そしてちょっと短いです!
時は少しさかのぼり、翔がこの空中要塞に転移してきた頃。
《HIBIKI》
「っ!?」
アイズが響鬼ウォッチを起動させる。
その瞬間、アイズの体が紫がかった炎に包まれた。衣服を焼き、その体を変化させる炎だ。
「ううぅ……ああァァッ!!」
炎の熱さから逃れようと手を大きく振ると、体にまとわりついていた炎が一緒に消えた。
「あ、れ……?」
自分はどうなったのか。全く分からない。混乱しているのか、頭がうまく回らない。
「ア、アイズ? それって……」
「クソが、どうなってんだよ……!!」
「?」
ティオナとベートが恐怖を混ぜた声色で名前を呼んでくるが、アイズ自身にはその理由が分からない。
とりあえず炎に包まれたことで落としてしまった愛剣を拾おうとして、アイズは初めて異変に気が付いた。
「え……?」
剣を拾おうとした右手。その手が自分のものではなかったのだ。否―――認められなかっただけだ。こんな、怪物のような手が自分の手などと、認められなかったのだ。
だが、自分の思い通りに、繊細に動く指。もしやと思って見た左手も同じ形になっていた。
「こ、れ……私……!?」
拾っていた剣を再度落としてしまう。地面に落ちた刀身に、今の自分の体が反射した。
まさに鬼武者。鬼の面をかぶった異形だ。
「(自分が、怪物になった? あれほど憎んでいた怪物に? いや、憎んでいた怪物とは違うの? でも、これは、怪物の手で……!!)」
突如として混乱の極致に誘われるアイズ。あれほど憎んでいた怪物。それに、姿だけとはいえ、自分も同じになっている?
そんなアイズに
「ああ、そうだ。こういうべきなのか?」
「おめでとう。今日からお前が―――アナザー響鬼だ」
「―――」
「どうした? せっかく手に入れた力だぞ? その力を使って、大切なファミリアの仲間を助けるんじゃないのか?」
『ファミリアの仲間を助ける』。その一言がアイズに一欠片の正気を取り戻させる。残った不安は今の危機的状況を打破するという一念で忘れることに成功する。
異形と化した手で剣を執り、目の前の老剣士に斬りかかった。
「(す、ごい……)」
一合撃ち合っただけで、否、その前の踏み込みの時点で、元の自分との違いを理解出来た。
全く力負けしない。知覚することも出来なかった浮遊するギロチンも、今では意識して回避出来る。
それは今まで何度か感じた感覚。レベルアップした直後の、別の段階に到達した自らの器を体感している気分だ。
さらに、
「すぅぅぅぅ……ぼおぉォォッ!!!」
「―――」
吐息に合わせて、口から紫炎を吐き出す。たばこの煙ではなく、れっきとした炎だ。『鬼幻術・鬼火』。仮面ライダー響鬼の技だった。
だが、いくら何でもただの炎で老剣士が倒れることはない。浮遊していたギロチンを盾のように構え、炎を防ぐ。
ならばと、アイズは自分に元から備わっている魔法を発動させる。
「
風を纏うアイズ。それだけでアイズの能力を一段階上昇させるものだ。それだけでなく、紫炎を風に乗せた。
「―――!!」
「わっと」
「おっと?」
分かるのだ。そのやり方が。敵を倒すための力の使い方が。
「あちち……こりゃ凄いな。流石、神の眷属―――しかもレベル5がライダーに変身すると、ここまでのスペックが引き出せるのか」
「ねー。ま、元のスペックだけじゃなくて、与えられたライダーの力も相性が良かったんだろうけどね~」
炎を脱出した束とブラッドスターク。眼下で繰り広げられる剣戟を見て感想を漏らしていた。
「ん~、まだまだ改良の余地アリだね。このままだと普通に負けそうだし」
束の評価は正しかった。すべての能力が一段階向上したアイズの前に、老剣士は淡々と、その戦闘能力を削られつつあった。
「(勝てる)」
振り下ろされるギロチンよりも早く、老剣士に肉迫するアイズ。ギロチンによる即死を免れたとしても、老剣士も相当の達人だ。変身前のアイズでは良くて相打ちだっただろう。
それを強化された基礎能力で無理やり押し切る。
「(勝てるッ!!)」
相手の剣を大きく跳ね上げた。がら空きの胴体を袈裟斬りにする。
血を流すことも無くその場に倒れる老剣士。そのまま動かなくなる。唯一、その手に持っていた
「ま、こんなもんか」
「だね~」
兵隊を倒されたブラッドスタークと束は軽い調子で言う。
アイズは次なる獲物である2人に剣を向ける。
「……次はあなた達」
「おいおい。俺はお前にその力を教えてやった、いわば恩人だ。そんな相手に剣を向けるのは違うんじゃあないか? 戦うのなら、後ろの奴が先だろう?」
確かに、アイズとフィン達の間にはハイレインやエネドラがいて、攻撃を続けている。
「……でも、あなた達も敵。みんなで脱出するためにも、倒す」
「じゃあ、俺はお前達がここから出る邪魔をすることはない……って言ったら、その剣を引っ込めてくれるのかい?」
「……今さら、そんな言い分は通らない、です」
「だろうなぁ? さて、どっちが相手になる、束?」
「え~? か弱い束さんを戦わせるの~?」
「お前がか弱い? 冗談冗談。笑っちまうぜ」
