出されたお茶を目の前にしてカチンコチンに緊張してる2人。
綺凛はともかく、アインハルトは別に緊張するようなキャラでもない……ことはないか。普段見せている顔がクールなだけで実は天然だったりするんだよ。
「もきゅもきゅ」
「それで、今日はどうしたの? 2人揃って来るなんて」
このままでは一向に話が進まないと見越したアスナは、年長者として柔らかい声で問いかける。初めて会うこの2人にこの対応力はさすがの一言だ。
隣にはちょうど食後の散歩から帰ってきた耀が、お茶請けの饅頭を頬張っていた。もう俺達が食べる分がなくなりつつある。
「い、いえ。刀藤さんとは偶然会っただけで、一緒に来たという訳では……」
え、じゃあ、2人はそれぞれ別の理由があって家に来たのか。そういえばこの間も、何か話そうとしてたっけ。綺凛との決闘でうやむやになったけど。
「えと、その、私の話は大したことじゃないので、その、ストラトスさんから、どうぞ……?」
「私の話も、ほかの人から見ればくだらない話なので。刀藤さんからどうぞ?」
「いえいえ、ストラトスさんから……」
「刀藤さんから」
「……」
「……」
こっち見んな。
最初に話したくない、話しづらいのはよくわかったけど、こっちに助けを求めてくるんじゃない。
「じゃあ、綺凛から言ってみようか」
「えっ!?」
「言ってみようか」
「は、はい! そ、それじゃあ」
助けを求められてしまえばしょうがない。強引にでも話を進めてしまわなければ。
綺凛は俺たちは正面から見て、頭を下げた。
「夜月先輩、春日部先輩、この間はありがとうございました!」
「うん。あれから暴力は?」
「大丈夫です。手を振り上げても我慢してくれていますから」
「それは良かった」
ははは、よっぽど効いたんだな。それにしても意外とプライドがあるんだな、綺凛の伯父さん。
手を上げることを我慢してるって言葉に『良かった』で済ませるところとか、綺凛と俺の感覚はマヒしてるかもしれないけど。
「……で?」
「え?」
「や、それだけ?」
「はい、そうですけど……」
「真面目だね、綺凛は。そんなに気にしなくてもいいのに」
「そんなことありません! お2人は見ず知らずの私を伯父様から庇ってくれた上に私のことを気遣って下さいました! 本当に嬉しかったんです!」
耀、フォローするのはいいけどさ。
「お前はもう少し真面目になれ。俺の分まで饅頭食ってんじゃねーか!」
「ゴメン、つい。包み紙に少し残ってるからいいでしょ?」
こんな欠片で許してくれはないと思う。
「んで、アインハルトのほうは?」
ため息つきながら、黙って聞いていたアインハルトに話を振る。
実は綺凛に先に話してもらったのは、綺凛の場合、決闘の事後報告だろうと予想がつくのに対して、アインハルトが話す内容が全く予想できなかったからだ。や、全くってのは嘘だな。手合わせしてくれとかそんな感じかもしれない。
「私のこと、本当に覚えていませんか?」
「……どこかで会ってたりするっけ?」
だとしたら周りが見えてないどころの話じゃない。こんなに目立つ娘を見落としてたなんて。
「はい。一月ちょっと前の銀行強盗で」
「あー、あれか?」
俺がこの世界に来て初めての緊急クエストの時の、あの銀行強盗のこと言ってるのか? それはしょうがない。なんたって初めての事件だったし。
「それと、横の女性の方も、バスジャックの時にお会いしてますよね?」
「やっぱり! なんか見たことある子だなぁって思ってたんだよ」
バスジャックは武偵殺しのかな。あの時もパラドクスでフィーバーしててバスにはあんまり近寄ってなかったしな、しょうがない。アスナの方は覚えてたみたいだけど。
「それで、その時のお礼を言いに来た感じか?」
「はい、それもありますが……突然家まで押しかけて失礼なのは承知していますが、私と拳を交えてはいただけないでしょうか!」
突然の発言に固まる俺とアスナと綺凛。でも、頭の中にある疑問は俺と2人とでは違っているだろう。2人は決闘という言葉に。
「俺と戦いたいから、わざわざ家まで来たのか!?」
俺はどんだけバトルジャンキーなんだということに。
「い、いえ! 本当は刀藤さんと先輩が決闘した日に申し込もうと思っていたんです! それが……」
