「あらら、綺麗に抜かれちゃったねぇ」
大穴を開けられたタワーの外壁を見ながら、束は呑気に呟いていた。
「はーい、2人とも、戻ってきて~」
束は黒いゲートを出現させ、はるか彼方に吹き飛ばされていたルナドーパントとメタルドーパントを呼び戻した。
「っ」
現れた敵に、攻撃してたアスナも一旦停止する。
「もうっ、乙女に向かってなんてことするのよぉ!!」
「油断したな……」
2人共、まんまと翔にしてやられたことに憤っている。
「まぁまぁ。過ぎたことはしょうがないって! ここは後ひと踏ん張り、頑張っていこー!!」
おー!! と拳を空に突き上げる束を(ルナドーパントすら)無視して、戦闘態勢を取る。
「……それで博士? 私達は博士の護衛に着けばいいのかしら?」
ルナドーパントが投げやりな調子で聞く。克己に色目を使っている(と思い込んでいる)ルナドーパントにとって、束は面白くない相手なのだった。
それでもやるべき仕事は完遂する。
今、束を守っていたサイコガンダムは撃破されている。地上にはアスナ、上空からはなのは、セシリア、鈴が狙っている状況だ。
流石に篠ノ之 束と言えど、厳しいのではないか。そう思っての言葉だったのだが。
「あ~、だいじょぶだいじょぶ。束さんのことは気にしなくても。適当にするから。それよりも、これ以上突破されないようにした方が良いんじゃない? ほら、来てる来てる」
「ムッ!? ウォォォオオオッ!!!」
「わわっ!?」
どさくさに紛れてタワーに向かおうとしていたスバルを鉄球で牽制するメタルドーパント。
「流石にこれ以上突破されるのは厳しい、かもしれないからね。そう考えて動いてね? さっきの攻撃のダメージはあるかもしれないけど」
「……はいはい。分かりましたぁ」
「フン……」
2本の触手をぷるぷる振って、兵隊を呼び出すルナドーパント。鼻を鳴らして先ほどと同じく道の真ん中に陣取るメタルドーパント。
戻ってきたとは言え、2人にはしっかりとダメージが入っていた。動きが重くなっている。
その姿を見て束は思う。
「(流石、自信満々だっただけはあるね~。彼が来ただけでここまで盛り返されるなんて。克己ちゃんの方も何だかんだ拮抗してるし。ああ~、タワーの方も大変そうだなぁ。ブラッドスタークも遊びすぎだよ~。あ、束さんが言えたことじゃないか)」
その間も、
「はいはい、おいでおいで~」
食人花の魔物を呼び出し、サイコガンダムの2機目、3機目を召喚する。
「ハッ!! そんなの、何機出したっておんなじよ!!」
「いやいや、馬鹿じゃないんだから設定は変えてるって」
再び出て来た巨体に対して果敢に攻めかかる鈴だったが、先ほどとは動きが違った。懐に入られるのは前提で、しっかり防御も固めていた。
「いろんなパターンがあるから飽きないと思うよ~」
先ほどはなのはの砲撃を考えた行動パターンだったが、今度は鈴の近接戦を想定したパターンにしている。
「(とは言っても、サイコガンダムじゃバルバトスは倒せないだろうけどね。ナノラミネートアーマー厄介だなぁ。こっちも出しちゃうかぁ? ハシュマルを)」
ストックはまだまだいくらでもある。出そうと思えばまだまだ手札は尽きない。
「(本当は1人、2人殺してもいっかなぁって思ってたけど……ま、このまま続けて逃げ切れるなら、今回はそっちの勝ちってことでいっか。『六課とロキ・ファミリアが何も出来ずに逃げ帰った』でも世界に対しての宣伝としては十分だしね)」
全員帰ってこなかった、でも十分に脅威を伝えることにはなるのだが、やはり実際に口や映像で伝えられた方が伝わりやすいだろう。
六課とロキ・ファミリアには、束が無視できない脅威となったことを全世界に知らせてもらわないといけないのだ。そうでなくては面白くない。
「(さてさて向こうの束さん。そっちもいい感じにしてよ?)」
視界を共有しているタワーの束に、特に能力を使うでもなく思いを馳せる。
自分ならそう考えると確信していたからだ。
―――――――――――――――――――――
「……取り逃したか」
風穴を開けられるタワーを見て、悔しさをにじませるトリガードーパント。すべての原因は、
「―――ッチ!!」
鉄槌のように振り降ろされる脚撃。身を潜めていた住居のベランダがぶち抜かれる。その相手がまるで『見えない』。
「まるでジャングルで獣を相手にしているようだな……」
