「こ、んのぉぉぉっ!!!」
「うぉおおりゃあああ!!」
スバルのリバルバースパイクとメタルドーパントの鉄球がぶつかり合う。何度も繰り返された光景だ。
「くっ、突破できない……! わっ!?」
「スバル!! 焦って前に出ない!! っ、アンタもっ!! アンタの相手はこの私よ!!」
スバルははやてに言われた通り、何とか包囲網を突破してロキ・ファミリアのいる塔までたどり着こうとしていた。
だが、道の真ん中にはメタルドーパントが立ちふさがり、強烈な鉄球を振り回していた。
それを援護するのはトリガードーパントだ。次々と射撃ポイントを切り替え、嫌なタイミングで嫌な場所に弾丸を打ち込んでくる。
「(マズい、混戦になる……っ、ここで1対1にされたら敵の思う壺なのに……っ)」
「それはアンタもでしょ。考える隙なんて与えないから」
「ッ!! 」
ティアナは各所に、特にトリガードーパントを自由にさせないように撃ち合うが、ヒートドーパントに執拗に追い回されてそれも叶わない。
すでに数で負けているこの状況。しかもNEVERは全員手練れで連携もハイレベルだ。
メタルドーパントが合流のための道を塞ぎ、ルナドーパントが兵隊を出してかく乱。ヒートドーパントとエターナルが遊撃し、全体をトリガードーパントが援護する。
こちらの戦力はティアナ、スバル、雪菜、桜だ。
はやてとヴィータはウェザードーパントに。なのはとIS組は束と
見事に分断されてしまった。
はやてからは、
《ごめん、ヴィータが挑発されて頭に血ぃのぼってしもた!! 私はヴィータのサポートするから、ティアナはそっちをお願い!! なのはちゃんは空で手いっぱいそうやし!》
と、指揮権を委譲されている。
とは言いえ、
「流石にキッツいわね……」
4人とも実力者ではあるのだが、相手が悪かった。
「さあ来い。遊んでやる」
エターナルはナイフを持ったまま両手を広げて挑発する。が、そんな挑発に乗る雪菜と桜ではない。
しっかりと自分の間合いを確認しながら、2人で挟み込むような位置に移動。
「はっ!!」
雪霞狼の銀閃が繰り出された。一撃目をマントでいなされるのは霊視で見た通り。続く刺突、横なぎ―――
「嫌な場所を攻撃してくる。未来でも見えてるのか?」
「っ!!」
下手な大技ではない。軍隊仕込みのナイフ捌きは的確に相手を殺すための動きだ。未来を見て攻撃する雪菜と同等以上の体術。人体の急所を狙うナイフを紙一重で避けながら、攻撃を重ねる。
「雪菜さん、下がって!!」
「むっ!?」
エターナルは襲い掛かる影の刃をナイフで逸らし、体を捻ることで回避する。
「鋭い攻撃だ。迷いもない。年の割にやるじゃないか」
一撃ももらうことなく着地するエターナル。その様子に内心冷や汗をかく2人。
「(2人がかりでコレですか……)」
「(1人でも欠ける訳にはいきませんね……)」
2人は懐にあるベルトの存在を意識し始めていた。
そして、問題のウェザードーパント。その場所だけ天候がおかしくなっていた。
局地的なスコール。視界の確保にも苦労しそうなほどの豪雨が降り注いでいるのだ。
「アイゼンッ!!」
そんな雨の中、巨大化させたハンマーを振り回すヴィータ。目標は言うまでもなくウェザードーパントだ。
強烈な威力を誇る一撃だが、大雨のせいかだいぶスローに見える。ウェザードーパントには当たらない。
「はっ!!」
ハンマーを振りぬいた無防備なヴィータに向かって、大雨を降らせている真っ黒な雨雲から複数の落雷が落ちる。が、
「―――ふむ、流石に硬い」
はやてが張った障壁には傷一つつけることは出来なかった。はやては今この場で、言葉を持ってヴィータを落ち着かせるのは難しいと判断し、サポートに徹しているのだ。
鉄槌の騎士であるヴィータは防御を考えず、ひたすらに攻撃を叩き込むのだ。
「(井坂先生には個人的に思う所はあるけど……どちらにせよ、倒さなアカン相手なのは間違いない。話するのは一回倒してからでも遅くない)」
はやてが考えている間にも、ヴィータが思いのたけをぶつけながら、ウェザードーパントに猛攻を加える。
「アタシ達の家族に、よくも……ッ!!」
「あの時はまだ八神家の養子ではなかったのでは? ……まあ、家族と言いはるのなら、その家族の異変に気付かずに、あわや命を落とす寸前まで事態を進行させてしまった……主ともども無能という事になりますが」
「……っ!! 許さねぇ、絶対に許さねえからな……!!」
「その怒りは筋違いですよ!!」
強烈な突風に吹き飛ばされ、はやての近くまで後退するヴィータ。