「はぅぅ、す、すみません! 私のせいで!」
「そ、そんな! 頭を上げてください、刀藤さん!」
立ち上がって腰を90度に頭を下げる綺凛におろおろするアインハルト。こういう相手に慣れてないんだろう。慣れてる方がおかしいか。
「それで、どうして翔君と戦いたくなっちゃったのかな?」
「翔は何の理由もなく戦う人じゃないよ」
アスナと耀がその場を収める。アスナはともかく、耀は俺の何を知っているのか少し疑問だよ。
「……そうですね。まず私のことを、少しお話ししましょう」
アインハルトのフルネームは『ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルド』。古代ベルカ時代の戦乱期、覇王と呼ばれたイングヴァルト王の末裔だ。
この世界、ラノベや漫画で昔にあった出来事は、無理のない範囲で元いた世界の歴史に混ぜられてる。
今回の古代ベルカ時代はその類のものだ。詳しい話は歴史の授業になってしまうから省くけど。
「私はただ覇王イングヴァルトの末裔という訳ではありません。先祖返りとして、身体的特徴として瞳の色、そして……記憶を受け継いでいます」
アインハルトは自分の左右で違う色の目の縁をなぞり、自分のことを語りだした。
――――――――――――――――――――――
「よいしょっと……あとは……あれかな?」
「うん、そうだね」
ヴィヴィオ、コロナ、リオは本棚の高いところにある本に目を向けた。ヴィヴィオは図書館内にある梯子を持ってくる。
アインハルトとのスパーリングであっさり負けてしまい、さらにアインハルトの辛辣な言葉で落ち込んでいたヴィヴィオだったが、今は再戦に向けて再び闘志を燃やしていた。
試合は来週末。それまでに猛特訓してアインハルトに自分の、本気の気持ちをぶつけるつもりだ。
とは言っても、この本棚がたくさん並んでいる場所、つまり図書館で格闘技の練習をするつもりではない。
今日はアインハルトの事、より正確にはアインハルトと自分のご先祖様について改めて調べに来たのだ。
「気を付けなよ、ヴィヴィオ!」
「うん!」
リオに元気よく返し、梯子に登って本を取る。取ったところまでは良かった。
「あ……っ!」
本に意識を向けながら降りようとしたために、足を滑らせてしまった。
梯子はそれほど高さがないといっても、頭から落ちてしまえば大怪我することになる。
ヴィヴィオはとっさに目をつぶるが、床にしては柔らかいものに落ちた感触がした。目を開けると1人の少女がいた。その少女の光を反射する金髪が巨大な手になり、ヴィヴィオが床に叩きつけられるのを防いでいたのだ。
少女―――ヤミは特に表情を変えない。
「大丈夫ですか?」
「ぇ……あ、はい! ありがとうございます!」
「……」
「ヴィヴィオ! 大丈夫!?」
「びっくりしたよ~」
「アハハ、失敗しちゃった……」
「もう、次からは気を付けなよ!」
起こってしまえば大事故も、起きなければ笑い話。
読書スペースのテーブルに座って本を開いた。
【古代ベルカ諸王国時代。それは天地統一を目指した戦乱の時代。『聖王女』オリヴィエや『覇王』イングヴァルトもそんな時代を生きた王である。この2人の王の関係は、現代の歴史研究においてもいまだ明確になっていない】
(『聖王女』オリヴィエ……私の元になった人)
実はヴィヴィオはお母さんのお腹から生まれた子供ではない。『聖王女』オリヴィエのDNAから作られたクローンなのだ。そんな偉人のクローンが作られるのにはそれなりの理由があるのだが、ここでは割愛する。
(そして、『覇王』イングヴァルトがアインハルトさんのご先祖様かぁ……)
ヴィヴィオは、ノーヴェに隠していて悪かったと謝られながら教えてもらったことを、頭で整理していく。
(ノーヴェの話だと、イングヴァルト王とオリヴィエ王女は仲良しで……でも戦争のせいでオリヴィエ王女が亡くなって、それをイングヴァルト王が後悔してる。アインハルトさんはイングヴァルト王の記憶を持ってるから……)
「……私の事、あんまり好きじゃないのかな」
「え? 何か言った、ヴィヴィオ?」
「何にも言ってないよ」
(それでも、全力でぶつかればきっと!!)
