そしてすこし短いです。
「バカゾネスッ!!」
ベートが思わず叫ぶ。それほどまでに容赦のない、躊躇の無い一閃だった。
「だ、大丈夫!!」
大丈夫ではなかった。
アマゾネスらしく露出の多い服装、特に上半身は胸元に布を巻いただけの服装。露出している褐色の肌に、横一文字の赤い線が出来ている。
あと少し身を引くのが遅ければ、彼女の体は真っ二つになっていただろう。
「アイズ、どうしちゃったの!?」
「コノ、力は、手放サナイ。嫌ダ。セッカク手ニ入レタ、力ヲ……!!」
「ッチ、聞く耳持たねェか……!!」
「みたいだね!!」
アイズの異常な状態を見て、2人はすぐさま意識を切り替える。普段のアイズを知る者として、今のアイズがまともな状態ではないことをすぐさま理解する。
その上で、
「それで、さっきまでアイズも合わせた3人がかりで苦戦してた敵を、あのアイズはあっさり倒しちゃったんだけど! 私達だけで行けるのかなぁ!?」
「知るかよ、クソがッ!!」
絶望的な状況が何一つ変わっていないことも2人は理解していた。むしろ躊躇なく倒せなくなった分、悪化しているとさえ言える。
アナザー響鬼は完全に2人の事を敵として認識していた。
単純なパワーとスピードが上であり、アイズの剣術まで併せ持っている。2人には万に一つも勝ち目がなかった。
暴風のような剣戟を何とかいなすのがやっとだ。
その様子は
単純に強い敵が現れるのではなく、仲間が怪物に変化して襲い掛かってくる。明らかな異常事態に、フィンが何も言わない。
その事実が他メンバーの心を搔き乱す。
「だ、団長!? このままだと……!!」
悲鳴のようなラウルの言葉は他のメンバーの心情を代弁していた。
「なんとか言えフィン。何か策はあるのか?」
「……正直言って、無い」
ガレスの問いかけに首を横に振るフィン。
策が無い。その一言に、絶望の空気が広がる。
実際には、何人かの犠牲を覚悟して、フィンが魔法を使い、強引に突破口を開くことは出来るかもしれない。本当に最終手段であり、それを実行するという事は『負け』を宣言するに等しいが。
だが、その策を実行するつもりは無かった。とはいえ、今のままでは事態は好転しない。耐えいていては先はない。
「いや―――」
フィンの親指が疼く。それは危険を知らせるものではなく、吉報を知らせるものだ。
「―――彼が来る」
フィンがそう呟いた瞬間。
「「「「!?!?!?!!?」」」」
凄まじい号と共に、外壁がぶち破られる。一瞬、通常は出あり得ないくらい巨大な腕が見えたような気がしたが、すでに消えていた。
土埃に紛れて、雷光が光る。
「―――!!!」
雷速瞬動にハイレインは全く反応出来ない。体の周りを周回していた魚型の弾丸を切り裂くのは、赤い長槍
どちらも魔力を無効化する武装。それを不意打ちで振るわれるのはたまったものではない。
ほとんど抵抗らしい抵抗も出来ないまま、ハイレインはズタズタに切り裂かれ、動かなくなった。
「ふぅ、皆さん、大丈夫ですか!?」
雷天大壮を纏った翔がそこに立っていた。
――――――――――――――――――――――
「夜月 翔か! 待っていた……!」
「遅くなってしまって、すみません!」
「ギリギリだったけど問題ない。外の様子は?」
「はい、それでは……」
俺は外の様子と方針を説明する。
「ンー…うん。了解した。僕たちは君が転移させてくれるんだね。ただ問題がある」
「アイズさんですね?」
「知っていたんだね」
「はい。束さんに連れ去られた先がラボで、そこで映像を見せられてました」
俺が視線を向けると、ベートさん、ティオナさんとアナザー響鬼が戦闘を繰り広げていた。その戦闘は一方的だ。2人はほとんど回避しか出来ていない。あれでは長くはもたないだろう。
「アイズさんは俺がどうにかします。いや、俺じゃなきゃどうにもできない」
「君はあの怪人化についても詳しいんだね」
「……はい。知らない現象じゃありません」
と、答えるしかない。
よく分からないけどなんとかします。なんて言える状況ではないのだ。それにフィンさんも半ば予感していたみたいだ。
「……そうか。それじゃあ君に任せるよ」
余計なことは言われないが、このままうやむやには出来ないだろう。リヴェリアさんとの約束もあるしな。