味方の支援が出来る状態ではない。このままでは自分の役割を果たせない。早急に敵を倒さなければいけない。
「相手が獣だと思えば、やりようはある」
プロの傭兵として、魔物や野生の獣を相手にした事は何度もあった。その経験を生かす。
「そこかッ!!」
虚空に向けて放たれる弾丸。そこに居た透明のナニかが確かに回避した。
「危ない危ない」
姿を現す耀。今まで透明に―――否、周囲の環境の色と同化して、トリガードーパントの行動を阻害していたのだ。
「
バイオグリーザは仮面ライダー龍騎に登場する、仮面ライダーベルデの契約モンスターであり、カメレオンの特徴を持っている。
緑色の体にフィットするボディスーツは、
だが、いともたやすく発見されてしまった。
「凄いね。プロって奴?」
「……」
耀の問いかけに応えず、トリガードーパントは銃口を向ける。
「この失態は、お前の命で償わせてもらう」
「出来るんだったらね」
―――――――――――――――――――――
俺(分身)は雪菜、桜、と共にエターナルと向き合っていた。
転移魔法ははやてさんに任せるとしても、ここの安全を確保しなければいけない。本体がタワーに向かったのなら、俺はエターナルを押さえなければいけないのだ。
そして当のエターナルは、何処かと通信していた。
《あ、克己ちゃん? 多分だけど夜月 翔は悪魔の実を食べたっぽいんだよね! だから海に落とせば良いと思うよ!!》
「海? ここは空だぞ?」
《そうだったね! なければ大量の水でも可だよ!!》
「話を……いや、なるほど、海……水か。なら―――コイツだな」
《OCEAN》
《MAXIMUM DRIVE!》
爆発的に生み出される海水。それが津波のように通路を満たしながら押し寄せてくる。
「ヤベェ!!」
慌てて飛び上がる俺。雪菜と桜も各々回避している。
分身が海水に呑まれると身動きが取れなくなるだけでな済まない。体の自由が利かなくなり、魔法も満足に使えなくなるのだ。つまり影分身の維持も出来なくなる。
本体であれば、
「その慌てよう、篠ノ之 束の言ったことは当たりだったわけだ」
「エターナル……!!」
海を用意できるのは頭から抜けてたな。洪水か津波かという量の水を従えている。ここが空の上だったことを感謝するべきだな。じゃなかったら、自然の海も従えていたはずだ。
「エターナル!! お前の目的は何なんだ!! どうして篠ノ之 束に協力する!?」
仮面ライダーエターナル、大道 克己は仮面ライダーWの映画に登場したダークライダーだ。
この世界の大道 克己もNEVER―――死者蘇生兵士である。
特徴として生前よりも向上した身体能力に、銃弾や炎など単純な物理攻撃では活動停止することはない高い耐久力。そして『死』そのものへの恐怖・忌避感の喪失などが挙げられる。
もちろん代償は大きい。死者蘇生兵士、と銘打っているものの、その実態は死体を『細胞維持酵素』という特殊な物質で無理やり動作させているに過ぎない。
定期的に投与しなければたちまち元の死体に戻ってしまうのだ。
さらに劇中では、『細胞分解酵素』というモノも登場しており、それを投与されると維持酵素が機能を停止してしまう。
そして、一番の問題だが、たとえ維持酵素を完璧なスケジュールで投与し続けたとしても、生前の記憶や人間らしい感情が少しずつ失われ、やがて人の心を失った残虐な悪魔となってしまうのだ。
この世界の彼がどのような人生を送ってきたのかは分からない。だが原作の彼は―――少なくとも記憶の多くを残した状態では―――彼なりの信念を持ったダークヒーローと言える男だった。
それがなぜ。もしかして、すでにその時期は通り過ぎてしまったのだろうか。
「戦場でそんなことはどうでも良いだろう? 俺はお前の敵、お前は俺の敵。それで十分だ!!」
巨大な波を操り建物ごと俺を飲み込もうとするエターナル。俺はエクシアを装備して空へと逃げる。
「話し合いは無理ってことか。ま、想定通りだよな」
「フン、空へ逃げるか。ならば」
《BIRD》
《MAXIMUM DRIVE!》
次なるメモリ、バードメモリを使って空へ飛び上がってくるエターナルに、俺は応戦するのだった。
――――――――――――――――――――――――――――
「はやてさん!」
「翔君!!」
俺(分身)ははやてさんと合流した。目の前には、
「ウェザーか……」
「おや、一目で気が付くとは。やはり彼の言った通り、顔を合わせなくて正解だったようですねぇ。でなければ一目見られただけで、疑いをかけられていたでしょう」
