「やっほー! お見舞いに来たよー!」
騒がしく入って来たのは理子だ。この調子でここまで来たんだろうか。
「おーす。依頼の合間か?」
「うん、そうなんだ。少ししたらアリアとアスナも来るよ。3人でこれから見回りに行かないといけないんだぁ……」
見回りねぇ……要人警護の類じゃないってことなのか? や、そうとも限らないか。
「んもー大変だよ。毎日毎日戦って戦ってさぁ……ホント、調子に乗った奴ほどうっとうしいモンは無いよな」
表と裏のキャラが混じるくらいには大変な依頼だってことか。それにしてもこいつ、割と口軽いぞ。これならもっと聞き出せるかもしれない。
「あ、今理子の事バカにしたでしょ? 全部わかってるんだからね!」
ともすれば、こんな感じに鋭いことを言ってきたりする。顔を見ればカマをかけているのか確信をもって言っているのかわかる俺にとって、理子やクロのようなタイプは中々に厄介な相手だ。
ま、俺も大概だけど。
目の前でテンションの落差が激しく、1人で熱弁をふるっている理子を見ながら、そんなことを考えた。
「――それでね……あれ? くんくん、くんくん」
理子が鼻を鳴らし始める。いったい何なんだろうか。おもむろに立ち上がり、何かを探し始める。
辺りをうろうろしていた理子だったが、しばらくして来客がコートを掛ける簡易的なクローゼットのようなものに目を付けた。
あぁ、確かその中には……
「おおっと! こんなものが入ってたよ!」
ハンガーに掛った真っ白な服、ナース服を俺の前に引っ張り出した。
「なんでそれがあるって分かったんだ?」
まさかとは思うけど、事前に調べておかないと分かるはずがないことだし。俺が寝ている間に侵入してきていたのか? でも、寝てる時に侵入して何も起こってないのは不自然だ。理子なら、何らかのイタズラを仕込んでいそうなものなんだけど。
「いやぁ、なんかこの部屋に入ってから匂いがすると思ってたんだよね」
「ナース服の匂いって……?」
聞いた事がない匂いだ。俺には感じ取ることが出来ないな。
「……それで、どうしてクローゼットにこんなものがあるの? 誰かからの差し入れ?」
「そんなもんを差し入れする奴なんていないだろ」
「えー、じゃあ持ち込み?」
「もっと意味わかんない」
ナース服の差し入れも、持ち込みも、新しい文化を築けるレベルだ。
「あっ!!」
理子は「そうかわかった閃いた」といった顔で、手を打つ。
「せっかく入院するからだれかとナースプレイをしようと思ったんでしょ!? でしょ? 当たりでしょ?」
「……そんにゃことしないから」
「…………へぇ」
嚙んじゃった。ナース服を使った訳じゃないけど、もう1度シてしまっている身としては、否定することも苦しい。
「もうっ、しょうがないなぁ! そんなに言うんならナース服で看病してあげますっ!」
「や、何も言ってないんだけど……」
俺の話を全く聞いていない理子は、いきなり自分のフリルがあしらわれた改造制服をまくり上げた。もうウキウキだ。本人が着たいだけじゃないの?
脱ぐときに服に引っかかったのか、金色の下着に包まれていた2つの山が大きく揺れた。さんざん経験したというのに、反射的に目を逸らしてしまう。少し小さいものを着けているのか、もっちりした2つの塊に少し食い込んでいたのが目に焼き付いている。
続いてスカートが脱ぎ捨てられる。残念ながら、この位置だと右手の装置のせいでうまく隠れてしまっている。そんなことよりも、あっという間に下着姿になってしまった件について。制服は特にたたまれることなく、脱ぎ散らかされている。
目の前で最高の光景が繰り広げられていた訳だが、ここで終わりではない。
理子が白衣を手に取り、身に纏い始めた。
「ん、っしょ……ん、ん? ちょっときつい……」
前のボタンをつけるのに手間取っている。理由は言わずもがな。ようやく身に着けることが出来ても、前を止めているボタンが悲鳴を上げている。ふとした拍子に弾け飛んでしまいそうだ。
最後にキャップをかぶって完成。純白の服に金色の髪と主張が激しいところがアクセントになっている。こんなナースがいると、治るケガも治らないだろう。
「それじゃあ失礼しまーす……」
そろそろと布団に入って俺の左側に寄り添ってくる。
「これ看病?」
「んー、心の看病。荒んだ心が癒されていくでしょ?」
……その荒んだ心がどっちのものか、ってことには触れないでおこう。
