「スケアリーモンスターズか」
俺たちは絶滅したはずの生物――恐竜に囲まれていた。どこかの研究所が化石のDNAを使って再生させた、なんて甘いことを考えたくもなるがそうもいかない。
「あのなかの一体が、耀の友達なのか?」
「うん。そのはずなんだけど……今日あったらすぐにここから離れてって言ってきて。でもおかしいよね。そんなこと……」
恐竜に変えられても、意識は変わらないってことだ。おそらく、スケアリーモンスターズの本体が、昨日耀が帰った後、俺たちがここに来るまでにこの公園に住んでいる動物を恐竜に変えたんだろう。
何が目的かはわからないが、心当たりが多くて困るな。俺たち、耀以外の3人は。
「あ、あの……」
「ん? どうした、綺凛?」
「そ、そろそろ、降ろしていただけると……っ!」
「あ、そうだな」
と言いつつも、俺はしゃがんで2人を地面に降ろすが、腰に回した腕は緩めない。
「……えっと?」
「翔、こんな時にもセクハラ?」
「違いますぅ。動かないほうがいいんですぅ」
スケアリーモンスターズで恐竜化した生物は動くものしか認識できないため、じっとしていればどうにかなる。もしも俺たちをしっかり狙ってきたら、本体が俺たちを目視している可能性が高い。
「大丈夫、みたいですね……」
「そうだな」
恐竜は俺たちをしっかり囲んでいたのが嘘のように、てんでバラバラに動き出した。明らかに俺たちのことが見えていない。
「どうするの? このままじっとしてる?」
「それも嫌だなぁ」
スケアリーモンスターズの嫌らしいところは、恐竜に傷つけられた生物もまた恐竜になるというところである。それは人間も例外ではない。
「まだ早朝だからいいけど、このまま何もしないで粘ってても人が襲われるぞ」
日が昇れば、この公園に遊びに来る人も出てくるだろう。恐竜たちがそれを見逃すわけがない。
「そうなる前に倒さないといけない」
俺はガシャットギアデュアルを取り出す。変身していれば、少なくともあの痛そうな牙で傷つけられることはなくなるだろうしな。
「……耀、いいか?」
「……うん、いいよ」
事情を説明して耀に許可を求める。動物の声が聞こえる耀。そうでなくても、あの中には耀の友達がいる。動物が殺されて心が痛むのは当たり前だが、耀はその比ではない。
「困るな、夜月 翔。それはとても困る」
気配はなかった。気が付くとそこに立っていた。人ではないが俺にとって見たくなかったヤツだ。
「ホワイトスネイクッ!!」
「久しぶりだな、夜月 翔」
不気味なオーラを纏ったスタンド、ホワイトスネイクが立っていた。
どうしてこのタイミングでこいつが出てくるのかは全くわからない。が、予想できることはいくつかある。
一つは、スケアリーモンスターズを誰かに発現させたのはこいつらかもしれないということ。
一つは、スケアリーモンスターズの本体と手を組んでいる可能性があるということ。
一つは、このまま全員でじっとしていることはできそうもないということ。
「
作戦を変更。恐竜にならともかく、ホワイトスネイクにはパラドクスでは立ち向かえない。先手必勝とばかりに爪弾を連射する。
「グギャアアアァアァァ!!!」
俺が動いたことで、恐竜の狙いが俺になる。
「ごめんね……」
綺凛の素早い斬撃で恐竜の首が落ちる。アインハルトと耀も、それぞれケガをしないように応戦し始めた。
「ふむ、いい位置だ。そこでいいだろう」
ホワイトスネイクはDISCを何枚か取り出し、恐竜に投げ入れた。
その時だ。ビシリ、俺たちが立っていたところを中心に、地面に亀裂が広がっていった。
「なにッ!!」
次の瞬間、俺たちが立っていた地面が崩れ、巨大な穴が開いた。地面の破片は自然に壊れたにしては形が整いすぎている。おそらく、何かしらの仕掛けを恐竜を使って作動させたのだろう。
俺たちは暗い穴の中に落ちていくのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――
「どこだここ? アインハルト、お前分かるか?」
俺は唯一目に入るところにいるアインハルトに声をかけた。落ちるときに恐竜が一緒に落ちてきた。そのせいであとの2人と離れ離れになってしまった。
「多分、ここはバラストエリアだと思います」
「バラストエリア?」
「ここはメガフロートですから。バランスを取るための重りとして水を使ってるんです」
「そうか。それじゃあ、点検のための出入り口があるはずだよな?」
薄暗く、果てしなく広がっている空間に目を向ける。
パチャと水をかいた音がした。
「「ッ!!」」
俺たちは警戒して身構える。
「夜月先輩! 大丈夫ですか!?」
水の中から伸びている柱の影から、綺凛が泳いできた。水の中の手足の動きを見るに、どこもケガしていないようだ。結構高いところから落ちたし、心配してたんだけどな。
