島へと帰還し、さらにIS学園にまで戻ってきた千冬、セシリア、鈴の3人。戻ってきたと言っても、半ば千冬に無理やり引っ張られた形だった。
「織斑先生! どうして私たちは会議に参加できないんですの!?」
職員室に戻ろうとする千冬に、セシリアが食って掛かった。
「当たり前だろう。あれは幹部会議だ。参加出来る人物は限られている。六課のメンバーだろうと、参加していない者の方が多いだろう」
「……でも、織斑先生なら、IS学園の代表として参加出来るんじゃないんですか?」
今度は鈴からだ。
「ああ、そうだな。参加は出来た。だが、この通り、参加しなかった」
「でも、ほら、話は聞いてるんですよね? 篠ノ之 束博士が……敵になったかもって……気にならないんですか?」
「ああ、聞いたさ。だが、会議に参加したとして、その辺りがはっきりするか? 正直言って私も、アイツはそんな事しない! とは、とても言えなくてな。むしろ、私の発言がノイズになるかもしれない」
セシリアと鈴は揃って黙った。
いつになく饒舌な千冬に、彼女が今どんな気持ちなのかわかってしまったのだ。千冬だって気になっていないわけではない。だが、余計な衝突を避けるためにも、自ら身を引いたのだと。
「向こうにも許可はとってある。気になる気持ちはわかるが、今日は休んでおけ。明日になれば、今後の動き方が見えてくるぞ」
今回のことは世界各国に通達されるのは間違いない。いかにIS学園が、学園島が、どの国にも属さず独立していると言えど、立場のある者には国からの干渉があってもおかしくない。
例えば、今渦中にある六課に参加している代表候補生に対して、何かしらの指令が届くかもしれない。
千冬の言葉に身が引き締まる2人。
「以上だ。質問がなければ解散しろ」
明日になれば分かる。その思考で2人は頷くのだった。
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会議室の静寂を破ったのは、はやてさんだった。
「翔君の説明には納得してもらえた?」
「ああ、そうだね……六課の面々は、このことを知っていたのかな?」
「ん、丁度、ロキ・ファミリアと協力体制になり始めた頃から」
「すぐに説明しなかったのは正解だよ。彼のことをろくに知らずにこのことを知らされていれば、こんな判断は出来なかった」
はやてさんの言葉にフィンさんは苦笑しながら頷く。結果的にだが、ロキ・ファミリアに今まで話さなかったのは正解だったようだ。
ま、キーパーソンの能力の鍵がセックスだって、初めて会った時に伝えられれば、まともな信頼関係は築けなかっただろう。
「で」
はやてさんが空気を変える。
「ここからは、翔君の事情を知ったうえで、これからどうするか、とりあえずは今回の報告をどうするかって所や」
その言葉で、再び場の空気が引き締まる。
「一番の問題は、どこまで情報を公開するか、ですよね」
全員の視線が集まる。
俺は指を一本立てた。
「前提として、束さんが世界を混乱させようとしている」
二本目の指を立てる。
「その束さんには異世界の力を使う協力者―――俺と同じ能力を持った人物がいる」
「待ってくれ」
俺の言葉にフィンさんが待ったをかける。
「相手に、君と同じ能力者がいると言うのは確実なのか?」
「はい。束さんが、あのゾンビからアイテムだけを手に入れてるだけなら、あのフードの男の説明がつかないです」
「君がキーストーンゲート深部で会ったという男か……」
アイツは完全に俺のことを、俺の世界のアイテムのことを知っていた。しかもあの空気……陳腐な表現だがタダ者ではない。
それにあのゾンビの性格だ。『女性との合意』という、一番大切な部分をアイツが満たしているとは思えない。俺の予測では、そこまで能力を手に入れていない。最初の引きが良かっただけだ。
俺の説明を聞くとフィンさんは納得していた。
「そして三つ目」
ここが一番大切だ。
「そいつらとの戦闘で、俺達は実質負けました」
誰も異論はない。苦い事実だった。
全員生きて情報を持ち帰ったが、この戦力でその程度の戦果では失敗の烙印を押されても仕方がないだろう。
「四つ目。六課には同じ能力を持つ俺がいて、すでに協力関係にある」
つまり、この世界には無い、異世界由来の能力者の存在だ。それが敵にも、味方にもいるという事。
「五つ目。俺の……俺達の能力の仕組み。能力を無限に増やせる部分です」
そして、これが一番大切なところ。
「六つ目。能力を増やす条件。『あの』、条件です」
直接の言葉にはしないが、それだけで十分に伝わる。そして思案する空白が生まれる。
「どうでしょうか」
俺は全員を見回した。
「俺としては四(六課には同じ能力を持つ俺がいて、すでに協力関係にある)くらいまでは話した方がいいと思いますが」
最低限、相手の情報を理解してもらうためなら、俺の情報も共有しない事には始まらないと思っている。
対抗する手段があると思わせなければ、足並みがそろわないのではないか。
沈黙が会議室を支配する。最初に反応したのはフェイトさんだった。
「私も四までだったら賛成かな」
俺の視線を受け、フェイトさんが頷く。
「束さんのことも、敵の特殊な、異世界の能力についても、説明しないわけにはいかないよ。それは、みんなの様子を見ればわかる」
突入部隊の惨状を想像してフェイトさんが言う。特にロキ・ファミリアは未知の戦場に放り込まれ、あわや全滅寸前だったのだ。
「そして、その不安を鎮めるために、彼のことも世界に公表する覚悟があるという事か? その結果、彼や彼の周りに何が起こるのか、想定できているのか?」