「ああ、そう言えばあなたは、カビの生えた古臭い魔導書の守護騎士でもありましたねぇ。下らない使命に縛り付けられて、ご苦労な事です。もっとも、自らの家族すら守れない騎士に存在意義があるのかは分かりませんが?」
「~~~~~っ!!!!」
「ヴィータ!! ……井坂先生。もしかして先生も、闇の書の被害に?」
「いえ別に? これはただの、私から見た感想ですよ」
「……そうですか」
怒りのあまり頭の血管すら千切れそうになるヴィータ。窘めるはやてだったが、その内心はヴィータと同じく怒りに燃えていた。
はやての持つ魔導書『夜天の書』。昔は『闇の書』と呼ばれ、悲劇の引き金にもなった。闇の書が原因となり、たくさんの犠牲者が出た事もあった。
幼少期、なのは達の協力もあってその呪いからは解放されたのだが、闇の書の被害者は現代でもたくさん生きている。
名前が変わった程度でその怒りや無念がなくなるわけがない。
はやては『夜天の書』の主として、直接の被害者からはいくらでも批判を受ける覚悟がある。
『闇の書のせいで大切な人が死んだんだ』そう唾を吐かれても、頭を下げて謝罪の言葉を紡ぐ覚悟が。9歳で決めてから、ずっとそうしてきた。大切な家族のためだ。
だが、何の関係も無い人が、悪意を持って攻撃してくる相手にまで真摯になれるほど、はやては大人ではなかった。
そしてウェザードーパントは明らかに悪意を持って嘲笑してきていた。
「(絶対に許さへん。けど……)」
はやては周りを見回す。
「(私達が戦力を分散させたことで、各個撃破しようと思ったのか。それともロキ・ファミリアの方にも、同等の戦力が配備されとるのか)」
篠ノ之 束ならどうするか。
「(束さんなら、そんなみみっちいことはせえへんな。確実に、向こうにも同じだけの戦力が配備されとる)」
つまり、このまま戦えば部隊は大損害を被ることになる可能性が高い。早急に合流して戦力を集中するか、撤退を意識した戦い方をしなければ。
「(だからこそ、向こうにいる翔君が何かしらのアクションをするはずや。『そういうこと』になっとる。向こうのみんなも、それは分かってる。ヴィータも、分かっとるよね)」
「(ああ。分かってるさ―――ッ!!)
念話で聞くヴィータの声は、はやてに諫められたからか少しだけ冷静になっていた。
まずは戦況の確認。合流できるならするし、無理そうなら場合によってはフィンが言っていた通り、六課だけでも脱出することを考えなければいけない。
この場の調査隊には、どんな犠牲を払ってもこの場で起きたことを島に、世界に伝える義務があるのだ。
「(そのためには、まずは向こうの情報や。翔君、頼んだで……!!)」
そんな戦闘を繰り広げる中、サイコガンダム達のビームが降り注ぐ。
元は空中で戦闘を続けるなのは達を狙ったものだが、全身からあらゆる方向に放たれるビームは周りのビルを貫通し、瓦礫の山に変えていく。
「もう! あのデカブツ! 敵味方お構いなしじゃない!!」
サイコガンダム達が崩したビルの瓦礫に埋もれていたルナドーパントが、ぷりぷり起こりながら腰を揺らす。
「まったく、無茶苦茶やりやがる」
それは地上で戦っているエターナルが達にも平等に降り注いだ破壊の雨だ。
「お前達も無事だったようだな」
「当たり前です……!!」
「このくらいで……!!」
ビームの雨に巻き込まれながらも戦闘続行の意思を持つ雪菜と桜に、エターナルは笑ってメモリを取り出す。
《FANG》
《MAXIMUM DRIVE!》
ベルトのスロットに挿入し―――
「やらせない……!!!」
ガイアメモリの使い方は翔に説明されて分かっている桜は、マキシマム発動前にと影の刃を放つ、が。
「―――!!!」
そのすべてが、火花を散らして明後日の方向に反らされた。そのままの勢いで、地を駆ける猛獣がごとく、桜に肉迫するエターナル。
「雪霞―――」
「遅い……ッ!!!」
とっさに間に入る雪菜、その雪霞狼を弾き飛ばし、全身に生えた
「う、ぐ……っ!!」
「気を付けるんだな。俺も、この戦意の向上は抑えられない―――!!」
鮮血が飛び散り、雪菜の制服が赤く染まる。
――――――――――――――――――――――――――
「(強い……)」
目の前の老剣士に対して、アイズは素直にそう思っていた。
幼い頃、それこそ齢一桁のころからフィンやリヴェリアと言った猛者に手ほどきを受けていたアイズは、同年代の中でも指折りの剣士に成長した。
それは剣姫という二つ名も証明している。