ヴィヴィオは暗くなりそうだった気持ちを消し去り、本をめくるのだった。
―――――――――――――――――――――――
覇王イングヴァルトが体験した悲惨な戦争。その記憶を持って生まれてきたアインハルトの中では、古代ベルカ戦争は未だに終わっていない。ベルカのどの王よりも、覇王と彼が作り出した
守るべきものを守れない悲しみを繰り返さない強さを手に入れる。そんな漠然とした目標を掲げ、名のある実力者達に次々と野試合を吹っかけていた。
「そして、ノーヴェさんにも勝負を申し込みました。結果は相打ち、でもありませんね。ノーヴェさんの最後の攻撃でふらふらになってしまった私は、その後に倒れてしまい……気が付いたらノーヴェさんのお姉さんの家で寝ていました」
この時アインハルトが捕まってしまったのは、ノーヴェさんは攻撃と同時に発信機をくっつけていたからだ。こう言ってしまってはアレだけど、ノーヴェさんのほうが何枚も上手だった訳だ。Vivid原作では単純な殴り合いではほとんど互角だけど。
「それで翔君とも、か」
「はい。ノーヴェさんとの約束なので、もう野良で試合を申し込むようなことはするつもりはありませんから」
「それで、どうしてそんなに緊張してるの?」
「だっ、男性の住んでいる家にお邪魔するんですよ!? 少しくらいは……」
……まぁ、筋は通ってるかぁ? アインハルトの俺への用事は2回助けられたことの御礼と、試合の申し込み。わざわざ家に来たのはノーヴェと、喧嘩屋まがいのことはもうしないと約束したから。もじもじしていたのは、男の住んでいる家を訪問したから。
でも、まだ何かありそうなんだよなぁ。
「それで、どうでしょうか」
「ん? ああ、してもいいよ。ヴィヴィオちゃんとの試合が終わったらな」
「……はい」
ヴィヴィオの名前を出すと露骨に顔の表情を消そうとしているのがわかる。きっと、表には出せないいろいろな感情があるんだろう。
「あの……一つ質問してもいいですか?」
「ん? どうぞ」
これで2人の用事が終わり、もう帰るだけかと思っていたところで、綺凛がおずおずといった様子で問いかけてくる。
「夜月先輩って、どんな訓練をしているのですか?」
「夜のプロ――いえ何でもありません」
アスナに睨まれて慌てて取り繕う。でも残念ながら嘘じゃないんだよなぁ。俺の一番効率いい特訓方法は、夜のプロレスごっこだよ。
「えーっと、ねぇ……」
特にこれといって特別なことはしていなかったりするんだよな。学校での基本的な体捌きの訓練と、ガチャの武器・能力だけでここまで乗り切ってきたし。
「走り込みとかやってますよね? どこを走ってるんですか?」
どうやらアインハルトも興味があるようで、俺のことをチラチラ見てくる。
「それより、先輩って剣(術)を使うんですね! どこで『連鶴』を習ったんですか? もしかして刀藤流の門下生に知り合いがいるんですか!?」
人が変わったように饒舌になる綺凛だったが、周りの目が集中していることに気が付き顔を赤くして縮こまる。
「す、すみません。私……っ」
「剣術、好きなんだな」
「は、はい!」
赤くなっていた顔をいっぱいに輝かせ答えるが、すぐに寂しそうな顔になる。
「私は剣以外、何も出来ませんから」
「そんなこと……」
「いいんです。本当のことですから。私は頭も良くないですし、ドジで間抜けで臆病で、家事だって満足に出来ません。でも、そんな私でも剣を握っている時だけは誰かの役に立てるんです。だから楽しいし大好きです」
確かな意思を感じる言葉だった。しかしその言葉に、正しいと信じている意思は無かった。
「それに私には叶えたい、叶えなくちゃいけない願いがあります」
「ちなみにそれは?」
「父を助ける事です」
綺凛の父親は今、刑務所にいる。綺凛が小さいときに通り魔に襲われ、返り討ちにして殺してしまったのだ。正当防衛が働いてもおかしくなかったが、剣術の大家である刀藤家の人間だということが裏目に出てしまった。
結果、今なお刑務所暮らしをしている。
そうそう人には話さないであろう話題だ。その場の空気か、俺が間髪入れずに自然に先を促したからか、はたまた俺たちのことをそのくらいは信用してくれているのか。
「そのためにあの人の言う事を聞いてるって訳か?」
「伯父様はとても有能な方です。剣以外無能な私と違って、お金も人脈も持っています。私が伯父様の言いつけを守っていれば、お父さんの罪をなくすこともできると言ってくれました。私一人では絶対できなかったことです。伯父様には感謝しています」
「出世に利用されても?」
綺凛のためを思っての行動なら、あんな風にきつく当たったりはしない。あれは伯父と姪の関係というよりは―――
「私は自分の願いを叶えるための道を示してもらう。伯父様はその過程で相応の利益を得る。だから、これは対等な取引なんです」
「……あんなのは取引なんて言わないと思うけどな」
諦めきった声色で喋りきり、顔を伏せてしまう綺凛。
2人ともそんなに大したことない話って言ってたのに、自分の背負込んでるものぶちまけるのは勘弁していただいてよろしいですかね。いっぺんにやってこられると、こちらにも限界がありますよ?