「……はい。そうですね……」
リヴェリアさんの厳しい言葉に、フェイトさんが頷く。
「彼は何も悪くない。悪いことはしてない。だったら、彼が不当な扱いを受けるのはおかしいです。それは世界に彼の事を公表しても同じなはずです。だったら、それとも戦わないといけない。不当な扱いに負けるわけにはいきません」
「現場の人、各国が判断するための材料は必要やと思う」
はやてさんも腕を組む。
「四までは現実的やな。問題はその先や」
その言葉にフィンさんも頷く。
「確かに、五から先は別物だ」
俺が挙げた五というのは、俺の能力の秘密についてだ。いくらでも増やせる部分。さらにその先、六は能力を増やす条件。女性との性行為の部分。
「翔の能力取得の条件を明かすという事は、単純に敵がいるではなく、未知の戦力を増殖可能であることを明かす事になるのか」
ガレスさんが低く唸っている。
リヴェリアは容赦なく続けた。
「そして六を知った瞬間、能力者の観察だけではなく、能力取得条件の研究が始まるだろう」
国家も、企業も、研究機関も、犯罪組織も、全て。
ロキは机に頬杖をついた。
「正直な話な。四(六課には同じ能力を持つ俺がいて、すでに協力関係にある)でも結構微妙やと思うで?」
視線が集まる。
「篠ノ之束が敵になった。しかもなんや異世界の能力を使う奴もくっついとる……でも味方側にも異世界の能力を使うヤツおる! だから安心や!! ……とはならんやろ? 普通」
「それは……」
「味方なんやし、色々と聞いておこうって考えるのが普通やん? みんな情報が欲しいんやから。そこに居るってわかってるんなら、聞きに来ない方がおかしいやろ? 本当に味方なのか、そもそも異世界の能力ってどんなもんなのか、本当に戦力になるのか、エトセラ、聞きたいことはいくらでもある。当然、味方名乗るなら、答えてくれるよなぁ? って態度で。そうなったらどないするん?」
「……」
俺は答えられなかった。
俺の考えた情報の階層は、俺が勝手に想像したものであって、相手がそれに従ってくれるわけではないのだ。
むしろ不明瞭な部分は気になってしまうものだ。適当に情報をぼかすのは難しいのか。
「神ロキ。とは言え、さっき言った四番までは共有しない訳にはいきませんよね?」
なのはさんだ。
「ん?」
「束さん達の脅威を説明するためです。異世界由来の能力者が敵側にいること、そして六課側にも同系統能力者がいて協力関係にあること……そこを伏せると逆に説明が不自然になります」
誰も反論しない。ロキもだ。
「ククク、ごめんて。ウチが意地悪言った。最低限、公開しなきゃ始まらないコトもある。わかっとるって」
「でも、相手の出方を警戒する必要はある」
「そうだね。彼の情報を公開すれば、様々な勢力が彼に近づこうとしてくるだろう……だが、予想すれば対策は難しくない」
ロキ、はやてさん、フィンさんが話を組み立てていく。
「それに君の性格からして、身内に手を出した人間も絶対に許さないだろう?」
フィンさんの言葉に大きく頷いて返す。
「相手が力に訴えてくれば、こっちも力で対抗出来る。どんな能力を持っていても、それを理由に不当な扱いを受けることはない」
「ま、その原則を盾にすれば、とりあえずは強引な干渉を突っぱねることは出来るやろな」
はやてさんとロキがそう締めたところで、方針が固まる。
1. 束さんが世界を大混乱させようとしている事。
2. その束さんには異世界の力を使う協力者がいる事。
3. そいつらとの戦闘で、俺達は実質負けた事。
4. 六課には同じ能力を持つ俺がいて、すでに協力関係にある事。
この4までは管理局の上層部に対して『正式な報告』を行う。そこから世界各国へ通達されることになるだろう。
そして、
5. 俺達の能力の仕組み。能力、アイテムを無限に増やせる事。
6. 能力取得の条件。
この部分は、限られた人にだけ伝えられることになった。まず特務六課設立に尽力してくれた聖王教会のカリム・グラシアさん。フェイトさんのお兄さんであるクロノ・ハラオウンさん、母親であるリンディ・ハラオウンさん。
「そう、かぁ……」
「だ、大丈夫だよ! わたしからも説明するし! 兄さんも分かってくれるから!!」
「だといいですけどね……」
その2人の場合、フェイトさんとの関係も深堀されそうだ。こんな面倒な存在と、深い関係にあると知ったら、心配になってしまうだろう。
そして同じ部隊の、共に戦う仲間。
「俺の力が不自然だってことは、みんな薄々気が付いてるでしょう」
俺の言葉に、沈黙による肯定が返ってくる。いくつもの能力に見たことの無い兵器。『隠してた』という無理のある言い訳ですら、カバーしきれない違和感がある。
みんなプライバシーのことを考えて聞かないだけで、聞きたい気持ちはあるだろう。
「適当に隠していたら、取り返しのつかないことになるかもしれないです。話しますよ」
「そこは翔君の判断ならええけど……」
「そうだね。最悪、知らなくても戦えるとは思うけど……話してくれた方が一枚岩になれる可能性が高い。どうしても君に負担はかかるけどね」
「ま、この小僧が受けてる恩恵を考えれば、その程度の負担はどうってことないやろ」
はやてさんとフィンさんの不安を、ロキが笑い飛ばしてくる。
「では詳しくは、明日お話するという事で」
「ん、上の面子の日程もこっちで調整しとくわ。部隊内の説明は、明日、希望者に対してって形にしよかな」
希望者にと言っても、多分全員参加なんだろうな。
はやてさんの言葉で会議は終了するのだった。