「ん、そっちも平気そうだな。とりあえず、水から上がれる場所を探そう」
「はいっ」
「そうですね」
ずぶぬれになってスケスケの服も乾かさないといけないしね。目に飛び込んできたもんはしょうがない。
水が溜まっているここは小型のボートで移動するようだ。すぐ近くに中継基地のような簡易的な船着き場と小屋があった。
2人にはここで待ってもらって俺だけで探しに行くか。あんまり目を離したくはないけど、一緒に行っても戦力にならない可能性が大きいし、泳いでいくと余計な体力が……あれ? そういえば、綺凛泳げなかったような―――
「ッ!! アインハルト! 綺凛から離れろ!!」
「え!?」
全く理解できない、といった表情で立ち尽くしているアインハルト。俺の言葉に、もう演技の必要はなくなったとばかりに綺凛の表情が、普段なら絶対にしない、冷たい鉄仮面になっていく。
「このスタンド、なかなか役に立つな」
ホワイトスネイクは自分の頭からDISCを取り出して呟いた。
ホワイトスネイク
『ジョジョの奇妙な冒険』の第6部、『ストーンオーシャン』に登場するスタンド。原作の本体は『エンリコ・プッチ』で、この小説での本体はデンジャラスゾンビの変身者。
スタンドの
近距離パワー型と殴り合いができるのに、かなり遠くまで行くことができ、おまけにスタンド自体に意思があり、本体が命令しなくても的確に攻撃できるという反則じみたスタンド。
スタンドとしての能力は『DISC』を作り出すこと。触れた相手の記憶や能力をDISCにして取り出してしまったり、好きな命令を書いたDISCを相手に挿入してその通りに動かしたりという具合だ。もちろん取り出された記憶や能力は、本人からは無くなってしまう。スタンドのDISCを差し込めば、適才がある場合そのスタンドを使うことができるようになる。(ちなみに原作では他人そっくりに姿を変えたことがあるが、この小説では、変装できるスタンドのDISCを使用していたということにします。あまりにも、能力がかけ離れているので)
「ウショオオアアアアアッ!!!!」
迫りくるホワイトスネイクのラッシュに、俺はとっさにアインハルトをかばって前に出る。そして、これまたとっさに利き手の右手で体をかばった。
しかし、そんな脆い盾はほとんど意味がない。そもそも、
「触ったぞッ!! 貴様のスタンドと記憶のDISCッ!! これでワタシのモノだッ!!」
触られてしまった時点で、ホワイトスネイクの能力は発動する。
スタンドのDISCが奪われればスタンドが使えなくなり、記憶のDISCが奪われれば、赤ん坊のような状態になってしまう。
もちろんそんなことは分かっている。でも、これしか方法がない。
俺が言うのは気が引けるけどな。ここは言わせてもらうぜ。
「
「な、にを……ッ!! き、貴様ッ!!」
俺の左腕には
俺の血だ。俺が、『自分の右手のひじから先を切り落とした時に付いた』。
ホワイトスネイクに触れられてはならない。そんなことは戦う前から分かりきっていたことだ。こんな至近距離に、しかもご丁寧にアインハルトを狙うことで逃げ道をふさがれてしまっていては、俺がとりうる行動はあいつに決められてしまっていたようなものだった。
そんな状態から逆転するには、奴の想像を超える必要がある。
どんなプロでも目標を達成すれば一瞬、ほんの一瞬は心に『油断』ができる。
ホワイトスネイクにとっての目標は俺に触れ、スタンドのDISCを奪うこと。俺に触れた時点で半分の目標を達成してしまった。
ホワイトスネイクのラッシュが緩む。ラッシュが命中する直前に切り離した俺の右手に当たっただけでは、能力は発動しない。
「俺のスタンドはまだ俺のモノだぜ」
さらにこの土壇場に、分かったことがあった。
黄金長方形の形に回転させる。自然界に存在するある特定の辺の比を持つ長方形を見つけだし、スタンド能力に応用すること。
フラッシュバックした過去の記憶にある、黄金比率の長方形を目に焼き付け、慎重に、しかし素早く、指先に回転エネルギーがたまっていく。
俺のスタンド
回転のエネルギーは着弾後もすぐには消滅せず、目標を自動的に追尾するようになった。
ACT1と比べたときのデメリットは、飛ばした爪の再生が遅くなり、両手(両足)の爪を打ち尽くすと弾切れ状態になってしまうようになったところ。そして回転のエネルギーが上昇したせいで、
ハーブを飲むと爪の再生が速くなる。
「敬意を払えッ!! ホワイトスネイクッ!! ACT2の爪弾だッ!!」
左手の5本の指から爪弾が発射された。キンジの銃技補正は