ヴィータさんの攻撃を捌くウェザーは、俺を見てそんなことを呟いていた。
「あの怪物―――井坂先生は、藍子の担当医だったんよ」
「えっ!? そうだったんですか!?」
初めて聞く情報に驚く。束さんのラボにいる間、流石に詳細な会話までは聞こえていなかったからな。
「ん、それで、ウォッチのことも全部仕組んでたって」
「そう、だったんですか……」
となると、やはりウェザーもあの男と繋がっているのだろうか。束さんが持っているアイテムの数を考えると、ゾンビが残した遺産だけとは考えにくいもんな。エターナルだけじゃなくて黒トリガーを何本も持ってるし……
「ま、それは後で考えるとして」
「そやね。脱出のことを第一に考えんと」
「ここは無理は禁物ですね」
俺が合流したことで、雨の勢いが増していた。
豪雨による雨音は、些細な音全てをかき消す音のジャミングだ。視界も悪い。ちなみに、豪雨とは言え雨程度なら、悪魔の実の呪いが発動することはない。
空中要塞の一角だけを覆う雨雲。その隙間からはゴロゴロという不吉な音も聞こえてくる。
雷、か。
これは、あのセリフを言うチャンスじゃないか? 俺はその場で足を開き、右こぶしを地面に押し当てる。ゴムの特性を生かした足がポンプのように血管を絞り上げ、血流を加速させていく。
「ふー……っ」
ドクンドクンと、ゴムゴムの実を食べる前ではありえなかった、ジッとしているのに際限なく心臓の鼓動が速くなっていく感覚。
それが最高潮になる―――その前に黒雲がピカリと光る。
「翔君!?」
「おまっ、モロに!?」
「フム……?」
俺に向かって雷が落ちて来た。
はやてさんとヴィータさんが焦っているが、ウェザーは首をひねっている。おそらく、いくら何でもモロに受け過ぎだと思ったんだろう。
「大丈夫です。雷は効きませんから。何せ、今の俺は―――」
だが、その中心地にいる俺はぴんぴんしている。
「――ゴムですから」
俺は身体から蒸気を吹き出していた。何なら体温が上がったことで体も少し赤くなっている。
「ゴムゴムの―――」
ウェザーにまるで照準器のように掌を向けている。
「JET
「ッ!?!?!?」
全く正確に頭を撃ち抜かれたウェザーは縦回転しながら建物に突き刺さった。
俺がウェザーの、割と唯一の弱点だと思っているのはスピードだ。本編でもアクセルトライアルのスピードには全く対応できていなかったからな。
「レプリカ、向こうはどんな感じだ?」
「現在、アナザー響鬼と交戦中だ。ベート・ローガ、ティオナ・ヒリュテと共に戦っているが……拙いな」
「マジか……ん? なんでアナザー響鬼と戦ってるんだ? アイズさんが変身してるのに」
アナザーライダーと言っても、変身した本人の意思が消える訳ではない。
耀が変身したアナザーオーズのように、大量のセルメダルで暴走していたならともかく、アリアが変身したアナザーWやユウキが変身したアナザーゴーストにはちゃんと本人の意識があった。
響鬼に、そんな暴走するような要因があったか……?
「原因は分からない。壁を破った時点ですでに、周りに対しても剣を振っていた」
「うむむ……ま、後は本体を信じるしかないな。合図があったら、こっちもすぐに転移の準備をしよう」
瓦礫をかき分けて立ち上がってくるウェザードーパントを見ながら、思考を戦闘に向ける。
「驚きましたよ。ゴムとは。体を伸び縮みさせる能力をそのように呼称しているのか、それとも本当に体がゴムになっているのか。雷が効かないところを見ると後者でしょうか?」
痛い痛いと殴られた頬をさすりながら、おどけている。
「まったく、ふざけた能力だ」
今度は温度が急激に下がってくる。
「冷たっ!!」
豪雨はいつの間にか雹に変わり、その雹が着弾した場所が凍り付いていく。
俺はたまらず魔法を使う。
「ラシルド!!」
「翔、あまり魔法は」
「分かってるって!」
本体から分割されている魔力が尽きると、分身は消滅してしまう。でもダメージを受け過ぎても消えてしまうのだ。その塩梅が難しい。
「このまま、のらりくらりとやらせてもらいたかったんだけどな……!!」
倒せるなら倒してしまっても構わないのだが、一番の目的は撤退だ。
「合図があったらすぐに撤退できる、って状態にしておかないとだな」
氷弾が降りしきる中、俺は再び、ポンプにした足で血液を送るのだった。