片手が使えないため抱き寄せることは出来ないが、力を抜いて理子を受け入れる。
「ねえ、翔君」
「なんだ?」
「名前、呼んで」
「理子」
「ん……」
あの日飛行機で勢いに乗ってブラドと戦うと宣言した理子だったが、時間が経って冷静になると、恐怖が襲ってきたのだろう。それくらい、幼少期にブラドに植え付けられたトラウマは大きいんだ。
理子に決心させた者として、不安に駆られる理子を支える義務がある。
理子の体が少しずつ移動してくる。それでいて、俺と密着する面積は増えていく。理子の柔らかさを感じ取るごとに、下半身に血液が集まっていくのが分かる。
無言で見つめあった俺たちは、ゆっくりと唇を重ねた。見た目に反した肉厚の理子の唇が触れた途端、バニラのようないい匂いとともに、2つの柔肉が俺と理子の間のクッションになった。
押しつぶされた双丘が元に戻ろうとする反発力は、心地よい刺激となって俺のモノをさらに硬くする。
「んふぅっ……んちゅるっ……くちゅっ、ちゅっりゅぅ、くちゅるっ……っ」
いつの間にか唇を合わせるだけだったキスが、濃密なものへと変化していた。口内に侵入した理子の舌は歯茎をなぞり、俺の舌に絡まってくる。
俺はこっそりと腰を動かしてみた。薄布に阻まれた状態とはいえ、互いの性器がこすれあう快感は、背中にゾクゾクとした刺激をもたらす。
息が苦しくなって口を離した。お互いの唾液がアーチを作り、粘ついた吐息が、顔と顔、その狭い距離の湿度を急激に上昇させる。
理子は潤んだ目で手を下に動かし、ズボンの上からでもはっきりとわかる肉棒に手を這わせてくる。
「ズボンの上からでもわかるよ。翔君のペニスが脈打ってるのが。すごく硬いんだね。しかも、太くて、熱くて、これで何人の女の子を鳴かせてきたの?」
「……っ」
理子の一言一言が、俺の理性を剥がしに来る。
「このまま、やっちゃう? 病院で、しかも昼間だけど。私とHなこと、しちゃう?」
そんな蠱惑的なセリフに半分首肯しかけたところで、
「翔、お見舞いに来て―――」
「具合はどう? 翔く―――」
「……」
―――アスナとアリアが来た。
2人の視線は不自然に膨らんだ布団へ。そして俺の上に乗って密着している理子に向けられる。
「死ね」
直球過ぎて一周回ってしまったようだ。瞳孔が開いた目でスカートに手を伸ばすアリア。目的はそこに収められている拳銃だ。ここが病院だという事を忘れてしまっているらしい。
アスナも笑っているけど笑っていない。アリアが銃を抜くのを全く止めていない時点でその怒りの度合いが分かってしまう。あの良識あるアスナが、俺が仲間に向けられる銃口を全く気にする様子がない。
「
病院で発砲されてはたまらない。黒い鳥の怪人が、アリアを抑え込め――てない!?
(ナ、何ナンダ! コノ嬢チャンノパワー!)
(頑張って抑え込んでくれ! じゃないと俺が死ぬ!)
結局アリアは、持っている武器をすべて取り上げられて体を抑え込まれるまで、止まることはなかった
引っぺがされるとき理子に小さい声で、
「……本番は退院してから、だね」
と言われて下腹部の勃起が痛いくらいになって、放置されてしまったんですけれど。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「アリアちゃん、病院で銃はダメだよ?」
「ええ、そうね。私も冷静じゃなかったわ。安易に銃を抜いたこと
『は』を強調して言うアリア。俺と理子の顔を見ないようにしている。元凶の俺が悪いってことですか、その通りですね。誰だってお見舞い相手があんなことしてたら取り乱すよ。
「理子ちゃんも、ここは病院だからね? そういうことは良くないんじゃないかなぁ……?」
「はーい、次からは気を付けまーす」
全く反省の色が見られないんだけど。
「それで、どうしてこんな所にこんな服があるのか、説明してくれるよね……?」
「アスナ、スマイル。スマイル忘れてるよ」
これはホワイトスネイクに襲われたとき以上の恐怖だ。
「怪我した状態で搬送された俺は無実だってこと、分かってくれてる?」
「でも実際、モノがここにあるわよ」
アリアは理子が着ているナース服を指さした。証拠はここにある、という顔だ。
「それに、この病室にこんなもの置いて行っても何にもメリットはないもんね」
こうして冤罪は生まれていくんだな。俺は少しだけ賢くなったような気がした。つまるところ逃げ道が塞がれて来ただけだけど。
