに、
「いや~、驚かせちゃってごめんね?」
「「「「ッ!!!??!?!?」」」」
篠ノ之 束が顔を出した。ロキ・ファミリアの全員が瞬時に戦闘態勢を取る。当然ながら、すでに全員、篠ノ之 束をただの科学者として見ている者はいなかった。
「……驚きましたね。彼との話はもう済んだんですか?」
フィンもこの不可解な状況に内心動揺していたが、何とか抑え込んで質問していた。
「うん? あ~、それは『向こうの私』がしっかりするから大丈夫! 君たちが心配する必要はないよ?」
「(なん、だ、あの目は……!!)」
笑う束の目は、紫と青の中間の色で、その瞳孔は水の波紋のような形になっていた。
「(あれはまさか魔眼か? 篠ノ之 束が魔眼を持っているという情報はなかったが)……なるほど。ちなみに、そのお話はいつ終わるのでしょうか? 彼も我々も、ここには仕事で来てますからね。早々に職務に戻れると良いのですが」
「それも気にしなくていいの。君達はいらないし―――邪魔者はもう死んでいいよ?」
その言葉と共に建物が振動し、いたるところに亀裂、ではなく裂け目が出来る。その裂け目から昨日戦った極彩色の魔物が無数に産み落とされた。それが全方位から押し寄せてくる。
「(これで決まりか……)ロキ・ファミリア、戦闘準備!!」
束の指示によって要塞が起動し、その結果学園島を襲った魔物が出現した。この瞬間から、束はこの事件の重要参考人になったのだ。
団長の号令は浮足立っていた団員を引き締める。どんな不測の事態だろうが、彼らの長の言葉を忠実に実行する。その意識が刷り込まれているのだ。
「敵は極彩色の魔物。決して勝てない相手じゃない!」
「ふんぬッ!!」
フィンは激励で、ガレスは行動で仲間を鼓舞した。
戦斧を振りまわし、魔物を粉砕する。その両脇を固めるのはアイズとベートだ。アイズは自らの愛剣で、ベートは極彩色の魔物対策に装備していた双剣を使い、相手を細切れにしていく。
「ラウル。君は2軍メンバー数人を連れて、このことを六課に伝えに行って欲しい」
「い、いえ、団長……アレを!!」
「ン……?」
フィンが背後に目を向けると、レフィーヤが破壊したはずの入り口が修復されていた。
「なるほど、ただの建物じゃないか。レフィーヤ、もう一度魔法だ。間にいる魔物ごと焼き払ってくれ」
「わ、分かりました!!」
部隊のほぼ中央にいるレフィーヤは砲台としての役割を果たすべく詠唱を始める。
「(大丈夫。出来る)誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者を前に弓を取れ」
まずは六課にこの状況を知らせる。方針に従い、レフィーヤを守るように部隊が動く。
「(みんなが私を守ってくれる。だから私も、私の魔法でみんなを助ける!!)同胞の声に応え、矢を番えよ。帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、妖精の火矢」
今までは不意の事態があると焦ってしまいうまく詠唱を紡げないこともあった。だが今回は違う。
魔物の叫び声や剣戟の音が遠くなる。周りを気にせず、詠唱にのみ集中しているのだ。
どのような経験で『仲間を信じて詠唱できるようになったのか』。一瞬頭がもやりそうになるが、慌てて追い出して詠唱を続ける。
「雨の如く降りそそぎ、蛮族どもを焼き払え―――撃ちますッ!! ヒュゼレイド・ファラーリカ!!!」
それは炎属性の広域攻撃魔法。数百数千にも及ぶ炎の矢を雨のように降らせる魔法だ。街の区画1つを灰に出来るほどの火矢が、扉との間にいた魔物を焼き尽くし、そのまま扉を―――
「ッ!?」
魔法を発射したレフィーヤが目を見開く。扉の前にいつの間に移動したのか篠ノ之 束が立っていたからだ。全力で魔法をぶっ放していたレフィーヤは焦る。もしも直撃してしまえば、骨も残らないのでは、と。
もちろん、そんな心配は杞憂だったが。
「餓鬼道」
だが、無数の火矢が1本たりとも扉に届かないばかりか、篠ノ之 束に『吸収された』ように見えたのは想定外過ぎたが。
「えぇ……!?」
「ふむふむ、君が
「(あの時? もしかして病院前で撃った魔法の事?)」
「それにロキ・ファミリアも! その辺りの管理局とか武偵だったら手も足も出ないくらいの魔物なんだけどなぁ。囲まれてるのに誰もケガしてないなんてちょっと舐め過ぎてたかな?」