俺達が話しているところに、離れた場所にいる兎と蛇の会話が聞こえてくる。
「は~、凄いもんだな。アレが術式兵装って奴か」
「そうみたいだね。魔法を体に装填してその効果を得る。装填する魔法を使い分ければいろんな状況に対応出来る……結構諸刃の剣っぽいんだけど普通に使いこなしてるね」
「さっきのスピードが兵装の効果ってことか?」
「そういうこと。じゃじゃーん、束さんスピードメーターによると、さっきの移動速度は……秒速150キロメートルだって!!」
「早すぎて制御できなくなりそうなもんだけどな?」
「ああ、それはね。多分本人にも制御できてないよ? あの移動の仕組みは―――あ、その前に、ぽちっと」
「うっ!?」
束さんが何かボタンを押したかと思うと、身体に重りをつけられたのかと錯覚してしまう。
これは……
「AMFか……」
俺の術式兵装は強力なAMFが張られていると不安定になり、状態を維持できなくなってしまうのだ。無理矢理魔力を込めれば少しはもつのだが、体に装填してる魔法の暴発もありうるからな。
「正解正解~。流石にその速度で動き回られたら、たまったもんじゃないからね」
「……ん? おい束。AMFを使うのはいいが、お前が出した兵隊にも影響があるんじゃないのか?」
ブラッドスタークの忠告と
「あ、ヤバ。はいは~い魔物さん、出番ですよ~」
と、束さんが手を叩くと地面や壁から大量の食人花が生み出される。ついでに
「邪魔をするつもりか……!!」
一瞬そう考えたのだが、食人花が狙うのはロキ・ファミリアだけだ。俺には一切見向きもしない。
「邪魔なんてしないよ。むしろ見せて欲しいな。君の力を」
「俺達も手は出さない。早くあの娘を開放してやれよ」
「……」
覇気がこの2人が本気でそう思っていることを伝えてくる。
ま、本気で俺達を殺すつもりなら、ブラッドスタークがもっと前線に出てくるだろうし、束さんはあのワープゲート―――見た目や流れ的に恐らく
それが無い時点で手加減もりもりであることがわかる。
ここはお言葉に甘えるか。
だがロキ・ファミリアは……
「大丈夫だ。僕達の負担を減らすためにも、早くアイズを助けてほしい」
「纏まっていた方が転移しやすいじゃろう。相手がわざわざお前さんには何もしないと言っとるんじゃ。儂らが耐えている内に事を終わらせろ」
「……わかりました」
フィンさんとガレスさんがそう言って来るが、その裏には(束さんやブラッドスタークほどではないが)俺に対する興味が含まれていた。
しかし、全てを考慮しても俺のやるべきことは変わらない。いくつもの視線を向けられながら、俺は走った。
「ティオナさん、ベートさん!!」
「ッチ! やっときやがったのか!!」
「待ってたよー!!」
体中に切り傷ややけどを負いながらもここまでアナザー響鬼を押さえていた2人。そこに俺も加わる。だがここからは、押さえつけるのではなく反撃が必要だ。
「翔……!? 渡サ、ナイ……!! 誰ガ来テモ、コノ力は……!!」
そして俺はすでにアナザー響鬼には敵認定されていた。恐らく今は、目に映るものすべてが敵に見えているんだろう。
「時間がありません。説明します!!」
俺はこれからの動き、その為にやってほしいことを端的に伝える。
「それでは行きます!!」
俺が手を向けると、アナザー響鬼の体から光るものが分離し、俺の手に収まる。
2005と刻印された時計。響鬼ウォッチだ。無事回収は成功。そして、アナザーゴーストの件で明らかになったことだが、ここからはタイムリミットが存在する。
「よし……!! ティオナさん、ベートさん。ここからは時間との勝負です。いいですか?」
「うん!! もちろん!!」
「ッチ、しょうがねぇ……」
2人共態度は違うが、俺の言葉には素直に頷いてくれる。
「行きます……!!」
例えばアナザービルドやアナザーオーズ、ティアーユ先生や耀の時はこんな焦りはなかった。あの時は制限時間があるとは知らなかったからだ。
だが今回は違う。アナザーゴーストの件で『ウォッチの力の残り火の消滅』=『変身者の消滅』というタイムリミットを知った。モタモタしてはいられない。
ゲームのように数値化されていないせいで余計焦ってしまう。
《ZI-O!》
《HIBIKI》
「変身ッ!!」
撤退のための最終戦が始まった。