適当なことをべらべらと並べるブラッドスターク。
「それにしても凄いもんだな、ライダーの力ってのは。そいつは俺が知らないライダーだが、それだけの力だ。ちまちま鍛えるのが馬鹿らしくなっちまうんじゃないか? ええ?」
そう言われて、アイズは少しだけ考える。
「(たしかに、この力は凄い。でも、多分普通の力じゃないし、フィンもリヴェリアも使うのを止めてくるよね……)」
少々の名残惜しさを感じながらも、アイズは冷静に判断していた。これはロキ・ファミリア幹部の教育の賜物だった。少なくとも、ファミリアに入ったばかりのアイズではこうはいかなかった。
力を渇望している少女に、力を諦めさせるなど。
それを、
「なんだ」
ブラッドスタークは見透かしていた。
「もしかして、手放しちまうのか? せっかく手に入れた力を? らしくないんじゃあないか? 剣姫?」
「そんなことは……」
そんなことを言われても、こんな怪しい力を使い続ける訳にはいかない。まっとうな判断だ。
「そうだなぁ。お利口だ。ああ、お利口さんだ……それで、お前の目的が果たせるならな?」
「……」
「お前はいったいなんのために戦っているんだ? ……確かにお前さんは強い。同世代の中じゃあ上から数えた方が速いだろうよ。間違いなくな。だがそれがなんだ? その程度の力で、自分の最終目標に到達出来ると思っているのか?」
「……っ」
最終目標。その言葉を聞いて剣を握る手に力が入る。余分な力が剣先に伝わり、ブレる。
「黒竜復活。この横にいる兎は中々イカれててな。タイミングが来ちまえばいつでもやっちまうぞ」
「え~? 蛇には言われたくないなぁ」
漫才のようなセリフだが、冗談ではないことは分かる。徐々にアイズの心に焦りが生まれる。
「お前が変身した時と同じくらいの力を手に入れるまで、世界が無事だといいがな? 今からちまちま力を蓄える時間が、果たしてどのくらいあるのやら」
「それ、は……」
アイズは停滞していた。
ブラッドスタークの言う通り、アイズは同年代の中では世界でも有数の力を手に入れた。だが早熟だったのか殻を破れないのか、ここ最近はどれだけ鍛錬しても『伸びている』実感が得られない。
『ステイタス』という数値で実際に表現されることも原因だ。明らかに伸びが悪くなった(レベル5としての成長限界に到達した)数字は、よりアイズの心を焦らせる。
だから翔に興味を持って、何かヒントがもらえないかと考えていたのだ。
短期間に強くなったという彼ならば、新しい何かを見せてくれるのではないかと。
しかし、それもうまくいってなかった。翔の秘密は観察した程度で分かるものではないので仕方ないのだが。
「(でも、別に翔にこだわる必要もないのかな)」
停滞していたところに現れたのが彼というだけで、別に他の手段で強くなれるのなら、それはそれでよい。
例えば、今のこの力でも。強くなれるのなら。
「(たとえ姿が少し変わっても、私は私。怪物とは違う。怪物は人間とは決定的に違うんだから。何の問題も無い)」
再び自分の腕を、アナザー響鬼になった自分の手を見る。そして握りしめた。
「(この力を使いこなして、足りなかったら他の力も使って、どんどん強くなって)」
普段は戦姫の仮面の奥に隠している自分の願いが、蛇の言葉によって溢れ出してくる。
「(いつかは、じゃない。次にその機会が来たら必ず。アイツを、私が、必ず―――!!)」
その結論に至った瞬間。
「っぅ……!?」
頭痛が走り、頭を押さえる。
額にあった鬼の顔が大きくなる。変身したアイズの顔を覆うほどだ。響鬼の面の上に、さらに鬼のお面をかぶるような姿になる。
そして、アイズの耳だけに聞こえてくる。
《ソウダ。タトエ鬼ノ力デモ関係ハナイ。力ヲ求メヨ。己ガ目的ヲ果タスタメニ!!》
甘美だが邪悪な誘いだ。人が理性で押さえつけるべき堕落の道に進ませようとする呼び声だ。
その誘いに。普段なら絶対に傾かない天秤が、蛇の甘言により、少しだけ傾いてしまった。
「……!!」
「ねえアイズ!! 聞こえてないのー!! 人の姿に戻れないのー!?」
アナザー響鬼の変化に、ティオナが大声でアナザー響鬼の肩揺らす。ただ事ではないと感じ取ったのだ。
「テメェ、適当な事言ってんじゃねぇぞ。さっさとアイズを元の姿に戻しやがれッ!!」
「おいおい何を言ってるんだベート・ローガ。変身してるのは嬢ちゃんの意思だ。変身を解かないのもな」
ブラッドスタークの言葉を聞いたティオナは肩を揺する力を強める。
「ね、アイズ! 一回元に戻ろ? あの強い奴は倒したし、その姿、凄く嫌な感じがするよ!」
「―――戻、る?」
ティオナの声はたしかにアイズに届いていた。
アイズには分かっていた。
ここで変身を解除したら、二度とこの力に触れることは出来ない。ファミリアのみんなに―――フィンやガレスに見られているのだ。絶対に取り上げられる。せっかく、今の自分の殻を破ってくれそうな力なのに。
それもこれも、全て普段はしない考えだった。
「嫌だ……!!」
《ソウダ。オ前ノ道ヲ阻ム者。ソノ全テガ敵ダ―――!!》
「え―――!?」
ティオナに対して、銀閃が閃いた。