いつの間にか魔物の攻勢は止んでいる。いまだに魔物は生まれてくるが、即座意に襲ってくるようなことはなく、周りを取り囲んでいるだけだ。
「抵抗が無駄だと分かったのなら、降参していただけませんか?」
「アハっ」
フィンの問いかけを一笑に付す。
「ないない。そんなのあり得ないって分かってるでしょ? ロキ・ファミリア団長、
「……」
ベートの横目にフィンは首を振って返す。
この大規模な要塞。配備してある戦力が魔物だけなんてことはあり得ない。束が見せた正体不明の力も考えると、迂闊には踏み込めなかった。
「(彼女のことは、もうただの科学者と考えてはいけない。なるべく情報を引き出さなければ……)」
ニヤニヤ笑う束は特にアクションを起こさない。少なくとも、先ほどよりは話をする余地がありそうだ。
「篠ノ之博士、もう一度聞きます。この場所に着いて知ってることを……いや、あなたの目的を教えていただきたい」
「うーん、そうだね。どうせ始末しちゃうし、大サービスで教えちゃおっかな。それはね―――」
―――――――――――――――――――――――――
「ここは……」
黒い靄に吸い込まれたと思ったら、モニターが乱立する部屋で尻餅をついてた。
少し見上げるとアームによって空中に固定された椅子に座って、両手両足を使いキーボードを叩く女性が見えた。
その女性は、
「あっ、連れてきてくれたんだね~」
「っ!?」
よっ、という軽い掛け声とともに、10メートルはある高さを躊躇なく飛び降りて、俺の目の前に着地した。
その女性はウサミミ型のデバイスを装着している。俺の真横にいる女性と瓜二つだ。
「こんにちは、はじめまして。篠ノ之 束さんだよ~」
何とも軽い調子で、自己紹介をされた。
「あれれ~? おかしいなぁ? 私が自己紹介したんだし、そっちも自己紹介して欲しいんだけどなぁ~?」
「……夜月 翔です、篠ノ之博士」
「そんな硬い呼び方しなくて良いって。気軽に束さんって呼んでね?」
「……分かりました、束さん」
素直な俺に気分を良くした束さんは、お茶とお菓子を用意してくれた。席に着くように促されたので素直に従う。
「それで、俺に何の用ですか、束さん?」
お茶とお菓子を頂きながら問う。
「そんなの決まってるでしょ? 自分が興味を持たれる理由なんて、すぐに思いつくんじゃない?」
「……」
ま、そうだな。この人が俺に興味を持つ理由なんて1つしか思い浮かばない。
「それで、俺に何をしてほしいんですか?」
「おっ、物わかりが良い~」
「まずは話を聞いてみない事には始まりませんからね」
俺が首を縦に振るような要求はしてこないと思うけど、聞いてみない事にはな。
「それじゃあ―――君の力を貸してほしいんだ。この世界をひっくり返すために」
――――――――――――――――――――――――
「世界をひっくり返す……?」
フィンは告げられた『束の目的』を繰り返した。
言っていることは物騒だが、具体的な方法が分からない。いや、そもそも『世界をひっくり返す』とは何だ? 世界征服なら最低限理解は出来るのだが。
「そうそう。今ある世界の基盤をぶっ壊したいんだよね。国とか、組織とか、軍隊も警察も武偵も、もちろんファミリアも。今、この世界を安定させている要因を全部ぶっ壊したいの」
「それが『世界をひっくり返す』……ですが、どうしてそんなことを? その先には何があるんですか?」
「うん? それはもちろん、その方が面白そうだからだよ? 整った状態よりも混沌の方が束さん好み。その状態にすることが目的ってこと。その先で悪人がヒャッハーする世紀末になるのか、それとも新しい秩序を生み出そうと善人が身を粉にして、大衆に使い捨てにされるのか……ポップコーンでも食べながら鑑賞してようかな♪」
あまりにも無邪気な笑顔にロキ・ファミリアの全員が息を呑む。
「神にでもなるつもりですか……」
「ならないならない! 束さん、ファミリアなんて作るつもりないもん!」
「ふむ……じゃがのう、具体的にはどうするつもりじゃ? いくら稀代の天才と言えど、世界をひっくり返すのは骨が折れるじゃろう?」
束の発明はどれも世界の常識を変えることが出来る。だが世界そのものを壊すまでは出来ない。ではどうやって?