だがそれをもってしても、目の前の老剣士には何一つ及んでいないと分からせられてしまう。
「うげっ!? マジ!?」
超重量、超質量を誇るティオナの武器
「ッチ。クソッたれが……」
ベートですらも踏み込みに躊躇していた。自慢の脚撃も、今は逆に切断される未来しか浮かばない。
それほどまでに、目の前の老剣士は強かった。
「ねえ、ここは3人で同時に攻撃するしかなくない?」
「それしかないと思う」
「……テメェの提案に乗るのは癪だがな」
破損した武器を捨てたティオナの提案にアイズとベートが頷く。
自分たちの後ろには新しく転送されてきたハイレインとエネドラがいる。棘や誘導弾を使っていやらしく本隊を削りる彼らのことも、早く撃破したい。
だが目の前の老剣士に背中を向ける選択肢はなかった。その瞬間にやられる確信がある。
ならば目の前の老剣士を撃破し、仲間の救援に向かうしかないのだが。
「ふざけやがって……まだ来るのかよ……」
ベートの呟きには軽い絶望が混じっていた。
今度は老剣士の後ろに新たな人物が転送されてきたのだ。
「おいおい、もうおっ始めてやがんのか?」
「あ〜、遅いんじゃない? 向こうも始まってるよ?」
「だったら、すぐに知らせて欲しいもんだな」
束と対等にしゃべる人物。血のように赤いワインレッドの体に、コブラの意匠が施された胸元。そして、どうしようもない強者の空気。
翔がこの場にいれば絶望と共に、生唾を飲み込んでいたであろう―――ブラッドスタークがそこに居た。
ブラッドスタークがアイズ達を見据える。
「いいね」
「何が?」
「あの子娘だよ。アイツだろう? ウォッチが渡されてるのは」
「らしいね。アナザー響鬼だったっけ? ってか悪い顔してるね~」
「ええ? 変身してるんだから顔は分かんねぇだろぉ?」
敵の前で談笑する2人。その間アイズ達は、その場を動けなかった。
「でもまあ、聞いてた通りだな。復讐に狂ったお姫様……弄りがいがありそうだ」
愉悦を含ませて、ブラッドスタークが笑う。
「……っ」
「アイズ、大丈夫……?」
「……平気だよ」
背中に粟立つものを感じながらもそう返す。ベートはブラッドスタークに対して殺意を滲ませる。
「そんなに睨まないでくれよ、ベート・ローガ。今の俺じゃあ、お前に蹴り転がされるのが関の山だ」
「クソがッ、今すぐそうしてやろうか……!!」
くくく、と笑うブラッドスターク。ベートから視線を外し、
「あー、アイズ・ヴァレンシュタイン」
「……何?」
「目の前のコイツ、邪魔だろ? 早く倒して後ろの奴らを助けに行きたいよな?」
「……弱点でも、教えてくれるん、ですか?」
会話で情報を引き出す。フィンがいつもやっているように、たどたどしくだがセリフを繋げていく。
「弱点? んー……おい束、コイツに弱点なんてあるのか?」
「知らなーい」
だが相手が悪かった。適当な言葉で相手を煙に巻くのはブラッドスタークの常套手段だった。ティオナもベートも舌戦には弱い。だからこそ、ここはブラッドスタークの独壇場になってしまった。
「相手の弱点なんかに縋るよりも、もっと確実なもんがあんだろう? お前がもっと強くなればいい……ああ、それが出来れば苦労はしないって顔してるな? だがそんなに難しい話じゃあない―――そう、お前の持ってるウォッチだよ」
「ウォ、ッチ……?」
「懐中時計みたいな奴だよ。持ってんだろう?」
何時だったか拾ったモノで、拾ってからは鍛錬が想像以上の効果を発揮した。そして、いつしかお守りのように持ち歩くようになったモノ。
リヴェリアにはただの玩具と判断されたそれの存在感が、懐で増す。
「これ、が……」
「乗んじゃねぇぞ」
「そうだよ! 敵の言う事なんか……!」
ベートとティオナが鋭い口調で遮るが、ブラッドスタークはなおもヘラヘラとした口調で言葉を紡いだ。
「ふっ、意地を張るのは結構だがなぁ……今のままじゃあどうすることも出来ないのは分かってるだろう? 仲間が弄り殺されるのを、指をくわえて眺めてるのか? それとも、都合の良いヒーローを待つのかい? 戦姫?」
「ッ!!?!?」
奥歯を噛みしめるアイズ。
自らの過去が思い出される。
誰も助けてくれなかった。
自分が苦しいとき、誰も。誰も助けてくれなかったのだ。自分の元に
だからこそ、アイズは剣を執った。自分自身の手で、自分の運命に決着をつけるために。
そして、なにより。
「(みんな、を、
両隣で何かを叫んでいるようにも思うが、それに応える余裕はない。
懐から取り出したウォッチ。それを、
《HIBIKI》
鬼の力を解き放った。