ってかさ、結局このナース服、御門先生が置いていったものだったよ。この前顔を見せに来てくれた時に確認した。完全に俺をからかうためにやった事らしいから、疑いを晴らすのには協力してくれないだろうけど。むしろこの状況を楽しみそう。
俺が何も言えなくなってしまっていると、理子が明るい調子で空気を変えてくれる。
「まあまあ! そんなことどうでもいいんじゃない? せっかくだし2人も着てみようよ!!」
「……私はそんな服に興味ないわよ」
アリアは冷たく切り捨てるが、理子がそれを見逃す訳がない。
「あ、そっかそっか。アリアにはこの服大きすぎたもんね! いやぁ、ゴメンねぇ」
「あんたと私、そんなに身長変わんないでしょ!!」
身長は、な。
「くふっ、そうだねぇ……それはそれは平たんな、起伏の無い格好になりそうだけどねぇ……特に前が」
「殺すわ」
アリアと理子が取っ組み合いのケンカを始めた。
理子の言いたいことはわかる。理子はその小柄な体に似合わない、立派なものをお持ちだ。それはさっきナース服を着ていた時に分かっている。誰のサイズを想定して作られていたかはわからないけど、理子には若干大きいみたいだった。唯一、限界まで布地を押し上げていた部分を除いては。
一方、アリアはもうそのまま小学生と言っても通用する体型だ。原作では寄せて上げるブラを使っていたけど、無情な現実には抗えない。服次第でワンチャンあるかな? このナース服は無理だけど。
「そもそも理子! あんたコレ!」
「ん? どーしたの?」
床に脱ぎ散らかされた理子の制服を指さして、アリアは真っ赤になっている。
「ま、ままままさか! ここで着替えたんじゃないでしょうね!? 翔がいるここで!」
「ん? そーだけど? なんで?」
何でもないように答える理子に、これ以上無いくらい顔を赤くするアリア。
「な、何でじゃないでしょ! お、おお男の前でそんな……そんな……」
羞恥心からか最後の方はすごく小さくなってしまう。そんなアリアを理子はまたもや煽りにかかった。
「いやぁ~、アリアは初心だねぇ、子供だねぇ。大人の女性は男の人の前で裸になるのは、なんとも思わないんだよ?」
それは無い。
「大人の女性ならむしろ、自分の体で誘惑するくらいやって見せないとね! 自分の体で、ね」
「そんなにケンカしたいのね……ッ!!」
終盤明らかにアリアを小バカにしていた態度に、ついにキレた。病室内で全力バリツはやめていただきたい。全部終わった時、この部屋は竜巻が通ったような状態になっていることだろう。それを見て看護師さんに嫌な顔されるのは俺じゃん。
でも、頭に血が上ったアリアと戦闘狂の理子を止めることは無理だろうな。少し発散させないと、
達観した面持ちになっていると、アスナが寄ってきた。彼女の怒りはだいぶ収まったみたいだ。
「元気そうでよかったよ、翔君」
「あの2人も元気そうだよな。あぁ、花瓶が割れた……」
床に落ちて砕け散った花瓶。中に入っていた水が床を濡らす。花瓶が割れても動じない俺とアスナはこの世界に慣れてきているな。
「理子ちゃんとHなことしたんだね」
「ん、そうだな。でも言っておくと――」
「分かってるよ。理子ちゃんからシたんだよね? あのナース服も、理子ちゃんが持ってきたんでしょ?」
あ、ちょっと違いますね。そのままうまい具合に勘違いしていて下さい。ここは理子の趣味があっち方面だったことが幸いした。
「理子は理子で、色々事情があるからな」
「理子ちゃんとの約束もあるもんね」
「ブラドのことだな」
アスナはコクリと頷いた。理子の事情はみんなで共有している。そうしないと、アリアが同居を許可してくれなさそうだったからな。
「実は今回のこと、ブラドに関係してるんだ」
「……え? どういう事なの?」
俺は今回の事件について事細かに説明する。するとアスナの顔はどんどん険しくなる。
「じゃあ、綺凛ちゃんとアインハルトちゃんと一緒にいたのは本当に運がよかったんだ……」
「ああ。もう証拠を見つけるとか、そんな悠長なことを言ってられる状況じゃないかもしれないな。最悪殴り込んで出たとこ勝負を仕掛ける必要があるかも」
俺は冗談のつもりで言ったが、アスナはそうは受け取らなかったみたいだ。
「もしそうなるとしても、絶対に私たちも一緒に行くからね」
「お、おう。もちろん」
……考えておくよ。
煽りに煽る理子を止めに入るアスナを見ながら、新しく追加された能力を確認して、そう思った。