「そこはホラ、冥途の土産としても大荷物になりすぎるからね。ひ・み・つ、かな?」
どさくさに紛れて手段まで聞き出そうとしたが、失敗してしまったガレス。
「でも、まあ、色々と考えてはいるよ? とりあえず……北の最果てに封じられている黒竜でも復活させてみようかな?」
その言葉を聞いた瞬間、風を纏った少女が飛び出していた。
――――――――――――――――――――――――――
そして要塞外周で待機している六課の所にも、束が現れていた。そしてロキ・ファミリアに語ったのと同じ目的を話した。
束はJS事件で六課と協力関係にあった。事件解決までの5ヶ月間一緒に過ごした仲だ。その衝撃はロキ・ファミリアを上回っていた。
「ごめんねぇ、六課のみんなぁ、ぜーんぶ、ホントなんだよ~……」
よよよ、と鳴きマネする束。
「JS事件は一緒に解決したじゃないですか!!」
「そうね。世界を混乱させることが目的なら、スカリエッティに協力してた方が良かったはず」
スバルの悲痛な叫びにティアナも頷くが、
「ああ~……ま、アイツ程度じゃあ、失敗すると思ってたしね。束さん、負け馬には乗らないんだよ~。代わりに、ISの宣伝材料にしちゃった♪」
本人が聞けば激怒するような一言をはっちゃける。
実際のところ、あの頃はシャーロックも健在だったため、どうあがいても失敗していたと束は睨んでいた。
「そんなら束さん、アンタのことは私達が捕まえる」
「出来るのかなぁ、はやてちゃん。君達程度で」
波紋のような目で見降ろす束。
「(束さんのことはある程度知っとる、なんて思わんほうがええな。あの眼のことも、全然知らなかった訳やし)」
束から発せられる威圧感は、当時感じたことの無いものだ。実力を隠していたのは間違いない。
「(この分だとロキ・ファミリアの方にも敵が出てそうやけど、合流は難しいなぁ)」
ロキ・ファミリアがいるのは束の背後にそびえるタワーだ。通してくれる訳がない。
「(睨み合ってても始まらへん!)なのはちゃん!!」
「うんっ!!」
「おわっと!」
神速の速さで展開されたバインドだったが、束はあっさりと回避する。
「なのはちゃんのバインドは固いからねぇ、捕まると大変かも?」
「アクセルシューター!!」
束の軽口に付き合うことなく、なのはは弾幕を展開する。それを避ける避ける。兎のように跳ねる束にはかすりもしない。
「IS組とティアナも援護して! なのはちゃんのバインドの隙を作るんや!!」
「「「了解!!」」」
ティアナの二丁拳銃、ブルーティアーズのビット、甲龍の衝撃砲が降り注ぐがそれでも当たらない。
「スバルとヴィータはこの隙にタワーに! ロキ・ファミリアと合流するんや!!」
「了解!!」
「おう!!」
機動力のあるスバル達が一気に駆け抜けようと力を溜める。
「あー、ダメだなぁ、せっかく束さんが遊んであげてるのにどこか行こうとするなんて」
弾幕によって数秒前にいた足場が粉々に吹き飛ぶような状況でも、束の余裕はなくならない。
「ふふ―――みんなー! 出番だよー!!」
「「「っ!?」」」
束の掛け声とともに、黒いゲートで5人の人物が転送されてきた。
タワーまでの道を塞ぐように立つその集団は、全員黒い戦闘服を着用している。
筋骨隆々な男、くねくねと体をくねらせる男、こちらに狙いをつけるように鋭い視線を向ける男、紅一点の女、そして明らかなリーダー格、髪に青いメッシュを入れた男だ。
「ようやく出番か、篠ノ之 束」
「うんうん、よろしくね~かっちゃん」
ぴょんぴょんと弾丸を避けながら、束は男に向かって両手を振った。
「ちょっと! ウチの克己ちゃんに色目使わないでくれるッ!?」
「よせ。あの兎はふざけてるだけだ」
その会話を聞いていたティアナが眉を寄せた。
「克己……? 大道 克己……? まさかNEVER!?」
「ティアナ? 知っとるん?」
「はい、以前、事件の資料を。某国で開発されていた生物兵器です。研究自体はすでにストップしていますが、今はその生き残りが傭兵として各地でテロを起こしています」
ティアナの説明に青メッシュの男―――大道 克己がニヤリと笑う。
「詳しいじゃないか、俺達について。だが……」
懐から白と青のライドウォッチを取り出した。
「こいつのことは知ってるのか?」
《ETERNAL!》