重い沈黙を破ったのはやっぱりアスナだった。
「そういえば翔君、訓練相手がいないなーって言ってたよね?」
「え?」
―――――――――――――――――――――――
朝。まだそんなに気温が上がっていない時間帯。今までより1時間早く起きた俺はトレーニングウェアを着て玄関扉に手をかけた。
まだ寝てる娘もいるから静かに動く。アスナに見送られ、俺ともう1人は歩道を歩きだす。
もうわかってるとは思うが、アスナがこれの発案者だ。わざとらしく『誰か翔君の練習相手になってくれる人はいないかなぁ~』なんて言ったんだよ。後は分かるだろ?
綺凛が速攻で食いついて、そのあとアインハルトも、って具合に早朝訓練が企画された。これで俺の睡眠時間が削られることになる。
「耀もついてくるんだな」
「うん。○○公園でしょ? 友達が早起きだから私も会いに行く」
「友達って人間じゃ……?」
「ないよ。昨日会った鳥」
散歩で早速友達を増やしてたんだな。
「ん? どうしたの?」
「や……耀は、ここではうまくやっていけそうかなって思ってさ」
「大丈夫だよ。みんないい人だから」
俺たちは他愛無い話をしながら、待ち合わせしている○○公園に向かった。そこにはすでに先客がいた。
「おはよう、アインハルト」
「おはようございます、夜月さん、春日部さん」
アインハルトは軽く頭を下げてくる。結構早く来て体を動かしていたのか、うっすら汗をかいている。
「私は友達に会ってくるね」
「ほいよ、行ってらっしゃい」
耀は茂みの中に消えていく。
「……」
「……」
「今日からよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
話題がなくてつらいよ。
「ごめんなさい! 遅れてしまって!」
そこからしばらく待っていると、綺凛が息を切らせながら走ってきた。ついでに耀も、草むらから飛び出してきた。お前はポケモンか。野生の耀が飛び出してきたのか。
「翔! 離れて!」
俺は綺凛とアインハルトを抱えて後ろに飛んだ。
耀が飛び出してきた草むらの方を見ると、
「え、何、あれ?」
地面についている足は2本。退化したような前足を幽霊のように垂らし、それなりに長い尻尾、鋭い歯が並んでいる爬虫類系の顔。
一言で言うと、小型の恐竜みたいな生き物だ。そいつが3匹並んでいた。
「おいおいおい、友達ってのは鳥じゃあなかったのか? ここはジュラシックパークじゃあないんだぜ?」
「分かんない。少なくともあの子は、昨日までは鳥だったよ」
「昨日まで鳥? そいつはどういう?」
そこで、ある可能性が頭をよぎった。昨日までは鳥だった、そいつが恐竜に変わっている。つまり生物が恐竜に変わっている。
「スケアリー・モンスターズ……ッ!?」
敵を理解した途端、全方向から嫌な気配を感じた。見事に恐竜に囲まれてしまっている。
「ホント休ませてくれないな。また覚悟を決めないといけないのか」
「チュミイイイィィィィン!!」
俺に答えるように、
―――――――――――――――――――――
(この目)
アインハルトは翔に抱えられたままという恥ずかしい格好なのを完全に忘れていた。
(今まで戦ってきたどんな人とも違う)
強くなりたい。そう思い強者との戦いに身を置いてきたアインハルトだったが、ここ最近『何かが違う』ような気がしていた。自分はそこで足踏みしているだけで、前に進んでいないような感覚だ。
そんな時、アインハルトは翔に出会った。正確には片方が一方的に知り合ったのだが。
力の強さではない何か。言葉では言い表せないような何かを、翔の中に感じた。
(この人なら私を『次』に……ッ!!)
授業も残り少なくなってきたということで、提出物が発生してきました。次回も投稿が遅れる可能性があります。いえ、遅れます。
これを乗り切ったら次はテストがあるので。また遅れます。ごめんなさい。
ちなみにスケアリー・モンスターズの本体は綺凛の伯父さんではありません。2人はいいところの血統ですからね。いい血が取れるでしょう。