ACT2の爪弾は、黄金長方形のスケールを見ながら正しい黄金長方形の回転をさせなければ撃てない。しかし俺の場合、完全記憶能力がある。完全記憶能力はどんな些細なことでも、一度見れば忘れない特異体質だ。道端に生えている草木、犬や猫のこともはっきりと頭に思い描くことができる。このおかげで、俺はどこでもACT2を撃つことができる。
「グ、アアアアアアアァァァァァアアア!!!」
両手足、頭に大穴が空く。穴に残った回転エネルギーは目標の息の根を止めるべく、同じ目標を目指して動き出した。
「アアアァァァッァア!!!」
丁度、人でいう心臓の場所で一つになった回転エネルギーは、ホワイトスネイクをバラバラにして消滅した。
解体されたホワイトスネイクも、底が見えない水の中に落ちていく。
「ふぅ……っ、ッ!! ほんと痛い……ッ!」
肘から先が無くなってしまった俺の右手。一応切り飛ばした部分はそこに落ちてるけど、これくっつきますかね。上条さんは生えてくるけど、あいにく俺には
「夜月先輩!! な、なんてことを……っ!」
顔を真っ青にしたアインハルトが駆け寄ってくる。
アインハルトにしてみれば、何もないところで一人ではしゃいで腕をぶった切ったヤバい人だ。痛すぎる。
「アインハルト、俺のこと、嫌いにならないでね……っ」
「突然どうしたんですか!?」
きっとアインハルトは、これが終わったら俺の前には姿を現さなくなるんだろう。俺だったらそうするもん。
スタンドバトルは、スタンドが見えないと中々滑稽な絵面になるんだよ。
「大丈夫ですよ、何かと戦っていたんですよね?」
「いいんだよ、そんな慰めは」
「刀藤さんから……言葉では言いにくいんですが、何か嫌なものがあるように感じたんです。お恥ずかしいですが、気が付くのに遅れてしまって……後ろを簡単にとられてしまいました」
「え? どういうこと?」
「少し、調査不足だな、夜月 翔」
「ッ!!」
そこには、『無傷』のホワイトスネイクが立っていた。
「な、なんだと……ッ!!」
「ッ! そこに何かいますね!」
アインハルトが大人モードになり構えるが、その向きは微妙におかしい。
「この世界のスタンドは一定以上の達人になら、かすかに気配を感じ取ることができる。ただし―――」
「はああぁぁ!!」
アインハルトが拳を繰り出した。が、ホワイトスネイクの体を通り抜け、ダメージが入ったようには見えない。
「見ることはできないし、ダメージも与えられないがな」
この世界の修正ってわけか。スタンドは強烈な意思の力。殺気とか闘志を読み取れる人なら確かに少しくらい探知できてもおかしくはないか。それでも、元の仕様と大差ないけどな。
「ふむ。その女、アインハルト・ストラトスか。その年で私を感じ取れるほどの力を持っているとは……あの男が欲しがるわけだ」
「あの男、だと? スケアリーモンスターズの本体か!?」
「ああ。ブラド、という吸血鬼だ。DNAオタクの変態でな。今回も、その娘と刀藤 綺凛のDNAを採集したいらしくてな」
「なるほど、繋がったぜ。それにしてもよくしゃべってくれるな。冥土の土産のつもりか?」
「その通りだが? お前もうすうす感づいているだろう?」
確かに、無駄話で稼ぐことができた時間のおかげでわかった。ホワイトスネイクが無傷だった秘密が。
スタンドへのダメージは本体へのダメージになり、本体へのダメージはスタンドへ反映される。だったら、
「本体が不死身だから、スタンドにもダメージが入らないってことか……ッ!!」
デンジャラスゾンビ。そいつの能力だ。制限も何もない不死身の能力。ダメージを受けても無効化される反則の塊。
事実上の撃破不可能。
「この土壇場でACT2に進化するとはな。自らの腕を切った事といい、こちらの予想を超えてくるヤツだ、お前は。全く、本体と別々に行動して痛い目を見てしまうとは、情けないな」
一度は死んでいたはずのホワイトスネイクだが、その口調は余裕たっぷりだ。それもそのはず、あいつは不死身だ。
たとえACT2の爪弾を使っても倒しきることは不可能だ。
万事休す。その言葉がぴったりの状況だ。
「ん? 何?」
突如、ホワイトスネイクが俺たち以外の誰かと会話を始めた。
「なに? 今すぐ戻れだと? ……分かった。あの吸血鬼が反乱したのか。すぐに戻ろう……さて、事情が変わってしまった。早急にッ!!」
ACT2でぶち抜いた。
「早急に、何だ? 俺たちを始末して本体のところに帰るつもりか? だったらこっちもできるだけ長く抵抗させてもらうぜ」
「貴様……仕方ない、あの男の機嫌を損ねるのも面倒だからな。指示に従ってやろう」
そう言ってホワイトスネイクは姿を消して、俺も意識が遠のき始めるのだった。
ACT2になっても全く好転しない戦力差。絶望です。
次回は冷えた体を人肌で温めてもらいましょうか。